オンプレミスとクラウドを管理する次世代「System Center」ファミリ

セルフサービスポータル「Concero」も提供へ


 3月21日に米国ラスベガスで開催されたMicrosoftのカンファレンス「Microsoft Management Summit 2011」(以下、MMS2011)では、Microsoftの管理ツール群System Centerの次期バージョンに関する発表があった。

 

オンプレミスとクラウドを一元管理する新たなSystem Centerファミリ

 MMS2011の大きなテーマとしては、オンプレミスやプライベートクラウドとパブリッククラウドを一元的に管理できるツールが必要とされていることだ。オンプレミスとプライベートクラウド、パブリッククラウドで、全く異なる管理ツールが使用されるようでは、それぞれの環境を管理するのにユーザーインターフェイスや機能が異なり、管理者の手間がかかって仕方がない。また、利用する環境ごとに、異なる管理ツールが必要になると、管理ツールを導入するだけで、大きなコストがかかる。

 そこでMicrosoftでは、System Centerという管理ツール群を、オンプレミスの管理だけでなく、パブリッククラウドの管理までをシームレスに行えるよう、進化させ始めている。

System Center “Concero”の画面。クラウドサービスのため、Webインターフェイスだが、SilverlightでダイナミックなUIになっている(MicrosoftのMMS2011基調公演ビデオから)
Conceroでは、ユーザーが作成する仮想環境をグラフィカルに表示することができる

 オンプレミストとパブリッククラウドのシームレスな管理を最も実現しているのが、MMS2011で発表された新しいSystem Centerファミリ「Concero(開発コード名、コンチェロ)だ。Conceroは、ざっくりいってしまえば、セルフサービスポータルを提供するクラウドだ。

 セルフサービスポータルでは、管理者が仮想環境の作成や運用にかかわらなくても、各部門でサーバーを構築しようと考えているユーザーがアクセスすれば、簡単に仮想環境が作成できる。

 セルフサービスポータルの存在により、管理者の作業工数が少なくなり、より戦略的な作業に集中できる。ユーザーにとっても、セルフサービスポータルにアクセスするだけで、すぐにでも仮想環境が用意できるため、新しいアプリケーションを動かす時にも、短期間でシステム構築が可能になる。

 Conceroが今までのセルフサービスポータルと異なるのは、社内にあるプライベートクラウドとパブリッククラウドのAzureを、同じユーザーインターフェイスから管理できるようにしている点だ。

 Conceroでは、社内のプライベートクラウドを管理している「System Center Virtual Machine Manager」(以下、SCVMM)と連携して、社内のプライベートクラウドに対して仮想環境を作成したり、インスタンスを増やしたりすることができる。さらに、パブリッククラウドのAzureに対しても、同じWebインターフェスで操作できるようになる。

 ただ現状では、プライベートクラウドの仮想環境をパブリッククラウドのAzureに移動したり、Azureに移した仮想環境をプライベートクラウドに戻したりするような機能は持っていないようだ。これは、Azure側が、スタンダードなWindows Server環境をサポートしていないためだろう。

 Azureはいずれ、スタンダードなWindows Server環境をサポートする予定になっているので、この機能がサポートされれば、Conceroで仮想環境をプライベート、パブリックの両クラウドへ自由に移動できるようになるかもしれない。

 もう1つは、System Center Advisor(以下Advisor)というクラウドだ。Advisorは、サーバー運用のベストプラクティスを自動的にチェックして、現状とベストプラクティスとの違いをチェックしてくれる。

 例えば、サーバーOSにパッチが適応されていなかったり、SQL Serverの設定が適切でなかったりすると、Advisorが自動的にチェックして、トラブルの原因になる部分を事前に指摘してくれる。

 いわばAdvisorには、Microsoftの知識が詰まっているといってもいい。数万台のサーバーを運用しているMicrosoftならではの知識により、安定したしたシステムの運用が自社でも行える。また、Advisorにより、自社で運用するシステムがベストプラクティスにマッチしたスタンダードな環境にそろえることができる。

 Advisorは、OSだけでなく、SQL Server、SharePoint、Exchange、Dynamicsなどが対象になっている。


System Center Advisorは、RC版がリリースされているAdvisorを使えば、パッチのあたっていないサーバーをチェックして警告を表示してくれる

 

大きく変わるSystem Center 2012

SCVMM2012のUIは、リボンUIになっている

 MMS2011では、既存のSystem Centerファミリのバージョンアップも発表されている。その「System Center 2012」に共通なのは、ユーザーインターフェイスにリボンUIが採用されたことだ。

 リボンUIに関しては、IT管理者にとっては賛否もいろいろあるだろう。ただMicrosoftは、リボンUIをコンシューマー製品だけでなく、プロフェッショナル製品のユーザーインターフェイスにも適応していこうと考えているようだ。

SCVMM2012では、複数の仮想環境をグルーピングして管理することができる

 「System Center Virtual Machine Manager 2012」(以下、SCVMM2012)では、単なる仮想環境の作成や管理といったレイヤから、より上位のサービス管理に一歩踏み出している。

 今までのSCVMMは、1つ1つの仮想環境を作成し、管理していた。しかし、SCVMM2012では、複数の仮想マシンをグルーピングして統合的に管理できるようになる。例えば、データベースを動かしている仮想マシンを複数集めてデータベースグループを作成して管理できるため、同じようなミドルウェアやアプリケーションが動作している仮想環境を管理するには、手間がかからなくなる。

 また、管理対象となるハイパーバイザーもHyper-Vだけでなく、VMwareのESX、CitrixのXenServerなどに拡張されている。オープンソースのXenを使ったハイパーバイザーに関しても、将来的にはサポートされる可能性があるようだ。これ以外のハイパーバイザーに関しても、プラグインソフトで機能拡張することで、対応を考えている。

 SCVMM2012では、仮想環境の作成、管理だけでなく、仮想ストレージや仮想ネットワークの管理なども行えるようになっている。

 Microsoftでは、さまざまなハイパーバイザーが動作するプライベートクラウド環境において、SCVMMがあれば、どのような環境でも管理できるようにしていきたいようだ。

 ちなみに、SCVMM2012は、現在パブリックベータ版がリリースされている。興味のある方は、一度テストしてみてほしい。

SCVMM2012は、Hyper-Vだけでなく、ESXやXenも管理できるSCVMM2012では、仮想NICやスイッチの設定も行える

 

AVIcodeと連動して動作するSCOM2012

SCOM2012では、グラフィカルにサーバーを表示している。ここから簡単に管理が行える

 「System Center Operations Manager 2012」(以下、SCOM2012)では、Visioのベクターマップを使って、さまざまなサーバーを一目で管理できるようになっている。注目されるのは、Microsoftが買収したAVIcodeと連動して動作する機能だ。

 AVIcodeは、.NETアプリケーションのパフォーマンスを分析するツールだ。SCOM2012にAVIcodeをプラグインすることで、単にパフォーマンス分析だけでなく、.NETアプリケーションがどのように動作していて、どこでトラブルが起こっているのか、またどこでリソースを膨大に消費しているのか、などをチェックすることができる。

 SCOM2012にAVIcodeが取り込まれることで、運用側でトラブルのチェックを行うことが非常にやりやすくなる。新たなアプリケーションを動かした時に、どこでどのようなトラブルが起こっているのか、管理者側ではチェックしにくい。また、原因を見つけるまでに、時間がかかりすぎるようでは、システム全体の運用にも響いてくる。こういった時にSCOM2012とAVIcodeを使えば、比較的短期間で管理者がトラブルの原因を探し出すことができるだろう。

 原因を探し当てれば、そのアプリケーションを開発している開発者に修正を依頼することもできるだろう。

SCOM2012で、サーバーの反応時間やCPU使用率などがチェックできるSCOM2012では、サーバーの状態をメーターで表示することも可能

 

スマートフォンにも対応するSCCM2012

SCCM2012のインターフェイス画面。グラフィカルで見やすくなっている

 「System Center Configuration Manager 2012」(以下、SCCM2012)では、管理対象となるデバイスが大幅に増えている。PCやサーバーだけでなく、携帯電話やiPadなどタブレットなども管理対象になっている。

 携帯電話を紛失してもSCCM2012から、携帯電話内部にあるデータを消去(WIPE)したり、紛失した携帯電話の通話やデータ通信などをオフにしたりして、一切の操作が行えないようにするデモが行われた。

 企業においても、携帯電話やスマートフォーン、タブレットなどは、非常に重要なデバイスとなっている。こいうったデバイスを1つの管理ツールでコントロールできるのは、IT管理者にとっては便利だろう。また、管理できるデバイスとしては、Windows Embedded OSで開発されているPOS、ATM、デジタルサイネージなども対象になっている。


SCCM2012でスマートフォンも管理できるSCCM2012から、スマートフォンのデータを消去(WIPE)することも可能

 もう1つSCCM2012で追加された機能としては、VDI環境を管理するための機能だ。SCCM2012では、仮想デスクトップ環境をハイパーバイザーレベルだけで管理するのではなく、仮想デスクトップのウイルス対策ソフト、アプリケーション配布といったレベルで管理することが可能になった。

 さらに、VDI環境において、仮想マシンプールなどのVDI環境をグルーピングして管理できるようになった。


VDI環境の管理もSCCM2012で行えるVDI環境としてはCitrixのXenDesktopがサポートされている

 「System Center Orchestrator 2012」(以下、SCO2012)は、以前Opalisといわれていた製品の新しいバージョンだ。SCO2012は、System Centerファミリの各ソフトをつなぐためのスクリプトプログラミングワークフレームといえる。

 ただ、SCO2012が優れているのは、管理者がSCO2012と対話しながら、さまざまな管理ツールにわたるワークフローをスクリプト化できる点だ。

 例えば、プライベートクラウドで新しい仮想環境をユーザーからのリクエストで構築する時に、ポータルサイトで作成したい仮想環境を選択すれば、自動的に上司にメールを飛ばし、許可を得て、管理記録をログに書き出し、指定されたサーバー上に仮想環境を作成し、OSやアプリケーションをインストールして、作成したことをユーザーにメールで通知するといった一連の作業をSCO2012で記述することが可能になる。

 少し考えただけでも、このシナリオを実現するには、さまざまなSystem Centerファミリソフトやアプリケーションにまたがった連携動作が必要なことがわかるだろう。SCO2012は、このようなシナリオを記述するのに、ノンプログラミングで行うことができる。

 SCO2012は、MicrosoftのSystem Centerファミリだけでなく、HPやEMC、IBM、CA、Symantecなどの他社の管理ツールとも連携することが可能になっている。このため、非常に広範囲にわたるシナリオを記述することも可能になる。

 最後に、System Centerファミリではないが、昨年からベータテストが行われていたクラウドベースのデスクトップ管理システムの「Windows Intune」が正式リリースされた。東日本大震災の関係で、日本語版のリリースに関しては、延期されているが、数週間後には日本でも正式リリースされるだろう。

新しいForefront Endpoint Protectionの管理画面Windows Intuneの管理画面Windows Intuneは、クラウドベースでデスクトップの管理を行うことができる。月額11ドルで、デスクトップOSへの更新プログラムの適応やハードとソフトの管理、ウイルス対策ソフトの提供などが含まれている
System Center 2012のロードマップ。2011年後半には、System Centerファミリがすべて製品化される

 MMS2011での発表を見ていると、Microsoftは、オンプレミストとパブリッククラウドの管理を一元的に行えるようにSystem Centerファミリを拡張していこうと考えているようだ。ただ、MMS2011の情報を元にすると、完全にオンプレミスとパブリッククラウドを融合したハイブリッドクラウドの管理ツールにまでは達していないような気がする。

 このあたりは、Azureの進化にも関係するので、まだ道半ばといったところかもしれない。しかし、Microsoftが、オンプレミスとパブリッククラウドが融合した世界に進んでいこうという意志がMMS2011の基調講演から感じ取れる。

関連情報
(山本 雅史)
2011/4/1 06:00