日本HP、ブレードワークステーション新モデルを発表、NVIDIAとの協業も加速


宮本義敬氏

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、日本HP)は8月31日、ブレード型ワークステーションの新モデル「HP ProLiant WS460c Generation 8(以下、WS460c Gen8)」を発表、同日販売を開始した。併せて、HP BladeSystem用ネットワーク仮想化モジュールの新製品「HPバーチャルコネクトFlex-10/10D」も発表しており、ワークステーションのデータセンター集約を一層推進していく構えだ。

 レンダリングなどの画像処理や計算処理をデータセンターに設置されたブレード型ワークステーションで行い、ユーザーはリモートクライアント(シンクライアント)からネットワーク経由でアクセスするというデータセンター集約型のワークステーション利用が、金融業のディーリングや製造業のCAD現場などにおいて増える傾向にある。いわゆる仮想デスクトップ(VDI)とも呼ばれるワークステーションのこうした利用スタイルは、コスト削減や省スペースを実現するだけでなく、コンプライアンスやセキュリティ、BCP、グリーンITなどの面からも評価されつつある。

 一方で、ネットワークレイテンシやグラフィックレベルの問題から、データセンター集約型のリモートデスクトップ利用を嫌がる向きも少なくない。「これまでのブレード型ワークステーションは、ナレッジワーカーやパワーユーザといった層に向けて、適切なソリューションを提供してこれなかった。

 WS460c Gen8は、NVIDIAと協力を得てGPUに専用のメザニン型グラフィックスカード(NVIDIA Quadro 500M/1000M/3000M)を搭載可能にするなど、グラフィックス面を中心に大幅に性能を向上させている。今までリモートデスクトップ環境を躊躇していたお客さまがVDIに移行するきっかけとなり、生産性の向上に貢献したい」と語るのは日本HP エンタープライズインフラストラクチャー事業統括 サーバー&ネットワーク製品統括本部 インダストリスタンダードサーバー&ネットワーク製品本部 本部長の宮本義敬氏。

WS460c Gen8製品概要

 GPU以外の性能面における強化ポイントとしては、CPUにIntel Xeon E5-2600ファミリを搭載、パフォーマンスの大幅向上を図ったほか、動作速度1600MHzのメモリを最大512GBまで搭載可能にしている。これは従来比で約2.7倍の容量のメモリが実装できることを意味しており、リモートデスクトップの弱みのひとつであるパフォーマンスを大きく改善した格好だ。また、WS460c Gen8は“自働サーバ”を標榜する同社のProLiant Gen8シリーズのコアテクノロジである「HP iLOマネジメントエンジン」を標準搭載しており、ワークステーション運用管理の“自働化”を実現、宮本氏は「他社では真似できないブレード型ワークステーションのデータセンター集約ソリューション」であることを強調する。

 また、同時に発売されたインターコネクトモジュール「HPバーチャルコネクトFlex-10/10D」は、1台の物理サーバーに100台もの仮想マシンが搭載されるような集約度の高い環境においてもパフォーマンスを出せるように、ネットワークとサーバー/ストレージの接続部分を最適化する製品。ブレードサーバーとの接続においては10GbEポートを最大4つのネットワークポートに分割してポート数を確保するFlex-10技術を採用、各ポートの帯域を100Mbpsから10Gbpsまで設定でき、仮想環境における最適化を実現する。また、ストレージ接続においては、同社の3PARとの親和性も高いFLAT SANテクノロジを採用、SANスイッチやケーブルを不要にするシンプルなストレージ接続を可能にし、ストレージコストの削減にもつなげている。

HPバーチャルコネクトFlex-10/10Dの概要3PARとの親和性も高いFLAT SANテクノロジを採用



GPUの仮想化を実現するNVIDIAの「KEPLER」

 今回の発表では、協業パートナーであるエヌビディア ジャパンのTesla Quadro事業部長 杉本博史氏も登壇し、NVIDIAのGPU戦略およびワークステーション事業におけるHPとの協業方針について語った。

 NVIDIAは現在、「KEPLER(ケプラー)」というコードネームの次世代GPUの開発に取り組んでいる。KEPLERはグラフィックスとコンピューティングの両方の処理を飛躍的に向上させると言われており、特にGPUでは難しいとされている仮想化の実現を図っている。

 もしKEPLERがブレード型ワークステーションに搭載されれば、「GPUのひとつのカードを100名くらいで共有しても、低レイテンシでパフォーマンスが落ちないリモートデスクトップ環境が実現する」と杉本氏。KEPLERには生成データを圧縮/暗号化するエンコーダも内蔵されているので、GPUで生成したデータを圧縮し仮想化された環境でより多くのユーザーが利用できれば、ナレッジワーカーの作業効率改善に大きく貢献することになる。

 「グラフィックスを生成してレンダリングするという作業をサーバーサイドで行うとやはり負荷がまだ高い。仮想化だけではレイテンシを低減できないので、エンコーディング技術とうまく組み合わせることで、ナレッジワーカーだけでなく、デザイナーなどのクリエータにも使われるリモートデスクトップ環境をHPと協力ながら目指していきたい」(杉本氏)

WS460c Gen8に提供されるNVIDIAグラフィックスカード

 グラフィックスの仮想化が進めば、サーバーサイドで生成されたデータをPCやシンクライアントだけでなく、タブレットやスマートフォン上からも確認することが可能だ。デバイスを選ばず、どんな層のユーザにもストレスなく利用可能な、もはやリモート“デスクトップ”ですらないグラフィックス環境を構築できる。HPとNVIDIAは過去にも東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME」にグラフィック環境を共同で導入するなど、数々のプロジェクトを実現してきた。「WS460c Gen8は、これまで1:1の接続しか可能にしなかったブレードワークステーションによるリモートクライアント環境を、はじめて1:Nにすることができた最初の製品。今後はこの1:N接続をさらに強化し、コストパフォーマンスを高めたグラフィックスアクセラレーションの世界をめざす」と宮本氏。グラフィックス処理のデータセンター集約を進め、ITインフラ全体の効率的運用と可用性の向上を図っていくとしている。

価格はWS460c Gen8が51万2,400円、HPバーチャルコネクトFlex-10/10Dが103万9,500円から。

関連情報