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全モデル80TOPSのNPUを搭載! 企業のローカルAI活用を加速させる「Snapdragon X2シリーズ」のインパクト

 AIが世の中に普及するにつれて、AI専用ツールはもとより、アプリケーションやOSなどにもAIを使った機能が組み込まれるようになってきている。それとともに、AI推論をローカルで動かす能力を持ったWindows PCの「AI PC」が登場し、その中でもマイクロソフトが定めたスペックを満たす「Copilot+ PC」の製品も2024年から次々と発売されている。

 AI PCやCopilot+ PCでは、NPU、GPU、CPUを組み込んだプラットフォームを構築することで、ノートPCやその他のデバイス上でAIを実行することができる。これらのAI PC対応CPUは、その登場からすでに複数の世代を重ねている。

 今回は、AI PC向けにカスタムCPUを提供しているQualcomm Technologiesについて、クアルコムシーディーエムエーテクノロジーズ有限会社の井田 晶也氏(統括本部長 PC Business)に話を聞いた。

クアルコムシーディーエムエーテクノロジーズ有限会社 統括本部長 PC Business 井田 晶也氏

卓越したパフォーマンスと電力効率を実現! すべてのプロセッサで最大80TOPSのNPUを搭載するSnapdragon X2 シリーズ プロセッサ

 Qualcomm Technologiesは、2025年秋から、AI PC向けプロセッサの最新世代「Snapdragon X2シリーズ プロセッサ」を順次発表している。

 Snapdragon X2シリーズ プロセッサは、「Snapdragon X2 Plus」「Snapdragon X2 Elite」「Snapdragon X2 Elite Extreme」の3つからなる。Snapdragon X2 Plusがメインストリーム向け、Snapdragon X2 Eliteがプレミアム、X2 Elite Extremeが新カテゴリーのウルトラプレミアムと位置づけられている。

 「全体的にSnapdragon X2 Plusはパフォーマンスが非常に向上しています」と井田氏は説明する。そのうえでSnapdragon X2 Eliteは「クリエイティブやゲームなど、特別な用途を求める方にもおつかいいただけます」という。さらに上位モデルとして登場したSnapdragon X2 Elite Extremeは「ワークステーションクラスのパフォーマンスを求める方に向けて、新しいカテゴリーを作りました」と説明した。

新たにワークステーション向けに追加された「Snapdragon X2 Elite Extreme」

 Snapdragon X2シリーズに共通する特徴としては、3ナノプロセスの製造技術を採用。NPUがすべて最大80 TOPSと、Copilot+ PCの要件である40TOPSの倍の性能となっている。それに加えて「CPUもGPUも、パフォーマンスと電力効率の両方が良くなっています」と井田氏は付け加える

 これを実現している要因として、まず、Qualcomm Oryonアーキテクチャーとして第3世代となり、最適化がなされた結果、電力効率が向上したことを井田氏は挙げた。

 また、前世代のSnapdragon Xシリーズはスマートフォン用と同様に、CPUチップに周辺チップを組み込んだSoC(System on a Chip)の構成だが、メモリは含まれていなかった。Snapdragon X2シリーズの一部のプロセッサでは新たに、CPUパッケージ上に周辺チップを集約するSiP(System in Package)構成をとり、メモリもそこに含まれるようになった。これにより「CPUとメモリのやり取りの部分が効率化されることで、パフォーマンスと省電力の両方が向上しています」と井田氏は説明した。

 パフォーマンスと省電力の両立はQualcomm Technologiesの重要なテーマで、Snapdragon Xシリーズが登場したころから「アンプラグド(電源ケーブルをつながない状態)がデフォルト」という考え方を提唱している。電源をつながずに使っても1日以上使用できる設計となっており、これはSnapdragonがルーツとするスマートフォンと同様の利用スタイルをPCにも拡張したものだ。

NPUにより、ローカルAI実行や、アイドル状態の電力効率向上のメリット

 前述のように、Snapdragon X2シリーズではNPU単体で最大80TOPSのAI性能を持っている。現在において、このNPU性能をエンドユーザーが体感できるユースケースにはどのようなものがあるかについても聞いてみた。

 まず井田氏が挙げたのは、PC内でローカルに生成AIを走らせるというものだ。具体的な例としては、クリエイティブ系のアプリケーションに最近組み込まれてきている生成AI機能において、音声認識や画像認識の処理時間を短縮できるケースがある。同様に、Teamsにおいても、カメラの背景をローカルで処理する機能や、カメラ内で自分が動いたのを追いかけてくれる機能が搭載されるようになっている。

 そのほかに井田氏が挙げたNPUのメリットを体感するシーンが、PCのアイドル状態の電力効率だ。「PCはアイドル状態でも、CPUが微妙な電力を使っています。それに対してSnapdragon Xシリーズを搭載のPCでは、ほぼすべてNPUでアイドリングさせているので、電力効率がいい」(井田氏)。

 関連して、Windows Helloで顔認証ログインする場合についても、NPUが使われることでパフォーマンスでも電力効率でもメリットがある点も井田氏は紹介した。

「Snapdragonを搭載したデバイスでは、システムクラッシュやブルースクリーンの発生率が非常に低く抑えられる」

 市場でSnapdragon Xシリーズが評価されている点について尋ねると、まず、初代でNPUが45TOPSと、全モデルがCopilot+ PCのNPUの要件である40TOPSを満たしている点を井田氏は挙げた。「今後AIを使ったアプリケーションが普及していく中で、NPUを搭載しているものとそうでないものとが混在するのはユーザーの混乱を招くと考えています。Qualcomm Technologiesの製品を選んでいただければ、どれでもAIは快適に使える、というメッセージになっています」(井田氏)。

 また、前述したように、処理能力とバッテリー駆動時間のバランスの良さも評価されているという。

 そしてそのうえで、「ローカルAIに対応したアプリケーションが増える中で、AIでの性能の良さで、Snapdragon Xシリーズが評価されているのではないかと考えています」と井田氏は語った。

 Snapdragon搭載Windows PCのメリットとして、井田氏がもう一つ挙げたのが、システムの安定性だ。Qualcomm Technologiesでは「社員のPCの動作状況を24時間365日モニタリングし、第三者機関が分析している。Snapdragon搭載PCはシステムクラッシュやブルースクリーンに遭遇する確率が低いという結果となりました。安定性の面で、Snapdragon Xシリーズ搭載PCは安定して活躍すると、自信を持って言えると思っています」と井田氏は言う。

 その原因までは分析されていないとのことだが、「携帯電話ではシステムクラッシュやブルースクリーンは滅多に起こらない。その設計理念をPCに持ち込んでいる」と井田氏。一つの可能性としては、SoC/SiPとして周辺チップ機能も一体で作られていることがあるかもしれない。

ソフトウェアの互換性では「グローバルで6000以上のアプリケーションが対応」

 一方で、Snapdragonを搭載したPCを導入する際には、ソフトウェアの互換性についての懸念を言われることがある。

 これについて井田氏は、「すでに、グローバルで6000以上のアプリケーションがSnapdragonで動きます。また、そのうちの1500以上のアプリケーションがネイティブで動いています。日本のアプリケーションでも、トップ350は95%カバーしています」と、登場直後から対応が進んでいると説明。たとえばAdobeの主要アプリケーションもほぼ対応していると紹介した。

Snapdragon搭載のPCの対応ソフトウェアが着実に拡大

 中でも互換性について言われることが多かったのが、各プリンターの機能を使えるプリンタードライバーだ。この点について井田氏は、「メーカーの対応が進み、プリンター業界全体の大部分をカバーできる、あるいは近く対応可能となる見込みのため、もう心配なくなってきていると思っています」と語った。

 ちなみに井田氏は、日本語入力のATOKが、Windows on Snapdragon対応を発表したことにも言及した。「IT系ライターの方などで使っている方が多いこともあって特に問題視されることが多かったのですが(苦笑)、対応いただけて良かったと思います」(井田氏)。

PCメーカー、ソフトウェアベンダー、マイクロソフトとのパートナーシップ

 Windows PCに採用するにあたってカスタムCPUおよびNPUを搭載したSnapdragon Xシリーズは、従来のx86アーキテクチャーと異なる部分が多い。PC開発をサポートするため、Qualcomm Technologiesでは、PCメーカーに向けて開発支援をしている。

 さらにQualcomm Technologiesは、SoC/SiPとして、CPUだけでなく周辺チップ相当の機能もCPUパッケージに取り込んでいるため、「ネットワークの技術や音声などのスマートフォンに由来する技術があり、これをPCにも組み込むといったサポートもしています」と井田氏。「従来のPCでは、さまざまな会社が独自に開発したものを組み合わせています。それに対してSnapdragonの場合はそうした技術要素を組み込んでいるため、そこが電力効率やパフォーマンスの向上にもつながっていると考えています」(井田氏)。
 一方、AIを使うソフトウェア開発ベンダーの支援としては、開発プラットフォーム「Qualcomm AI Hub」や、スタートアップ支援プログラム「Qualcomm AI Program for Innovators」を用意している。Qualcomm AI Hubでは「Snapdragon搭載デバイスに向けたAIソフトウェア開発を容易にし、サンプルも提供することで、AIエコシステムの広がりに貢献していきたいと思っています」と井田氏。そしてQualcomm AI Program for Innovatorsによって、「Snapdragon搭載デバイス向けのAIソフトウェア開発を促進し、サンプルを提供することで、AIエコシステムの拡大に貢献していきたいと考えています」(井田氏)。

 もちろんマイクロソフトとの協業もあり、「製品開発やゴートゥーマーケット(市場開拓)について一緒に取り組んでいます」と井田氏は言う。PCメーカーとしてのマイクロソフトについては、「たとえば量販店やエンドユーザー向けのトレーニングなどをマイクロソフトと共同で行っています」(井田氏)。またOSベンダーとしてのマイクロソフトについては、「Copilot+ PCという新しいカテゴリーを広げていくために、PCメーカーやマイクロソフトとともに活動しています」(井田氏)。

フィジカルAIやエッジAIの分野にも取り組む

 Qualcomm TechnologiesではAIへの取り組みについて、「パーソナルAI」と「フィジカルAI」の2つの領域に分けている。PCやスマートフォンは、パーソナルAIの領域だ。

 もう一方のフィジカルAIには、産業向けやロボティクス、車載などの分野がある。応用例としては、家全体で照明や空調、セキュリティ、エンターテイメントなどを自動的に最適化するインテリジェントホームを井田氏は挙げる。

 Qualcomm Technologiesではロボティクスの分野に向けて「Qualcomm Dragonwingプロセッサ」としてCPU(SoC)を展開しており、1月には新製品「Dragonwing IQ10」を発表した。Dragonwing IQ10は、Snapdragon XシリーズやX2シリーズと同じQualcomm Oryonアーキテクチャーを採用している。「LLMと画像認識をうまく組み合わせて、今まで以上に高度なロボットの動作を確立できる、しかも低コストで実現できるというのが特徴」と井田氏は説明した。

 もう一つ、個人的な考えと前置きして、「日本人の『おもてなし』『気配り』とAIの組み合わせ」を井田氏は挙げた。「日本のサービス業は非常に優れていると思っていて、これをうまくAIと組み合わせることで、さらに高度なサービスができあがってくることに期待しています」(井田氏)。

※SnapdragonおよびQualcommブランドの製品は、Qualcomm Technologies, Inc.および/またはその子会社の製品です。