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九州大学と富士通、「富士通ソーシャル数理共同研究部門」を開設

社会システムの課題解決に向けた数理技術を共同開発

発表会で握手する富士通研究所 常務取締役の村上亮氏(左)、九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所長の若山正人氏(中央)、富士通 執行役員 グローバルマーケティング部門 イノベーションビジネス本部長の廣野充俊氏

 国立大学法人九州大学と富士通株式会社、株式会社富士通研究所は12日、本日より九州大学マス・フォア・インダストリ研究所内に共同研究部門「富士通ソーシャル数理共同研究部門」を設置し、公平で受け入れやすい社会の制度や施策を実現するための数理技術に関する共同研究を開始すると発表した。

 今回、九州大学と富士通、富士通研究所の三者は、それぞれの技術的強みを生かして、制度設計者、サービス提供者、利用者などすべての関係者にとって公平で納得性の高い社会の仕組み(社会システム)をデザインするための数理技術の開発が有効と判断し、共同研究部門を開設した。この共同研究部門を産学連携拠点、および学際的研究活動拠点と位置付け、社会的受容性の高い制度や施策を実現するための方法論・技術の開発を推進し、社会的課題の解決に貢献していく考え。

富士通 執行役員 グローバルマーケティング部門 イノベーションビジネス本部長の廣野充俊氏

 富士通 執行役員 グローバルマーケティング部門 イノベーションビジネス本部長の廣野充俊氏は、「富士通と九州大学は、これまでもさまざまな分野で共同研究を行ってきた。今回は、産業技術にかかわる数学研究の拠点である九州大学マス・フォア・インダストリ研究所と協力し、日本では初めて大学の中に産学連携の共同研究所を設置した。昨今、膨大に蓄積されたビッグデータを分析して、将来予測を行う取り組みが広がっているが、その分析の中には人間の行動や心理を組み込むことができていないのが現状だ。そこで、今回の共同研究部門では、こうした課題に対して、人間の行動や心理を数値化してビッグデータ分析に活用していくことにチャレンジする」と、九州大学との共同研究部門の開設経緯とその狙いについて述べている。

 富士通研究所では、数学・数理解析技術の産業での活用推進を目的として、2008年度から九州大学との産学連携を進めており、富士通研究所の研究員が九州大学数理学府/産業技術数理研究センターに兼務し、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の設立にも参画している。また、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所との共同研究では、最先端の産業のための数理技術を確立することを目指し、これまでビッグデータ解析、統計的モデリング、最適設計などの研究テーマで共同研究を推進してきたという。

 富士通研究所 常務取締役の村上亮氏は、「こうした取り組みの中で、新たに開設する『富士通ソーシャル数理共同研究部門』では、人の心理・行動、制度・法律と調和したソリューション構築のための数理技術の研究開発を開始する。研究期間は、今年9月から2017年8月までの3年間。体制は、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所から専任教員1名、協力教員2名、富士通から技術者1名、富士通研究所からは研究員2名が参加し、共同で研究活動を行う」と、共同研究部門の概要を説明する。

富士通研究所 常務取締役の村上亮氏
研究のアプローチと課題例

 主な研究内容は、人間の行動や心理を数学的に記述し、社会システムのモデルを構築する「社会システムモデリング技術」、社会システムモデルを用いて公平で納得感のある制度や施策を設計する「社会制度設計技術」、設計した制度や施策が社会に与える影響を可視化する「社会制度評価技術」の3つ。研究アプローチについては、「人間の行動や心理をモデル化し、そのモデルに基づき、社会システムの施策や制度を設計・評価、最適化してくための数理技術の開発を目指す。分析・最適化・制御といったデータ利活用技術と、経済学・心理学などの社会科学研究を融合して研究を進め、社会的な制度や施策の設計技法の確立、およびその社会実践を行っていく」(村上氏)としている。

 具体的な社会制度・施策の課題例としては、都市関連では、「公共施設など人の集まる場の安全性向上と快適性(満足度)の向上」「観光客と観光関係事業者の受給マッチングによる快適な観光サービス提供と収益性の向上」、農業関連では、「農業生産者・消費者の多様なニーズを考慮した流通メカニズム設計による安定的供給サービスの実現」、エネルギー関連では、「電力自由化後のデマンドレスポンスなどを含む効率的な電力市場の設計」、教育関連では、「学習者の学習行動モデリングに基づくモチベーション・知識量を考慮した学習支援の実現」、市場関連では、「消費者へ向けたマーケティング戦略策定と製品・サービス普及スピードの向上」を挙げている。

 また、今回の産学連携による共同研究活動の新規性・独自性について、村上氏は、「ソーシャル領域を俯瞰(ふかん)し、さまざまなソリューションの創出に不可欠な基盤技術の体系化と具体的な問題解決手法の確立に包括的に取り組んでいく。さらに、産学の研究者が集い、かつ、数学・数理科学・計算科学だけでなく社会科学・経済学・心理学などの研究者とも連携した研究を行う。そして、研究成果の実証実験や社会実践の推進を富士通が全面的に支援していく」ことを強調した。

九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所長の若山正人氏

 九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所長の若山正人氏は、富士通および富士通研究所との共同研究部門の設立にあたり、「マス・フォア・インダストリ研究所は、2011年4月に九州大学附置研究所として設立し、さまざまな数学研究をベースにして産業数学の研究を行ってきた。2013年4月23日には、文部科学大臣から共同利用・共同研究拠点『産業数学の先進的・基礎的共同研究拠点』に認定されている。そして、今年9月にオーストラリア分室を開設すると同時に、研究所内に『富士通ソーシャル数理共同研究部門』を設置した」と、マス・フォア・インダストリ研究所の概況を紹介。

 「工学など、従来までの伝統的な産業数学は、モノづくりを中心に、数学の産業応用による新研究領域を創出してきた。これに対して、今回、富士通との共同研究で取り組む経済・心理・法学にかかわるソーシャル数理では、社会における課題解決を通して、新たに数学による問題・研究領域が誕生することが期待される。この共同研究で、マス・フォア・インダストリ研究所は、富士通および富士通研究所と九州大学の連携ハブとして、社会科学系の研究を進めるとともに、新しいタイプの人材育成にも取り組んでいく」(若山氏)との考えを述べた。

唐沢 正和