ラフォーレ原宿がGoogle Appsに移行、アーカイブの不足をいかに補完するかが鍵に


【左】木島氏【右】永井氏

 ラフォーレ原宿は1978年の開業以来、ファッションをはじめとして新しいカルチャーを発信し続けている。

 イベントや企画展などを次々に開いていくには、高解像度の画像や動画などのやりとりが欠かせない。そのためのメールインフラとして、株式会社ラフォーレ原宿では2011年末より、NotesからGoogle AppsとHDEメールサービスの組み合わせに移行した。

 ラフォーレ原宿ならではのメール事情と、移行やプラットフォーム選定の理由、導入にあたっての工夫などについて、同社システムグループの木島信宏氏と永井宗範氏に話を聞いた。


増えすぎたサーバーからGoogle Appsに移ってコスト削減

 Google Appsに移行した最大の理由は「コスト削減」だ。ラフォーレ原宿では、自社内にサーバールームを持ち、2ラックで20数台のサーバーを動かしてきた。それぞれのサーバーの上では、メールサーバーやグループウェア、ファイルサーバー、顧客情報データベース、売上分析、社内PC管理など、さまざまなアプリケーションが動いている。

 「サーバーの台数が増えすぎたことで、問題が出てきていました」と木島氏は説明する。ひとつには、リーマンショック以降の不況により、サーバーをオンプレミスで持つことによる設備や電力などのコストが問題となった。また、2台設置されているエアコンのうち1台が停止して際にサーバーを冷却しきれなくなり、警告通知が届いたこともあり、設備上の課題にも直面していた。そこで、ブレードサーバーや仮想化によるサーバー集約、クラウド移行などが検討対象に挙がった。

 サーバー集約などと同時に検討していたときには、クラウドサービスについてコストのメリットは感じながらも、社内の情報を預けて本当に安全なのだろうかと不安も感じていたという。しかし、東日本大震災を契機に、自社サーバールームの安全性やBCP対策などについて再考し、クラウド移行を決めた。

 2011年7月から約10種類のクラウドサービスを実際に検証したうえでGoogle Appsに決定した。10人で試験導入しながら社内サービスを構築。新システムを12月から社内の約100人の社員に向けてスタートし、1月末までを移行期間とした。移行期間には旧サーバーと共存させて、どちらにアクセスしても同じメールを使えるようにした。「繁忙期であるバーゲンのシーズンがあったので、それが終わって一段落した1月末までを移行期間にしました。ただ、実際には利用者への対応もあって、3月上旬にようやく完全移行しました」(木島氏)。


膨大なデータ量の中でGoogle Appsとセキュリティを両立させる

HDEメールサービスの概要

 Google Appsには、Notesで運用していたグループウェアとメールサーバーを移した。社内ではSPAMフィルターのサーバーも動いていたが、Google Appsへの移行にともない不要になった。

 メールインフラをGoogle Appsに移行するにあたり、セキュリティレベルを保つために株式会社HDEの「HDEメールサービス for Google Apps」を同時に導入した。社内で動いていたシステムでは、フォレンジック(証拠保全)のためにすべてのメールをアーカイブしていた。Google Apps単体では同様のことは難しいが、HDEメールサービスを組み合わせることで実現した。

 ラフォーレ原宿の仕事ではビジュアルイメージが重要なため、メールも画像や動画などでサイズが大きくなる。Google Appsを選んだ大きな理由は、25GB以上の容量にある。「10か月もつと言われたアーカイブのシステムを試したら、うちでは2カ月もたないということもありました」(木島氏)。

 アーカイブにより、フォレンジックだけでなくメールの送受信記録にも対応している。「“さっきメールを送ったはずだけど、実際に送られているか調べてほしい”という社内からの問いあわせが、しばしばあります。アーカイブ機能により、送受信記録が翌日ではなく即時に検索できるのはありがたいですね」と永井氏も説明する。

アーカイブ機能。「これがなければ移行はできなかった」と語る



ユーザーポータルを工夫しユーザーの利便性を向上

 そのほか、HDEメールサービスの機能として、添付ファイル自動ZIP暗号化や、一時保留、大容量ファイル転送のサービスを利用している。大容量ファイル転送は、ファイルをメールに添付するかわりにアップロードして渡せるオンラインストレージサービスで、巨大なファイルや、アーカイブするとMacでファイル名が文字化けしてしまうケースなどで活用されているという。

 一時保留はメールを送信する時にサーバーで一定時間ホールドしておき、その間はキャンセルもできるようにする機能だ。「ただ、社内で周知されておらず、メールが送れないと誤解されクレームももらいました」(永井氏)。

 こうした社内からの声に応えて、Google Appsのユーザーポータル画面をGoogle サイトを使って自分たちで作り込んだ。一時保留機能について「今すぐ送る」ボタンを配置するなど、社内で使うのに必要な機能を盛り込んだ。こうした工夫にも、移行期間に早くからGoogle Appsを使い始めた利用者の声が反映されている。「使いやすくしないと社内の不満がたまってうまくいかない」と木島氏。永井氏も「自分たちでアレンジできるので、ポータルをどう使いやすくするかが肝になる」と語る。

一時保留や添付ファイル暗号化などの情報漏えい対策ゲートウェイで一括して暗号化する



システムコストも手間も大きく削減

 移行の効果は、システム部門の管理コスト削減にもあらわれている。システム部門では、少ない人数で、サーバーの管理からLANの配線、各自のPCの管理などまで手がけている。そのようなシステム部門にとって、サーバーのセキュリティパッチやウイルス対策、SPAM対策が不要になることで、手間とコストが大きく削減されていると木島氏も言う。

 また、Notesを使っていたときはActive Directoryと連動できなかったためユーザーを二重に管理する必要があったが、クラウド移行を機に統合して管理するようになったことも大きい。「Google Apps自体だけでなく、周辺との組み合わせで、複合的に使いやすくなっています」(木島氏)。

 ただし、グループウェアについてはNotes上でワークフローを作り込んでいたため、その部分については別途アプリケーションが必要となる。また、掲示板についてもNotesと同じだけの機能をまだ提供しきれていない。こうした汎用アプリケーションであることによる部分については、今後の課題となるという。

 これからの活用としては、Google Appsの動画や画像の共有機能を少しずつ使い始めている。たとえば、CMを社内専用にアップロードしておくことで、最新のCMを社員が見逃がすことがなくなるという。

 また、モバイル利用についても検証している。ラフォーレ原宿ではクリエイター相手の仕事が多いため、しばしば夜遅くにメールをやりとりする必要がある。「すると帰宅が遅くなってしまう。メールで返事を受け取るだけなら、スマートフォンで自宅でもできるようにすれば、みんな早く帰れますね(笑)」(木島氏)。

関連情報
(高橋 正和)
2012/3/27 06:00