事例紹介

シンプルな情報共有で「救急医療」が変わる!――横須賀市で実用化された仕組み

ICT街づくり推進事業(2)

1台で多機能な「防災情報ステーション」

防災情報ステーション

 「防災情報ステーション」は、街中に設置され、災害情報を住民に伝えるもの。商用電源のほか、太陽光発電装置や蓄電池を備え、低消費電力の電子ペーパー画面に災害の現況を表示する。

 YRP UNLが開発する「T-Kernel」(組み込み機器用ソフトプラットフォーム)が組み込まれており、バッテリ残量がわずかになると自動的に機能を制限する仕組みや、一度表示した画像を無電力でも維持する電子ペーパーの特性を生かして、避難経路を表示し続ける仕組みを備える。また、Wi-Fiスポットやモバイル充電器としても利用できるほか、災害時の安否確認にも利用可能だ。

 安否確認は、家族が普段利用しているICカードを「防災情報ステーション」に登録し、あらかじめグループ設定しておく。災害時にICカードリーダーに読み取らせると、家族間で安否や所在が確認できるというもの。たとえば、各避難所に「防災情報ステーション」を設置すれば、別々に避難した家族同士で容易に安否確認が行える。

電子ペーパー画面に災害情報を表示
安否確認画面。ICカードのみで個人情報は登録する必要がなく、家族でグループを設定しておくことで、家族にだけは“本人”と分かる仕組み

 現在は、YRP、横須賀市役所、YYポート横須賀(観光案内所)などの数カ所に試験的に設置している段階だが、今後は避難所などにも広げ、最終的には公衆電話のように街中のどこでも見かける設備にしたい考え。また、平時にも使ってもらえるように、電子ペーパー型のほか、デジタルサイネージ型も開発を検討し、場所に応じたサービスを提供していく方針という。

 このほか、今回の事業では横須賀市で公開されている防災関連のオープンデータを扱う取り組みも実施された。公開情報としては「AED設置施設」「震災時の避難場所」「津波ハザードマップ ランク別データ」などが用意されており、「防災」をキーワードにハッカソンを実施。オープンデータの活用法などを検証する中で、「避難訓練アプリ」などのアイデアが具現化されている。

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 まとめ。今回の仕組みは「映像を送る」というシンプルさが特長だ。医師にとって分かりやすく、救急隊にとって入力の手間が要らない、両者にとって便利なものとなっている。ネットワークカメラという既製品を利用できるので導入のハードルも低く、他地域への横展開も期待できる。

 そういう意味で、病院の空き病床を把握する機能が実現しなかったのが少し残念だ。横須賀市は“救急車のたらい回し”が多くないとのことだが、消防庁が発表した「消防白書 2014年版」によると、救急車の現場到着時間(全国平均8分30秒)と病院搬送時間(同39分18秒)がともに過去最悪に。機能としてのニーズは地域によっては高いはずなのだ。

 「病院の運用と実際に用意した機材との相性が悪く、見直しをする必要があった」(小林氏)とのことだが、技術的には無理なく実装することも可能だろう。IoT(モノのインターネット)はさまざまな用途でまさに研究開発が進められているところだが、願わくば救急医療のような分野でこそ、一刻も早く普及してほしい。

川島 弘之