「2015年度に売上高2兆3000億円、利益率8%を目指す」-日立の情報・通信システム事業戦略

高信頼クラウドサービスも5000億円規模に拡大を図る


 株式会社日立製作所(以下、日立)は9日、情報・通信システム事業に関する戦略発表を行った。

 同社 執行役専務であり、情報・通信システム社の中島純三社長は、「強い製品、サービスを核としたソリューションパートナーとして、特長分野で信頼と安心を世界に提供できるグローバルカンパニーを目指す」と宣言。2015年度目標として、売上高2兆3000億円、営業利益率8%。海外売上高8000億円(海外売上高比率35%)、サービス売上高で1兆5000億円(サービス売上高比率65%)を目指す方針を明らかにした。

日立の執行役専務で、情報・通信システム社の中島純三社長情報・通信システム事業の概要

 同社における情報・通信システム事業の2009年度実績は、売上高が1兆7055億円、営業利益が945億円、営業利益率は5.5%。サービス構成比は58%。海外売上高比率は22%となっている。

 また、2010年度の見通しは、売上高が1兆7000億円、営業利益が1000億円。営業利益率は5.8%を計画している。

 同社では、2015年度までの成長戦略の柱として、「グローバル事業の強化・拡大」、「事業の高付加価値化・サービス化」、「経営基盤の強化」を掲げた。

2009年度の実績と2010年度の見通し事業方針



グローバル事業では、統合ITサービス事業を3本目の柱に

2015年度のグローバル事業
統合ITサービス事業を第3の柱とする

 「グローバル事業の強化・拡大」では、「プラットフォームソリューション事業」「コンサルティング事業」「統合ITサービス事業」を3本の柱と位置づけ、さらに新興国市場での事業拡大を目指す。

 2005年度までのグローバル展開はストレージ事業が中心であり、欧米のコンサルティング事業の確立、中国でのATM事業を展開。2010年度まではストレージを核としたプラットフォームソリューション事業の拡大、中国のコンサルティング体制の強化、新興国への取り組み強化を図ってきた。

 これに対し、2015年度のグローバル事業の姿では、ストレージ、コンサルティングに続く新たな事業の柱として、プラットフォームからアプリケーション活用基盤までをサポートする次世代型付加価値データセンターサービスに位置づける「統合ITサービス事業」の確立に取り組むことを説明。

 「3本の柱のシナジー効果なども見込まれ、2015年度には海外売上高で8000億円を目指す。今後も引き続き、M&Aの実行にも取り組み、日立グループ総力をあげて、社会インフラ構築事業の推進を図る」とした。

 海外におけるストレージソリューション事業では、2009年度に3040億円だった売上高を、2015年度には4000億円に拡大。コンサルティング売上高は、450億円から1300億円に急拡大する。また、IT統合サービスは2015年度に2600億円を目指す。「IT統合サービスでは、大型買収による事業基盤および顧客基盤の獲得を狙う」とした。

ストレージを核としたプラットフォームソリューション事業グローバルコンサルネットワークの確立ににより、顧客ニーズへの対応強化を図る

 このほか、新興国市場においては、ストレージおよびATMなどの実績のある強い製品と技術によって展開。中国、インド、ブラジルを優先市場に位置づけ、中国、アジアにおける売上高は、2009年度の750億円から、2015年度には2000億円を目指す。


日立のクラウドサービスの特徴は高信頼性、2015年度には5000億円規模を目指す

「事業の高付加価値化・サービス化」での重点施策
高信頼クラウドサービスの実現を目指す

 「事業の高付加価値化・サービス化」では、高信頼クラウドサービスの拡大、プラットフォームのサービス化、SI/サービス事業の高付加価値化、中国およびインドを含めたグローバルコンサルティングネットワークの確立に取り組む。

 このうち、高信頼クラウドサービスについては、「日立のクラウドサービスの最大の特徴は、高信頼性につきる。現在は、周辺業務はパブリッククラウド、基幹システムはプライベートクラウドという形になっているが、2010年度以降は、基幹システムにおいてもパブリッククラウドの活用が増え、オンプレミス、各種クラウドサービスとの相互連携を含めた、高度なハイブリッドクラウドへと進化していく。さらに、認証、連携基盤、性能保証、データ保全、構築・運用技法などの高度な信頼性技術の採用により、2015年度をめどに、ミッションクリティカルシステムとしての信頼性を確立。企業基幹システム、社会インフラシステムへの本格適用を図る」とした。

 2012年度における高信頼クラウドサービスにおける事業規模は2000億円。これを2015年度には5000億円の規模にまで拡大を図る。

 拡大にあたって、同社では、会員企業4万社、取引規模年間約12兆円の実績を誇る国内最大のeマーケットプレイス「TWX-21」で培った13年間にわたるノウハウ、ネットワークバンキング共同センターサービス「FINEMAX」、日立グループで活用している日立連結納税ソリューションをクラウド化したSaaS型連結納税ソリューション「C-Taxconductorサービス」の実績を生かすことを説明。

 さらに、高信頼クラウドサービスを支えるバックボーンとして、「日立サーバ仮想化機構」をはじめとする仮想化技術、MPLS-TP技術などの高信頼性ネットワーク技術、「JP1」によるシステム運用管理技術、「Harmonious Cloud Framenetwork」によるクラウドサービスの高次連携技術といった、数多くの自社開発技術を活用できることを紹介。加えて、2010年6月に、中国向けに環境配慮型データセンター事業推進専門組織を設立し、「中国での環境データセンターの取り組みは先行的なものとしてとらえて実績を蓄積し、今後幅広く展開していく」とした。

 「かつてはハードの性能が価値を持っていたが、いまやサービスの質や価値が顧客ニーズを左右する。また、プラットフォーム事業のサービス化も必要になってくる。サーバーの新規導入費用が増加しない一方で、プラットフォーム運用管理費は増加する。サーバー、ストレージの仮想化技術をさらに追求し、複雑化する運用管理低減とサーヒスレベルの向上を図る。新たな差別化ソリューションの提供により、他社と差別化でき、顧客にも貢献できると考えている」とした。

これまでに培ってきたサービスのノウハウを生かすという高信頼クラウドサービスを支えるバックボーン
プラットフォーム事業でもサービス化を拡大

 サーバー事業に関しては、グローバルにおける展開を拡大し、2010年度に海外売上高で3倍規模を目指し、ストレージとサーバーを組み合わせた統合プラットフォームの提供、ファイルストレージやコンテンツクラウドなどの差別化ソリューションへのサーバー活用などを強化する。

 一方、SI事業の高付加価値化の実現手法としては、“超上流”設計手法「Experience Oriented Approach」を実現。これにより、顧客各層の要望に応えるシステムを実現し、プロジェクトの成功を顧客と共有できるとした。


事業シナジーの追求と、連結ベースでの企業価値のさらなる向上を図る

 3つ目の「経営基盤の強化」では、事業シナジーの追求と連結ベースでの企業価値のさらなる向上を目指し、今年10月に予定している、日立ソリューションズ(日立ソフトと日立システムの合併により設立)による組織の効率化、リソースの事業拡大領域へのシフトなどによる「分担最適化による新規顧客の開拓と事業規模拡大」、2010年度に900億円(対前年比1.5倍)の投資などによる「経営体質のさらなる強化」に加え、モノづくり強化による品質・生産性向上の徹底追求と、顧客満足度のさらなる向上を目指すとした。


全体的なコスト削減などで利益率を向上、2015年度に営業利益率8%を目指す

 日立の情報・通信システム事業においては、2008年度に営業利益率で7.1%に到達した経緯があるが、2015年度に目指す8%の営業利益率はまだ経験がない領域。「売上高の拡大による損益分岐点を引き下げていく。ソフトウェアの利益率はすでに2けたとなっているものの、残りの事業は5~6%。利益率が低い事業も少しあるが、これらを改善するというよりも、全体的なコスト削減などで利益性を高めていくことになる」とした。

業績の推移予想事業目標
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