宮崎大学医学部附属病院、Android端末による電子カルテシステム環境を構築

第1弾として「Galaxy S」200台を導入


 株式会社コア・クリエイトシステム(以下、コア・クリエイト)は、同社の電子カルテシステム「IZANAMI」に連携し、情報をAndroid端末から入出力できる「WATATUMI Ver.1.0」を、3月10日発表した。5月より、宮崎大学医学部附属病院が導入する予定で、同病院では、現行の業務用PDAを、200台のAndroid端末「Galaxy S」に置き換える。

 WATATUMIの概要と移行の狙い、今後の計画について、コア・クリエイト システムソリューション部 中武豊伸部長と、宮崎大学医学部附属病院 医療情報部 医学博士 荒木賢二教授に話を伺った。

 

Android端末から患者の情報を確認し入力

IZANAMIのカルテ入力画面
コア・クリエイト システムソリューション部 中武豊伸部長

 宮崎大学医学部附属病院では、同じ宮崎県の企業であるコア・クリエイトの電子カルテシステム、IZANAMIを2006年から導入している。IZANAMIは、それぞれの患者について、オーダー(検査内容や処方せん)、バイタル(体温や心拍数、血圧など)、指示簿、熱型表、文書を時系列で1画面に表示し、それらをもとに、クリニカルパス(医療計画)をGUI画面上で作っていけるのが特徴だという。

 一方、今回発表されたWATATUMI Ver.1.0は、看護師が患者のバイタル情報を入力したり、注射や手術、処置などの実施を入力したり、各種オーダーを参照したりといった作業をAndroid端末から行うアプリケーションだ。現在は専用PDA端末を利用しているが、それをAndroid端末で置き換える。

 中武部長は、「WATATUMI Ver.1.0でできる範囲では、従来のPDA端末と機能的には一緒です。ただ、従来の専用PDA端末は大きく重く、女性看護師が扱うには大変でした。Android端末であれば、だいぶ軽く小さくなります」と説明する。

 また、バーコードを読むにも専用PDA端末では向きを正確に合わせる必要があるなど、操作面であるていど制限があったが、AndroidのWATATUMIでは向きを選ばずに読み取れるといった、機能の向上もなされている。もちろん、指でスクロールしたりフリック入力したりといった、最近のスマートフォンならではの特徴により、操作性も大きく向上した。$$clear

看護師がWATATUMIを操作しているところ

 

 WATATUMIを使うには、まず職員証のバーコードをAndroid端末のカメラで読み取って利用者を識別し、パスワードを入力して認証する。同様に、患者のリストバンドにあるQRコードをカメラで読み取って確認すると、画面に写真付きでその患者の情報が表示される。

 毎日定時に調べるバイタル情報も、WATATUMIから入力できる。測定項目は患者によって違うため、その患者ごとのカスタム画面から入力できるようになっており、入力したあと、画面上で「確定」を選ぶと、即時にIZANAMIと同じシステムに反映される仕組み。点滴の実施のときにも、点滴に付いたバーコードをAndroid端末で読み取って確認するため、間違いが防げるという。

 病室では携帯電話が禁止されているが、WATATUMIで使うAndroid端末はSIMカードなしで、院内にはりめぐらされている無線LANにより通信する。看護師は全員が同時に勤務しているわけではないため、200台を配置することで、勤務している人に1人1台相当で割り当てられるという。

医師のオーダーをWATATUMIから参照するバイタル情報をWATATUMIから入力する

 

次バージョン以降は医師の診察にAndroid端末

宮崎大学医学部附属病院 医療情報部 医学博士 荒木賢二教授

 今回のWATATUMI Ver.1.0は、従来の専用PDA端末を置き換える看護師向けのものだったが、次のバージョン以降では、医師向けの機能も搭載する予定だ。

 今年10月リリース予定のVer.2.0では、患者プロファイルや検査履歴、放射線画像を参照したり、患者の顔や患部、褥瘡(じょくそう)などを写真撮影して記録したりできるようにする。さらに、2012年4月リリース予定のVer.3.0では、カルテや熱型表、DPC(1日あたりの医療費計算)の参照もWATATUMIからできるようにする計画だ。

 「PCのほうが入力はしやすいですが、Android端末なら患者を診察するときに参照したり、患者にデータを見せたりできます。看護師の利用範囲では専用PDA端末でも機能は同じですが、医師にとっては大きく変わります」と、荒木教授は説明する。

 また、カルテを参照したり患者に画面を見せたりするには、大きな画面が欲しくなる。荒木教授も「Androidはさまざまな機種があるので、医師であれば(画面サイズが)7型や10型の端末を、手の小さい人には通常より小さい端末を、というように、シーンや職種に合わせるのに都合がいい」と語る。

 Ver.2.0以降の段階では、看護師600人全員や、医師にも1人1台のAndroid端末を持たせる予定。すでにスマートフォンを持っている医師も多いため、そこにWATATUMIのアプリケーションを入れ、病院内でのみ利用できるようにすることも想定している。「SIMカードが必要ないので、安価なAndroid端末でもよく、専用PDA端末に比べて10分の1程度の価格になる。置き換えるだけで、端末のコスト削減が実現するということ」(荒木教授)。

 なおVer.3.0以降の段階では、従来のPHSをAndroidでのIP電話で置き換えることも検討しているという。

 

InterSystems Cacheの特性により多元的な情報を短時間で取得

電子カルテシステムIZANAMI/WATATUMI構成図

 WATATUMIとIZANAMIは、インターシステムズ社のオブジェクトデータベース「InterSystems Cache」を共通のバックエンドとして、それぞれAndroid端末とPC端末でアクセスするアプリケーションサーバーとして実装されている。端末とはHTTPで通信する。

 WATATUMIアプリケーションサーバーは現在、端末200台に対して3台を用意。今後、端末1000台での利用をを見越して、5台まで増やすという。

 医療の現場では、サーバーのダウンやレスポンスの遅れは避けなくてはならない。IZANAMIでは「画面数や同時アクセス数が増えても3秒以内で応答する」ことをうたっており、実際にPC数百台で同時アクセスして試している。

 中武部長によると、アプリケーションサーバーのボトルネックはデータベースだという。「1つのクリニカルパスを作るのにも多元的にさまざまな情報を膨大に取得する必要があり、2次元の表とその関連づけで情報を表現する通常のリレーショナルデータベースでは処理が追いつきません」(中武部長)。オブジェクトデータベースであるCacheは、そうしたデータの表現や取得に優れており、医療分野で活躍しているということだった。

 実際にボトルネックとなるのは、WATATUMI自体というより無線インフラの部分だと荒木教授も言う。院内には柱や機器など電波を遮るものがあり、場所によってはどうしても電波が届きにくくなる。「台数を増やせばいいというものでもなく、難しいですね」(荒木教授)。

関連情報
(高橋 正和)
2011/3/25 06:00