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富士通、2014年度連結決算は増収増益~営業利益率も3%台に

 富士通株式会社は4月30日、2014年度(2013年4月~2014年3月)の連結業績を発表した。

 売上高は前年比8.7%増の4兆7624億円、営業利益は同61.5%増の1425億円、経常利益は同42.9%増の1406億円、当期純利益は前年度の799億円の赤字から、486億円の黒字となった。

 富士通の山本正已社長は、「2013年度は構造改革の1年であった。人事施策を実行し、先行投資も年初は押さえ気味であったが、下期から経済環境の拡大基調や社内の体質改善効果もあり、投資を再開することができた。直接部門へのリソースシフトの一環で営業強化を実施し、下期の受注、売り上げ増に貢献した」と総括。富士通の塚野英博執行役員常務は、「四半期ベースでは期を追うごとに売上高増加。営業利益も第1四半期は赤字だったが、その後利益を積み上げた。営業利益率も3.1%と3%台になった」と語った。

富士通 代表取締役社長の山本正已氏
富士通 執行役員常務の塚野英博氏

クラウドは2014年度3000億円を視野に

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上高が前年比10.2%増の3兆2430億円、営業利益は同20.2%増の1739億円。そのうちサービス事業は売上高が同10.1%増の2兆6272億円、営業利益が同21.3%増の1511億円。サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は同10.0%増の9204億円、インフラサービスの売上高は同10.1%増の1兆7067億円となった。また、システムプラットフォームは、売上高が同10.9%増の6157億円、営業利益は同17.5%増の579億円となり、そのうち、システムプロダクトの売上高は、同3.7%増の2727億円、ネットワークプロダクトの売上高は同17.4%増の3430億円となった。

 「サービスでは、第4四半期に入ってから、ソリューション/SIの受注が好調。計画に対しては増収減益であったが、次年度に向けた製品強化対策を第4四半期に30億円程度を投資したこと、海外プロジェクトでアシュアランス部隊を投入したものの、採算が悪化した点が要因。システムプロダクトは日本とドイツが伸長したが、UNIXサーバーの新製品販売が伸び悩んだほか、国内ネットワークプロダクトの先行開発投資や、円安による調達コストの増加の影響があった」(塚野執行役員常務)などとした。

 2013年度のクラウド関連事業の売上高は2000億円弱。前年比で2割弱の成長率になっているという。「至近の目標は3000億円になる」(塚野執行役員常務)として、2014年度には3000億円を視野に入れていることを示した。

PCは修正計画をさらに20万台上回る

 ユビキタスソリューションは、売上高が前年比3.2%増の1兆1254億円、営業損失は317億円減の221億円の赤字。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が前年比2.8%減の7993億円、モバイルウェアの売上高が同21.9%増の3260億円となった。

 PCは、10月時点で15万台の上方修正を行ったのに続き、1月にも20万台の上方修正を行い、年間570万台の出荷を見込んだが、通期では590万台と修正計画も20万台上回る実績となった。前年度実績の583万台も上回っている。

 「PCは第4四半期に国内法人向けPC需要が旺盛であり、国内PC事業は前年比3割増となっている。海外PCは伸びておらず、携帯電話は3割減となっている。ユビキタスソリューションの赤字は携帯電話によるもの。PCは約100億円の黒字、PCとモバイルウェアとの合計では約150億円の黒字となったが、携帯電話は350億円の赤字を超えている」(塚野執行役員常務)という。

 携帯電話の出荷台数は370万台となり、前年実績の650万台から大きく減少した。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比11.1%増の6002億円、営業利益は前年度の142億円の赤字から426億円改善して、283億円の黒字となった。そのうち、LSIの売上高は前年比11.1%増の3216億円、電子部品は10.9%増の2802億円となった。

2014年度売上高は微増の4兆8000億円を見込む

 一方、2014年度の通期業績見通しは、売上高が前年比0.8%増の4兆8000億円、営業利益は同25.6%減の1850億円、税引前利益は同17.9%増の1900億円、当期純利益は同10.4%増の1250億円とした。なお、2013年度までは日本基準で発表していたが、2014年度からは国際会計基準(IFRS)で開示する。

 山本社長は、「2014年度は、富士通が創立80周年を迎える年であり、中長期の成長に向けて投資を加速する年である。この業績目標は、あくまでも中期目標達成に向けてマイルストーンとしての位置づけとなる。消費増税前の駆け込み需要の反動があるが、下期に向けては好転し、通年では前年度並みの実績になるだろう。さらなる飛躍に向けて、SIやデータセンター関連といった間近な需要の伸びへの対応とともに、中長期のテーマに向けて積極的投資を行うことが大切だと考えている。富士通の新たな成長の型を作るために、グローバルとイノベーションの2つの軸を中心にして、投資を行っていくことになる」と説明。

 「グローバル戦略では、新たなグローバルマトリクス体制を整備。世界中の顧客の満足度を高めるためにグローバルデリバリー拡充のための先行投資を行い、欧州では、サービス中心のポートフォリオへのシフト強化を推進する。1000億円以上の純利益を確実に維持しつづけることで自己資本比率を高めていく。今年度20%以上の自己資本比率になる」などと述べた。

 中期経営計画については、6月下旬に予定されている株主総会前に公表とするという。

 セグメント別業績見通しでは、テクノロジーソリューションの売上高が前年比1.4%増の3兆2900億円、営業利益は同2.1%増の2380億円。そのうちサービス事業は売上高が同1.2%増の2兆6600億円、営業利益が同2.4%増の1780億円。サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は同1.0%増の9300億円、インフラサービスの売上高は同1.4%増の1兆7300億円となった。また、システムプラットフォームは、売上高が同2.3%増の6300億円、営業利益は同1.3%増の600億円となり、そのうち、システムプロダクトの売上高は、同2.7%増の2800億円、ネットワークプロダクトの売上高は同2.0%増の3500億円とした。

 「成長が高限状態に達するなかで、さらなる成長にシフトするための投資が優先課題になる。北米に初めてTear 3のデータセンターを東西に設置する。また、IoT時代の成長基盤への投資を加速し、新たなユーザーインターフェイスからSDN、サービス、アナリティクスまでを一気通貫する垂直統合モデルをさらに充実させる。提携強化、M&A、オープンイノベーションなどにより顧客の新たなニーズに対応する」(山本社長)と述べた。

 システムプロダクトでは、国内は堅調だが、UNIXの新製品の販売が低迷しているのが気になるところだ。塚野執行役員常務は、「UNIXサーバーは第4四半期に底打ちしたとみている」と回答。山本社長は、「x86サーバーをメインにするということでグローバルに仕掛けており、日本では富士通のx86サーバーが首位になった。オープン化へのシフトに伴って、x86サーバーでは成果が出てきていると考えている。今後もx86サーバーを中心にやっていく」と前置きしながら、「UNIXサーバーも技術力を持っているだけにすぐサヨナラというわけにはいかない。まだ道が開けるという希望は持っている。もう少し踏んばりたい」と語った。

 ユビキタスソリューションは、売上高が前年比6.7%減の1兆0500億円、営業利益は黒字転換し40億円の黒字。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が同9.9%減の7200億円、モバイルウェアの売上高が同1.2%増の3300億円とした。

 PCの出荷台数は510万台(前年実績は590万台)を計画。携帯電話は310万台(同370万台)を目指す。「2014年度は、Windows XPサポート終了による需要の反動があり、PCや携帯電話も控えめな数字でみている。PCや車載向けのモバイルウェアが大幅に悪化すると予測している。PC事業は安くて損をするのでなく、台数は絞ってでも付加価値を追求する方向であり、収益は減らすことは考えていない。黒字化は継続する」(塚野執行役員常務)と語った。

 また、山本社長は「PCと携帯電話は事業の進ちょくは慎重にみている。PCは、2012年度に構造改革を行い、かなりスリム化している。それが2013年度のWindows XP効果により利益体質になった。2014年度はPCの出荷台数はアジアでは通常以下の水準になるが、それでも利益を出せる体質になっている。一方で、携帯電話は、2013年度の大きな課題であり、苦戦したが、端末製造拠点の統合と開発リソースシフトを実行中であり、月産30万台以下でも収益が確保できる体制となった。2014年度は携帯電話だけでは月産30万台には到達していないが、310万台という目標はかなりシビアにみている。2014年度はNTTドコモに集中することになる。また、海外でのらくらくスマホは、ほそぼそとやっており、これを一気に拡大するつもりはない。生産拠点は携帯電話とタブレットとは同じ場所になり、それを含めて月産30万台体制を維持する」とした。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比1.6%増の6100億円、営業利益は同133.3%増の270億円。そのうち、LSIの売上高は前年比9.8%減の2900億円、電子部品は同14.2%増の3200億円となった。

価格競争力で足りない点をセキュリティとサービスで補う

 一方、クラウドビジネスの現状については、山本社長が次のように述べた。

 「最近のソリューションビジネスはほとんどがクラウドであり、切り分けが難しくなっている。データセンターからのアウトソーシングビジネスはクラウドの親せきのようなもの。では、AmazonやMicrosoftなどのクラウドサービスに対して、富士通はどう戦うのか。クラウドのテクノロジーベースでは遜色(そんしょく)がない。だが、ボリュームの観点で足らない部分があり、単品あたりの価格競争力では苦労している。それに対して、セキュリティを含めた顧客の財産を確実に守るという信頼をお金に換算して提案すること、アプリケーションをクラウド型にして、サービスとして提供するということが特徴になる。この2点が富士通のクラウドサービスの差別化ポイントになる」

 また、サービス事業への取り組みについては、「米国では、Google、Amazon、IBMなどの企業がサービスで先行しているが、われわれは、10年後にサービスが主役になるとは思っていない。大切なのは、顧客につながり、ソリューションで解決策を提案できること。どうやって顧客を抱え、満足度を高めるか。そのためには、サービスだけでなく、トータルで、ワンストップで提供することが最適であると考えている。富士通はテクノロジー基点の会社。テクノロジーで優位性があるところには引き続き投資をしていく。いまの時点では、米国企業主導のサービス型ビジネスでは遅れているかもしれないが、5年後には一番進んでいることになる」などと述べた。

 なお、ニフティの売却報道に対しては、「現時点で富士通から発表したものはなにもない。ISP事業単体ではもうかっているが、ISPの将来性については考えるところがある。PCを中心としたISPビジネスは曲がり角にきているのは事実。スマートフォンを視野に入れたボリュームをとらえたビジネスが必要である。ニフティはインターネットにつながるあらゆるビジネスをやっており、ISP事業単体だけで判断するつもりはない。ベストな選択肢を考えていきたい」(山本社長)と語った。

大河原 克行