従業員大量流出-Microsoft交渉決裂後のYahoo!に急変



 Yahoo!がついにGoogleとの提携に進み、同時にMicrosoftとの交渉も完全に破談となった。株主は失望し、メディアでは、Yahoo!の戦略に対する疑問・非難のトーンも強まってきた。事態はさらに混沌(こんとん)としてきたようだ。重要幹部を含む従業員の大量流出が起こっているのだ。


 Googleとの提携内容は、検索結果とともにGoogleの検索連動広告を掲載できるというもので、Yahoo!は掲載場所の決定権を保持する。非排他的契約で、対象地域は北米で、期間は4年間(最長10年の延長オプション付き)。併せてYahoo!は自社の検索サービス・広告も継続する。

 一方、交渉打ち切りは、Microsoft側が再提案していた検索事業の部分的買収の話し合いが不調に終わった結果で、Yahoo!側が拒否した。Yahoo!は「事業譲渡すれば独立した検索ビジネスを失い、重大な戦略的失敗となる」と声明で説明している。

 最終段階での詳細な交渉内容は追って明らかになった。プラットフォーム&サービス部門プレジデントのKevin Johnson氏が従業員あてに説明したというメモによると、次のようなものである。


  • Microsoftは、Yahoo!株1株あたり35ドル、総額80億ドルで16%を購入する
  • MicrosoftはYahoo!の検索事業を10億ドルで買収する
  • 両社が長期的な検索のパートナーシップを結び、MicrosoftはYahoo!の検索を経済的に支援。検索プラットフォーム「Panama」を上回る広告料を3年間保証する

 この条件で合意していた場合、Yahoo!にはまず90億ドルが入り、さらに年間10億ドル以上の営業収入が入るはずだったという。一方、同社が実際に選んだGoogleとの提携では、年間8億ドルの収納増が見込まれるという。数字だけを見ると、それほど良い条件だとは思えない。Yahoo!はそれでも検索事業を維持することを選んだのである。


 そして2日後の14日、The NewYork Timesが、Yahoo!に対する痛烈な批判記事を掲載した。

 ビジネスコラム担当のJoe Nocera氏は「ああJerry、Yahoo!はもはや君の赤ん坊ではない」と題した記事で「君は株主の出資に対して健全な利益を保証する義務を負っている。Yahoo!の独立性などは関係ないのだ」とJerry Yang CEOを個人名で批判した。同紙のような大手メディアとしては異例で、これ自体がニュースとして報じられている。

 このあたりから、Yahoo!幹部の流出が次々と明らかになってゆく。転職など珍しくもない業界だが、今回は退職者が、「ぽつり、ぽつりから、怒濤のようになった」(The NewYork Times)というほどで、さらに止まる様子がない。

 まず、ネットワーク部門のJeff Weiner執行副社長の辞任が伝えられた。次いで2005年に買収した写真共有サービス「Flickr」の創業者で、同部門ゼネラルマネージャーを務めるCaterina FakeとStewart Butterfield夫妻、さらに、検索・広告技術執行副社長のQi Lu氏、コミュニケーション担当の上級副社長のBrad Garlinghouse氏、検索担当上級副社長のVish Makhijani氏、そして2005年に買収したソーシャルブックマークサービス「Delicious」の創設者Joshua Schachterと続いた。

 ネットワーク、検索の責任者クラスがごっそりと辞めていくのだ。一般従業員となると、数も知れない。

 この騒ぎの最中の18日、Microsoftはシリコンバレーの有力紙San Jose Mercury Newsに全面広告を出している。「Microsoft Has Search Jobs in the Valley」(Microsoftは、シリコンバレーで検索の人材を求めている)と大書きしたもので、検索とオンライン広告の可能性や、シリコンバレーで働く同社の従業員が2000人近くもいることをアピール。求職窓口を掲載した。

 シリコンバレーのゴシップブログSilicon Alley Insiderは、これを「Microsoft、ポストYahoo!のGoogle打倒プランを明らかに」というタイトルで紹介した。「プランA」(Yahoo!を買収して従業員を獲得、コスト500億ドル)や「プランB」(Yahoo!の検索事業買収と出資、コスト90億ドル)に代わる「プランC」と呼んでいる。すなわち、「Yahoo!の優秀な従業員を、退職するのに合わせて個別に獲得、コスト1億ドル未満」――。


 Microsoftが実際にYahoo!従業員を獲得できるかはともかく、この大量退職の背景に、Yahoo!の大規模な事業再編があることが分かってきた。

 The Wall Street Journalによると、Yahoo!は事業を再編して製品グループを集中する計画で、これを中心となって進めているのは、Yang CEOではなく、Susan Decker社長だという。また、この再編計画は今週にも発表予定だとしている。

 また、Silicon Alley Insiderは、リークされた再編関連の文書にYang氏の名前がなかったと伝えた。すでにYang氏の辞任も取りざたされており、6月18日でCEO就任1周年を迎えた同氏の去就に注目が集まっている。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/6/23 09:00