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日本酒「獺祭」の蔵元が農業ICT導入、原料米の生産量アップへ
(2014/8/5 06:00)
旭酒造株式会社と富士通株式会社が、日本酒「獺祭(だっさい)」の原料となる酒造好適米「山田錦」の生産量増加と安定的な調達に向けた取り組みを開始した。
旭酒造は、山田錦栽培における作業実績と生産コストの見える化を目的に、富士通の食・農クラウド「Akisai」を導入。2014年4月より、山田錦の生産農家にて「農業生産管理SaaS」および「マルチセンシングネットワーク」を活用し、栽培作業実績情報の収集・蓄積を行ってきた。
今回、蓄積された情報を基に、山田錦の安定栽培技術の確立を目指すとともに、山田錦の生産を始める新規生産者にノウハウを提供し、生産量増加の取り組みを強化する。
足りない「山田錦」
山田錦は、兵庫県発祥の酒造最適米。「獺祭」はこの山田錦を原料としているが、山田錦はその生産者が限られることから、近年「獺祭」の必要量にあった安定的な調達が困難に。旭酒造 代表取締役社長の桜井博志氏によると「必要量8万俵に対して現在の調達量は4万俵しかない」という。
日本酒の出荷量は長らく低迷していたが、2010年度以降、純米酒や吟醸酒などの高級品においては出荷が伸び続けている。にもかかわらず、その生産に山田錦の収穫量が追いついていない。山田錦は倒伏しやすく、収量が安定しないなどの栽培の難しさがあり、新しい生産者が増えにくいことも長期的な安定調達の見通しに影を落としている。
今回の取り組みは、「Akisai」を活用して安定栽培技術を確立させ、最終的に旭酒造にて「60万俵の安定調達」(桜井社長)を実現するのが目的。Akisaiの費用は当面、旭酒造が負担する。農家が農業ICTを導入するのではなく、酒造が主導してその活用を推進するという少し変わった事例だ。
「Akisai」を活用した取り組み
取り組みの全体像は、「山田錦の栽培実績栽培実績データを記録し事例集として蓄積」「山田錦ネットワークをつくり契約生産者間で共有」するというもの。
現在、山口県内の2生産者に「農業生産管理SaaS」および「マルチセンシングネットワーク」を提供し、栽培実績データを蓄積中。前者で日々の作業実績や生育の様子を生産者が記録し、後者で環境情報を収集している。
Akisaiで7月~9月に実装が予定されている「栽培歴」「生育調査」「生育予測」などの新機能も活用し、「収穫量の予測」も実現させる考え。
現在、圃場では稲が順調に育ち、今秋(10月頃)には収穫時期を迎える。収穫後には、栽培成績(収穫量・品質)の良かった作業実績を参考に、栽培歴(栽培の手引き)を作成するほか、生産過程全体にかかるコストの算出や農薬・肥料の使用実績情報からのトレーサビリティ確保なども実現。既存生産者や今後の新規生産者にとってのベストプラクティスを作成するとしている。
他県の生産者にも展開へ
山田錦は兵庫県で最も生産されており、国内の生産量の8割を占めている。それ以外にも福岡県、岡山県、徳島県、佐賀県、最近は気候変動に伴い、新潟県、栃木県、茨城県などでも生産されるようになっている。
現在は山口県の2生産者のみだが、他県への展開も視野に入れる。そのための「山田錦栽培勉強会」も旭酒造主導で行っているという。