デュアルコアAtom搭載でどこまで性能が向上したか? HDD8台を搭載した「TeraStation Pro」を試す


 中小企業や事務所などのNAS(Network Attached Storage)として、定評があるバッファローのTeraStation Proが、この春にバージョンアップを果たした。

 今回リリースされた新製品では、搭載できるHDDの台数が増えたことが特長だろう。HDD4台搭載の「TS-QVHL/R6シリーズ」、HDD2台搭載の「TS-WVHL/R1シリーズ」は従来と変わらないが、上位の「TS-8VHL/R6シリーズ」は8台、「TS-6VHL/R6シリーズ」は6台のHDDを搭載できるのだ。

 今回筆者は、TS-8VHL/R6シリーズをお借りできたので、その使用感をレポートしたい。

 

搭載できるHDDが増加

新モデルのTeraStation TS-8VHLは、旧モデルを横に2台ほど並べたようなサイズだ。さすがに8台もHDD入っていると、12.5Kgと重い

 以前のTeraStation Proでは、4台でRAID 5やRAID 6を構築したり、1台のHDDをスペアドライブとして、3台のHDDでRAIDを構成したりしていた。1台のドライブ容量が2TBにアップしても、3台でRAID 5を構成する、あるいは4台でRAID 6を構成すると、実際には4TBの容量しか使用できない。これでは、あまりにも容量不足だ。

 しかし新たに提供されたTS-8VHL/R6シリーズは、8台のHDDを搭載するため、スペアドライブを2台用意したとしても、RAID 5を構成するHDDは6台となり、2TBのHDDなら10TBの容量を利用可能になる。


TS-8VHL/R6シリーズのフロントパネルは、サイドにスライドさせて、取り外すタイプ。HDDが4台搭載されたTS-QVHL/R6シリーズのように、ドアタイプにはなっていないTS-8VHL/R6シリーズは、8台のHDDカートリッジが並んでいる。TS-6VHL/R6シリーズも同じ筐体を使用しているが、左側の下段にあるHDD2台分のスペースは使われていない。ただし、内部にハードウェアが入っているため、HDDを2台追加して8台にすることはできないバックパネルには、大きなファンが2つ用意されている。内部の温度に応じてファン速度が変化するため、普通に使っている状態では非常に静かだ

 また、新しいTeraStation Proには、メディアカートリッジ機能が搭載された。この機能を利用すると、フォーマットしたHDDをほかのメディアカートリッジ機能対応NASに接続し、データを読み出せるようになる。

 つまり、HDDをバックアップメディアとして利用できるようになる。また、メディアカートリッジとして設定したHDDは、テープメディアのように取り外して保存できるため、バックアップをHDDごとに世代管理することも可能だ。

TS-8VHL/R6シリーズを使えば、5台のHDDでRAIDを組み、ホットスペアを2台、メディアカートリッジ用のHDDを1台という構成も可能。メディアカートリッジは入れ替えて使えるため、HDDごとに世代管理も行える

 

デュアルコアCPUへの変更で、性能が大幅向上

 新しいTeraStation Proは、CPUにAtom D510、メインメモリに2GBを搭載するなど、以前のTeraStation Proから比べると、大幅に性能が向上している。

 ハードウェアの変更により、RAID 5/6の性能が大幅に向上している。以前のTeraStation Proでは、RAID 5/6の書き込みに関して、速いものではなかった。しかし、新しいTeraStation Proでは、この書き込みの性能が大幅に向上している。

 実際にテストしてみると、シーケンシャルリードに関しては、旧モデルとそれほど性能差はなかったが、シーケンシャルライトで性能が2倍に向上している。また、512KBのランダムリード/ライトでは、旧モデルから比べると約2.6倍以上の性能向上を実現した。さらに、4KBのランダムリードでは約5.3倍と大幅に性能が向上。4KBのランダムライトは旧モデルから約1.06倍と、若干の性能アップを果たしている。

 驚いたのは、NCQ(Native Command Queuing)をサポートしたランダムアクセスだ。NCQをサポートした4KBのランダムリード/ライトでは、約8倍の性能向上となっている。ネットワークに関しては、Gigabit Ethernetのネットワークで通常パケットサイズを使用している。Jumboフレームは使用していないため、もう少しネットワークのチューニングをすれば、まだアクセス性能は向上するかもしれない。

 ここまで、アクセス性能がアップすると、複数台のクライアントPCからの同時アクセスでも、十分な性能を発揮するだろう。

Atom D510 CPUに変わったTS-8VHLは、書き込み性能が大幅にアップ。ランダムアクセスの性能もアップしている

 今後、バッファローのNASは、すべてAtom CPUに変更するというわけではない。バッファローでは、家庭用NASはコスト面からAtomではなく、以前のARMベースのプラットフォームを使用することになると話している。

 また、企業向けのTeraStation Proにおいても、今回の製品ではAtomを採用したが、ARMベースのプラットフォームの性能が向上すれば、またARMベースに変更することも考えているという。つまり、ハードウェアに固執することはなく、その時々でベストなものを採用していくとのことだ。

 

レプリケーションとフェイルオーバー

 またTeraStation Proを2台用意することで、レプリケーション機能が利用できる。レプリケーション機能では、マスターのTeraStation Proに書き込んだデータを、別のTeraStation Proに自動的にバックアップが行う。この機能を使えば、マスターのTeraStation Proのハードウェア自体にトラブルが起こっても、バックアップのTeraStation Proが利用できるため、データが失われることはない。

 さらに、フェイルオーバー機能がオンになっている場合、トラブルが起こったとしても、自動的に書き込み先がバックアップのTeraStation Proに切り替わる。このため、ユーザーは、トラブルが起こったことも知らずに、TeraStation Proを利用し続けることができる。

 もちろん、トラブルが起こったTeraStation Proを修理して、レプリケーション設定を行えば、再度動作しているTeraStation Proとの間でデータの整合性を取るために、バックアップが行われる。

 この機能は、同じモデルのTeraStation同士だけでなく、古いモデルと新しいモデルでも行うことができる。このため、バックアップのTeraStation Proとしては、古い製品をしておけば、新しい製品を買っても無駄にならない。

 ただし1つ残念なのは、Active Directory認証とフェイルオーバー機能は同時に利用できない点。確かに、仕組み的には難しいのかもしれないが、実装されているとさらに便利だっただろう。


レプリケーション機能を使えば、TeraStationごとリアルタイムにバックアップすることができるフェイルオーバー機能をオンにしておけば、バックアップのTeraStation Proにアクセスが自動的に切り替わる

 また、TeraStation Proには、複数のTeraStation Proの共有フォルダーを指定して、1台のTeraStation Proにバックアップする「まとめてバックアップ」という機能も用意されている。この機能は、レプリケーション機能のように、書き込まれたら自動的にバックアップするのではなく、スケジュール(時刻)に従って各TeraStationのフォルダをバックアップする。10世代まで管理できるため、毎日バックアップを行っても、10日前のデータに戻すこともできる。さらに、外付けのUSB HDDにバックアップを行うことも可能だ。

 なお、TS-6VHL/R6シリーズやTS-QVHL/R6シリーズでは、USB 3.0(最大5Gbps)にインターフェイスが高速化されているため、外付けHDDにバックアップを行う際の速度が速くなっている。

 ただし、残念ながらTS-8VHL//R6シリーズはUSB 2.0のままだ。下位モデルではUSB 3.0に対応しているのに、最上位モデルではサポートされていないのは、疑問に感じる。できれば、最上位モデルでもUSB 3.0をサポートしてほしかった。


まとめてバックアップ機能は、複数のTeraStation Proを利用しているときに、バックアップを1つのTeraStation Proに集約することができる

 

UPSを利用した停電対策も可能

インターフェイスとしては、UPS接続用のシリアルポート、USBポート×2、イーサネットポート×2となっている

 東日本大震災以来、余震による停電や計画停電により、NASのデータがなくなってしまうことが問題になってきている。UPSを利用することで、停電が起こっても、安全にシャットダウンできる。

 TeraStation Proには、UPS用のポート(シリアルポート)が用意されている。オムロンやAPCなどのUPSを接続すれば、停電時にはUPSのバッテリを使って、安全にTeraStationをシャットダウンするため、突然の停電時でも、データはキチンと保護される。

 UPSの場合、シャットダウンの指令を出すシリアルポートなどは1本しかないことが多い。そこで、UPSのシリアルポートを接続したマスターのTeraStation Proから、同じUPSから電源を取っているTeraStation Proにネットワーク(LAN)を通して、シャットダウン命令を出すことができる。

 これなら、1台のUPSに複数のTeraStation Proを接続していても、安全にシャットダウンすることが可能だ(UPSの電源の定格容量が、複数のTeraStation Proの電源容量以下であることが条件)。さらに、UPSリカバリ機能がオンになっていれば、電源が復旧すれば、自動的にTeraStation Proが起動するようになる。

TS-8VHLとUPSを使えば、停電時にも、UPSのバッテリを使用して、安全にTeraStation Proをシャットダウンできる。これにより、停電時にも、データが破損することはない

 なお信頼性の面では、TS-8VHL/R6シリーズ、TS-6VHL/R6シリーズは、家庭用のNASと比べると信頼性の高い電源ユニットを採用したり、HDDが故障したときには、簡単に交換できるようにHDDユニットが設計されたりしている。さらに、本体背面には、大型ファンを2台搭載することで、内部の温度上昇を抑えている。

 このほか、ネットワークの耐障害性をアップするために、LANポートを2ポート用意している。ポートトランキング機能を使えば、ネットワークを二重化して、片方のケーブルにトラブルが起きても、もう1本のLANでTeraStation Proにアクセスができる。

 

アンチウイルス機能は今後の対応に

 新しいTeraStationシリーズは、非常に魅力的な製品だ。アクセス性能の向上だけを見ても、新モデルのTeraStationを購入しても十分にメリットはある。もし、旧モデルをすでに利用しているなら、旧モデルはレプリケーション機能のバックアップとして使用し、通常利用するNASを新モデルにすれば、アクセス性能は向上し、信頼性も大幅にする。また、旧モデルも無駄にならない。

 ただいいことずくめの新しいTeraStationだが、旧モデルに比べると1点だけデメリットがある。旧モデルでは、アンチウイルス機能が搭載されたが、新モデルのTeraStationではアンチウイルス機能をサポートしていない。

 この点についてバッファローでは、将来的にファームウェアアップグレードで対応していければと考えている。これは、旧モデルのアンチウイルスソフトはトレンドマイクロ社が提供しているため、CPUがARMからAtomに変更されたことで、対応が遅れてしまっているのだろう。

 数カ月以内に対応してくれれば、NASのセキュリティ面から見ても大きなメリットがある。また、Atom D510というデュアルコアCPUを採用することで、ウイルススキャンにかかる時間も少なくて済むだろう。

 もう1つ残念なのは、HDDのインターフェイスに、まだ3GpbsのSATAが使用されている点だ。6Gbpsのスピードを持つ最新のSATAには対応していない。ここまで高速化されると、Atom D510でもパフォーマンス不足に陥るのかもしれないが。


TS-8VHLの管理画面。今までのTeraStation Proとほとんど同じ画面と機能を有しているさすがに、HDDが8台あるTS-8VHLだけあって、ディスクが8台並んでいる。出荷時は、RAID 6で構成されている。今回テストした製品は、1GBのHDD8台をRAID 6で組んでいるため、トータルで6TBの容量を利用できる
最新モデルでは、ウイルスチェック機能がない。将来的には、ファームウェアアップデートで対応していきたいとバッファローは考えている。新しいTeraStation Proで追加されたフェイルオーバー機能の設定画面。フェイルオーバーとAD連携は共存できない。

 若干不満は述べたが、8台のHDDが使えるTS-8VHL/R6シリーズなら、RAIDを6台のHDDで組み、残った2台をスペアドライブとメディアカートリッジに割り当てれば、高いデータ保護性能とバックアップ機能を利用できる。そして、性能面の向上によって、ユーザーに対しても高い価値を提供できるNASとなった。

 こういった面を考えれば、中小企業で利用するにはぴったりのNASといえる。

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