全方位でクラウドに向かうNTT Com、キャリアならではの信頼性が特徴


 NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)が展開しているクラウドサービス「BizCITY」は、キャリアならではの広範囲なラインアップが特徴だ。IaaSレイヤだけでなく、SaaSレイヤ、DaaS(Desktop as a Service)なども含んでおり、企業が必要とするさまざまなクラウドサービスをすべてのレイヤにおいて提供している。

 今回はその中で、BizCITYのIaaSレイヤにあたる「Bizホスティング」を特に紹介していく。

 

パブリック、プライベートの両クラウドサービスを網羅

 Bizホスティングは、大きく「パブリッククラウド型」「プライベートクラウド型」の2つのメニューが用意されている。

 このうちパブリック型の「Bizホスティング ベーシック」(以下、「ベーシック」)は、ハードウェア環境を共用する、一般的なパブリッククラウドサービスだ。

 「ベーシック」のハイパーバイザーとしては、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)に入っているKVMを使用している。Red Hatは、マイクロソフトと仮想化における相互運用性で提携しているため、KVM上でWindows Serverを動かすことも可能。もちろん、KVMがRHELの一部となっているため、RHELを動かせば、もっとも高い性能を出すことができる。

 オプションとしては、インターネット/イントラネット/DMZファイアウォールなどが提供されている。


パブリッククラウド型の「ベーシック」では、OSにWindows Server 2008/2003、Linux RHEL 5.4が提供されている「ベーシック」では、新規契約時4営業日でサーバーリソースが利用できるようになる。このスピード感は、クラウドならではだろう
プライベートクラウド型とパブリッククラウド型の違い。パブリッククラウド型の「ベーシック」では、ハイパーバイザーにKVMを採用している
プライベートクラウド型の「エンタープライズ」は、NTT Comの日本国内のデータセンターに設置。「グローバル」は、世界5カ所(欧州、北米、上海、香港、シンガポール)などにデータセンターが用意されている

 一方、Bizホスティングで提供されているプライベートクラウド型は、企業社内のデータセンターを運用するものではなく、NTT Comのデータセンターに顧客ごとの専用サーバーを用意し、顧客のリクエストする環境をカスタマイズするクラウドサービスだ。ある意味、今までのデータセンターの延長線上にあるサービスといえる。

 プライベートクラウド型のBizホスティングの特徴としては、顧客がリクエストするハイパーバイザーを使用できることが挙げられる。現在は、VMware、Hyper-V、Oracle VMなどが提供されている。

 さらに、VM上で動作するOS環境と、Oracle Database/SQL Serverなどのデータベース環境を含んだPaaS環境、SAPのERPシステムやマイクロソフトのExchange Serverといったアプリケーションを用いたSaaS環境なども、メニューとして用意されている。

 ネットワーク関連としては、仮想ファイアウォール、仮想ロードバランサー、仮想SSLアクセラレータ以外に、仮想アプライアンスとして提供されたシステムだけでなく、物理的なファイアウォールやロードバランサーを設置できるサービスも用意されている。

 ラインアップとしては、日本国内にあるNTT Comのデータセンターを使った「Bizホスティング エンタープライズ」(以下、「エンタープライズ」)と、欧州/北米/シンガポール/香港/上海/など、世界各地のデータセンターを使った「Bizホスティング グローバル」(以下、「グローバル」)の2つのメニューが用意されている。

 「グローバル」を使えば、グローバルなビジネスをクラウドで展開することが可能になるが、ハイパーバイザーとしてはVMwareしか利用することができないなど、「エンタープライズ」に比べるといくつか制限がある。ただし、エリアをまたがった形であっても、統一されたポータルで管理ができるなど、NTT Comならではのメリットが提供されているという。

 

IaaS以外にもさまざまなクラウドサービスを用意

 なおNTT Comでは前述したように、IaaS以外でもさまざまなクラウドサービスを、BizCITYブランドを中心に提供している。

 例えば、SaaSとして提供されている電子メールサービスの「Bizメール」、セキュリティに関するサービスを提供している「Bizセキュリティ」、オンラインでのファイル共有によりファイルサーバーのクラウド化を実現する「Bizストレージ」、ネットマーケティングに必要なアクセスログ解析機能やレコメンド機能などを提供する「Bizマーケティング」、仮想デスクトップの「Bizデスクトップ」などがある。

 これ以外にも、salesforce.comのCRM/SFAを安全に利用するためのVPNサービス「Salesforce over VPN」、NTT Comのクラウドを利用した「安否確認/一斉通報」サービス、外出先でのIP電話やWeb会議などの統合コミュニケーション環境を提供する「Bizコミュニケーター」、社外/外出先からセキュリティ上安全なリモートアクセス環境を実現する「Bizリモートアクセス」などが用意されている。

 また、多くのSaaSベンダーが、Bizホスティングをクラウドの基盤として利用している。数多くのサービスがあるが、例えば、オービックオフィスオートメーションの「勘定奉行iシリーズ」、ファーストコンサルティングの「FC勤怠」など、さまざまなアプリケーションがサービスとして提供されている。


NTT Comが提供しているクラウドサービスBizCITYは、「いつでも、どこでも、安全に」ということを実現しているBizCITYのラインアップ。BizCITYには、IaaSだけでなく、SaaSやDaaSといったサービスも用意されている

 

キャリアのメリットを生かしたクラウドサービスを

経営総合企画部 サービス戦略担当の成田大助担当課長

 ここまでNTT Comのクラウドサービス「BizCITY」の概要に関しては説明してきたが、NTT Comがどのようなコンセプトを持ってBizCITYを展開しているのかなどをNTT Com 経営総合企画部 サービス戦略担当の成田大助担当課長に伺った。ちなみに、成田氏の所属する経営総合企画部は、BizCITYでどのようなクラウドサービスを提供していくのか、といった戦略などを考える部署だ。

――Bizホスティングでプライベートクラウド型とパブリッククラウド型の2つのタイプが用意されていますが、なぜこのような2つのタイプを用意されたのでしょうか?

成田氏:お客さまからみれば、パブリッククラウド型として提供している「ベーシック」がクラウドサービスで、プライベートクラウド型の「エンタープライズ」や「グローバル」はホスティングサービスなのでは? と思われるかもしれません。

 これに対し当社では、Bizホスティングは、当社が提供していたホスティングサービスを、仮想化インフラに対応したものと定義しています。

 現在のサーバーは、CPUがパワフルになり、昔のように1台のサーバーで1つのOS環境を動かすということが、もったいない状況になっています。こういったことから、多くのお客さまからホスティングサーバーでハイパーバイザーを動かし、複数の仮想環境を利用したいというニーズが出てきました。

 今までなら、お客さま自身がハイパーバイザーを導入して、システムを構築しなければなりませんでした。これでは、すべてのサポートをお客さま自身で行うことになってしまいます。

 そこで当社が、ホスティングサービスと仮想化環境を一度に提供すれば、お客さまがハードウェア環境やハイパーバイザー環境の管理などに頭を悩ませずに、アプリケーション環境の構築・運用に専念していただけるのではないか、と考えたんです。

 専用ハードウェアを用意するといっても、単独のサーバーを設置しているというわけではありません。もちろん、可用性を考えて、キャリアグレードでバックアップのサーバー、ネットワーク、ストレージなどが用意されています。だからこそ、安心できるクラウドサービスが提供できると考えています。

 もう1つは、パブリッククラウドのコストメリットは分かっていても、ハードウェアを多くのユーザーと共用するというパブリッククラウドに心配されているお客さまは、自社専用のハードウェアが提供されるホスティングの延長線上の方が導入しやすいといったこともあります。

 

――Bizホスティングの特徴はどういった部分ですか?

BizCITYのクラウドサービスは、NTT Comが提供しているキャリアグレードのインフラ上に構築されている。
Bizホスティングは、ほかのクラウドサービスやオンプレミスのシステムとシームレスにサービスが連携したり、管理ができたりする環境が構築可能

 やはり、NTT Comという、キャリアが提供しているクラウドサービスということです。キャリアグレードでサーバーが設置されていますし、クラウドサービスにおいて重要になる足回りのネットワークにおいては、当社が提供しているネットワークインフラが活用できます。

 特に注目していただきたいのは、多くのクラウド事業者が課金している、ネットワーク転送量課金は、Bizホスティングでは一切ないという点です。国内では800万ユーザーを抱えるOCNがあり、ワールドワイドでも強いネットワークを持っているので、転送量課金をせずにお使いいただける。こういった部分は、キャリアとしてのNTT Comが提供しているサービスならではと思っています。小さく始めるときはいいのですが、大きく育つと、転送量課金は重荷になってくるのです。

 こうした課金方法については社内でも議論があったのですが、コアコンピテンスの強みは出せるように、十分検討してこうした体系にしました。

 信頼性の面では、当社のクラウドサービスは、基本的にキャリアグレードの品質を担保し、シングルフェイラーがないように設計しています。もともと、電話をやってきたNTTからすれば、クラウドの考え方は持っていた、といえます。電話網という雲の中はお客さまには見えませんが、安定した環境を常に提供してきたわけです。

 また、ほかのクラウドサービスとのシームレスな連携機能も特徴といえます。Bizホスティングでは、他社のパブリッククラウド上に構築したサービスと連携したり、管理を一括して行えたりするようになっています。

 例えば、(当社の関連企業の)NTT PCが提供しているWebARENA CLOUD9とはもちろん、マイクロソフトのWindows Azureと連携できるように取り組んでいまして、まもなくサービスが提供できるでしょう。もちろん、自社の「エンタープライズ」「グローバル」と「ベーシック」も密に連携しています。

 このような各クラウドサービスとの連携が分かるのが、Bizホスティングの「クラウドポータル」という管理ツールでしょう。クラウドポータルからは、Windows Azureのインスタンス情報やスケールアウトの設定を行えるように開発しています。

 将来的には、現在対応している以外のクラウドサービスもBizホスティングのクラウドポータルから一括して管理できるように計画している。管理用APIが公開されているクラウドサービスには、積極的に対応していきたいと思っています。

 パブリッククラウドの方では、パブリック型で有りながらVPNでの接続ができますので、インターネット側とは別にVPNの入り口を用意することで、コンテンツを出す側と管理側を別にした運用ができます。もちろん、コスト面でもメリットを提供しており、KVMを用いることによって、安価に提供できているのではないかと考えています。


Bizホスティングが用意している管理ポータルでは、Bizホスティングの仮想環境だけでなく、Windows Azureの仮想環境も管理できるクラウドポータルでは、サービスタイプやサービス名ごとにステータスを表示している
仮想マシンごとに、負荷に応じてスケールアウトの設定を行うことが可能構成管理の画面からは、複数の仮想マシンのCPU、メモリ、ディスクの使用率を簡単にチェックすることができる

 パブリッククラウド型の「ベーシック」は、パブリッククラウドでありながらも、VPN接続ができます。VPNというセキュアなネットワークがパブリッククラウドでも利用できるのは、企業にとって大きなメリットになります。企業内システムをパブリッククラウドに構築した場合でも、VPN接続を必須にしておけば、セキュアな環境で通信できるため、セキュリティ面の心配も少なくなります。

 プライベートクラウド型の「エンタープライズ」「グローバル」では、NTT Comがお客さまごとに専用ハードウェアを用意して、サービスを提供します。さらに、ハイパーバイザーやOS、DBなどもお客さまのリクエストに合わせて提供できます。これらのシステムが、初期費用と月額料金で利用できるため、ITシステムの初期導入コストが低く抑えられると思います。

 ハードウェアだけでなく、ハイパーバイザーやOS、DBなどの費用も月額利用料金に含まれるため、システム導入時にある程度の金額を用意しなくても、システムが利用できる。これは、多くのお客さまにとって、安価にスタートできるので、スピード感のあるサービス構築が行えると思います。

 

――今後、Bizホスティングにどのような機能を追加していくお考えですか?

 プライベートクラウド型の「エンタープライズ」「グローバル」は、お客さまのカスタマイズに対応しているため、必要なシステムを自由に構築できます。

 しかし、パブリッククラウド型の「ベーシック」は、(一番基本的な)IaaSのため、ハイパーバイザーとOSは用意していますが、アプリケーションやミドルウェアのレイヤは、お客さま自身が構築しなければなりません。できれば、スタンダードなものに関しては、ひな形を用意できればと思っています。

 また、お客さまが管理コンソールから、自由にOSやアプリケーションを選択して、必要な環境が簡単に作成できるようにしていきたいと考えています。このようなテンプレートを用意することで、素早くシステムが構築できたり、お客さまがベースとしている標準的なプラットフォームを複数の仮想環境に簡単に展開できるようになると思います。

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