XPを惜しむ声の中、ポストGates時代が幕開け



 2008年6月はMicrosoftの歴史の重要な一コマとなるだろう。創業者で、看板として同社を引っ張り続けてきたBill Gates氏が現役を引退した。近年は独禁法訴訟でのイメージが強くなっていたGates氏だが、引退にあたって、メディアでは、その功績をたたえる特集が目立った。そしてもう一つ、おそらくはGates氏以上に惜しまれた引退もあった。成功したOSとなった「Windows XP」である。


 XPへのラブコールは、Windows Vistaの不人気と表裏一体だ。発売から1年半が経過したいまでも、Vistaへの移行はスムーズに進んでいない。「安定していない、リソースを食う、アプリケーションやドライバの互換性の問題」などいくつかの要素はあるが、Vistaそのものの機能というより、ユーザーがあまり必要性を感じていないことや、コストといった面が大きいようだ。The New York Timesによると、Microsoftの盟友Intelですら、社内利用ではVistaに移行せず、開発にかかわる一部部署が使っているだけだという。

 Vistaの不人気がXPを惜しむ声につながり、XPへの満足がVista敬遠を増長する、という悪循環に陥っている。

 そのXPの命を、Microsoftは絶とうとしている。当初2008年1月末としていた正規ライセンス発行を同6月30日まで6カ月延長したが、今回はかたくなに期限を守った。XPのOEMへの提供は6月30日で終了し、以降、PCメーカーはXP搭載機を販売できなくなる(小売店は在庫がなくなるまで)。ユーザーへの無償のメインストリームサポートは2009年4月まで、有料の延長サポートは2014年4月までである。

 XPは完全に消えてしまうわけではなく、Microsoftは2010年4月まで、超低価格PC(ULPC)といわれる小型端末向けのHome Editionのライセンスが続く。また、途上国向けのStarter Editionの提供を続けるほか、システムビルダー向けのライセンス(DSP版)は2009年1月末まで継続する。


 こうしてXPが現役から段階的に退くことは、ユーザーにどのような影響を与えるのだろうか? 今のところ実情は、さほど深刻ではなさそうだ。Vistaを購入して、ダウングレード権を利用してXPを使うという手が残されているからだ。

 ダウングレードは、前のバージョンを利用できるユーザーの権利だ。ボリュームライセンスにも個人にも適用される。Vistaの場合、Business、Ultimate、Enterpriseの3エディションで提供され、これらのライセンスを持つユーザーはXP Professionalに戻って利用できる。この手法があまりにポピュラーになったため、Dell、Hewlett-Packard、NECなどのPCメーカーは、ダウングレードオプションを最初から提供している。ダウングレードは新しいものではないが、これほど利用されたのはVistaのケースが初めてだろう。

 Seattle Post IntelligencerでMicrosoftブログを執筆しているTodd Bishop氏は、シンクタンクのSanford C. Bernstein&Coが行った企業を対象としたVistaに関する年次調査を紹介している。それによると、XPのダウングレードが利用できることがVistaの支持減につながり、全体の受け入れの障害となっているという。“卵が先かニワトリが先か”というところだ。同社はVistaの不人気を受け、Microsoftの2009年度の利益予測を下方修正したという。

 IDCのアナリストは、ダウングレード権があるため、XPの引退は企業ユーザーにとって「大きな問題にならない」とNetworkWorldに語っている。ZDNetのブロガー、Jason Perlow氏も「私はXPを使い続ける」というタイトルのブログでこのダウングレード権を紹介。利用にあたっての具体的で詳細な情報やヒントを記している。


 それでも、XP存続を求める声はやまない。IT情報サイトInfoWorldの「Save XP」など、延命を求める電子署名活動がいくつも展開されている。Save XPには、6月24日時点で約20万人分の署名が寄せられたという。

 ダウングレード人気、XP存続を懇願する署名…。こうした状況を無視するわけにもいかなかったのだろう。Microsoftは6月23日、Windowsユーザー宛の書簡を発表した。オンラインサービス&Windowsビジネスグループ担当上級副社長のBill Veghte氏は、XPの計画、Vistaの前進、次期版「Windows 7」の展望の3つを取り上げ、XPのライセンスやサポート提供計画は予定通りであり、XPを利用したいユーザーはVistaのダウングレードを利用できると明記した。

 だが、存続運動はやむことなく、InfoWorldは6月30日まで署名活動を続けることを改めて表明。ラストスパートに向けて読者に参加を呼びかけた。こうした動きには、Microsoftのペースで否応なくアップグレードさせられることへのユーザーの反発も垣間見える。

 Gates氏は引退表明から2年間をかけて後任のチーフ・ソフトウエア・アーキテクトRay Ozzie氏らへの引き継ぎを進めてきた。XPは2001年に発表、Vistaのリリースから1年半が経過した現在も、移行は難航している。

 PC Worldは「ポストGates、Microsoftが再生するための15の方法」とする記事を掲載。その1つとして「顧客を王様のように扱え」と提言、XPの打ち切りを顧客中心主義でない例としてあげている。

 ポストGates時代の一つの課題をつきつけたものであるといえそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/6/30 11:11