Microsoft SQL Serverの進化を見る【最終回】

ライセンスの優位性


 前回までで解説したように、SQL Serverは機能面で着実な進化を遂げてきた。特に、SQL Server 2008からは圧縮機能が標準でサポートされ、競合製品に対する大きなアドバンテージとしてアピールされるようになっている。また、信頼性の面でも多くの強化がなされ、多くの基幹システムでも採用されるようになった。

 では、こうした製品の強化を受けて、マイクロソフトはどう販売を進めようとしているのか。今回は、ライセンス購入という点にスポットを当て、サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャー、斎藤泰行氏らに話を聞いた。

ソケット単位のプロセッサライセンスを提供、価格面で優位に

サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャー、斎藤泰行氏

 まず、マイクロソフトが協力にメッセージを打ち出しているのが、価格面での優位性だ。

 現在、企業のデータベースシステムで多く使われているのは2Wayサーバー、あるいは4Wayサーバーだが、搭載されているCPUはマルチコア化が進み、ほぼクアッドコアが標準となっている。また、インテルやAMDといったCPUベンダーからは、6コア、8コアといった製品が提供されているし、AMDからは12コアのCPUも発売されており、コア数の増大は当分止まりそうにない状況だ。

 このような流れに対応すべく、マイクロソフトではSQL Serverのプロセッサライセンスを、ソケット数(=物理CPUの数)単位で提供している。従って、コア数が4であれ12であれ、ソケット数が2である2Wayサーバーであれば、2プロセッサライセンスで利用可能。CPUをクアッドコアから12コアにアップグレードしたとしても、必要なライセンス費用には変化がない。

 しかし、ハイエンドシステムで高いシェアを持つ競合データベース製品では、CPUコア数に応じてライセンス費用を算出する方式を採用している。具体的には、CPUコアの総数に、CPU種別ごとに設定されたコア係数を掛け、必要なプロセッサライセンス数を算出する仕組みで、コア係数は例えば、x86/x64系CPUは0.5に設定されている。

 従って、クアッドコアのXeonを利用する2Wayサーバーの場合は、4×2×0.5=4プロセッサライセンスが必要。「さらにコア数が増えれば、ライセンス費用はより高額になる。ソケット数で課金するSQL Serverは、マルチコア時代に適したライセンスだといえる」と、両社のライセンスポリシーの違いを、斎藤氏は強調する。

ソケット単位の課金になるSQL Serverでは、マルチコア化が進めば進むほど、価格的なメリットを出せるというコア課金を採用しているベンダーと比べると、マルチコアCPUでは大きな差が生じる

オプション、保守料金でさらに大きな差が

SQL Serverでは、圧縮やパーティショニングなどの機能を標準機能で提供しているため、追加料金は発生しない

 加えて斎藤氏が指摘するのは、オプションに対する考え方の違い。「競合データベースでは多くの機能がオプションであるのに対し、SQL Serverではデータベースの標準機能として、圧縮、パーティショニングなどの機能が搭載されている。ベースのライセンス価格についても優位性があるが、オプションが必要な場合は、さらに価格差が開いてくる」というのだ。

 競合データベースに詳しい関係者によると、実際に、いくつものオプションを使うケースはそう多くないというが、Partitioningオプションについては利用される率が高く、また今後は、パフォーマンス向上に効果が高いAdvanced Compression(圧縮機能)も、利用を希望するユーザーが増えてくることが見込まれるそう。「そうした場合、さらにSQL Serverとの価格差が開く」(斎藤氏)ことになってしまう。

 この圧縮に関しては、「アクセス速度を考えると、圧縮によって効率化が図れるので、かなり現実的になってきた」(マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 アプリケーションプラットフォーム製品部 シニアプロダクトマネージャ 北川剛氏)とのことで、特にSQL Server 2008 R2からは、Unicodeの圧縮もサポート。「特定のアプリケーションのバックエンドで使われているSQL Serverでは、Unicodeが使われていることも多く、圧縮効率を上げられるので、バックエンドデータベースとしての性能向上が図られている」(北川氏)のだという。この機能が無償で使えるのであれば、恩恵はかなり大きい。

 また斎藤氏は、初期費用だけでなく、保守費用の違いに着目するユーザーが増えている点を指摘する。保守費用は、ベースとなるライセンス価格に対していくら、という金額が決まってくる。「そのため、初期費用だけでなく、毎年の支払う保守費用に対しても、SQL Serverと競合製品では大きな差が出てくる」(斎藤氏)のが実情。「IT投資に対しても削減の圧力が強くなる中、こうしたメッセージが受け入れられるようになった」と、保守費用についても大きなメリットを提供できると、メリットをアピールする。

仮想化にも適したライセンス体系を導入

SQL Serverのライセンスモデル

 では、仮想環境でSQL Server 2008 R2を利用する場合は、どういったライセンスを購入すればいいのか。ここでは、プロセッサライセンスの場合を見てみる。

 まず、最上位エディションの「Datacenter」では、物理CPU数分のライセンスを購入すれば、仮想OS環境を無制限に使用することが可能。次位の「Enterprise」では、1ライセンスあたり、4つまでのOS環境を追加コストなしで利用できるのだが、有効なソフトウェアアシュアランスを契約しているユーザーについては、「Datacenter」と同様、仮想OS環境では無制限に利用できるようになる。つまり「Datacenter」「Enterprise」では、物理CPUの数をカウントすればよい。

 一方、「Standard」「Workgroup」の両エディションでは、仮想OS環境の数をカウントする必要がある点が、上位のエディションと異なる。物理CPUが2つしかなくても、仮想OS環境で3つの仮想CPUを動かしていれば、プロセッサライセンスが3つ必要になるのだ。これが、一般的な考え方になる。


仮想環境で利用する場合、「Datacenter」「Enterprise」では、物理CPUの数を、「Standard」「Workgroup」では仮想CPUの数をカウントすればよい物理CPUよりも仮想CPUの数が少ない場合は、使っていない物理CPUの分のライセンスは必要ない

 しかし、前述のように、最近はたくさんのコア数を持つマルチコアCPUが登場しており、物理プロセッサが2基しかなくても、合計24コアを搭載するサーバーも中には存在する。こうしたサーバーで24の仮想CPUを稼働させる場合、24プロセッサライセンスを購入する必要があるのだろうか。

 斎藤氏はこれについて「実は、ノーです。『Standard』では、仮想OSが使用する仮想プロセッサ数を、CPUソケットのコア数で割り、それを合計した数が必要なライセンス数にる」と説明する。複雑になるので、詳細は図3を確認していただきたいが、本来必要な仮想プロセッサ数よりも少ないライセンス数を購入すればよくなるのだ。

マルチコアCPUで仮想環境を利用する場合、「Datacenter」「Enterprise」では特に変化はないが、「Standard」「Workgroup」では、仮想OSが使用する仮想プロセッサ数を、CPUソケットのコア数で割ることができる(端数は切り上げ)仮想OSに必要なプロセッサライセンスの早見表(「Standard」「Workgroup」向け)

新ライセンス、EAPによるメリット

 最後に、SQL Serverにも適用される新ライセンス「EAP(Enrollment for Application Platform)」を説明しよう。

EAPのメリット
EAPの種類と適用条件

 EAPは、アプリケーション基盤製品が対象としたもので、SQL Serverでは、「Enterprise」以上が割引率40%の「プレミアム」、「Standard」とCALが同15%の「スタンダード」にランクされており、合計でプロセッサライセンス×15、ないしはサーバーライセンス×10とCAL×400をすでに購入している(新規で購入する)ユーザーが契約できる。

 マイクロソフトでは、さまざまなボリュームライセンスを提供しているが、なぜ、さらにライセンスプログラムを新設したのか。それは、低コストで最新版へ移行できるよう、旧バージョンのユーザーを支援することが目的なのだという。

 一般に、企業向けのソフトウェア製品では、保守契約(マイクソフトの場合はソフトウェアアシュアランス:SA)を契約し続けているユーザーであれば、常に最新版を利用できる。マイクロソフトではSAの特典として最新版の利用が可能になっているが、SAは本来、後から欲しいと思っても、契約することはできない。

 しかしEAPでは、今現在から有効なSAを購入可能になる。例えばユーザーが、3年前に購入した、SA契約のないSQL Server 2005 Enterprise Editionを15ライセンス分持っているのであれば、それらに対して、3年間有効なSA契約を購入できるようになる。もちろん、契約していない期間のSA料金をさかのぼって支払う必要もない。これは、ユーザーにとって大きなメリットだ。また、価格が割引されるため、新規の購入時にコストを大幅に削減できるメリットがある。

 またEAPには、ライセンス費用が割安になる以外にも、メリットが提供されている。それは、特定金額以上のEAPにおいて、同社の上級サポート契約「Premierサポート」において、「問題解決レイバー」が無制限に提供される、という点だ。

 Premierサポートでは、担当技術者であるTAM(テクニカル・アカウント・マネージャー)をアサインするためのコストと、TAM経由で問題解決をする際に発生するコストが発生する。EAPではこのうち、後者のコストを、SQL Serverの問題に限って、無制限に提供されるのだが、斎藤氏によれば、この特典を目当てに購入するユーザーがいるほど、これは大きなメリットなのだという。

 包括契約であるPremierサポートでは、「Premierファウンデーション」で30時間まで、「Premierスタンダード」では80時間まで、といったように上限時間が決められており、それを超える場合は別途オプションで延長時間を購入する必要がある。しかしEAPではこれが無制限になるため、コストメリットは非常に大きい、というのだ。

 Premierサポート自体、ある程度規模の大きな企業の利用に限られるのだろうが、利用可能な企業にとっては、魅力のある内容といえそうだ。なお、EAPはEAの一種であるため、本来は全社契約が前提にはなる。しかし斎藤氏によれば、そこは「プロジェクト全体に適用」「部門全体に適用」などの単位でもフレキシブルに対応しているとのことで、ユーザーにメリットを提供できているとしている。

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