どう実現する? クラウドサービスの連携、売買、オープン化

ネットワンが旗振るクラウド推進団体が報告


 日本国内におけるオープンなクラウド市場の創出を目的とするクラウド・ビジネス・アライアンス(以下、CBA)は15日、活動進ちょくに関する記者説明会を開催した。

 CBAは、2009年11月にネットワン、EWMジャパン、エイムラック、エクシード、オロ、コネクティ、スマイルワークス、ソリトンシステムズ、ビープラッツが共同で発足した団体。SaaS/PaaS/IaaSを自由に組み合わせられる共通APIの評価検証や、実際のビジネスにつながるサービスモデルの検討を目的に活動している。

 その進ちょく状況として、クラウドサービスを売買する場の構築、SaaS間のフロント連携、IaaS APIオープン化といった取り組みや、CBA初のビジネス事例としてクラウド型レンタルサービスなどを紹介した。


サービス売買の場「CBAマーケットプレイス」

CBA運営委員・事務局に所属するビープラッツの宮崎琢磨氏

 最初に、CBA運営委員・事務局に所属するビープラッツの宮崎琢磨氏が登壇。クラウドサービスの売買の場として開発した「CBAマーケットプレイス」を紹介した。

 CBAにはさまざまなSaaSベンダーが参加している。彼らの製品を「売り」「買い」するために開発したのが、CBAマーケットプレイスというプラットフォームだ。方向性としては「オープンに参加できる売り買いのビジネスの場を目指した」(宮崎氏)という。

 CBA内外のベンダーが商品を登録でき、それらをエンドユーザーに取り次ぐ販売代理店やSIerも参加可能。「売り買いを仲介するだけのプラットフォームなので、商品の登録に技術的な制約はなく、むしろ商品のカタログのみを登録するだけでもいい」(宮崎氏)のが特徴。このため、ベンダーは技術的な難しいことを気にすることなく商品を登録できるほか、SaaSアプリケーションとともに導入・保守サービスも出品可能となっている。

 また、ベンダーにとっては煩雑な販売店・顧客対応や課金・請求処理も、CBA側にアウトソースできる。「こうした作業を代行する環境を“CBAplats”としてビープラッツ側で用意している。ベンダー側に顧客管理の仕組みがあればそれを使ってもいいし、面倒ならばCBAに丸投げしていただいてかまわない」(同氏)。こうした仕組みをさらに柔軟にするため、クラウド環境(エクシードのLibra)上で現在、CBAマーケットプレイスの稼働検証も実施中という。

 CBAマーケットプレイスは、7月より稼働を開始し、すでにいくつかのサービスが販売されている。「今後は、会員ベンダーの品ぞろえを増やすほか、販売店のストア数拡大も図る。将来的には会員外からも出品を募り、実際の売り上げ拡大に努めていく」(同氏)とのこと。

CBAマーケットプレイスの概要。販売店・顧客管理、請求・課金の仕組みもCBA側で用意CBAマーケットプレイスの実際の画面。7月より稼働を開始し、すでにいくつかのサービスが購入可能に



「OpenSocial Gadget」でSaaSフロント連携

CBA技術コミッティー委員を務めるビーコンITの戌亥稔氏

 次に、CBA技術コミッティー委員を務めるビーコンITの戌亥稔氏が、SaaSサービスをいかに連携させるかを説明した。

 同氏はまず「現状、GoogleやMicrosoftなどのキープレイヤーが異なる技術を提供し、各社のSaaSも異なる環境で稼働するなど、クラウド環境は混沌(こんとん)としている。そのため、企業内システムも含めた異なるシステムを柔軟に組み合わせ、稼働させる環境が必須である」と、SaaSやオンプレミスのシステムを連携させる重要性に言及。

 しかし「誕生の背景が異なるSaaS間を連携させるために、(SOAの分野で取り組まれているメタデータ連携のような)根本的な連携を進めると大きなコストと時間を費やしてしまい、“スピーディなビジネス展開”というSaaSのメリットが生かせない」点を問題視し、「開発言語、データ構造、稼働プラットフォームが異なるSaaS間を迅速に連携させるいい方法はないか」と考えた結果、「OpenSocial Gadget」に着目したと紹介した。

 「OpenSocial」は、2007年11月にGoogleがリリースしたSNS向けAPI群。OpenSocialに対応したアプリケーション(OpenSocial Gadget)は、OpenSocialに対応したSNSプラットフォームで相互運用できるという仕組みで、現状、MySpace、Friendstar、mixi、モバゲー、goo、GREEなどでサポートされている。

OpenSocial Gadgetの概要フロント連携ワーキンググループの参加会員一覧

 CBAでは、これを使って短期間で実現可能なSaaSフロント連携を実現した。しかし、あくまでもフロント連携なので、CRMと会計システムの連携処理といった複雑なことはできない。また、各SaaSのID連携についても現状未定だ。今後の方針としては「ID連携に関しては、OpenIDやOAuthを検討している。根本的なデータ連携については、別の団体でも取り組まれているので、そこでの実績に応じて、CBAへの採用を検討していく」(同氏)とのこと。

SaaSフロント連携の画面例



IaaS APIオープンソース化への取り組み

CBA技術コミッティー委員を務めるエクシードの千葉則行氏
メタクラウドAPIを8月に公開予定

 次にCBA技術コミッティー委員を務めるエクシードの千葉則行氏が登壇。IaaS APIオープンソース化の必要性と取り組みを紹介した。

 先に述べた通り、クラウド環境は仮想化の技術1つをとっても多様化しているのが現状だ。クラウドプラットフォームを構築する場合、どうしても特定の仮想化技術に依存してしまう。そこでCBAが考えたのが「IaaS APIのオープンソース化。特定の製品・ロケーションに依存せず、仕様や開発の進め方など多くの人の意向が反映されるアーキテクチャを作ること」(千葉氏)だった。

 IaaSサービスの「Libra」を提供しているエクシードでも、この課題には早くから取り組んでおり、さまざまなIaaSサービスからの要求を最適な仮想リソースに割り振る「Antlia」なるAPIを2009年に開発している。さらに仮想化ソフトの違いを吸収し、「AppLogic」であろうと「VMware」であろうと一元的に環境構築できる「メタクラウドAPI」も開発。8月をめどにオープンソースとして公開を予定している。


ビジネスモデル確立でも多数の成果

 技術的な検討と並行して進めるのが、ビジネスモデルの確立だ。こちらでも2009年度に多くの成果が生まれている。「会員企業のコラボレーションでさまざまな新サービスが生まれ、すでに成約、サービスインしているものも多数存在する」(CBA理事・運営委員長を務めるエクシードの鈴木義則氏)。

 その一例が、パイオン、クラスキャット、エクシードがコラボして生まれたクラウド型レンタルサーバー「Pizet」というサービスだ。「クラウド型なので、1台のサーバーが壊れても数分で自動復旧できたり、アクセスが集中した場合にサーバーの能力をWebブラウザから簡単に変更できたり、そうした特徴をメリットとし、すでに4月15日よりサービスを開始している」(同氏)。

 また、自社製品をSaaS化したいベンダーの支援として、「新事業の企画、情報収集、料金体系の検討といった面でもCBAの成果が生まれ始めている」(同氏)という。

2009年度のビジネス事例2009年度、会員ベンダーへのクラウド化支援案件

 今後のCBA活動方針としては、事務局の機能強化を予定する。現会員数114社。「管理が困難になるほど会員が増えたため、事務局を会員のよろず相談窓口となる“CBAコンシェルジュ”へと強化させる。その第1弾として本日より、Webサイトを刷新し機能強化を図った。活動が多岐にわたるため、それを一度整理するとともに、“こんな事業を始めたい”と考える事業者に最適なサービスや会員を紹介できるよう体制を整えたい。さらに認知度向上や活動のさらなる推進のため、秋にセミナーを予定するほか、イベントへの出典、会報の作成、政府官公庁への成果アピールなどを進めていく」(同氏)と説明した。

事務局を強化今後の予定
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