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マイクロソフト、「AIを使う」「AIを創る」観点から生成AIサービスの導入事例を紹介

JBS、ベネッセホールディングス、ソフトバンクが登壇

 日本マイクロソフト株式会社は18日、国内における生成AIサービスの導入事例について発表した。

 日本においては、2023年12月時点で、2300社以上の企業がAzure AIを活用していると発表しており、その後も勢いが衰えないまま拡大しているという。グローバルでは5万3000社以上が利用しており、そのうち3分の1以上が、これまでAzureを活用したことがない新規顧客だという。

グローバルで5万3000社以上がAzure AIを利用

 今回の説明会では、「AIを使う」、「AIを創る」という観点から、日本ビジネスシステムズ(JBS)、ベネッセホールディングス、ソフトバンクが事例を紹介した。

 日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド& AI ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「いままでは、企業にAIを取り込む準備段階であり、Get AI Readyの状況であったが、いまはAIを活用し、それを明確な差別化として、実行に移していく段階であり、Lead AIの状況に入っている。企業では生成AIをベースにしたソリューションをどう活用するのかという切り口と、自分たちの業務やプロセスに合った形でAIを創りだし、業務に活用するという2つの流れがある。AIを使うという点では、Copilot for Microsoft 365が活用され、生成AIの評価や検証から、ビジネス実装へと進むことになる。また、AIを創るという点では、Microsoft Copilot StudioやAzure OpenAI Serviceにより、AIプラットフォームの整備から、独自AIを開発したり、より複雑なAIユースケースの実装に進んでいったりという動きがみられている」と指摘した。

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド& AI ソリューション事業本部長の岡嵜禎氏

日本ビジネスシステムズの事例

 日本ビジネスシステムズでは、2023年8月からEarly Access Program(EAP)に参加し、検証や勉強会の開催を通じて、AI活用の定着を図ってきたという。特に、総務部、人事部、法務部、財務部などで生成AIの活用を推進。これらの成果をもとに、2024年3月から、Copilot for Microsoft 365の全社導入を行っているとのこと。

Copilot for Microsoft 365 全社導入の流れ

 「生成AIの活用は、企業理念である『優れたテクノロジーを、親しみやすく』を、社内で実現する上での重要なステップになると考え、社員に親しみやすく優れたテクノロジーとして使ってもらうことを目指した」(日本ビジネスシステムズ 取締役専務執行役員 ビジネスグループ統括、デジタルセールス本部担当の後藤行正氏)と、生成AI導入の基本姿勢を示す。

日本ビジネスシステムズ 取締役専務執行役員 ビジネスグループ統括、デジタルセールス本部担当の後藤行正氏

 具体的な事例として、議事録作成および契約書チェックについて説明。議事録作成では、Copilotの要約機能だけでなく、独自にプロンプトを作成して、WordやPowerPointに使えるようにしたという。例えば、「プロンプトに、『深呼吸をして落ち着いて生成してください』という言葉を追加するだけで、要約内容が変化することがわかった」と説明した。

Copilotの活用-議事録作成

 契約書チェックでは、人手では15分かかっていたものが5分に短縮。契約書の項目にはリンクが張られているため、詳細内容をチェックでき、確認の精度も高めることもできたという。

 さらに、マーケティング部門では、Copilotを使用することで、セミナー関連業務が1カ月間で16時間削減できたという。「時間削減の効果だけでなく、誤字脱字がなくなるなどの品質向上や、属人化の解消、アイデア出しのサポートでも効果が生まれている」とした。

Copilotの活用-マーケティング部門のセミナー関連業務

 そのほか、価値創出時間を36%増やすといったメリットも生まれたという。

 「コア業務への集中と支援ができたほか、従業員の生産性ややりがい、ワークライフバランスの最大化でもメリットがあり、働く環境の可能性を拡大するといった効果も生まれている。AI活用が社員にとって当たり前にすることがゴールである」と語った。

 また同社では、生成AIに関する社内ハッカソンを実施したり、Copilot Studioを使って、社内問い合わせチャットボットを開発したりといったことも行っていると述べた。

Copilot Studioを使った実践例:社内問い合わせチャットボット

ベネッセホールディングスの事例

 ベネッセホールディングスでは、コンタクトセンター業務などにおいて、生成AIを活用しており、そこにCopilot Studioを利用したという。

 ベネッセホールディングス 専務執行役員 CDXO 兼 Digital Innovation Partners 本部長の橋本英知氏は、「新たな企画を検討する際に、コンプライアンス対応のために法務部門に相談したり、情報セキュリティ部門に相談したりといったことが発生している。多くの部門に問い合わせて確認しなくてはならないことが多く、これが新たなサービスを生む際のハードルになっている。そこで、さまざまな問い合わせに対応できる『社内相談AI』を自社で開発し、2023年10月から利用できるようにした」とした。

ベネッセホールディングス 専務執行役員 CDXO 兼 Digital Innovation Partners 本部長の橋本英知氏
社内情報検索の利便性向上

 だが独自に開発した結果、データセットの作り込みや、ログの分析をもとにしたクイックな改善が反映しにくいという課題があったことから、Copilot Studioの採用に踏み切ったという。「Copilot Studioはノーコードで開発ができ、テストして公開する作業も迅速に行える。また安価に利用できる点も大きなメリットである」とする。

Copilot Studioを活用した内製実装へ

 当初は、正確な回答が出せているのかどうかを検証しながら運用。750ページ分の情報を読み込ませて、2月13日から本番稼働を開始。独自に開発したものと比べて、精度には差がない形で運用が開始できたという。一方で、データセットの改善方法のナレッジが蓄積され、劇的に精度を向上するポイントも確認でき、今後の改善が加速できるとみている。3月中旬からは、さらに1000ページ分を読み込ませて、品質向上と最適化を図る予定だ。

データの追加

 同社では、生成AIの運用において、UIにも配慮している点が見逃せない。「質問した内容に対して、『回答することができません。質問を言い換えて再度に入力してください』と返答されるとちょっと腹が立つ。こうしたところをチューニングすることも、多くの写真に使ってもらうためには大切である」と指摘した。

UXの進化

ソフトバンクの事例

 ソフトバンクでは、「AIを使い倒す」という方針を掲げ、さまざまな領域に生成AIを活用しているが、今回の説明会では、コールセンター業務での活用における環境構築について触れた。ここでは、新たな取り組みとして、日本マイクロソフトと協業し、Azure OpenAI Serviceを活用することで、最先端のコールセンター構築に向けて共同開発を開始したことを発表した。

 ソフトバンク IT統括 専務執行役員兼CIOの牧園啓市氏は、「これまではワークフローをたくさん作って、それにのっとりユーザーのインシデントを検出しながら情報を収集しており、順序やスクリプトが厳密に固定されていたため、対応に多くの時間がかかっていた。新たな仕組みでは、LLM自律思考型によるアシスタント機能を作り、使用可能なファンクションを定義して、会話に応じてダイナミックにフローが進行することができるようにした。企業や業界に特化したモデルを作ることができるため、検証後に顧客に対して、SaaS形式で提供することも考えている」という。

ソフトバンク IT統括 専務執行役員兼CIOの牧園啓市氏
開発アプローチ

自社のAI製品に関する動向

 日本マイクロソフトでは、同社のAI製品に関する動向についても触れた。

 Copilot for Microsoft 365は、「現在の業務や仕事の在り方に変革をもたらす存在になっている」(日本マイクロソフトの岡嵜執行役員常務)と指摘。60%のリーダーがまだまだイノベーションが生まれていないことや革新的なアイデアが不足しているという懸念を感じていること、70%の人々は、できることならAIに業務を理解させて任せていきたいと感じていることなどに触れながら、68%の人はCopilotが業務や仕事の質を画期的に変えてくれると期待していること、70%の人がCopilotがより生産的になるための支援をしてくれると期待しているといったデータを示してみせた。

 岡嵜執行役員常務は、「Copilot for Microsoft 365は、使い慣れているWordやExcel、PowerPoint、Teamsを通じて、生成AIをさまざまな人に利用してもらえる。これにより、新しい働き方が生まれることが期待されている」と述べた。

 また、日本マイクロソフトでは、Microsoft Copilot for Securityを、2024年4月1日から、正式サービスを開始。「幅広い組織が柔軟に利用可能な従量課金制モデルにより、ニーズと予算に応じて使用量とコストが拡張できること、正式サービスの開始時点から日本語にも対応していること、ワークフローやタスクに、自然言語を使った独自のプロンプトを作成、保存できるカスタムプロンプトブックなどの新機能を追加している点が特徴である」と述べた。

Microsoft Copilot for Security

 Microsoft Copilot Studioについては、「お客様のカスタムCopilotをローコードで開発可能な統合プラットフォーム」と定義。2024年2月から日本語対応を行ったことも紹介した。

 標準搭載された1100以上のプラグインとコネクタを利用できること、自分だけのCopilotをゼロから作れること、OpenAI GPTとプラグインの使用が可能であることを特徴に挙げた。

 また、Azure OpenAI Serviceでは、「テキストや画像、コード生成のための大規模言語モデルを、セキュアな環境から実行可能なマイクロソフトのマネージドサービスである」とし、日本でも多くの活用事例があることを紹介した。

Azure OpenAI Service

 DMM.comでは、サポートセンター寄せられた声を分析するためにAzure OpenAI Serviceを活用。デンソーでは会話型ロボットの制御に活用。電通ではノンコア業務をサポートする「Smart Work コンシェルジュ」の運用に利用しているという。また、メドレーでは、求人作成補助機能により、チャット形式で入力した求人情報をAIが魅力的な求人タイトルに変換。ダイドードリンコでは、商品パッケージのラベルや成分表示などの注意事項などの確認作業を最適化しているほか、日清食品ホールディングスでは開発期間の短縮化や、デザイン性の高いユーザーインターフェイスの内製化に活用しているという。

 「テキスト生成モデルに加えて、画像、音声認識を活用することで、さまざまなユースケースに対応するマルチモーダルでの高度な生成AI利用が増えている」と指摘した。

生成AI利活用例

 また、岡嵜執行役員常務は、AIの取り組みの進化を、飛行機の航行になぞらえて比喩。「機体整備や訓練飛行の段階を経て、本航行に入るのと同じように、生成AIの利用も段階を踏んでいくことになる。生成AIも訓練飛行を通じて、慣れてもらうことが必要であり、その上で、より業務に踏み込んで、より革新的な利用に入っていくことになる。まずは、Copilot for Microsoft 365などを使ってもらい身近な問題を解決しながら、全社員が当たり前のものとして使ってもらえるようにすべきである。このベースになるのが機体整備であり、クラウド化やセキュリティ、ガバナンス、IT人材、データ戦略などが重要になる」と語った。