カスペルスキーが法人市場に“本腰”、日本市場への投資も強化

法人向けのMac用セキュリティソフトやxSP向け製品などを発売


 ウイルス対策ソフトなどのセキュリティ製品を手掛ける株式会社Kaspersky Labs Japan(以下、カスペルスキー)は13日、法人向けビジネスに関する説明会を開催。ロシアKasperskyのユージン・カスペルスキーCEOが日本向けの投資の強化を表明したほか、4月付けで代表取締役会長に就任した加賀山進氏が、法人向けビジネスの推進をあらためて表明している。

 

法人向け市場への着実な取り組みをアピール

カスペルスキーといえば国内ではコンシューマ向け製品のイメージが強いものの、法人向けやOEM向けの製品・サービスも提供している

 カスペルスキーの日本市場への展開においては、PC市場で知名度の高いジャストシステムがコンシューマ向け製品を展開していたこともあって、コンシューマ向け製品の認知度は非常に高い。その一方で、法人向けの「Open Space Security」製品群やOEM展開に関する認知度は、まだまだ低いのが現状だ。

 しかし、カスペルスキーのコーポレート営業本部長、嵯峨野充氏は「ニフティが数十万ライセンスをOEM製品によって提供しているほか、IIJでは、法人向けゲートウェイサービスにおいて多くのライセンスを使っていただいている。2007年に2社しかなかった法人向け製品のパートナーも、2009年に30社、2010年には110社と着実に増えてきた」と、ビジネスの現状と広がりをアピール。積極的な展開を図ってきたとする。

 製品ラインアップとしても、Windows、Linux向けのみだったエンドポイントセキュリティソフトに、今回、Mac向けの製品「Kaspersky Endpoint Security 8 for Mac」を追加し、各プラットフォームを横断して集中管理を実現。ファイルサーバー向け、メールサーバー向け、ゲートウェイ向けなどの製品を「Open Space Security」ブランドの中で包括的に提供しているので、企業が求める複雑な保護要件に対してもきちんとカバーできるポートフォリオが用意されているのだという。


法人向けビジネスのパートナーも順調に増加しており、2010年には110社まで増加。今年はさらに250社まで増やしたいという多くの法人向け製品によって、包括的なセキュリティを提供可能
Mac向けの「Kaspersky Endpoint Security 8 for Mac」を発売する法人向け製品では、プラットフォームを横断した集中管理に対応する
カスペルスキー日本法人の代表取締役会長に就任した加賀山進氏

 人事面では、日本IBMで長いキャリアを持ち、日本ピープルソフト、シマンテックなどで経営責任者を務めた加賀山進氏を、日本地域の経営責任者として1月に迎え入れ、4月からには会長職に就けた。

 経歴からも、特に法人向け市場を得意とする加賀山会長の入社は、カスペルスキーが法人向け市場をいかに重要視しているかの現れといえる。その加賀山会長は、カスペルスキーの日本市場に対する姿勢について、「フランチャイズベースだった資本構成を、この3月に本社の100%ベースに変えた。これでようやく一般的なグローバルカンパニーの日本法人と同じになった」として、日本市場への投資に積極的になったことを評価。

(編集注:カスペルスキーの川合林太郎社長によると、設立当時は旧ソ連地域の企業の100%子会社だと登記が難しかったため、従来はKaspersky本社のナタリア・カスペルスキー会長と、設立当時の日本代表が個人名義で所有していたとのこと)

 さらに、「プライベートカンパニーであるため長期的な視点で見ており、利益が出ないとすぐに撤退するような会社とは異なる。そして、数年たつと劇的に成長することが多い」と説明した上で、「例えば米国では何十倍も成長しているが、これは驚くべきこと。自分でも数倍の成長は経験しているが、何十倍というのは経験がなく、ぜひ、それを日本でも実現したい」との抱負を述べた。

 また、日本市場に対する具体的な投資としては、現オフィスの3倍の規模がある、住友不動産秋葉原ビルへのオフィス移転をカスペルスキーCEOが発表した。

 新オフィスに移転する目的は、より多くの人員を採用できるようにするため。加賀山会長は、「1月に40名強だった人員を、ジャストシステムに頼っていたコンシューマ向け部隊の増強もあわせて、年末までに70名体制へ増員する計画。また、3年間では140名程度を想定している。当社は100%パートナー経由の販売のため、いかにパートナーを支援するかが鍵だ」(加賀山会長)として、増員により、販売力の強化に取り組む考えを示している。

 

パートナー企業のサービスモデルへの転換を支援

Kaspersky Security Center Service Provider Editionの概要
Kaspersky Security Center Service Provider Editionを用いたビジネスモデル

 しかし、企業向けのセキュリティ製品、特にエンドポイント向けのセキュリティ市場はすでに飽和状態にあり、市場自体を大きく拡大することは難しい。そこでカスペルスキーとしては、「日本では、ビジネス環境の変革によって、SIerなどがサービスモデルにシフトしつつあり、そこに対して当社がいかに支援を提供できるかが鍵。従来のライセンス売りという考え方を変え、サービスモデルでの提供も検討していく」(加賀山会長)との姿勢を明らかにした。

 このための戦略製品となるのが、同日に発表された「Kaspersky Security Center Service Provider Edition(以下、Service Provider Edition)」となる。これは、カスペルスキー製品の管理やメンテナンスを一元的に行えるアプリケーション「Kaspersky Administration Kit」をサービスプロバイダに提供するサービス。サービスプロバイダがこれを用いると、独自のエンドポイントセキュリティサービスを、自社の顧客に提供できるようになる。

 OEMのためのツールということだけでは、一見、ありふれたコンセプトのように思えるが、嵯峨野本部長は、「競合メーカーは、ほとんどの機能を用意してただ売るだけ、というモデル。一方当社では、プラットフォームを提供し、パートナーが得意とする監視サービスなどを付け加えて、独自サービスとして提供できるようにしている」と、他社との違いを説明。付加価値を載せられるようにすることで、差別化を図れるのが大きいとした。

 また、「競合のサービスでは管理をユーザー自らが行うことから、ハードウェアを外に出しただけの状態なのに対して、Service Provider Editionでは、サービスを提供しているプロに管理を任せられる」という点を指摘し、専任の管理者がいない、十分なスキルを持つ人材がいない、といった中小企業でも導入しやすい特徴を持つ点を強調している。

 すでに国内でも、HOTnet、Userside、CTCSの3社が、Service Provider Editionを用いたサービス提供を表明しており、6月よりサービスが順次開始される予定とのこと。カスペルスキーではこの分野で、初年度に1億円の売り上げを狙っている。

 

モバイルセキュリティの重要性を強調

ロシアKasperskyのユージン・カスペルスキーCEO。「日本はビジネスの場だけでなく個人的にも好きな国で、震災に対してどういう支援ができるのかを考えていた。ガイガーカウンターの数が足りないと聞いたので、ロシア国内の工場と契約を結び、5000本を段階的に提供する。また25万ドルを寄付したほか、社員の寄付に会社が倍額を加えてさらなる寄付を行う」とあいさつした

 もう1つの注力市場としてカスペルスキーCEOや加賀山会長が挙げたのが、モバイルセキュリティの市場だ。カスペルスキーCEOは、「PCで利用されていたサービスがモバイルからの利用にシフトしているため、攻撃者もシフトしており、タブレットやスマートフォンへの攻撃が増えている。PCと同様の脅威にさらされているので、至急対応が必要だ」と述べ、モバイル端末でもセキュリティ対策の必要性を強く訴える。

 これを受け加賀山会長も、「(モバイルセキュリティは)コンシューマからスタートするだろうが、すぐに法人関係でも始まる。当社のテクノロジーの強さをモバイルでも発揮しようと思っている」と話し、この市場の広がりに期待を示した。

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