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「自立と発展」で飛躍への布石を――、VAIO 大田社長が事業方針を説明
技術営業部門の新設でB2Bの販売強化へ、米国とブラジルへも展開
(2015/8/19 15:27)
「この1年はゼロからの創業であり、会社の基盤づくりの1年であった。これからは、自立と発展を掲げ、飛躍への布石を敷くことになる」――。
VAIO株式会社は19日、2015年6月8日付で代表取締役社長に就任した大田義実氏の記者会見を都内で行い、同社の事業方針について説明した。同社では、法人市場向けにVAIOの販売を強化するため、ソニーマーケティングの法人営業部に加えて、VAIO社内に技術営業部門を新設したことを明らかにした。また米国およびブラジル市場において、PC事業を開始することも明らかにしている。
会見の冒頭、大田社長は、「無事に1周年を迎えることができた。ありがとうございます」とあいさつ。その上で、「私は2年目の最初から、この会社の社長に就任した。1年目は、3つの製品ラインアップがようやくそろい、会社の外枠づくりができた。これからの1年は、ソニー時代の反省を踏まえて、稼ぐ力をつける必要がある。これが、会社の中身を作ることにつながり、来年以降の飛躍への布石を敷くことになる」とした。
販売部隊の設置でようやく自立した会社の機能が整う
今後のVAIOが目指すキーワードとしては、「自立と発展」を掲げる。
このうち「自立」においては、「設計、製造から販売、サポートまで一貫した体制を構築し、当社の意思のもとで、それをコントロールし、収益を継続的にあげていくことを目指す。また、収益責任を持つ組織への移行し、社員1人1人の意識改革にも取り組む」と話す。
具体的には、これまではソニーマーケティングを通じて販売していた体制に加えて、VAIOによる営業体制を確立。2015年6月に、新たにVAIO社内に営業部を設置するとともに、営業部のなかに技術営業部門を配置し、ビジネスユニット制へと移行。社内で売り上げ責任を持つ体制とした。
「ソニー時代のように、大企業の一部門という意識は捨ててもらい、1人1人が数字にコミットしなくてはならない。これまでも製造部門によって製造責任や品質責任は持っていたが、営業部の設置により、部材調達、売り上げ、収益までを含めた営業責任を持つことになる。自社で販売責任を持つことによって、ようやく自立した会社の機能が整うことになった。また技術営業部隊は、長野県安曇野市にいる設計者が現場に出ることになる。技術者が営業活動を行い、現場を見て、知ることで、商品企画に反映することになる。なぜ売れないのか、どんな機能をつければいいのかといったことを技術者が知り、それを次の製品に反映させる役割を担う。技術営業部門は、社内で募集を行ったが、多くの技術者が手をあげた。自ら、販売機能を持つことに関心が集まっていたことの証しである」とした。
技術営業部門の新設は、B2Bの販売強化に直結すると位置づけている。
「VAIO ZおよびVAIO Z Canvasの販売に際して、それを開発した技術者が、直接、ソニーマーケティングの法人営業部と一緒に同行営業するとともに、ソニーマーケティングがカバーできない分野にも取り組んでいく」(太田社長)。
一方でB2Cについては、ソニーマーケティングを通じたソニーストアでの販売やECサイトでの販売に加えて、ディストリビュータである加賀ハイテックと提携し、196店舗でVAIOを販売していくことになるという。
だが、「VAIOの規模を考えると、これ以上、店舗は増やす気はない」とした。加賀ハイテックの販売ルートでは、2015年3月から開始している個人向け標準モデルの取り扱いも継続的に行い、店舗が商品を在庫して、持ち帰ることができるようにする。「標準モデルの販売は、VAIO製品へのタッチポイントを増やすという狙いがある」と位置づけた。
商品力と販売力の強化で“発展”を目指す
また「発展」としては、商品力の強化と販売力の強化の2点を挙げた。
商品力の強化では、主軸となるPC事業の基本的姿勢に言及。「PCは、生産性、創造性を高める最高の道具あるいは資産と考えている。この基本姿勢は変えない。また、数は追求しない。収益を重視し、丁寧に仕事をしていく。つまり、競争が厳しいゾーンでは戦わず、得意なゾーンで戦っていくことになる。スマホ、タブレットが普及するなか、PCにしかできないハイエンドゾーンに製品を投入し、PCを、PCらしい使い方をしていただける人に対して、生産性を高めるツールとして提供する」とした。
また、「将来に向けては、PCの伸びはそれほど考えていない」とも語った。
なおスマートフォン事業については、「VAIO Phoneは当社が通信事業に出るきっかけになった。その経験を生かし、当社が主体性を持った形で、製品開発を行っていくことになる。スマートフォン事業は前向きにやっていくことになる」とした。
このほか、新規事業領域へと進出することも明らかにし、2017年度には、PCと新規事業領域の収益を1対1にする計画だ。
大田社長は、「長野県安曇野市の拠点には、ソニー時代にAIBOを生産した人材、設備が残っており、それを活用する。新規領域は、将来に向けて3本目、4本目の柱にするものである。その芽を作りたい」とし、「高い技術力、生産設備、高いブランド力を活用して、新規ビジネスを伸ばすことになる。これは、とっぴなことでなく、当社のインフラを生かしたものになる」とした。
新規事業領域としては、ロボット、FA、IoT分野を想定。すでに、富士ソフトが発売しているロボット「Palmi」を受託生産していることを明らかにした。
さらに、「VAIOの強みは、設計・製造技術、経験豊かな人材、ブランドにある。現在、安曇野の生産拠点の稼働率は100%。今後、新規事業の受託量に伴い、生産整備の増設を考えていく。今年はいろいろとやることも多い」などと語った。
米国とブラジルへ展開も、「直接出て行くつもりはない」
一方、海外展開については、米国およびブラジルでの展開を図る。
米国市場では、昨年、アドビシステムズが開催したAdobe Max 2014で、VAIO Z Canvasを参考展示。クリエイターから高い評価を得たことから、同製品をクリエイターを中心に販売し、これを足がかりとして、米国での販売拡大を図るという。
販売代理店はトランスコスモス アメリカと契約し、同社を通じたECサイトでの販売のほか、マイクロソフトストアでも販売する。9月中旬から受注を開始し、販売開始は10月5日。市場想定価格は2199ドルとなる。
ブラジル市場向けには、現地のPC最大手であるポジティーボ・インフォマティカ(Positivo Informatica)を通じて、VAIOブランドでVAIO Fit 15シリーズなどを販売する。VAIOの商標をつけたPCの製造、販売、サービスを含めたビジネス全般の委託契約となっており、詳細については、9月にも同社から発表されることになる。
大田社長は、「海外向けビジネスは、パートナーと組んで展開していくものになる。直接出て行くつもりはない」としたほか、「米国ではOEMビジネスによる正攻法だが、ブラジルはリスク管理を考慮して、ブランドロイヤテリィビジネスになる。市場にあわせて、それぞれに形態が異なる。今後もアジアを中心に、パートナー展開により、海外事業を拡大したい」と述べた。
なお、大田社長は自らの経歴にも触れ、「私は30年以上、商社勤めをしてきた。エネルギー、リテール、機械関連の営業、投融資、財務などを担当。また、オーストラリア、ブラジル、中国を担当した経験もある。社長を務めたサンテレホン、ミヤコ化学では、再建を完了させた。私の経営のモットーは、いいものを伸ばし、悪いものを治す。VAIOには、いい点として、高い技術力、ブランド力があり、注目度も高い。悪い点は、ソニーの経験に縛られていること。いい点、悪い点が明確であり、シンプルに立ち上げができると考えた。非常にやりがいを感じている」と語った。