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AWS Mainframe Modernizationsで古い基幹システムをクラウドへ――、明治がシステムの近代化に取り組む

2024年3月に第一弾となる販売系幹システムの移行を完了

 牛乳・乳製品、菓子、食品の製造販売などを事業とする株式会社明治は、メインフレーム上の基幹システムのアプリケーションのモダナイズとAWSへの移行を開始したと発表した。アマゾンウェブサービス(AWS)の提供する「AWS Mainframe Modernization」を利用している。

 AWS Mainframe ModernizationはメインフレームアプリケーションのAWSへの移行のための、モダナイズ、移行、テスト、実行のインフラとソフトウェアを提供する、一連のマネージドツール。2021年11月に発表された。

 今回の明治の移行は、AWS Mainframe Modernizationの日本における初の事例となる。2024年3月に第一弾となる販売系基幹システムの移行を完了。2024年6月には基幹システムの全面移行を完了する予定となっている。

 明治では、複雑化したシステムの維持・運用にかかるコストや、開発工数の肥大化などの解消を目的に、メインフレームアプリケーションをAWSへ移行。全面移行完了後は、システム維持・運用コストの80%削減を想定しているという。

メインフレームアプリケーションをAWSに移行して、システム維持・運用コストを80%削減、さらにデータ利活用を推進

 この事例について3月14日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)と明治による記者説明会が開催された。

右から、AWSジャパン 小林正人氏(サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト)、株式会社明治 古賀猛文氏(執行役員 デジタル推進本部 本部長)、株式会社明治 河合利英氏(デジタル推進本部 情報システム部 業務1グループ グループ長)

メインフレームアプリケーションのリファクタリングとリプラットフォームの2種類を主に支援

 記者説明会では、まずAWS Mainframe Modernizationについて、AWSの小林正人氏(サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト)が紹介した。

AWSの小林正人氏(サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト)

 小林氏はまず、オンプレミスからクラウドへの移行全般について説明した。AWSでは、どう移行するかの「評価」、システムの現状把握や人材育成などの「準備」、そして最適化しつつ「移行」していく3つのフェーズについて、ベストプラクティスをまとめているという。

 その中で、評価フェーズにおいて移行方法を考えるときの典型的な7パターンとして、「7つのR」をAWSでは挙げている。仮想マシンの移行など単純にシステムが稼働する場所だけ変える「リロケート」、EC2に載せかえるなどアプリケーションになるべく手を入れずに移行する「リホスト」、移行先のOSやソフトウェアは変更する「リプラットフォーム」、新しいパッケージやSaaSに移行する「リパーチェス」、本格的に最適化する「リファクタリング」。それに加えて、現状のまま使い続ける「リテイン」と、システムを引退させる「リタイア」という道もある。

評価、準備、移行の3フェーズ
オンプレミスからAWSへの移行を検討するときの7つのパターン

 こうした移行を支援する中で、顧客から最近、さまざまなシステムをAWSに移行したが、メインフレームが残っているという相談を受けると小林氏は話す。

 「そうしたお客さまへの、AWSからの回答の1つがAWS Mainframe Modernization」と小林氏は説明する。前述した、評価・移行準備・移行について、どのような流れで移行するかの枠組みを提供するとともに、技術的な移行の障壁を下げるテクノロジーも提供するものだという。

 カバーするのは、7つのRのうち、主にリファクタリングとリプラットフォームだ。リファクタリングにおいては、仏Blu Age社による、メインフレームのCOBLアプリをAWSで動くJavaアプリに自動変換する技術を利用する。またリプラットフォームにおいては、英Micro Focus社による、メインフレームのプログラムを、最小限の手間でAWSで動かせるようにする技術を利用する。

 さらに支援を提供するパートナーとして、AWS Mainframe Modernizationコンピテンシーパートナー認定制度も設けている。

メインフレームからAWSへの移行における、評価、準備、移行
メインフレームからのリファクタリングとリプラットフォームなど
AWS Mainframe Modernizationコンピテンシーパートナー認定制度

 こうしてメインフレームからAWSに移行する利点として、フルマネージドなAWSの機能が利用でき、運用負荷を下げるなどができると小林氏は説明。さらに、業務を最適化するためのハードルも下がることにより「イノベーションの手助けができるんじゃないかと考えている」と語った。

“ファーストペンギン”として国内初事例にチャレンジ

 AWS Mainframe Modernizationの日本で最初の事例として発表されたのが、今回の明治での移行だ。これについて、株式会社明治の古賀猛文氏(執行役員 デジタル推進本部 本部長)が説明した。

株式会社明治 古賀猛文氏(執行役員 デジタル推進本部 本部長)

脱メインフレームを進めて残った14%の維持コストが問題に

 もともとは2009年に、明治乳業と明治製菓が経営統合して株式会社明治となったのを機に、業務アプリケーションの整理に着手し、オープン化を進めた。さらに、2020年代になり、軽減税率やインボイス制度などの制度改正など社会変化に対応するために、脱メインフレームを進めたという。

 こうして脱レガシーを進めたあと、変更頻度が少ない分野である14%がメインフレームに残った。ただし、その維持に年間数億円のコストがかかっており、その5年契約の更新が2025年4月に迫っていた。

 「いま現在は、社内にCOBOLなどを扱える人材はいるが、外に確保するのが難しくなってくる。また新しい人材を採用しても、レガシー言語を教育する必要があり、即戦力で活用できない。30年以上改修を繰り返して複雑化し、クラウドとのシームレスなデータ連携も困難だった。さらに保守運用コストも右肩上がりで、しかもベンダーロックで移行が難しく再構築する必要があった」(古賀氏)。

メインフレームに残ったシステムの維持に年間数億円のコスト

パッケージソフトへの移行、再構築、自動変換に分類して移行

 こうしたメインフレームからの移行については、メインフレームでの1万5000処理を棚卸しし、「変化に対応するアプリケーション」「非競争領域のアプリケーション」「現行維持したいアプリケーション」の3種類に分類したという。そして、変化に対応するものと競争領域の通常のものは、パッケージソフトやクラウド、ローコード・ノーコード開発に移行。非競争領域でも、パッケージソフトでは困難なものと、現状維持したいものについてを、今回のモダナイゼーションの対象にした。

 モダナイゼーションするものも、さらに2つに分類した。販売系基幹システムは新たに再構築。そのほかのシステムは、既存のアプリケーションを自動変換した。前者の販売系システムは、2024年2月に疎結合の構成に再構築が完了し、保守人員も下げられたという。

 もう一方の、既存アプリケーションを変換するほうのシステムについては、2024年6月に旧環境を停止予定だと古賀氏は語った。

メインフレームの処理を3種類に分類、パッケージなどに移行するものと、モダナイズするものの2つの方向に
モダナイズするものも、再構築するものと、変換するものの2種類に
再構築する販売系基幹システム
変換するシステム

 そして採用したのが、AWS Mainframe Modernizationだ。発表されて約2カ月後の2022年2月にはAWSジャパンに問い合わせ、PoCの検証が良好だったことなどから、2022年11月に採用を決定した。

 古賀氏はAWS Mainframe Modernizationを採用した理由として、まず他サービスより実施時間が短く、そのぶんコストも削減されることを挙げた。

 また自動変換しきれない部分について、他社では個別の処理ごとに修正するところ、AWSではそれを自動変換に反映して再度自動変換するため、全体の処理を変換するのにスピードとコストを削減できることも理由だったという。

 さらに、社長の方針として「挑戦して失敗するのはかまわない」ということがあることから、「チャレンジしたい」という考えで、あえてファーストペンギンとなったと古賀氏は語った。

 「自動変換だけであれば、明治とBlu Ageだけでも推進が可能だと聞いた」と古賀氏。しかし、AWSジャパンのプロフェッショナルサービスにその間に立ってもらうことにより、資料の翻訳や、Blu Ageチームとの調整、課題管理など伴奏して支援を受け、「AWSジャパンのサポートがあったからこそ今回のプロジェクトが成功したと考えている」と古賀氏は語った。

 なお、小林氏によると、国内最初の事例であるため、AWSのサービスがカバーできる部分もあれば不足する部分もあり、「今後のサービスの改善につながるポイントが見えた。今回のナレッジを生かして、以後のお客さまをよりスムーズに移行できるようにする」という。

AWS Mainframe Modernizationの採用
AWS Mainframe Modernizationを採用した理由
明治、AWSジャパン、Blu Ageの役割

維持・運用コストを80%削減、さらにデータ利活用の推進へ

 今回のプロジェクトの想定効果としては、年間数億円の維持コストを80%以上削減できることとなった。さらに、AWSの利用によりデータ利活用が推進され、データドリブン経営の基盤が整ったと古賀氏は説明した。

 さらに、データ利活用の基盤が整備されたことにより、「今後はデータをほかのシステムと連携したり、AIを活用したりして、新たなステージに最短距離で行きたいと考えている」と古賀氏。そして、「DXは経営目的を実現するための1つの手段として、今後もDXを推進していく」と締めくくった。

想定効果
さらにデータ利活用推進へ