TKC、栃木県郊外の同社データセンター「TISC」の内部を公開

~安全、安心、便利を実現し、堅牢性の高さに強み


宇都宮市郊外にあるTKCインターネット・サービスセンター(TISC)

 TKCは、栃木県宇都宮市郊外に設置している自社データセンター「TKCインターネット・サービスセンター(TISC)」の様子を公開した。

 TISCは、TKCが提供する会計事務所向けサービスおよび自治体向けの行政情報セキュリティ・マネジメントサービスのデータセンターとして位置づけられており、電子申告や電子申請などの各種サービスにも活用されている。

 2010年春には、地方税電子申告サービス基盤のセキュリティ強化とキャパシティ拡大に向けて、約15億円を投資し、TKCインターネット・サービスセンターを強化している。

 実際に、TISCを訪れ、同センターの取り組みについて探ってみた。

 

先進的な免震、避雷対策を施したデータセンター

 TISCは、6396平方メートル(1935坪)の敷地面積に、免震構造を施した3階建てのセンターで、延べ床面積は、5268平方メートル(1594坪)、サーバー室は、3412平方メートル(1034坪)。免震構造では、硬質ゴムと鋼板を交互に積層した免震装置24基が支え、震度7規模の揺れでも免震装置が吸収し、建物内部のサーバーなどの転倒や破損を防げるという。

 東日本大震災の際には、この地域では震度6強の揺れを観測したが、サーバーの倒壊といったことはまったく起こらず、センター全体も無事に稼働し続けたという。


ゴムと鋼板を交互に積層した免震装置を24個設置。地震時には急激な加速度を吸収し、水平にゆっくり揺れることでサーバーの転倒などを防ぐTISCのビルの揺れを記録するケガキ装置
ケガキ装置に記された2011年3月11日に発生した東日本大震災の揺れの状態

 また、栃木県内は雷雨が多いという点を考慮し、直雷対策および内部避雷対策による先進的な避雷対策を行っているのも大きな特徴だ。

 電気を構造躯体の鉄筋や鉄骨を使って、地面のアースへと流す手法を採用。これにより、センター内のサーバーやルーターへの影響がなく、電気を地中に誘うことができる。

 TISCが建設される1年前から、同センターを施工した鹿島建設と、サーバー施設などを担当した関電工とが協力して、雷対策のための大規模な実験装置を開発。人工的に落雷させて実験を行い、その効果を測定。結果については、電気設備学会で発表され、秋葉原ダイビルなど、その後の鹿島建設が携わった主要な建築物にも採用されているという。

 この技術は、JIS規格で規定される外部(建物)雷保護に加え、IEC(国際電気標準会議)で規定する内部雷保護システムに対応した雷対策を講じたものとなっており、建物内部に設置してある電子機器に雷の影響はまったくないとのこと。

 実際に、TISCでは開設以降、大規模な落雷があったが、施設にはまったく問題がなかったという。


屋上の避雷針の様子。同じ間隔で設置されており、均等に電流を流すことができる構造躯体の鉄筋や鉄骨を使って、地面のアースへと流す手法を採用

 

東日本大震災の影響受けるも継続稼働を実現

 一方、万が一の火災発生時には、超高感度煙検知システムにより、0.1%の煙を検知。早期に火災の予兆も発見できるという。また、サーバー室には機器類を保護しながら消火できる窒素ガスが使用できるようにしている。

 連続稼働についても万全の体制を整えている。東京電力からの本線および予備線の2系統受電や、UPS装置の導入、電力供給の停止から1分以内に稼働する自家発電システムの導入を図っている。自家発電システムは72時間の連続稼働が可能だという。

 東日本大震災の際には、23時間にわたって停電したが、その間も連続稼働が行われ、3月12日時点では優先契約に基づいて重油を満タンに補給し、その後の連続稼働にも万全の体制を整えた。

 「TISCが立地している場所は、もともと大規模な地震の影響が想定されていない地域だったが、それでも震度6強の影響を受けた。もはやどんな場所でも地震の影響を受けること、災害の可能性があることを想定しておくべきだ。TISCは、その点でも万全の体制を整えていると自負している」と、TKCインターネット・サービスセンター長の笹川裕介執行役員は語る。

 空調設備についても、空調機の1台が故障してもサーバールーム全体の温度および湿度を一定に保つことができるようにしているほか、都市部に比べて気温が3度程度低いという気候を利用した外気導入により省電力化にも貢献しているという。一部サーバールームでは、ホットエアキャッピングという手法を用いて、より効率的な空調にも取り組んでいる。


電力供給の停止から1分以内に稼働する自家発電システム

 

システム管理のすべてを正社員が行う堅牢性

 さらに、センター内に配置したシステム監視室により、24時間365日対応の有人監視体制のほか、ファイアウォール監視、不正侵入監視などを行っている。

 「システム運用監視を行っているオペレーターは、すべてが正社員。ユーザーである自治体や公認会計士の業務を理解し、その上でシステム運用監視の重要性、情報漏えいの影響を強く認識しているオペレーターばかりである。TKCは、1966年に創業して以来、45年間にわたって、自治体、公認会計士からデータを預かり、業務を行ってきた。最新設備を有したTISCにおいても、その姿勢はまったく変わらない」と笹川執行役員は語る。

 また、すべての扉の出入りには、ICカードによる認証が必要であり、サーバー室への入退室については、手のひら静脈認証システムを採用。防災センターでは監視カメラによる監視のほか、扉の開閉、生体認証の手続きなども一元的に監視できるようになっている。


システム監視室。システム運用監視を行っているオペレーターは、すべてが正社員

 興味深いところでは、電子機器へ悪影響を与える亜鉛ウイスカ(亜鉛メッキを施した部材から成長する、細い針状の結晶)を排除するため、発生の可能性がある部材を使わず、また電源ケーブルの引き回しなどは部屋の上部を利用し、メンテナンスの容易性も実現しているという。

 そのほか、情報セキュリティマネジメントシステムの認定基準であるISO/IEC27001:2005、JIS Q 27001:2006の登録を行っているのに加え、総務省の外郭団体である財団法人地方自治情報センターが運営する「LGWAN-ASPサービス接続資格審査」に合格。法人電子申告システム(ASP1000R)、連結会計システム(eCA-DRIVER)、連結納税システム(eConsoliTax)、税効果会計システム(eTaxEffect)の4つのASPサービスについては、専門区画を作り、これに係る内部統制に関して、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書第18号「委託業務に係る統制リスクの評価」に基づく報告書(18号報告書)を受領している。

 

TKCの各種サービスを提供するデータセンター

 TISCから提供されているサービスは、会計事務所向けの電子申告システム、法人決算申告システム、贈与税申告書作成システム、相続税申告書作成システムなどのほか、企業ユーザー向けの法人電子申告システム、連結納税システム、連結会計システム、統合型会計情報システム(FX4)など。さらに、地方公共団体向けのTKC行政ASP/公共施設案内・予約システム、TKC行政ASP/電子申請・届け出システム、TKC行政ASP/かんたん申請・申し込みシステム、TKC行政ASP/市町村サーバーの第2次バックアップサービス、TKC行政ASP/ウイルス対策サービスなど。データバックアップサービスや、ハウジングおよびホスティングサービスも提供している。

TKCインターネット・サービスセンター長の笹川裕介執行役員

笹川執行役員は、「TISCは、純粋な意味では、一般的なデータセンターとは言い切れない部分もある」と前置きしながら、「TISCでは地方公共団体および公認会計士、あるいは企業に、当社のサービスを利用していただくためのソフトウェアおよびデータを管理、提供している拠点となる。その点が一般的なデータセンターとは異なる」と語る。

 確かにその点では、広く多くのユーザーに利用してもらうためのデータセンターとは一線を画すといえよう。

 だが、自治体の住民サービスにかかわるような情報、公認会計士が取り扱う財務情報といった、情報漏えいによる影響が大きいデータを扱うという点では最高レベルの堅牢性が求められるのは明らかだ。

 「データセンターの設備、ネットワークといったインフラだけでなく、アプリケーションやデータにまで責任を持って運用し、さらに利便性についてまで責任を持ったデータセンターといえる」というのがTISCの特徴だと、笹川執行役員は語る。

 TISCでは、安全、安心、便利の3つのキーワードを掲げる。

 「災害対策、運用体制、外部監査、そして世界標準技術を採用した点での安全性に加え、顧客(=自治体や公認会計士など)の要求を聞き、丁寧に説明し、TISCを見学してもらうという仕組みも用意することで安心感も提供している。そして、クラウド型のサービスとして提供し、顧客が便利に利用できるという点でも特徴がある」と続ける。

 TKCの創業時の名称は、栃木県計算センター。これがTKCの社名の由来ともなっている。もともと計算センターからスタートした同社では、第三者から情報を預かり、これを運用、管理するという業務を行ってきた。その長年の経験をもとに、データセンターの運用に携わっているともいえる。これは、TKCならではの大きな特色だといえよう。

 「計算センターからの長年の実績は当社のコアコンピタンスともいえるもの。現在、99.7%の可用性をSLAとして結んでいるが、実際には99.999%の水準で稼働させている。そして、この可用性は少しでも改善する形で努力している」。

 現在、TKCでは、ホストコンピュータで行っていた一部業務も、すべてオープン系システムにマイグレーションし、ホストコンピュータを完全撤廃する方針を示している。その上で、TISCの役割がさらに重要になるのは明らかだ。

 また、2011年9月からは社内システムのプライベートクラウドとして運用。そこでもTISCが重要な役割を果たすことになる。

 TKCの堅牢なサービスを実現する上で、TISCの果たす役割はますます重要なものとなる。


TISCのサーバールームの様子。約1000坪のスペースを4つのサーバーエリアに分割し、それぞれのエリアにサーバーが格納されている
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