グリーン・グリッドが気軽な参加を呼びかけ、省エネ活動を表彰するアワード


APCジャパン、マーケティング本部 ディレクターの坂内美子氏

 データセンターのエネルギー消費量は年々増加傾向にあり、エネルギー効率の改善が世界的に求められている。そんな中、グリーン・グリッドが6月に「データセンター・アワード」の創設を発表した。国内のデータセンターを対象に、エネルギー効率の向上に取り組む団体・企業を評価・表彰するものだ。その狙いについて、日本コミュニケーション委員会代表を努めるAPCジャパン、マーケティング本部 ディレクターの坂内美子氏に話を聞いた。


エネルギー効率化の取り組みを表彰

スケジュール

 同アワードの基となったのは、2009年欧州で始まった「Improved Data Center Energy Efficiency(IDCEE)」というアワードだ。このICDEEを運営する英DatacenterDynamicsとグリーン・グリッドが協業し、日本版として創設したのがデータセンター・アワード。

 7月1日から9月17日までのエントリー期間に企業・団体の参加を募り、グリーンIT推進協議会と日本データセンター協会を審査員に招いて、10月18日に開催する「DatacenterDynamics Tokyo 2010」で受賞者発表と授賞式を行う。

 ポイントは、既存のデータセンター・サーバールームを対象にしている点だ。最新のデータセンターのように設備が充実していない2000年ごろのデータセンターでは、省エネは難しいというイメージがある。しかし、「古いデータセンターでもこんなことができると考えて、実践している事業者は多い。それらを広く紹介することに価値があると考えた」と坂内氏は語る。

 つまりは省エネのベストプラクティスを集めようというのが狙いで、「各団体・企業の省エネ活動を紹介することで、国内におけるエネルギー効率の計測・改善の取り組みに弾みが付けられるのではないか」(同氏)というわけだ。


敷居が低く気軽に参加できるのが特長

 説明を受けて「敷居が低く気軽に参加できるアワード」という印象を抱いた。

 実際、参加条件は「2009年12月以前からデータセンターあるいはサーバールームとして稼働しているところ」のみで、グリーン・グリッドの非会員でも構わない。「当初はラックの数などで条件を設けようという話もあったが、できるだけシンプルにして間口を広げた」(同氏)という。

 さらに「企業・団体が自身のエネルギー効率を把握できるようにしたいという狙いがあった。省エネに向けてはそれが最初の一歩だから」(同氏)という説明から分かるように、肩肘を張らずに気軽に参加できる点を目指したのが同アワードの特長となっている。


審査基準について「難しく考えないで」

評価基準。少々ややこしい表現だが、実際はシンプル

 ところが、アワード創設のプレスリリースを読んだときに感じたのは、敷居が高そうということだった。その理由は、5つ挙げられていた審査基準の内容が少々ややこしい表現だったからだ。

 例えば「既存のデータセンター施設における効率化促進に向けた、グリーン・グリッドが提唱する評価基準(PUE/DCiE)を活用し、改善前後の定量化が行われていること」や、「分析した内容に基づき改善の対象を特定し、継続的な改善を施策としてまとめ、改善目標を設定すること」などが審査基準として挙げられていた。

 これを見て、具体的に何をすればいいのだろうと感じていたのだ。しかしこの点も、改めて話を聞けば、非常にシンプルに氷解した。

 5つの審査基準を簡単にまとめると、1)PUE/DCiEなどの指標を測っていること、2)その結果に対し改善目標を設定していること、3)継続的に改善活動していること、4)改善前後で活動を相対評価していること、5)社外に向けて広報していること――ということだそうだ。

 今やPUEを測定していないデータセンターは少ないだろう。その結果に対する改善目標や継続的な活動内容も、企業・団体の独自の基準で構わない。改善前後の相対評価は、PUEを継続的に計測するツールが導入されていれば自然と条件を満たすし、それがなくてもPUEをレポートにまとめていればクリアとなる。最後の広報に至っては、同アワードに応募した時点で「ある程度、条件を満たしたことになる」(同氏)という。要はいずれもシンプルな取り組みで審査の対象になるというわけだ。

 坂内氏は「グローバルに結果を比較できた方がいいだろうということで、欧州での内容に手を加えずに、ほぼそのまま日本語に訳した。また、なるべく間口を広げたかったので、きっちりと条件を固めないようにした結果、こうしたあやふやな表現になってしまい、逆に分かりにくくなってしまった。問い合わせもこの点に関するものが多く、申し訳なかった」とコメント。「何も取り組みを厳しく審査しようというものではないので、応募するにあたって難しく考えないでほしい」と気軽な応募を呼びかけている。

 なお、現在すでに30社と参加に向けた調整に入っている。目標は2~30社ということなので、直前のキャンセルなど考慮に入れて、さらに募集したいところだろう。


将来的には「省エネへの意識改革」に貢献したい

 最後に同アワードの将来的な展望を伺った。「データセンターというと“事業者”というイメージだが、対象はサーバールームから。規模を問わずすべての方々に省エネを認識してもらえたらうれしい」。

 「何かを変える際に一番難しいのは、会社やグループごとのマインド設定。そこには企業文化や国ごとの分かが壁として立ちはだかる。これを変えるのが一番難しいと思うので、今回のような取り組みでエネルギーを少なくできるとマインドを変えていきたい」。

 「いろいろな人がさまざまな角度で省エネを考えているんだと、世間に周知していく。そこから始めて、将来的には企業のマネジメント層も含め、トップダウンの仕組みで省エネに取り組んでいけるような、そんな意識改革に貢献できたらいいと思う」(同氏)という。

 エネルギー問題はもはや避けては通れない問題だ。企業・団体にとってビジネスに直結するほどになってきている。そうした風潮の中、自社で省エネに取り組んでいる所も多いだろう。今回のアワードは、難しいことを考えずにとりあえず参加してみることで、自社の現状の立ち位置を把握できるものとなっている。

 また、多くの企業・団体が参加するほど、集まるベストプラクティスは相当なものになる。それは他企業・団体にとって大きな参考になるだろう。何らかの省エネ活動をデータセンターやサーバールームは、この機会に、取り組みのコツなどを業界に向けて広く紹介してみるのはいかがだろうか。

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