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セールスフォースが見据える、マーケティング新時代「Internet of Customer」

「ExactTarget Marketing Cloud」国内提供

 セールスフォース・ドットコムが開催するクラウドコンピューティングイベント「Salesforce1 World Tour Tokyo」が10日、東京・六本木の東京ミッドタウンホールで開催された。

 Salesforce1の最新動向を紹介するとともに、同社が新たに日本市場向けに提供する「Salesforce ExactTarget Marketing Cloud」についても紹介。基調講演のほか、LINEの上級執行役員法人ビジネス担当の田端信太郎氏による特別セッション、ユーザーやパートナーによるSalesforce1活用事例を紹介する個別セッションが用意され、今後のマーケティング動向や、ワン・トゥ・ワン デジタルマーケティングプラットフォームの特徴などを示す内容となった。また展示会場では、約30のパートナーによる展示デモンストレーションが行われた。

 同イベントには、事前登録で4700人、サテライト会場を含めて1300人が現場で聴講。さらに、オンライン視聴には1万以上が登録したという。

日本法人の新たな方向性を示す

米salesforce.com Salesforce ExactTarget Marketing Cloud SVP&ジェネラルマネージャーのリー・ホークスレイ氏

 午前10時から行われた基調講演では、米salesforce.com Salesforce ExactTarget Marketing Cloud SVP&ジェネラルマネージャーのリー・ホークスレイ氏が登壇。さらに、株式会社セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース) 会長兼CEOの小出伸一氏、セールスフォース 社長兼COOの川原均氏も登壇し、「WELCOME TO THE INTERNET OF CUSTOMERS~顧客のインターネット時代へようこそ」をテーマに講演した。

 小出会長は、最新4半期の業績が前年同期比37%増の1200億円強の売上高となったこと、2015年度は通期で5500億円規模の売上高を目指すこと、さらに株式の1%、社員の時間の1%、製品の1%を社会貢献に費やす1:1:1モデルを実行していることなどを紹介。

セールスフォース 会長兼CEOの小出伸一氏
セールスフォース 社長兼COOの川原均氏

 「今日は、『新しいカタチで顧客とつながる』をテーマに話をする」としたほか、「日本は、当社にとって大変重要な市場である。日本にデータセンターを開設したのに加えて、今年からは日本にすべての権限を委譲し、日本でいち早く経営判断し、いち早くサービスを提供し、いち早く顧客のビジネスに応える体制を整えた。こうした体制をとっているのは、外資系IT企業では当社だけである。将来の売上高1000億円、社員数2000人に向けて飛躍させる考えである」として、日本法人の新たな方向性を示した。

カタリバ 代表理事の今村久美氏(右)
明治安田生命 専務執行役の徳岡浩氏

 ゲストスピーカーとして登壇した認定特定非営利活動法人 カタリバ 代表理事の今村久美氏は、「日本は教育についても恵まれた環境にあるが、世界各国と比べて、自信が持てないという若者の声が多い。高校生に対して、20代の若者が語りかける活動しているが、ここでのボランティア管理にSalesforceを活用している。これがなければ、カタリバはこの規模で活動はできなかった」とコメント。

 また、明治安田生命 専務執行役の徳岡浩氏は、「東日本大震災の際に、安否確認、請求確認、訪問履歴をどう管理するのかといったときに、Salesforceを活用した。わずか数時間でプロトタイプを作ることができたことには驚いた。いま、当社では、アフターフォローこそが価値であり、アフターフォローで感動を与えることができる会社になることを、次の中期経営計画の柱としている。3万人にタブレットを配布し、Salesforceを組み込み、長年にわたるサービスを提供する仕組みを構築した。ITもNext Challengeとして今後10年のITを考えていく」と語った。

Internet of Customersの世界がやってくる

 続いて、セールスフォースの川原社長が登壇し、「いま、コンピューティングには第3の波が訪れている。50年前の東京オリンピックでメインフレームを活用したのが第1の波のはじまり。また、20年前にMicrosoftによってPCが誕生し、Oracleのオープンデータベースが登場したのが第2の波。そして、数年前から訪れているソーシャル、モバイル、クラウドによるコンピューティングが、第3の波となる。ここでは、システムがつながる相手が顧客であるという点が、これまでの波とは大きく異なる。つまり、Internet of Customersが、第3の波の本質である」と切り出した。

Internet of Customers

 45億人のソーシャルメディアユーザー、50億台のスマートフォンが使われているほか、ネットワークにつながるモノが750億個に達し、ここには1兆のセンサーが利用されていることを示す一方で、従来のような「50代、男性」というくくりの中でのマーケティング手法ではなく、新たなInternet of Customersの世界においては、1対1の形で、企業が顧客を理解してアプローチしてくるものになるという新たな潮流を示した。

 たとえば、Internet of Customersの世界で実現されるマーケティング手法は、「50代、男性、趣味は山登り。最近は友人との山登りにはまっている。そこで必要となるこれらの道具を持っている」という個別の情報をもとにアプローチする。これらはソーシャルなどの情報も活用したものになる。アプローチの際には、今後山登りに必要とされる道具の提案だけでなく、休日の山登りで、家に置き去りにされる妻のためのプレゼント用の花を提案する、ということも可能になり、複数の企業や社会全体が顧客の要望を理解して、顧客にアプローチすることになるというわけだ。

 「こうしたInternet of Customersの世界のことを考えない企業と、考える企業とには大きな差ができる。これが第3の波の姿である。当社は、企業がそれを実現するにはどうするかということを考えてきた。その結論が昨年発表したSalesforce 1となる。社員、パートナー、システム管理者、顧客といった、あらゆる人のためのアプリケーション、プラットフォームになるのがSalesforce 1。手の中のスマートフォンだけで、すべての業務が可能になる。Salesforce 1 Sales Cloud、Salesforce 1 Services Cloud、Salesforce 1 Platformとが相互に結びつくことにより、顧客、社員、パートナーとつながることができ、新たな業務の形を実現できる」と位置づけた。

Salesforce1のスマートフォンアプリ
Salesforce1のポートフォリオ

 さらに、Salesforce 1 Sales Cloudを導入した企業では、平均で28%も売上高が伸びたこと、Salesforce 1 Service Cloudを導入した企業では37%も顧客満足度が高まったこと、Salesforce 1 Platformの採用により、58%も展開スピードが速まったといったデータを紹介した。

Salesforce 1 Sales Cloud導入企業であらゆる指標が向上

 一方、登壇したオークニー 代表取締役の森亮氏は、「昨年秋にSalesforce 1が発表された際に、これは、デバイスとアプリケーションの垣根を越えることができるものになると考えた。そこで、開発者は、わずか一晩で動くものを作ってしまった。そこにも大きなインパクトを感じた。当社のGeoGraphを導入しているレオパレス21では、スマートフォン上で、営業情報を閲覧でき、地図とも連動し、さらなる業務利用ができるという点を評価している。今後は、他のアプリとの連携によって、ソリューションの価値を高めることができるだろう」と述べた。

 また、リクルート住まいカンパニー 執行役員統括部長の川本広二氏は、「700人の営業担当者が2万社の顧客をフォローするための管理ツールとしてSalesforceを活用している。いまは社員がスマートフォンを所持し、訪問営業とコールセンターがリアルタイムに情報を共有することで、営業生産性を向上させ、顧客満足度を高めることにつながっている」と語った。

オークニー 代表取締役の森亮氏
リクルート住まいカンパニー 執行役員統括部長の川本広二氏

マーケッターにとっての“ターボ”になるサービス

 続けて、川原社長兼COOは、「ネットワークの先に顧客がいる。それに向けた新たなツールがSalesforce ExactTarget Marketing Cloud。インターネット上の情報を、マーケティングに活用するためのツールであり、CRM、コールセンターの先にあるマーケティングツールである。これを日本に向けて投入することができる。非常にわくわくしている」とし、salesforce.comのホークスレイ氏を登壇させた。

Salesforce ExactTarget Marketing Cloud
日本語対応をスタート

 ホークスレイ氏は、「創業者であるマーク・ベニオフ(米本社の会長兼CEO)は、ExactTarget Marketing Cloudを1年前に見たときに、これは、絶対に日本に持っていかくなくてはならいツールであるといった。それから1年、300人のエンジニアが寝食を忘れて開発し、私は、この日を待った。ようやくこの日が訪れた」と切り出す。

 また「マーケッターが顧客のインターネットをリードする時代になっている。マーケティング部門が一日に扱う情報は、情報システム部門が扱う情報の1年分となる。これらの情報を活用し、顧客一人ひとりに最適なコンテンツを提供し、新たなつながりを生むことになる。いままでは分断された情報が発信され、その多くが顧客に無視されてきたが、スマートフォンによって、時代が変わり、常に顧客とつながるようになる。顧客がなにを考えているのかを理解し、そこにつながりが生まれることになる。ExactTarget Marketing Cloudは、マーケッターにとって、ターボチャージャーといえるパワーを持つソリューションになる」とした。

 さらに、ExactTarget Marketing Cloudは、「全方位から顧客情報を一元管理」「カスタマージャーニーを管理」「あらゆるチャネルで顧客一人ひとりに最適なコンテンツを配信」という3つを実現するとアピール。「特に、“ジャーニー”という概念が大切である。マーケッターは、カスタマージャーニーを作ることで、顧客と企業、ブランドとを関連させ、これをどう管理することができるのかが重要である。顧客の行動を事前に予測して、それに対応することで、多くの利益を生むことにつながる」と述べた。

 カスタマージャーニーとは、ターゲッティングした顧客に対して、メールやアプリを通じて1対1のマーケティングを提案し、その顧客に最適なキャンペーンや製品提案といった道筋を示しながら、リアルの店舗への誘導、購入へとつなげるといった一連の流れを示すものであり、顧客と企業が1対1の仕組みによって実現する。

バーニーズ・ジャパン 代表取締役社長の上田谷真一氏

 日本で初めて、ExactTarget Marketing Cloudを採用したバーニーズ・ジャパン 代表取締役社長の上田谷真一氏は、「営業担当者は、1人で50人~100人の顧客を持っていて、いわば顧客のクローゼット全体を把握している。昼間電話をしてもいいのか、DMが好きなのか、嫌いなのか、どんなもものを持っているのか、なにを購入したのかといったことも把握している。そうしたことを自動化して理解すれば、顧客の状況をより深く理解できる。デジタルを活用したながらより深い顧客とのつながりを実現できる」とする。

 さらに、ホークスレイ氏は、「ExactTarget Marketing Cloudは、日本語化しただけでなく、デジルマーケティングの専任チームを作り、日本の企業の成功をサポートすることになる。このチームは、どんなことが必要なのかを理解しているチームであり、企業が成功の旅路につくことを支援することになる」と語った。

 また、LINEの機能をExactTarget Marketing Cloudと連携することも発表。「LINEの4億人のすべてのユーザーに対して、ワン・トゥ・ワンでメッセージを送ることができるようになる」とした。

 最後に川原社長兼COOは、あらためて「第3の波で重要なのが、Internet of Customersである」ことを強調。「みなさんが、カスタマーズカンパニーになるお手伝いをしていきたい」と締めくくった。

LINEと提携

大河原 克行