富士通、最大23.3ペタフロップスのスパコン「PRIMEHPC FX10」


富士通株式会社 執行役員副社長 佐相秀幸氏

 富士通株式会社は、最大23.3ペタフロップスの理論演算性能を実現可能なスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」を11月7日より販売開始すると発表した。価格は最小構成の1ラックで5000万円程度から。

 富士通は理研と共同開発しているスーパーコンピュータ「京」で、今年6月に第37回TOP500で世界一となり、さらに11月2日に同じ「京」で10ペタフロップスを達成した。富士通は、「京」で適用したスパコン技術をさらに向上させ、理論値で最大23.3ペタフロップスを実現可能なスーパーコンピュータを開発、販売を開始する。

 「PRIMEHPC FX10」では、プロセッサからミドルウェアまで富士通で開発を行い、高性能だけでなく、高拡張性、高信頼性をあわせもち、かつ省電力性にも優れた点が特長だという。最小構成の1ラック(2.5テラフロップス)の消費電力は20kW程度。構成は、顧客の要望に合わせ、1ラック2.5テラフロップスから、1024ラック:23.2PFLOPSまでの超高速までのスケーラビリティを実現した。

写真左から、テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長 山田昌彦氏、執行役員副社長 佐相秀幸氏、次世代テクニカルコンピューティング開発本部 本部長 追永勇次氏最大23.3ペタフロップスの理論演算性能を実現可能なスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」

 最大23.2ペタフロップスは、9万8304ノード・1024ラック・6ペタバイトメモリ時の理論値となる。CPUは単体性能236.5ギガフロップスの「SPARC64 IXfx」を採用。「SPARC64 IXfx」は、電力あたり性能2ギガフロップス/wと省電力と高性能を両立した。このほか、スケーラブルTofuインターコネクト、コンパイラハイブリッド並列(VISIMPACT)などの技術により、超並列アプリの高い実効性能を実現した。

 価格は、シングルラックで5000万円程度から。マルチラックモデルの場合は、個別見積もりが基本だがペタフロップスあたり50~70億くらいを想定する。価格については「インテルが毎年新しいCPUを出してきて、それがPCクラスターの価格を決める。そういう意味で、性能あたりの価格を下げなくてはいけないので、40ナノを採用した」(次世代テクニカルコンピューティング開発本部 本部長 追永勇次氏)として、PCクラスターとの価格性能比との競合がひとつのポイントになると述べた。

「PRIMEHPC FX10」開発の狙い「PRIMEHPC FX10」の特長「PRIMEHPC FX10」諸元


SPARC64 IXfxのおもな仕様Tofuインターコネクト性能を最大限に引き出す自社開発のHPCミドルウェア


OS/運用管理超並列ファイルシステム「FEFS」言語処理系

 「PRIMEHPC FX10」を活用することで、「新薬の開発や防災、減災などの安心安全社会の実現、新素材の開発やものづくりにおける試作レスの実現など、社会的課題の解決や最先端研究の推進、企業競争力の強化につなげることが可能となる」(執行役員副社長 佐相秀幸氏)。

 サーバー市場が伸び悩む中で、HPCサーバー市場は年率7.6%と高い成長を保っており、富士通では2015年には1兆円市場、サーバー市場全体の25%を占めると予測。2015年にはこのうち10%、約1000億円の売上げを目指す。富士通の現在のシェアは2%でほとんどが日本国内だが、今後「PRIMEHPC FX10」を日本国内だけではなくグローバルに提供し、シェア拡大をめざす。日本のほか、まずは欧州に拠点を作るが、アラブ経済圏やアジア・ASEAN諸国、ブラジルあたりで国家的プロジェクトが多数始まっているため、これら各国市場に富士通のプレゼンスを高めていく方針だ。

 6月に世界一になったことで、産油国から「世界一のスパコンの話を聞きたい」と依頼があり訪問するなど、これまで富士通という名前が上がっていなかった国から問い合わせが多数来ているという。「すでに14カ国くらい説明に行っているが、用途としていちばん多いのは気象や気候を管轄しているナショナルセンター」(テクニカルコンピューティングソリューション事業本部 本部長 山田昌彦氏)だという。

 欧州では経済情勢が危ぶまれているが、山田本部長は「HPCのニーズを押し上げているのは、さきほど佐相が申し上げた通り、ものづくりにおいてシミュレーションの精度を高めることで試作は最終段階のみとするなど、コスト圧縮が大きな力となっている。このため、単価の高い自動車などの分野で早くからシミュレーションを取り入れてきたが、近年ではHPCの性能向上により、かつてはできなかった空力を始めとしてシミュレーションが可能になり、航空機のものづくりにも使われている。民間企業が不況はむしろHPCの市場拡大につながると考えている」とコメント。

 シミュレーションを活用することで試作を減らしコストを下げることが可能なため、今後はHPC導入がグローバル市場における製品の価格競争力を左右することを強調した。

HPC活用が企業の競争力を左右する時代へHPCの市場動向国家プロジェクトの事例


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