特別企画

2週連続で大雪に襲われた首都圏、「在宅勤務」はもう必須!

テレワークマネジメント田澤由利氏にコツを聞く

田澤由利氏

 在宅勤務というと、1人で集中して黙々と作業する姿が想像されがちだ。デザイナーなどのクリエイティブな仕事や、いわゆる「ノマド」なワークスタイル、あるいは内職のような出来高制の仕事がよくあるイメージだろう。

 そのイメージを否定するように、「特別な仕事だけを在宅勤務にしても、企業の生産性は上がりません。普段の仕事を在宅勤務できるようにすることが、企業を成長させるのです」と主張するのが、株式会社テレワークマネジメントを経営する田澤由利氏だ。

 企業に在宅勤務のコンサルティングなどを提供する同社では、自らも在宅勤務を完全導入。さまざまなITを活用して、効率的なワークスタイルを追求している。その一環として、NTT Comのスマートフォン向けIP電話サービス「050 plus for Biz」も導入。これらでどのようなワークスタイルを実現しているのか。2週連続で大雪が首都圏を襲ったいまこそ、在宅勤務・最前線をお伝えしたい。

1998年から在宅勤務に取り組む田澤由利氏

 田澤氏は1998年、夫の転勤先であった北海道北見市で「在宅でもしっかり働ける会社を作りたい」と株式会社ワイズスタッフを設立。「ネットオフィス」というコンセプトの下、全国に在住する150人のスタッフ(業務委託)とチーム体制で業務を行う。

 2008年には柔軟な働き方を社会に広めるため、テレワークマネジメントを設立。東京にオフィスを置き、企業の在宅勤務の導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業などを広く推進している。自らもテレワークに関する講演などをこなすほか、ブログやFacebookなどで広く情報発信・普及活動を行っている。

 2014年1月には著書『在宅勤務が会社を救う:社員が元気に働く企業の新戦略』(東洋経済新報社)が発売され、帯には安倍晋三氏の推薦文が載るなど、この分野では第一人者である。

 自社でも在宅勤務を主体としたワークスタイルを採り入れ、ワイズスタッフとテレワークマネジメントも含め、北海道・東京・奈良の3つのオフィスおよび在宅勤務スタッフをITで結び、1つのリアルオフィスのような働き方を実現。リアルなオフィスで一緒に働いている“わいわいがやがや”感をできるだけ再現するほか、労働形態もタイムカードを押すような仕組みで管理する時間制労働を採用している。

テレワークとは
テレワ−クの広義の分

 具体的にどのようなワークスタイルを実現しているのか。

通話の問題は「050 plus for Biz」で解決

 千代田区にあるマンションの一室――1Kの小ぢんまりとした東京オフィスは、什器などが一切なく、とてもオフィスには見えないオフィスだ。室内にはテーブルやソファと、PCなどの最低限の業務ツールがあるだけで、部屋の端に鎮座する46型の液晶ディスプレイだけが異彩を放っている。

東京オフィスの様子
テレビ会議用のディスプレイ

 このディスプレイはテレビ会議システム用で、北海道(北見市)・奈良(生駒市)・東京の3つのオフィスの様子が常にリアルタイムで映っている。これは会議用途のみではなく、あたかも実際に一緒のオフィスにいるかのような“気持ちのつながり”を演出するものだという。

 「カメラで常に撮影されていることに最初は嫌だという声もありましたが、みんなもう慣れて、普段は意識していません」と田澤氏は笑いながら説明する。コミュニケーションを促進するため、拠点ごとに差をつけず、ディスプレイ上の表示サイズは均等にした。

 このテレビ会議システム「HDコム」(パナソニック製)を導入したのは2年前。必要なときには、オフィスの中と同じように気軽に声をかけられる。ときには、画面ごしに来客対応することもあるという。「以前のテレビ会議システムは画面も小さくて存在感もなく、画質やタイムラグなどまだまだでした。現在では、インターネット回線や機材の品質のおかげで、お客さまに失礼にならないだけのパフォーマンスとなっています」(田澤氏)。

 前述の通り、東京のオフィスには書類を入れるキャビネット類は置いていない。書類はすべてデジタルでクラウドで共有している。これにより、複数のオフィスや自宅に分かれて仕事をしていても資料の心配はない。また、無駄なオフィススペースを省ける。マンションの1Kの一室をオフィス代わりに活用できるのも、在宅勤務を主体としたワークスタイルだからこそ可能なものだと田澤氏はいう。

 電話もIPセントレックス(IP電話交換機サービス)を採用。たとえば東京オフィスの番号にかかってきた電話が、誰もいないと奈良オフィスに転送されるというように、場所を問わずに電話を受けられる。

 その上で、NTT Comのスマートフォン向けIP電話サービス「050 plus for Biz」を全社で導入した。在宅勤務の問題点の1つに、テレワーカーあての電話がオフィスにかかってくる場合がある。オフィスにいる人が受けて、あとから折り返し電話をかけることも可能だが、それが毎回となるとさすがに顧客にも失礼になる。そこで050 plus for Bizを使って、テレワーカー1人ひとりに会社負担で仕事専用の電話番号を持たせた。PBXとの連携で場所を問わず内線電話として利用できるほか、オフィスにかかってきた電話を転送することも可能だ。

 また、050 plus for Bizは外回りの多い営業マンにも有効という。取引先とケータイやスマートフォン(以下、モバイル端末)の電話でやりとりすることの多い営業マンは、私物と会社支給の2台のモバイル端末を持ち歩いたり、会社によっては私物のモバイル端末を仕事に使っていたりもする。私物のモバイル端末を使うのは、通話料の問題だけでなく、24時間つながる個人の番号を取引先に教える抵抗感もある。050 plus for Bizがうまい具合に公私分断し、通話についてもBYODが可能となるわけだ。

 「以前IP電話を試したときは通話品質がいまひとつでしたが、今の050 plus for Bizはお客さまにかけるにも問題なく使えています」と田澤氏。実際に利用した結果、テレワークマネジメント社での企業への提案にも、しばしば050 plus for Bizを盛り込んでいるという。

 最近では、同じくNTT Comが提供している「Web電話帳」のサービスも利用を開始した。Web電話帳は、モバイル端末で使う電話帳をクラウドで管理し、そこから電話をかけられるようにするサービス。「今まで電話帳登録は面倒でなかなか登録できず、Web電話帳を知って、さっそく導入しました。PCからまとめて入力できますし、社内で共有しているので、1人がお客さまを登録すればその番号を全員で使えます」(田澤氏)。

 社内外での通話の問題はこれで解決する。しかし、在宅勤務を推進するとなると、実際には目が届かないテレワーカーの業務をいかに効率化するかが、もう1つの課題となる。

PC上の仮想オフィスで「みんな集まって仕事する」感

 一緒のオフィスにいるような気持ちにさせる仕組みは、テレビ会議システムだけではない。米Sococoのソフトウェア「Sococo Virtual Office」を使い、PC上にバーチャルオフィスを実現している。画面上に架空のオフィスの間取りを表示し、リアルオフィスでよくあるような“島”型に配された机が並ぶ。その仮想的なオフィス空間にスタッフの名前が表示され、物理的な場所に関係なく1つの空間に“着席”して仕事をしている。

 ここにはオフィス常駐の社員以外に、(実際には各地で在宅勤務する)業務委託スタッフの名前も並んでおり、特定の人のアイコンを選んで、即座に音声やメッセージで話しかけられる。仮想の“会議室”や大勢が一度に入れる“講堂”も用意され、複数人で集まって打合せすることも可能だ。「会議室はいくらでも新設できるので、リアルオフィスのように施設予約で会議室を競い合う必要もありません」。

PC上にバーチャルオフィスを実現。スタッフの座席と名前が表示されており、勤務状況が即座に分かる。テレワーカーの名前も統合して表示しているのが特徴だ
会議室も用意されている
田澤氏唯一の社長室がこの仮想オフィス上にある

 機能としてはプレゼンス表示機能つきの音声チャットに相当するが、「IT慣れしている人はそれでもいいでしょうが、この仮想オフィスソフトなら、ビジュアルがあることで、IT慣れしていない人にも“一緒にいる感”を醸し出せるのがポイントです」と田澤氏は説明する。これにより、ほかの人に話しかける抵抗が少なくなり、実際のオフィスにいれば気軽に話かけられるけど電話するまでもないような会話も、仮想オフィス上で実現できる。

 冒頭でも紹介したように、「在宅勤務=1人で集中して黙々と」ではないというのが、田澤氏の持論だ。結婚や出産、引越し、病気、介護、あるいは災害など、それまでのオフィスに通うのが難しくなるケースは今後も増えてくる。「多様な働き方が必要な人は、職種を問わず増えていきます。1人でやるような仕事だけではなく、会社での普通の仕事も在宅勤務でできるよう、オフィスにいるのと同じようにコミュニケーションをとりながら働けるようにする必要があります」。

在宅勤務でも「みなし労働制」ではなく「時間労働制」

 そこで力を入れているひとつが、時間管理だ。厚生労働省では在宅勤務を「みなし労働」とするが、田澤氏はそれに異を唱える。「自己管理の得意な人だけが在宅勤務をするわけではない。みなし労働では、いずれサボるか、反対に過剰労働になる」という考えから、同社では在宅勤務でも時間労働制をとっている。

 そのために、バーチャルなタイムカードともいえる「Fチェア」のシステムを自社開発した。PC上の小さなウィンドウで、「着席」ボタンをクリックすると勤務中となり、「退席」ボタンをクリックすると勤務外になる。これを使い、それぞれ1日の労働時間分を働くというシステムだ。

Fチェアにより、テレワークでも時間労働制を実現している。各人の着席(労働)時間が青色で表示。残業は黄色、深夜業務は赤色で表示されるため、労働時間が適性かどうかも一目で判断できる

 たとえば、田澤氏を取材している際に、Sococo Virtual Office経由で話をしてくれた育児中の女性テレワーカーは、在宅勤務でも働いているときは子供を預けて仕事をするという。子供を迎えに行く間は「退席」し、子供を寝かしつけたら再度「着席」して仕事、というワークスタイルを続けている。自宅に仕事に集中するためのスペースを設けるなど、集中しやすい環境作りも会社として推進しているという。

 「着席」は自己申告だが、Fチェアでは、着席中のランダムな時間にPC画面全体のスクリーンショットを保存する機能が備わっており、後から上司がチェックできる。オフィスではサボっていると席の近くを通ったときにわかってしまうのと似たシステムだ。

 「画面を撮られるのは嫌がる人が多いと思っていましたが、在宅勤務の人からはむしろ『自分が仕事をしているのをアピールできるようになった。そうでないと、アピールのためにたくさん仕事をして無理してしまう』という声をもらいました」と田澤氏。時間制をとっていることにより、午後の時間を自分の勉強に使うために毎朝7時から(就業時間を前倒しして)働く人もいるという。

 Fチェアは、在宅勤務の人だけでなく、オフィスで働く人も同じく使う。外回りの人には、スマートフォン版も用意されている。スマートフォン版では、画面を撮るかわりに、GPSの位置情報を記録する。なお、ランダムに画面や位置情報を取得するシステムは、特許を取得したそうだ。

着席中のランダムな時間にPC画面全体のスクリーンショットを保存
スクリーンショットを一覧表示。テレワーカーからすると「働いている」とのアピールになり、意外にも好評という

在宅勤務は福利厚生ではなく、企業戦略

 田澤氏は現在、テレワークマネジメントおよびワイズスタッフのオフィスのある北海道北見市に住んでいる。「北見は、夫の転勤で引越してきた土地で、すっかり気に入っています」(田澤氏)。当初はしばらく北海道と東京の2箇所のオフィスとテレワークで営業していた。しかし、2004年に、爆弾低気圧により北見市で170cmの積雪を記録し、「家を出られなくてみな出勤できず、電話を受けられないという事態になりました」。この災害から「仕事を停滞させない」ことを意識し、より一層のテレワーク化を進めるとともに、3カ月後に田澤氏の出身地である奈良県に3箇所目のオフィスを作った。

 「在宅勤務は福利厚生ではなく、企業戦略」という言葉が、田澤氏の著書『在宅勤務が会社を救う』でも強調されている。“その人のため”に在宅勤務を認めるのではなく、天災のときや毎日の出勤の難しくなった人でも働けるようにすることで会社を成長させるという考えだ。

 実際、2014年2月に、2週連続で日本列島を大雪が襲った。東京では積雪20cm(大手町では27cmを観測)と都内としては記録的な降雪量となった。積雪で交通網が途切れ、山梨や群馬など多くの地域で“陸の孤島”化も。企業活動にも大きな影響を与えた。

2月16日(日)の富士河口湖町の様子
2月15日(土)の様子

 この大雪に対して、在宅勤務を推進するテレワークマネジメントおよびワイズスタッフはどう対応したのだろうか。

 「2月14日(金)は関東大雪のため、朝、社長の指示で、東京オフィスは出社予定者も急きょ在宅勤務に切り替えました。午前中は、顧客先への打合せ訪問もありましたが、午後は先方より打合せキャンセルとなり、営業担当者も直帰して在宅作業を行いました。2月17日(月)は北海道が大雪のため、やはり朝社長より指示が出て北見オフィスは1日閉鎖、在宅勤務に。北見オフィスへの電話は奈良オフィスに転送対応しました」。

 また「両社とも全員が、普段から在宅勤務を“練習”しており、その経験を通じて必要な機材など(リモートアクセスや個々人への電話転送)の準備もしているため、突然の在宅勤務にもとまどうことなく、いつもどおりの業務を進められました」という。

 今回の大雪はまさに「在宅勤務は福利厚生ではなく、企業戦略」ということを思い知らされるような出来事だったのではないだろうか。

政府の成長戦略にも「テレワーク普及」

テレワークが記載されている政府・与党の政策方針

 テレワークマネジメント社を設立した頃は「まだ市場がない」状態だったというが、取材時点では「まだ第一歩の段階。ただし、大きな後押しのある第一歩」だと田澤氏は語る。

 後押しとなっているのが、安倍政権の発表した成長戦略においてテレワーク普及のためのモデル確立に向けた実証事業が提言されたこと。また、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部による「世界最先端IT国家創造」宣言で、2020年までにテレワーク導入事業を2012年比で3倍に、週1日以上在宅勤務する雇用型テレワーカーを全労働者の10%以上にするという方針が掲げられたことだ。これによって、「企業も積極的になってきた」という感触を田澤氏は持っている。この経緯から著書の帯に安倍晋三氏の推薦文が載ることとなった。

 「15年前にワイズスタッフを設立したときに、『ネットオフィス』をいう言葉を作りました。当時は環境が整っていませんでしたが、15年たってようやく普通のことになってきました」(田澤氏)。2014年2月の大雪は多くの人に在宅勤務の必要性を感じさせたのではないだろうか。田澤氏によって、必要と感じている人のつぶやきがTogetterにまとめられている。こうした声に、政府の後押しも加わり、在宅勤務は今後どのような展開を見せるだろうか。

(高橋 正和/川島 弘之)