ビットアイルのFCoE導入事例を聞く~仮想化に備えてケーブリングを簡素化


マーケティング本部 サービス開発部 部長代理の福澤克敏氏

 東京都内で4つのデータセンターを運用し、コロケーションやレンタルサーバーはもちろん、クラウドサービスにも取り組むデータセンター事業者の株式会社ビットアイルでは、新たに開始したクラウド型サービス「サーバーオンデマンドNEXT」のためのインフラとして「FCoE(Fibre Channel over Ethernet)」を活用する次世代インフラを構築した。注目が高まるFCoEだが、具体的な利用例はまだ少ない新技術をいち早く採用するに至った背景は何だったのだろうか。

 マーケティング本部 サービス開発部 部長代理の福澤克敏氏に話を聞いた。

ビットアイル第4データセンター



次世代型IaaSの基盤にFCoE導入

 ビットアイルでは、2009年9月から「Cloud ISLE(クラウドアイル)」という名称で仮想サーバーのレンタルサービスを開始している。この時点ではサーバーとストレージの仮想化が実現しており、そのリソースをIaaSという形で提供していたことになる。そして、2010年12月には「サーバーオンデマンドNEXT」の提供が始まった。“NEXT”はもちろん「次世代」という意味で名付けられたものだ。仮想サーバーのレンタルからさらに一歩踏み出し、ユーザーのニーズに応じて「仮想サーバー」「物理サーバー」「仮想化インフラ」の任意の単位でのサーバーリソースをオンデマンドで提供するサービスとなる。

ビットアイルが提供するサービスの選択肢と組み合わせサービス俯瞰(ふかん)図

 なお、仮想化インフラとは、物理サーバー上にVMwareの仮想化ソフトウェアが稼働する環境であり、その上で任意の仮想サーバーを実行できる。同社ではこれを「プライベート・クラウド環境を1台から」(福澤氏)提供するものと位置づけている。

 こうした柔軟なサーバーリソース提供を実現するための基盤となるプラットフォームにも、最新技術を採用した新世代環境が用意された。検討が開始されたのは2010年7月で、そこから半年かからずにサービス提供にまでこぎ着けたことになる。新世代インフラのベーステクノロジとして採用されたのが、Brocadeが提供するFCoE環境だ。


FCoEのメリット、「ケーブリングの簡素化」

FCoE導入メリット

 FCoEは、従来ストレージ専用のネットワーク(SAN:Storage Area Network)として構築されてきたファイバチャネルによるFC-SANの物理メディアをEthernetに置き換えるものだ。発想としてはiSCSIとも共通するが、iSCSIではTCP/IPプロトコル・スタック上にストレージ・プロトコルを載せる形になるのに対し、FCoEではTCP/IPネットワークとSANが並列的な位置づけで物理層を共有するような形となる。

 物理層にも手が入っており、ストレージ・ネットワーク側で是非とも避けたかったパケットの再送リスクが大幅に軽減されている。結果的に、サーバーに対してFCoE対応のCNA(コンバージド・ネットワーク・アダプタ)を実装することで、TCP/IPネットワークとSAN接続を単一の10Gbps Ethernetに集約することが可能になる。

 長らく独立したネットワークとして併用されてきたTCP/IPとSANの統合を実現するための技術がFCoEというわけだ。

 ビットアイルの次世代共通基盤ネットワークでFCoEが採用された理由としてまず挙げられたのが、「ケーブリングの簡略化」である。「従来の接続では、冗長構成で1Gbps Ethernet×4本+FC×2本の計6本のケーブルが1セットとなっていた。これをFCoEに置き換えることで、FCoE×2本に減少させている。サービスとして考えた場合、1ラックに20台程度のサーバーを収容するので、実際には1ラックあたり80本程度のケーブルがなくなり、設置・運用への影響は大きなものとなっている」(同氏)。

導入前後でケーブル、スイッチ、アダプタを大幅削減

 サーバーの追加を行なう際の接続作業が軽減されるのはもちろん、ケーブル自体の購入コストも削減できる。現時点ではまだ問題になるほどの高密度ではないそうだが、大量のケーブルがサーバー背面に接続されることでエアフローが阻害されるという問題もあるので、ケーブルの本数を大幅に削減することで冷却効率の向上も期待できる。

 ビットアイルの例では、「FCoEを採用することによってインフラの初期導入コストを15~20%程度削減できた計算になる」(同氏)という。さらに、システム構成が簡素化されたことによる運用管理負担の軽減を人件費換算すれば、さらに大きなコスト削減が実現できているはずだが、「まだ詳細な運用コストまでは算出されていない段階」(同氏)である。


ストレージの接続は「枯れた」FC-SANで

FCoE導入構成図。「Brocade 8000」とサーバー間をFCoEとし、ストレージは信頼性の観点からFC-SANとした

 FCoEに対する懸念としてまず挙げられるのが「ストレージの対応」だ。実際問題として、ストレージ側でFCoE対応を実現しているベンダー/モデルはまだ数えるほどしかなく、選択肢が限定されてしまう。新規格ということもあって、ユーザー側で互換性の検証を行なう必要もあるだろう。

 ビットアイルではこの点に関しては信頼性を最優先し、ストレージは従来通りのFC-SAN接続としている。今回のシステムではBrocadeのFCoE対応トップオブラック・スイッチ「Brocade 8000」が採用されているが、このスイッチをFCoEとFC-SANの相互接続スイッチとしても利用している形だ。

 サーバー側に搭載するCNAは「Brocade 1000 CNA」で、サーバー/スイッチ間はBrocadeのみのシングルベンダー環境で統一されていることから、ここでは互換性問題の懸念はない。一方、スイッチ/ストレージ間は実績のある従来のFC-SAN接続が維持されている。

 現実問題として、サーバー(CNA)/スイッチ/ストレージの全コンポーネントがFCoEのみで接続されれば構成としてはもっともシンプルになるといえるが、サーバー/スイッチ間ではFC-SANをFCoEにすることでTCP/IPネットワークとのメディアの共有が実現し、ケーブリングを簡素化できるという大きなメリットがあるのに対して、スイッチ/ストレージ間をFCoEにしてもケーブリングの観点からは特段の変化はない。

 むしろ、ストレージはユーザーデータを保存するため、きわめて高いレベルの信頼性が求められることを考えれば、敢えて新規格を採用するよりも充分な実績のある「枯れた」技術を採用する方が安心できるという判断も成り立つ。

 実際ビットアイルでは、「チャレンジする部分と保守的に取り組む部分のメリハリを付ける」(同氏)といった発想から、コストダウンに大きなメリットが期待できるサーバー/スイッチ間の接続に関してはFCoEの導入にチャレンジする一方、信頼性をなにより重視すべきスイッチ/ストレージ間は現時点ではFC-SANのまま維持する、という設計を採っている。

そのほか候補として挙がった構成それぞれの構成の特徴



今後の拡張ロードマップも検討済み

 現在の共通基盤ネットワークはいわば「フェーズ1」で、今後「フェーズ2.5」くらいまでは具体的な機能拡張のロードマップが既にできているそうだ。例えば、既に発表されているところでは、「サーバーオンデマンドNEXT」での物理サーバーのレンタルの開始時期は2011年2月とされている。少なくとも、この時点ではレンタルに対応するための十分な台数の物理サーバーが確保されているはずであり、規模的な拡張が行なわれることは明らかだ。同社では今後の拡張ペースについて「現状の規模では半年持たないだろう」(同氏)としており、半年後には現状の2倍の規模に拡張されているはずだとの見通しを語っている。

 データセンターは、運用の安定性が何よりも求められる施設であるが、同時に高効率性も強く求められる大規模設備でもある。運用管理面での効率向上はデータセンターにとっても大きなテーマであり、現場での人手が掛かる部分を効率化していくことが全体のコストを下げるために特に重要となる。

 データセンターのコスト削減はそのままサービスの価格低下/コストパフォーマンスの向上に繋がるため、サービスの競争力向上という形でユーザーにもメリットを生む。昨今の経済状況からは大規模な設備投資には踏み出しにくいのも確かだが、FCoEに対する投資は効果が読みやすく回収しやすいのではないだろうか。

 特に、まずはサーバー/スイッチ間に導入し、ストレージは従来のまま、という構成は実務経験が豊富なデータセンターにおける「現時点でのベストな設計例」として、エンタープライズユーザーにとっても参考になるものだ。

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