振り込め詐欺電話にだまされそうな状態、スマホで検出~富士通などが実験


 振り込め詐欺や架空請求詐欺の電話を受けた人の声の周波数成分をリアルタイムに分析し、だまされそうな状態にあるかどうかを推定する基礎技術を、富士通株式会社と国立大学法人名古屋大学が開発した。従来のキーワード検出だけの方式に比べ、精度が向上するという。今後、警察大学校や名古屋銀行と協力し、スマートフォンやPCを用いた実証実験を行いながら実用化を目指す。

名古屋大学情報科学研究科教授の武田一哉氏富士通株式会社モバイルフォン事業本部先行開発統括部部長付の松尾直司氏

 独立行政法人科学技術振興機構の「行動モデルに基づく過信の抑止」の研究の一環として開発されたもの。「過信」とは、好ましくない情報などを過度に与えられると、気付かないうちに情報に対する考察能力が低下する状態のこと。詐欺師からの電話で過信状態になると、相手の説明を信じ込んでしまうことがあるという。通話内容から過信状態を検出できれば、例えば、親が振り込め詐欺にだまされそうな状態になった時点で家族に自動的にメール通知するような、被害防止サービスへの活用などが考えられる。

 振り込め詐欺による過信状態を判定する技術としては、「交通事故」「補償」「示談」といった特有のキーワードが会話に含まれていることから検出する方式が従来から用いられていたという。しかし、被害者が心理的抑圧を受けている場合は発声が不明瞭になることもあり、検出精度が不十分だった。富士通と名古屋大学が開発した技術では、被害者の声の高さと大きさの変化から逆に心理的抑圧を受けていることを推定。詐欺師側に対するキーワード検出と組み合わせて重み付けをすることで、過信状態の可能性を判定する。

 過信状態の特徴例としては、被害者の声の高域成分に現れる。具体的には、声の高さと大きさを示した周波数成分(スペクトル)のグラフを見ると、過信状態では、通常状態に比べて高域が平坦なグラフになる。この平坦さを、あらかじめ保持しておいた通常状態のデータと比較することで、被害者が過信状態にあるかどうかを推定する。

被害者の声の高さと大きさによる「過信状態」推定の仕組みキーワード検出との統合による判定の流れ

 振り込め詐欺の模擬通話や友人間の通話などを含む50通話分のデータで行った検出実験では、振り込め詐欺の検出率は約90%、誤検出率は約10%だった。従来のキーワード方式だけで検出率を90%以上確保しようとすると、誤検出率が30%程度に上昇してしまうという。なお、検出するにあたっては、実際に生活しているようなノイズ環境下では1分間程度の会話の長さが必要となる。

 基礎技術の実現についてめどがついたことから、実用化に向けて今後、実証実験を通じて評価データを増やすとともに、変化する詐欺の手口への対応や、被害防止システム/サービスの検討も進める。

 警察大学校および名古屋銀行との実証実験は、9月までの半年間にわたって実施する。使用する機材は2種類。固定電話からアダプターを介して音声をPCに取り組み、録音・分析処理する方法と、スマートフォンで録音・処理する方法を用意し、詐欺師役のオペレーターとの通話で検出率を評価するほか、友人との日常会話の通話で誤検出率を評価する。キーワードリストは警察大学校から提供を受け、そのうち70語を使っているという。

 19日に行われた記者発表会では、振り込め詐欺の通話を録音したファイルを再生し、PCやスマートフォンで分析・判定処理する様子のデモが行われた。

 PC画面には、詐欺師から被害者への通話(下り音声)から、該当するキーワードがリアルタイムに抽出・リストアップされていく。その後、被害者の通話(上り音声)の分析結果が「過信状態らしさ大」と表示されるとともに、これらを統合した結果として「振り込め詐欺らしさ大です!」と判定される。スマートフォンでは、検出したキーワードのリストアップ画面はなく、通話終了後、顔のマークや判定スコアのグラフとともに「詐欺らしさ小です」あるいは「詐欺らしさ大です!」と表示される。なお、通話の録音・分析処理はすべて端末のローカルで行われ、判定後にデータを消去することを想定しているという。

PC用分析ソフトの画面PC用分析ソフトのデモの様子

スマートフォンによる分析結果の例(詐欺らしさ大)スマートフォンによる分析結果の例(詐欺らしさ小)

 名古屋大学情報科学研究科教授の武田一哉氏によると、この検出技術は、人間の行動をさまざまなセンサーで観測し、得られた信号(データ)から行動の目的や状況、個性を特定する「行動信号処理技術」を応用したもの。今回は振り込み詐欺誘引電話の検出に利用したが、これ以外にも、キーボード入力において単にどのキーが押されたかだけでなく、人それぞれの打ち方の個性をデータ化し、それをインターフェイスに利用することで、より誤解のない入力・やりとりを可能にする応用も考えられるとしている。

「行動信号処理技術」の概要
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(永沢 茂)
2012/3/19 18:12