NEC、IT資源とネットワーク資源を統合制御可能な技術を開発

「スマートグリッド」や「顔認識」の活用に向けた技術開発成果も紹介


NECの陶山茂樹支配人

 日本電気株式会社(以下、NEC)は7月1日、自社の研究開発活動を解説するR&D説明会を開催。開発中の新技術について、デモンストレーションなどを実施した。

 1つ目は、新世代ネットワーク「OpenFlow」を用いて、サーバーなどのIT資源と、通信経路などのネットワーク資源を、動的に制御する技術が紹介された。

 クラウド化が進むデータセンターのインフラにおいては、サーバーなどのIT資源においては動的な構成変更などを行えるようになっている。しかし、IT資源とネットワークとはそれぞれ独立した管理者が存在する運用管理体制を敷いているところが多く、「動的に変化するIT資源に、ネットワークが適切に対応できていない」(陶山茂樹支配人)といった問題が存在するという。

 そこでNECでは、各ネットワークノードから制御機能を切り離し、IT・ネットワーク統合制御機能を提供できるようにした。今回ベースとなったOpenFlowは、制御サーバーであるOpenFlowコントローラのミドルウェアにネットワーク制御機能を実装し、ネットワーク上のスイッチの設定を集中して行えるようにする技術。

 開発された機能では、ネットワーク全体を制御するコントローラによって、アプリケーションの特徴に応じた仮想ネットワークを自動構築。構築した仮想ネットワークにIT資源を割り当てると同時に、サーバーの負荷分散を行えるよう、経路の混雑具合に応じて、ネットワークの構成を自動的に更新する。

 陶山氏は、適用先として複数のサービスを提供するデータセンターを例として挙げ、「アプリケーションの負荷変動に応じて、柔軟にリソースを移動できることから、アプリケーションの特徴に応じたリソース制御が可能になる」とその価値を説明。資源の稼働率向上や、サービスの拡大に応じたシステム拡張が容易になる点、新サービス投入までの期間を短縮できる点なども、メリットとして示した。

 NECではまず、サーバー100台程度までのデータセンター環境において、2010年度中にこの技術を実用化する予定で、さらに将来的には、分散するデータセンターをまたがった広域ネットワークへの対応も計画しているとのことだ。

OpenFlowアーキテクチャに基づいたシステムによって、効率的で柔軟性のある制御が実現する
緊急度に応じた情報を流通させるため、コンテンツ・ルーティング・ネットワークの実用化を目指している

 2つ目は、太陽光・風力発電などの分散型電源や需要家の情報をICTによって統合し、高効率・高品質の電力供給システムを実現させる「スマートグリッド」関連の技術。スマートグリッドでは、一般的な商用発電施設と比べて不安定な太陽光発電などが用いられるため、電力供給が不足した場合にほかの電力施設からの電力を供給することなどによって、電力系統の安定化を図る必要がある。

 そのため、スマートグリッドで用いられるITインフラでは、系統安定化制御のための情報など、緊急度の高い情報を優先して流す必要があるものの、現状のIPネットワークでは、コンテンツの内容に応じたルーティングは難しいという問題があった。

 NECではこれを解決するため、DPI(Deep Packet Inspection)などの技術を活用し、情報の内容に応じて優先的にルーティングを行えるようにする「コンテンツ・ルーティング・ネットワーク」実現に向けた開発を行っているという。

デモの様子。検針情報のような緊急性のない情報は止めた上で、電圧低下警報などの優先すべき情報は優先的に流しているこの技術で用いるコンテンツ・ルータの試作機
顔認識技術では、他社と比べて高い精度を実現しているという

 最後の3つ目は認識技術で、今回は特に「顔認識」の技術を紹介した。一般に、顔認識による本人認証は、ほかのバイオメトリクス技術に比べて精度が低い代わりに、ユーザーへの心理的な圧迫が少ない点が特徴とされている。

 NECでは、この心理的な圧迫が少ないという点を生かしながら、精度を向上させるべく、さまざまな取り組みを行ってきた。その1つが、1枚の画像からさまざまな姿勢・証明変動画像を生成する「変動画像生成」技術で、登録した画像から3Dの顔形状を作成したり、照明変動を織り込んだ画像を作成したりすることで、顔の向きや照明の方向が変わっても、精度をある程度保った認証が行えるようにしている。

 さらに、大量の顔画像データから、個人を識別するための最適な特徴を抽出する「多元特徴識別」機能によって、眼鏡を外す、髪型を変える、といった変化や、加齢などの要素が加わったとしても、従来よりも高い精度で認証可能になっているとのこと。

 実際に、米国NISTによる顔認識のベンチマークでは、他社が2.5%以上だったのに対し、NECは0.3%と、1けた違う精度を達成した。

 今後NECでは、犯罪捜査や防犯といった用途だけでなく、街頭でのマーケティングやエンターテインメント用途など、幅広い事業分野に向けて展開する考えを示している。

7年前の写真を登録した場合、NECの技術【左】では本人との照合スコアこそやや落ちているものの、他人の照合スコアは低く、他人の写真はあくまでも別人のものと認識している。しかし従来の手法のみを用いた場合【右】では、本人との照合スコアが下がり、他人との照合スコアが上がっているため、誤認識の危険性が増している
関連情報
(石井 一志)
2010/7/1 16:26