LSI、業績と戦略説明会~2011年は対前年で売上9.3%増

今後もストレージやネットワークインフラが主力市場に


LSIロジック株式会社代表取締役兼LSI Corporationカントリー・マネージャー 迫間幸介氏

 LSIロジック株式会社は2月7日に都内で記者説明会を開催し、LSI Corporationの2011年業績の説明を行うと共に2012年度の方針について説明を行った。

 LSI Corporationの業績は1月25日に発表されたが、トータルでは20億ドルを超える売り上げを達成しており、2010年度と比較しても9.3%増となっている。同社の場合、昨年3月に外部ストレージ部門をNetAppに売却することを発表し、同年5月には完了している。従って、ここに示された売り上げはこうした外部ストレージ製品のものを含まない、ほぼ半導体メーカーとしての売り上げであり、これで20億ドルを達成したことになる。

 そのLSI Corporationの主な市場はストレージやネットワークインフラということになるが、同社はここ数年、この方向に製品の集中を行ってきており、今後もこの方向での製品展開を進めていくとしている。

2010年はストレージ製品も含んで18.7億ドルなので、半導体部門だけで比較すると、さらに伸び率が増える計算になるNetAppに売却した部門は、ある意味同社のStorage Controller部門とのコラボレーションが期待できる部分であるが、それによる売り上げ増よりも、これを持つ事で他のStorage SolutionベンダーにControllerを売れないというデメリットが大きいと判断されたためだろう。同社のリリースの中では、「これで半導体ビジネスに専念できる」という文言がある

 売り上げの推移をもう少し詳細に見ると、HDD/SSDの分野では、HDD向けのSoCやプリアンプで大きなシェアを握っており、これは今後も持続するとみている。またServer/Storageでは、特にSAS 6Gのコントローラではリーディングポジションにあり、既にSAS 12Gの製品も投入することでこのポジションを維持していきたいとしている。3つ目のNetworkingでは、昨年2月に発表したAxxiaシリーズのNetwork Processorを本格的に展開していく方針だ。

 最後のIPは、昨年富士通が発表した「京」をベースに開発されたSPARC 64 IXfxの物理設計を同社が担った事で一躍有名になったが、もともと同社は長くファウンダリ(LSIの製造委託)ビジネスを行っており、現在先端プロセスについてはTSMCを利用するものの、LSIの論理設計を物理設計に落とし込んだり、その際に汎用的なIPを提供するといった物理設計サービスを実施している。こうした売り上げが5%にも達しているという。

SAMは総市場規模の金額、SAM CAGRは市場の成長率をそれぞれ示すNetworkに関しては「日本国内ではほとんど顧客がない」ということで、これからということになる

 2011年のハイライトとしてはまず、HDD/SSDでは昨年10月にSandForceの買収を決めた今年1月に買収を完了している)事がビジネスとしてはかなりインパクトがあるとしている(この話は後述)。また、28nmプロセスを使ったRC5100を発表するなど、製品展開は多い。一方Storageに向けて12G SASの製品投入を始めラインナップの拡充が著しく、その一方で先に触れた通り外部ストレージ部門の売却により、戦略を明確にしたと言える。

 続くNetworkの部門は、FaxチップがEpsonのカラリオに採用されるといった動きが国内では若干あった程度。最後のIPに関しては、先に紹介したSPARC 64 IXfx以外に28nmプロセスのカスタムシリコンの出荷開始を発表するなど、活発な動きを見せている。

 マネジメント体制に関しては従来と大きくは変わらないが、新たにSandForce製品を扱うFCD(Flash Components Division)が追加されたのが相違点だという。

 最後に2012年の製品展開について迫間社長は、基本的にはここまで説明した内容の延長にあると説明した。

LSIのマネジメント体制。このFCDのGeneral Managerを務めるMcichael Raam氏は、旧SandForceのCEOであるIPに関してはここでは説明がなかったが、他の部門とはやや売り方が異なるためだろう


SandForce買収の背景

 さて、以上が迫間社長による説明の大筋であるが、会場では実機を設置してのデモも行われており、自由に質問する時間も十分にあったので、以下ではもう少し詳しくお聞きした話をまとめてお伝えしよう。
 
 まずSandForceの買収絡みであるが、最近ではSandForceがSSDのある意味「安心のブランド」になりつつあるのは多くの方がご存知の通りである。2月2日は、IntelがやはりSandForceのコントローラを搭載したIntel SSD 520を発表するといった出来事もあり、現状では他社のコントローラを圧倒する勢いがある。

 そのSandForceのコントローラであるが、実は元々SandForce自身が、単にコンシューマ向けだけではなくエンタープライズ向けの製品をリリースするプランを持っていたそうだ。もっとも、具体的に設計しているとかプロトタイプがあるというよりは、「次はエンタープライズ向けをやる」というToDoリストがあるという状態に近いようだが、コンシューマ向けだけでなくエンタープライズ向け(具体的にはまず6G SASへの対応、ついで12G SASへの移行)を行いたいと希望しており、ところが同社はエンタープライズ向けの経験に乏しい。

 対するLSIは、エンタープライズ向けの経験と製品ラインナップは揃っているが、SSDのソリューションに欠けている。この両社のコラボレーションにより、エンタープライズ向けのSSDストレージを構築できる、というのがSandForce買収の大きな理由の1つだという。

 実際、キャッシュサーバーなどにSSDを使う動きは広まっているし、ブレードサーバーのブレードそのものにSSDを搭載するケースも多いから、高信頼性や高速性を担保したエンタープライズ向けSSDの市場規模は非常に大きい。こうしたマーケットにターゲットをあわせたのが、今回のSandForce買収と考えるべきなのだろう。ちなみにエンタープライズ向けSSDに関するソリューションのロードマップが固まるのは「今年第2四半期末あたりまでには」(同社関係者)との話だった。

 一方のHDD向けSoCやプリアンプに関しては、タイの洪水による生産減速の影響は多少あるだろうとしつつ、ただそれでもストレージそのものへの要求は相変らず強いとして、引き続き力を入れてゆくという話だった。


WarpDriveでは、高速性だけではない付加価値を目指す

 次いでストレージ部門。現在はSASのRAIDコントローラやWarpDriveを提供している。WarpDriveに関しては、今までは高速性のみで差別化して販売できたが、既に他のメーカーからも競合製品やSSDを組み合わせた競合ソリューションが出てきており、このままでは遠からず価格競争になることが見えているとしており、単に高速性とか容量だけではない付加価値が必要と考えているとの話だった。

 具体的には、例えば既存のMegaRAIDと組み合わせた形での製品の開発や、ある種のSANコントローラに搭載されているような機能をソフトウェア的に搭載するといった事を考えているという。こちらについても、今年第二四半期~第三四半期までには何かしらの方向性が見えてくるとのことだ。

SandForce SF-2281コントローラ。写真の製品にはないが、OCZの製品でもいくつかのものには“SandForce搭載”のシールがわざわざ貼られているとか
SASのRAIDコントローラのデモで、説明会会場にはMegaRAID SAS 9260-8iが設置されていた。ここに4台のSAS HDDが接続されているMegaRAID SAS 9260-8iはオンボードで512MBのキャッシュを搭載しており、これにHitすると毎秒56000I/Osが処理可能だ


:普通のPCの上にWarpDriveを搭載し、この上でVMWareを使って仮想クライアントを稼動させた例。手前のカードがWarpDrive SLP300SLP300のアップ。SSD部分が三層構造になっているのがわかる
仮想マシン50台上でWindows XPを動かした例。通常だとまずストレージがボトルネックとなるが、WarpDriveを使うとこれが解消される。もっとも次はCPUとかメモリがボトルネックになるので、1台のPC上で動かす仮想マシンの数はこのあたりが限界
次世代のWarpDrive製品。やはり三層構造に見える


半導体製造~メーカーの開発負荷を分散できるパートナーとしての需要が増加

 最後がIP部門である。LSI Corporationは元々LSI Logicという社名で自社でファウンダリを持ち、ここでASIC/ASSP製造の受託ビジネスを盛んに行っていたが、2005年に製造部門を切り離しファブレス(製造そのものは外部に委託し、設計や検査などだけを行う)モデルとなった。

 同社は優れたASIC/ASSPの開発環境と設計ツール、およびこれに利用できるIPを保有しており、引き続き外部メーカーの製品の設計や製造(製造の場合、一旦LSI Corporationが製造を請け負い、さらにTSMCに製造を委託するという二重構造)を行っている。上に紹介した富士通のモデルはまさしくこれに該当するわけであるが、同社によれば40nmプロセスを使った国内での開発事例はこれが最初とのことだった。

 もっとも、本国ではこうした開発/製造委託ははるかに盛んということで、2012年もおそらくこのビジネスは引き続き堅調に伸びるであろうという話だった。背景にあるのは、プロセスの微細化でどんどん開発コストが高騰していることで、例えば富士通のSPARC 64 IXfxクラスのLSIになると、「一発失敗すると(作り直すのに)数十億では効かないかもしれない」とのことだ。

 LSIの製造に必要なマスクと呼ばれる部材の製造コストが恐ろしく高騰している上、論理設計→物理設計が恐ろしく手間がかかる。このため、どこかに設計ミスがあって動かないとなった場合、もう一度修正するのに数十億かかっても不思議ではないということだ。こうなってくると、自社の技術力によほど自信が無い限り、半導体製造にノウハウを持っているベンダーに数億払ってでも物理設計以降を手伝ってもらう方が安全、という判断は当然ある。

 こうしたニーズに応えるのが同社のIPビジネスというわけだ。現状では40nmプロセスが主流で(28nmではさらに開発費が高騰するため)あり、一部高速なデータリンク(例えば25Gbpsの転送に関しては、同社は今のところ28nmプロセスしかIPを提供していないそうだ)が必要などといったケースを除くと、当面は40nmプロセスでの製造が続くだろうとの説明だった。


関連情報