「LSI製3ware RAIDアダプタ」の強みをSIの現場に聞く
信頼性の高さと使いやすさを武器に、HPC分野にも好評
米LSI Corporation(LSI)は2009年4月、Applied Micro Circuits Corporation(AMCC)から3ware RAIDアダプタ事業を買収。2010年2月には、買収後初の3wareブランドの新製品となる「3ware 9750シリーズ」が発表された。
RAIDカードは、システムの中で裏方として使われることが多く、必ずしもユーザーの目に触れる機会は多くないが、ストレージを接続する重要な構成要素になるだけに、その選定には、SI事業者も神経を使っているという。
今回は、そうした中で、3wareのRAIDカードはどのような点が評価されているのか、どのようなユーザーが使っているのかについて、3ware製品の販売代理店として長い経験を持つアスクと、HPCシステムに強いSI事業者として、エンドユーザー向けシステムに3ware製品を組み込み販売しているリアルコンピューティングに、それぞれ聞いた。
■3ware製品の特徴と市場動向
アスク 技術部 テクニカルマーケティング課の岩田太郎氏 |
コンピュータ周辺機器/パーツの専門商社のアスクは、10年前に3ware製品の取り扱いを開始したという。もともとは、独立企業だった3wareの、日本国内における販売代理店として取り扱いをスタート。その後3wareがAMCCに買収され、さらに同事業がLSIに買収されたが、一貫して販売代理店を務めている。
アスク 技術部 テクニカルマーケティング課の岩田太郎氏は、3ware製品の最大の特徴を「管理画面のユーザーインターフェイス」だと評する。「さまざまなRAIDコントローラ製品がある中で、3wareのインターフェイスがもっとも評判が良い。また、不良率の低さも特筆できるポイントで、コンマ以下のレートを維持している。ポート数では2ポートから24ポートまで幅広いラインアップがあり、選択肢の広さも特徴」なのだという。
現在アスクでは4社5ブランドのRAIDカードを扱っているそうだが、このような点が評価されてか、「その中でもっとも売れているのが3ware製品」(岩田氏)で、実数では年間約7000枚を販売しているそうだ。
なお、RAIDカード市場では、2009年から6Gbps対応製品が市場投入され、注目され始めてきている。代表的な製品はLSIの「MegaRAIDシリーズ」で、伸び率ベースでは昨年度のトップとなったが、3wareの6Gbps対応製品である「9750シリーズ」はそれに次ぐ2位の伸び率となっており、結果として6Gbps対応製品市場はLSIがほぼ独占した形だという。
定評があるという、管理ツールの画面イメージ | 9750シリーズの1製品、「3ware 9750-8i」 |
■HPC市場での3wareの価値
リアルコンピューティング 開発本部 取締役本部長の中宮甲之氏 |
リアルコンピューティング 開発本部 システムエンジニアリング部 チーフエンジニアの杉尾篤史氏 |
続いて、大学や研究機関など、HPC(High Performance Computing)システムのユーザー向けにサーバー、ストレージなどの製品を設計・開発・製造し、販売しているリアルコンピューティングに、SI事業者の目から見た3ware製品の評価について聞いた。
リアルコンピューティングは、独自の水冷冷却技術を生かして静音化したサーバーなどによる、HPCクラスタシステムなどの導入において、豊富な実績を持つ。国内の主要大学の多くが同社のシステムのユーザーとなっており、理化学研究所、産業技術総合研究所、高エネルギー加速器研究機構といった、国内の名だたる研究機関も同社製品のユーザーだ。
こうしたユーザーは、同社の水冷静音サーバーをHPCクラスタとして活用し、科学技術計算や各種シミュレーションを実行しているという。これらのシステムは研究室や教室に置かれることもあるため、水冷による静音サーバーが高く評価される。HPCクラスタでは、フロントエンドに置かれるファイルサーバーが導入されるのだが、3ware製品は、こうしたサーバーの内蔵RAIDストレージ用として使われているのだという。
リアルコンピューティング 開発本部 取締役本部長の中宮甲之氏は、「初めて3ware製品を使ったのは約6年前。このときに『基本機能がきちんと動作するのか』を重視してハードウェアとしての初期評価を行ったところ、『きちんと動く』かつ『使いやすい』という評価になった。他社製品も同様に評価したが、安定性などの面で問題があったため、3wareの採用を決定した」と語る。
また、同社の開発本部 システムエンジニアリング部 チーフエンジニアの杉尾篤史氏は、「設定の内容や設定方法、使い方などが基本的に変わらない点が逆にやりやすい。エンドユーザーに納品した後、HDD交換などの細かなメンテナンスの際のやり方をユーザーに説明するのも容易だ。また、HDDのトラブルは不可避で、必ず発生するものだが、RAIDカード側のトラブルは経験しておらず、信頼性が高い点も助かっている」と、現場での印象を話す。
リアルコンピューティングに採用されているうちの1つ、「3ware 9650-8i」 |
HPCクラスタを使った大規模な科学技術計算では、計算終了までに半年程度要することも珍しくない。「こうしたデータが失われたら半年分の作業が無駄になってしまうし、やり直すにはまた半年かかってしまうので、データ喪失は絶対に許されない。リアルコンピューティングではこれまで3wareのRAIDカードを数百システム納入してきているが、これまでデータ喪失につながるような深刻な障害が発生した例は一件もない」(中宮氏)そうで、この高信頼性がユーザーにも高く評価されているのだと説明する。
■ソフトウェアの強み
このほか、3ware製品の評価ポイントとしてユニークなのは、Linuxのサポートが手厚い点だ。3ware製品に対応したドライバはLinuxカーネルに標準で組み込まれているため、ユーザーが特別な対応を行わなくてもそのまま利用できる。これは、「3wareのドライバ開発者がLinuxカーネルの開発にも参加しており、その関係もあってLinuxカーネルでの対応が早い」(アスクの岩田氏)からだ。
また、ユーザーからも高く評価されている同社の管理ソフトウェアは、WindowsとLinuxに対応しており、どちらのプラットフォームでも同様に利用できる点も強み。機能の整理の仕方や色分けなどの見せ方の工夫も的確で、初めてのユーザーでもマニュアルも見ずに、直感的に操作できるほどだという。
また、ファームウェアの品質の高さも特筆できるとのこと。業界では、製品のリリース後に繰り返しファームウェアのアップデートが行われ、品質が安定するまでにしばらく時間がかかるということも珍しくないが、3wareではまずそうしたことはないそうだ。
HPCユーザーでは、いったん計算を開始したら長期間システムを止められないことも珍しくないため、ファームウェアの更新も簡単にはできない。こうしたユーザーにとっては、「永遠のβ」のような開発手法は受け入れられず、安定して高品質であることが何より重視される。こうした期待に応えてきたのが3ware製品だといえるだろう。
■3wareを買収したLSIの製品戦略
LSIロジック マーケティング コミュニケーションズ マネージャーの秦和哉氏 |
前述の通り、3wareは、現在はLSIに買収されている。同社の日本法人であるLSIロジック株式会社 マーケティング コミュニケーションズ マネージャーの秦和哉氏は、「企業買収では、買収される側の市場/ユーザーだけを取得してしまい、買収したブランド製品はすぐに終息してしまう例も珍しくはないが、LSIでは、従来の3ware製品ユーザーに対するサポートも積極的に継続していく」という点を強調。
さらに、「従来のユーザーが高く評価していた、使い勝手の良さといった特徴もそのまま継続し、新製品を投入していく計画だ。2009年4月に、AMCCから3wareディビジョンを買収し、2010年2月には3ware 9750シリーズという6Gbps対応の新製品を投入したわけだが、買収後1年弱で、買収したブランドの新製品がリリースされるのは、業界としては早いほうだ。これも、LSIの3wareへのサポート姿勢の表れだと自負している」と語る。
この買収について、アスクの岩田氏も、「9750シリーズは、LSI製のハードウェアに3wareのファームウェアと管理ツールを載せた形になっており、パフォーマンスが向上している。こうした点からも、買収に対する不安は全くない」としており、誰にとってもメリットのある買収となったようだ。
RAIDカードはいわば裏方であまり目立たない存在ではあるが、裏方だからこそ、きちんと動くことが、何よりもの付加価値になる。
実際にさまざまな製品を評価しているリアルコンピューティングの中宮氏は、「ホットスワップができるか、リビルドがちゃんとできるか、といった視点で評価してみると、こうした基本的な機能の部分でもうまくいかない製品があり、実際にやってみないと分からない。中には『これは使いたくない』と思うような製品も見かけないわけではない」と語っており、どれでも同じというわけにはいかないようだ。
HPCクラスタなど、ハイエンドのユーザーが活用するシステムで採用されている3ware製品では、その信頼性が多くのユーザーによって実証されており、誰にとっても安心して選択できる製品だといえるだろう。