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数理技術で旅客満足度向上を目指す、九大、福岡空港ビルディング、富士通研が実証実験

 国立大学法人九州大学(九大)、マス・フォア・インダストリ研究所 富士通ソーシャル数理共同研究部門と福岡空港ビルディング株式会社、株式会社富士通研究所は10日、旅客満足度向上を図るための実証実験を福岡空港にて開始すると発表した。期間は9月から2017年8月までの2年間。

 今回の実証実験は、混雑に伴う旅客の快適性や安全性の低下といった、人間の心理にかかわる課題に数理技術を適用し、旅客満足度の向上を目指すもの。ここ数年、福岡空港は訪日外国人の急増を背景に旅客数が増加している反面、混雑により旅客の待ち時間が増えているため、その解決に向けた取り組みが急務になっている。

 その解決に向けては、設備の改善だけでなく、空港スタッフや旅客の複雑な人間的要素がかかわるため、効果的な施策を立案するには、現場での経験を基にした試行錯誤が必要。状況改善のためにシミュレーションなど数理技術の利用が期待されているが、数理研究者と現場の意思決定者の間では、課題や数理技術を使用する意義について認識にズレがあり、多くの社会課題において数理技術を適用することは困難だったという。

 そこで、九州大学富士通ソーシャル数理共同研究部門の研究者が、福岡空港ビルディングのスタッフとともに現場課題発見に取り組み、お互いの認識を共有しながら課題解決を目指すことにした。事前にトライアルで実施した対話では、「快適性」「安全・安心」「売上」「活気」にかかわる理想像が抽出され、それぞれに対して、理想の姿の実現を妨げる要因が明らかになったという。

快適性の欠如に関わる問題構造

 また、最初の取り組みとしては、国際線の手続施設における混雑シミュレーションを実施して現場のデータを取得し、施策効果の実証を行う。通常、国際線では、旅客は受託手荷物検査、チェックイン、保安検査、出国審査の4つの手続を経て経て航空機に搭乗するが、最初の手荷物検査で待たされることは大きな不安になるほか、4つの手続で繰り返し待たされると旅客満足度は大きく低下する。

 そこで今回、4つの手続のフローを待ち行列システムとして数理モデルを構築。空港到着時間や利用する航空会社、座席クラスなど「旅客」に関するデータと、レーンやカウンターの数、一人当たりのサービス時間など「手続」に関するデータを入力してシミュレーションを実施し、旅客の各手続での待ち時間や旅客満足度の指標を出力できるようにする。また、その結果に基づいてカウンターやレーン数の変更、インライン・スクリーニング・システムの導入などの効果を数理的に分析するとした。

 このような数理モデルを用いることで、施策効果の数値から定量的に理解できるようになるため、航空会社や警備会社を含め、多数の現場関係者間で納得のいく施策の議論ができるようになる点がメリット。また、数理研究者が現場に根付く数理技術を作るための方法論に関する示唆を得られるとしている。

石井 一志