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「より詳細な個人情報を渡す時代が来る」〜オラクルCEO ラリー・エリソン講演

「新経済サミット 2014」基調講演レポート

 ICTを中心としたビジネスの最先端情報に触れられるカンファレンス「新経済サミット 2014」が、4月9日から2日間の日程で開催された。初日の基調講演では、オラクルCEOのラリー・エリソン氏が登壇し、将来的な個人情報のあり方、考え方を提言。新経済サミットのプラチナスポンサーである楽天代表取締役社長の三木谷 浩史氏とのディスカッションも行われた。

すでに大量の個人情報を自ら公開しているのに、NSAの情報収集に憤るのはなぜか

オラクルCEO ラリー・エリソン氏

 ラリー・エリソン氏は、「インターネットとクラウド時代の抱えるプライバシーの問題」というテーマで基調講演を行った。

 最初に同氏の口から飛び出したのは、エドワード・スノーデンという名前。米国家安全保障局(NSA)に務め、2013年、NSAがあらゆる個人情報を収集していることを告発した人物だ。NSAは世界各国における通信・通話について盗聴などを行っているとされ、この告発はNSAや米政府に対する米国民や各国政府からの不満が高まるきっかけにもなった。

 個人のプライバシーに関わる情報の流出について、当然ながら拒否反応を示す人は多く、セキュリティ上の問題点を指摘する人もいるが、ラリー・エリソン氏によれば、「プライバシーは、現在のネット時代、クラウド時代においては、もはや技術的な問題ではない」とする。個人情報を秘密にしておきたいのであれば、全てのデータを暗号化し、流出したとしても解読できないようにすることが現在は可能であり、また、民主主義国家であれば国民の声によって政府による個人情報の収集をやめさせることも不可能ではないからだ。

 ただ、スノーデン事件の例でいえば、収集された個人情報は、将来的に不正に使用される可能性があると警告する人もいる。これについても同氏は「どんなテクノロジーも不正に使用される可能性はある」と反論する。飛行機がテロなどに悪用される可能性もあるが、だからといって飛行機を禁止するわけにはいかない。もっと原始的な例では、“火”もそういう側面があるとした。

 すなわち、「乱用する可能性があるからといってデータ収集を禁止すべきではない」というのが同氏の考えであり、民主国家であればむしろデータを悪用する人たちを罰するべきだと主張した。

 また、そもそも人々がどんなプライバシーも秘密にしておきたいかというと、同氏は「そうではないと思う」と言う。なぜなら、すでに世の中の多くの人が必要と思う物を得る代わりに個人情報を差し出している状況にあるからだ。たとえば職場がどこであるか、給料や貯金がどれだけあるか、借金がいくらなのか、ローンの返済額はどれくらいかなど、細かな個人情報や財務情報も、“クレジットカード”という見返りを得るために差し出している、と指摘した。

 もう1つの例としては、誰かが自分の家に友人として尋ねることがあれば、その相手に家族や家族の写真を見せるだろうし、どんなところへ旅行に行ったのかといったプライベートな情報も教えてくれるだろうと話す。その見返りは“Facebook上で友達になれる”ことにより、友人やその家族に少しずつ近づけるというものだ。

 いずれにしても、クレジットカードの利便性や誰かと親しくなれるといった、なんらかのメリットを享受するために、人々はすでに「日常的にプライバシーを明け渡している」。そういった状況にも関わらず、スノーデン氏が告発したような、NSAや政府が通話記録などをもっていることについて憤っている人々がいることに、同氏は疑問を感じているようだ。

 さらに同氏は、「遠くない将来、みなさんが自覚している以上の個人情報を公開することになるだろう」とも話す。しかも、どうぞ持って行ってください、とお願いするような形で渡すことになる時代が来るのだという。その情報は、遺伝子が記録されているDNAだ。医療技術の発達によって、将来的にその人のDNAに合った最も効果的な投薬や治療を受けられるようになるのがDNA提供の大きな理由になりうる。

 街中のあらゆる場所に監視カメラを設置することを民主的な判断によって決めたロンドンの例についても言及した。監視される代わりに未然に犯罪を防いだり、事件の解決に役立つことにつながっている。「安全のために何を犠牲にするかは我々自身の判断」であるとし、民主主義国家であればどうするかを人々が決めることができると訴えた。

成功のためには他がやっていることを全部やるべき

楽天株式会社 代表取締役社長 三木谷 浩史氏

 ラリー・エリソン氏の基調講演が一段落したところで楽天株式会社 三木谷 浩史社長が壇上に上がり、三木谷氏の質問にラリー・エリソン氏が答える形でディスカッションが進行した。

 プライバシーがテーマということで、日本でも議論を呼び起こしているマイナンバー制度について、利用の仕方に納得できていない人々がいることを三木谷氏は説明した。そういった人たちの考え方をどうすれば変えられるかという質問に対してラリー・エリソン氏は、「100%全員を説得するのではなく、個人で決めること、つまりオプトインの選択肢があることが重要」と述べた。

 次にオラクルのクラウドに関する戦略についてIBMなど他社との違いを聞かれた同氏は、「オラクルはIBMやSAPが競合のオールドテック企業であると勘違いされている」と前置きしつつ、「銀行や政府などクラウドを必要としない組織に対してオールドテック企業としての立場を守ることは必要だが、我々はオンプレミスとクラウドの両方の世界に存在していたい。古い時代から新しい時代、そのキャズムの橋渡しをしたい」と語った。

ラリー・エリソン氏と三木谷氏がディスカッションを行った

 もともと日本の企業で最初に働き始め、京都に家も購入したというほどの日本びいきとして知られる同氏。それがBtoBビジネスにおいてシリコンバレーで最も成功した1人として数えられることになったわけだが、三木谷氏はその成功の理由を尋ねると、「我々が目指す方向へ、何かを買う(M&Aする)ことで近道ができるのであればそうする」という考えを披露した。

 同社はこれまで何度もM&Aを経験してきたが、中でも2009年のSun Microsystemsはベストな買収だったという。Java、MySQL、Solaris、SPARCといった技術資産を実質55億ドルほどで獲得し、その価値を考えればほとんどタダのようなものだったと述懐した。

 Appleが一時期低迷した際には、同氏はAppleを買収して株の25%をスティーブ・ジョブス氏に提供し、再建を目指す計画があったという裏話も明かした。結果的にそれが実現することはなかったが、「誰か他の人がいいモノを作るのであれば、買っていきたい」と、今後も積極的にM&Aを推し進める考えを示唆した。なお、2014年2月にFacebookがメッセンジャーアプリのWhatsAppを190億ドルという破格の値段で買収したことについても触れ、「ザッカーバーグは21世紀において重要な資産を手にしたと思う」と絶賛した。

 最近のスマートデバイス、ウェアラブルデバイスの台頭についてもコメントし、「非常に速いスピードで様変わりしている」と述べるとともに、複雑なものからシンプルなものへと発想が変わってきていると分析。シンプルでかつネットワーク接続を備えていないと生き残れない激しい競争分野と位置づけ、いずれはどこでも誰とでも会話、通信できるように「ユニバーサルな接続が可能になる」と予測しているようだ。

 最後に三木谷氏が日本の起業家に向けたアドバイスを求めると、「起業家にいつも言っているのは、成功するためには他がやっていることを全部やらないといけない、ということ」と話す。さらに、「起業家は今まで他の人がしていた考え方の過ちを見つけなければならない」とも続けた。

 他の人が誰もやっていないことを始めようとした時には、「誰もやっていないからお前は頭がおかしいと言われることがある。それを聞いた時に考えられる可能性は2つ。1つは1番最初に本当にすばらしいアイデアを見つけたということ、もう1つは残念ながら本当に頭がおかしかったということだ」と話し、会場の笑いを誘った。

(日沼 諭史)