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SoftLayerとBluemixで推進するIBMのクラウド〜IBM Cloud Exchange 2014レポート

専用エリアで提供するDedicate Bluemixも展開へ

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は1日、広島市のホテルグランヴィア広島において、「IBM Cloud Exchange 2014」を開催。ユーザー企業やクラウドプロバイダーの技術者や開発者、地元大学の学生など150人が参加した。

 IBM Cloud Exchange 2014は、仙台、広島、京都、名古屋の4カ所で開催されているもので、日本IBMのIaaSクラウド「SoftLayer」、PaaSクラウド「Bluemix」の最新情報を説明。ビジネス環境が大きく変化するなかで、クラウドは不可欠なツールと位置づけ、それをどのように選択するべきかを解説するのが狙いとしている。

 日本IBM 西日本支社の岡崎高支社長は、「IBMは、大規模な投資を行い、クラウドポートフォリオをそろえてきた。いまやクラウド分野のリーダーであると自負している。そして、IBMが提供するクラウドは、ユーザーのビジネス基盤を変えていくものであり、すでに約140カ国、約2万5000社で利用されている。日本においては、今月、東京データセンターを開設することになり、多くの方々に現実的な選択肢を選んでもらえることができる」とした。

日本IBM 西日本支社の岡崎高支社長

環境の変化を踏まえ新たなビジネス基盤を考えていく時代に

 講演では、日本IBM クラウド事業統括担当の小池裕幸執行役員が、IBMクラウドの取り組みについて説明した。

 冒頭、小池執行役員は、「データの約90%が過去2年で作られたものである。また、昨年はスマートフォン(スマホ)が1億台を出荷され、日本人の7割が朝起きるとスマホを確認している。また、81%の顧客が商品購入時にソーシャルサイトを利用している。さらに、2016年までに62%のシステムがクラウドに移行。2020年までにインターネットに接続するデバイスは75億にも達する。こうした環境をとらえながら、新たなビジネス基盤を考えていく時代が訪れている」と指摘。

 「いまや、非連続の変化に対応することが大切である。売上高をあげるためには、営業部門の人員を増やすなど、過去には『勝利の方程式』というものがあった。だが、いまや、いままでのやり方では売り上げを伸ばすことはできない。デジタル化してニーズが多様化し、新たなサービスを提供するまでの時間が短くなっている。勝利の方程式を入れ替える時であり、それに伴ってITシステムも変えていくということが大切であり、そこにクラウドが活用できる。ここに、われわれがいうイノベーションの意味がある」とした。

日本IBM クラウド事業統括担当の小池裕幸執行役員
世の中で起きている急速な変化
変化に対応することがビジネス成長の新たな原動力に
ビジネスの変革を実現するクラウド

IBMは1年で7000億円を投資

 続けて小池執行役員は、日本IBMのクラウドに関する具体的な取り組みについて説明。まず、米IBMがこの1年間で数々の投資を行ってきたことを紹介した。

 これによると、SoftLayerの買収に約2000億円、そのためのデータセンター拡張に約1200億円、人工知能であるWatsonに約1000億円、クラウドサービスの開発環境の拡充に約1000億円を投資。SaaSでは100以上のサービスを提供しており、「1年間で総額7000億円を投資し、企業を支援するためのクラウドへの準備を行ってきた」とした。

 さらに、数々のクラウドサービスを提供するための「IBM Cloud Marketplace」を提供していることについても説明。「ビジネスリーダー、デベロッパー、ITリーダーのすべての人たちが、統一したインターフェースから、閲覧、トライアル、購入が可能なサイトであり、これまでに7万人のアクセスがある。ここを通じて、IBMが提供するIaaS、PaaS、SaaSのすべてのクラウドサービスを提供。パートナーのサービスを含めて200以上のサービスを提供している」と述べた。

IBMのここ1年の投資
IBMのクラウドポートフォリオ
IBM Cloud Marketplace

品質と品格を持つのが企業向けクラウド

 また、小池執行役員は、「IBMが提供するのは、企業向けパブリッククラウド。企業向けという意味は、品質と品格を持つということだ」と指摘。

 「品質」については、自社システムと同じように制御と管理の透明性を打ち出すことや、顧客専用のサーバーを持ち、専用のファイアウォールを持つことができる点。シングルテナントでも、マルチテナントでも提供することができ、世界中のデータセンターを活用して、その間のデータコピーが無料でできることなどに加えて、世界同時立ち上げを支援でき、オープン技術を使用するという特徴を持たせることができ、クラウドでベンダーロックインが起こらないようにしている姿勢を示した。

 「品格」としては、オープンな技術を持つこと、自社に最適に環境を作る選択肢を提供していること、企業利用するアプリケーションの要件にあわせた選択肢を提供することなどをあげた。

企業向けパブリッククラウドには品質と品格が求められる
企業向けパブリッククラウドの品格

物理サーバーが利用できるIaaS「SoftLayer」

 続けて、SoftLayerについても言及した。IBMが提供するIaaSクラウド「SoftLayer」は、現在、2万5000社以上、2000万以上のドメインで利用されているという。

 「世界中にデータセンターを開設し、冗長化された10Gbpsの高速ネットワーク環境を有している。プライベートネットワークでは、データセンター間のデータ転送が送受信ともに無料であり、パブリックネットワークでは受信料は無料、送信に関しては仮想サーバーでは5TBまで無料、物理サーバーでは20TBまで無料。動画配信の活用にも適している。また、他社のクラウドサービスと比較すると、遅延は変わらないが、帯域はまったく違う。信頼性の高いネットワーク環境を提供しているのが特徴である」とした。

SoftLayerが持つグローバルの高速ネットワーク
ネットワークパフォーマンス

 さらに、物理サーバーや仮想サーバー、プライベートクラウドという3種類のサーバーを選択できるようにしていることを強調しながら、「物理サーバーは価格は高いのではないかという声もあるが、200〜250ドルの価格帯で比較すると、物理サーバーは、仮想サーバーに比べて圧倒的なパフォーマンスを出すことができる。このように、物理サーバーは、それほど価格は高くないのが実態。用途に応じて物理サーバーを選択することも考えてもらいたい。例えば、4コアによる4台の仮想サーバーを物理サーバーに置き換えることで、コストは60%削減され、サーバー台数は2分の1、性能は1.1倍になる。さらに40TBのアウトバウンド通信料が無料といったメリットもある。このように、物理サーバーの方がお得になる場合がある」などと述べた。

ベアメタル(物理)サーバーを提供している
仮想サーバーを物理サーバーに置き換えると、メリットが出る場合もある

新たなビジネス環境に対応する「Bluemix」

 一方、日本IBM ソフトウェア事業本部クラウド・プラットフォーム事業部の高瀬正子事業部長は、同社が提供するPaaSである「IBM Bluemix」について説明。「ビジネス成長における競争力強化の決め手はソフトウェア開発にある。企業のエグゼクティブの54%が、ソフトウェア開発が非常に重要であると考えている。だが、これはソフトウェア開発そのものが大切ではなくて、スピードこそが大切であるということ。そして、いままでの開発と同じようなスピードでは、ビジネス変化に追いついていけない。ビジネス成長のためには、クラウドを活用しなくてはならない」と切り出した。

 高瀬事業部長は、「新たなアプリを提供しても、ユーザー体験はあっという間に減衰するという認識を持つべきだ。もし、スマホ向けに提供されるアプリが、1年に1回しか更新されなかったら、ユーザーは離れていくに違いない。それは、最初に面白いと思っても、すぐにその面白さが忘れられてしまうから。ソフトウェアによる新たな体験の頂点を求めるのではなく、新たなユーザー体験を何度も繰り返していくということの方が大切である」と指摘。

 「そのためには、ユーザーの声を反映して次のモノづくりに反映するフィードバックループをいかに繰り返すかであり、スピードを速めることで、満足度や面白さの高さを維持できるようになる。最終的には、常に新しいものをリアルタイムで出していかなくてはならない。競争優位性を保つためには、企画、開発、デプロイ、運用というサイクルを、いかに迅速に、何度も回せるということが大切であり、これがいまどきのソフトウェアに求められていることである」とする。

 そして、「いままでのテクノロジー、技術の開発でのやり方ではこのサイクルはまわしてはいけない。フィードバックループが作れる環境があること、最新テクノロジーが適用できる環境があること、開発だけに専念できること、どこにいても、すぐに始められる環境があることが大切だ。オンプレミスを否定しているわけではない。オンプレミスが求められる領域もある。だが、スピードアップをしていくためには、クラウドを活用することが重要な手段になる」と述べ、こうした新たなビジネス環境に対応するのが、Bluemixだとする。

 「Bluemixは、次世代の開発クラウドツールである。開発環境と実行環境を用意。さまざまなAPIを提供していたオープンなものになる。そして、30秒で開発環境を用意でき、ビジネスにあわせた開発スピードを実現できる」と語り、「スピーディな環境構築」「豊富なAPIやサービスの提供」「DevOpsの実現」「既存システムとのインテグレーション」「堅牢なセキュリティ」「柔軟な価格体系での支払い方法」ができることを、Bluemixの特徴にあげた。

日本IBM ソフトウェア事業本部クラウド・プラットフォーム事業部の高瀬正子事業部長
Bluemix

Bluemixが持つ2つの特徴

 なかでも時間を割いて説明したのが、「豊富なAPIやサービスの提供」と「既存システムとのインテグレーション」の2点だ。

 「豊富なAPIやサービスの提供」については、「今後、アプリ開発においても、部品を組み立ていくような、コンポーザブルを実現していくことが大切である」と前置き。「開発が早くなるというのは、30秒で開発環境が実現できることだけではない。例えば、地図上のAPIが利用できれば、それを利用することで、地図に関する開発は不要になり、開発工数と期間を短縮できる。2月にβ版を発表した際には、APIサービスは約30であったが、いまでは60を超えるAPIサービスを用意している。実行環境、データベース、モバイルのほか、ビッグデータを活用するアナリティクスも用意。さらにWatson関連のAPIもある。10月に公開したWatsonのAPIによって、Watsonの知能を利用することができる。Watsonによる機械翻訳サービス、言語識別サービスなど、Watsonの人工知能を利用したアプリが開発ができる。まさに、BluemixでWatsonが身近になる」とした。

豊富なAPIやサービスの提供

 また、「既存システムとのインテグレーション」では、開発環境はBluemixで行い、開発したものをIaaS、オンプレミスに持って行くことができる点などを説明。「IaaS、オンプレミスとの連携が取れるようになる。ユーザーがクラウドを選ぶという動きのなかで、Bluemixは最適な開発環境になる」と述べた。

 米国サンフランシスコの鉄道会社であるBARTでは、運行管理のレガシーアプリケーションをモバイル化。BluemixのAPIを利用することで、通常6カ月かかるところを、わずか15日間で完成させた。「基幹システムで作られたデータを生かすことで実現したBluemixの活用事例」という。

既存システムとのインテグレーション
既存システムと連携したモバイル開発例

 さらに、今年、Bluemixに関連して発表されたApple、Microsoft、Twitterとのパートナーシップについても説明。「モバイルアプリが動作するプラットフォームとして、iOSは欠かせないものであり、この提携によって、iOS向けアプリの開発に最適な環境が30秒で完成することになる。また、Microsoftとは、ハイブリッドでの開発環境を実現。BluemixのさまざまなAPIに加えて、Microsoftが提供する標準的なAPIが提供される。パートナーや個人が開発したAPIが、世界中で使ってもらえるという環境ができる。そして、Twitterとの提携では、Twitterのデータを活用し、分析し、ユーザーの好みや声を簡単に集めることができる」とアピールした。

 また、「これまでのソフトウェア製品では、5〜6年で発表していたような内容が、Bluemixに関しては、ここ数カ月で行われている。こうした動きは来年も継続的に続くことになるだろう」と、進化の速さを強調している。

既存システムとのインテグレーション

Dedicate Bluemixを提供へ

 一方、Bluemixに関する新たなサービスについても言及した。

 「これまではBluemixはパブリッククラウド上でのみ利用できたが、一部からは、専用エリアで使えるBluemixが欲しいという声もあった。社内や特定の顧客にだけみせたいという利用や、ハイブリッドクラウド環境で利用するための手だてとしても求められていたものだ。そこで近々、専用エリアで提供するBluemixとして、Dedicate Bluemixを発表することになる。PaaSも、プライベート、パブリック、ハイブリッドといった環境で利用できるようになる」とした。

専用エリアで提供するBluemix、「Dedicate Bluemix」を提供する

 さらに、11月に発表した起業家向けのBluemix特別プログラムを通じて、一定の条件を満たした起業家に対しては、BluemixおよびSoftLayerを無償で利用してもらえるようにするという。

 最後に、高瀬事業部長は、「まずは、フリートライアルでBluemixを利用してもらいたい。さらに、日本IBMでは初めてとなる、日本円によるクレジットカード支払いの仕組みも用意した。スピード感を持ったビジネスの実現には、次世代開発環境を利用していくことが大切である。これからのビジネス成長においては、PaaSを活用するのがひとつの戦略になる」と位置づけた。

 なお、会場ではSoftLayerとBluemixのハンズオンイベントも行われた。

フリートライアルを用意するほか、クレジットカードでの決済も可能になっている

ビジネスへの貢献に適したクラウドの選定手法とは

アイ・ティ・アールのプリンシパル・アナリスト、甲元宏明氏

 また、アイ・ティ・アールのプリンシパル・アナリストである甲元宏明氏が、「ビジネスへの貢献に適したクラウドの選定手法とは? - IaaS/PaaSの活用指針 -」と題して講演。「クラウドはバズワードではなく、メガトレンドである。いまは台頭と成長という初期のフェーズにあり、2014年度には1461億円だったPaaSおよびIaaSの市場規模は、2017年度は2642億円に達する。この間の年平均成長率は、25,7%。最新の予測をまとめているところだが、この予想値よりもさらに上振れする可能性がある。日本のユーザーがクラウドを前向きに使っている証拠である。クラウドに対して否定的な考えを持っている企業は年々減っている」とした。

 さらに、「IaaSの国内市場においては、豊富な参入事業者があり、ユーザー企業にとっては、普通の選択肢のひとつになってきた。今後は、日本のユーザーに特化したサービスが充実し、業務系および基幹系アプリケーションの活用が進み、コスト削減よりもビジネス貢献で活用される例が増えるだろう。また、PaaSについては選択肢が少なく、独自のサービスが主流であり、将来のデファクトが読めないという課題があったが、今後は、IBMのBluemixのような、オープンなテクノロジーやサービスが増えていくことになり、ユーザー企業の活用が増加していくことになる」と予測した。

 このほか、甲元氏は「パブリッククラウドは、ビジネスの差別化に寄与することは明らかだ。パブリッククラウドとプライベートクラウドの使い分けに関する議論では、いまだにパブリッククラウドには課題があるとする意見がある。例えば、ミッションクリティカルはパブリッククラウドには向かないといわれる。だが、メールはいまや最もミッションクリティカルであるが、メールが最もパブリッククラウドとして利用されている。また、コア事業をパブリッククラウドに移行して成功した企業が多いこと、セキュリティレベルは、プライベートクラウドよりも高い場合が多いこと、すでに社外データセンターを活用している企業は多いということを考えると、パブリッククラウドに関する数々の課題は、いまや都市伝説といえる部分もある」と述べ、パブリッククラウドの重要性を指摘。

 「今後は、パブリッククラウドとプライベートクラウドの使い分け基準は、ビジネスにとってどう貢献するのかという観点からとらえるべきである。ビジネスの変化の頻度が速い、スピードが速い、ビジネス支援という点ではパブリッククラウドが向いている。また、ライフサイクルが長い場合やバックオフィス系システム、限定的な部門での利用であればプライベートクラウドが向いている」などと、選択基準の考え方を提案した。

 だが、「クラウド領域においては、新たなテクノロジーやサービスが登場するため、策定基準を半年や四半期に一度見直ししていく必要がある。パブリッククラウドとプライベートクラウドのどちらかにとらわれるということではなく、シームレスで、ポータビリティを持ったクラウド環境の実現が重要である」としたほか、「パブリッククラウドをビジネスに前向きに活用する試みを早く始めないと、数年後には大きな後悔をすることになる」と訴えた。

(大河原 克行)