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富士通・田中社長は連結業績目標達成に意気込み、「2017年度は5合目まで登りたい」

 富士通株式会社は6日、経営方針の進ちょく状況について説明した。

 同社の田中達也社長は、「2015年度に社長に就任してから3年目に入った。2015年度から実施している変革の効果も着実に出ており、国内サービスなどの本業も好調である。2016年度の業績はすべて公表計画を上回る結果となった。フリーキャッシュフロー、自己資本比率も掲げた目標に向け着実に改善している」とこれまでの取り組みを総括しながら、「2015年度発表の経営方針で設定した連結業績目標に変化はない。環境の変化にあわせて、必要な手を打ちながら達成に向けて取り組んでいく」と意欲をみせた。

 だが、「PC事業の独立化が進んでいないこともあり、まだ2合目か、3合目にいるという状況は変わらない。2017年度は成長を実感する1年とし、5合目まで登りたい」とも述べた。

田中達也社長

2017年度は営業利益率4.5%を目指す

 2017年度は、連結営業利益率で4.5%、フリーキャッシュフローで1200億円、自己資本比率で30%以上、海外売上比率で35%以上を目指す計画であるほか、中期的には連結営業利益率で10%以上、フリーキャッシュフローで1500億円以上、自己資本比率で40%以上、海外売上比率では50%以上を目指すことをあらためて示した。

2015・2016年度の実績と2017年度の計画

 「2016年度は2.9%と3%ゾーンだった営業利益率は、2017年度には4.5%を目指す。これは、目標としていた利益率5%ゾーンのミニマムラインになる。ビジネスモデル変革の効果を享受することで、さらなる利益率向上を図る」とアピール。

 「2017年度はやるべきことをしっかりとやり、ナレッジインテグレーションの専門力を高め、これをグローバルに展開していくことになる。2018年度には連結営業利益で6%ゾーンに到達させる。さらに、その先には、ビジネスモデル変革の継続、変革費用を上回る変革効果による打ち返し、成長分野である『つながるサービス』への投資の拡大、本業の成長による利益の積み上げによって、利益の持ち上げにつなげ、利益率10%以上へとステップを踏んでいく。また、利益力向上に伴う株主還元の継続を目指す」とした。

 2018年度の営業利益率は、6%ゾーンに入ることで過去最高となるが、「私は社長就任以来、営業利益率10%を目指すとしており、これが社員にも浸透している。グローバル企業と互して戦うにはこの水準が必要である。2018年度の数字は通過点にすぎない」と語った。

連結営業利益

 また、海外売上比率は目標に対して減少傾向にあるが、「ビジネスモデル変革にかかわる一時的な費用や為替の影響があるし、サービス化、ソリューション化を推進しているところである。そのためには人材のスキルの入れ替えを行っており、人材が育つための時間が必要。欧米で進めているトランスフォーメーションなどあらゆる手を打つことで、成長基盤の強化を模索している。特徴的な商談も取れているので、2017年度以降、その成果が発揮される」とした。

 PCをはじめとするユビキタス事業やデバイス事業の独立事業化によって、売上高は減少することになり、4兆円を切る可能性も指摘されるが、「企業は成長することが大切だが、コアとなる事業が成長していくことがいまは重要。売上高は一時的にはブレるが、M&Aなどを含めて徐々に効果が出てくることになる」とし、まずはコア事業の成長と利益率を重視する姿勢を示した。

3つの切り口から基本方針を説明

 経営方針では、コア事業、グローバルフロント、独立事業という3つの切り口から基本方針を示しており、会見では、それぞれについて説明した。

3つの経営方針

 コア事業では、テクノロジーソリューション事業をグローバルに成長させるため、「つながるサービス」へ投資を集中。今後は、つながるサービスに向けたグローバルエコシステムの構築、業種や業務の知見を生かし、システムインテグレーションを進化させたナレッジインテグレーションおよび専門力の強化、キーテクノロジーの研究開発力を強化するとした。

 「顧客に対して、富士通がICTサービスを提供するという従来の関係に加えて、新たなビジネスモデルをコクリエイションすることを実践しているが、それを加速するためには、幅広く、深い専門的な知見や先端技術を追求するための共同研究やアライアンスなど、外部連携が重要になる。また、エコシステムを通じて各国の国家プロジェクトなどにも参画し、グローバルな社会問題の解決にも取り組む」などとした。

「つながるサービス」に向けたエコシステム
専門力によるインテグレーションの革新

 キーテクノロジーでは、クラウド、AI、セキュリティの3点を挙げて説明した。

 「クラウドでは、デジタル革新のスピード、膨大データの利活用、柔軟で堅牢な運用環境の3点がお客さまの期待である。これに応えるのが、マルチクラウドインテグレーション基盤であるMetaArc。さまざまなクラウドに対応し、ビジネスの規模や内容に応じて、さまざまな環境を自由に選択してもらえ、トータルな運用サービスを提供。ビジネスを迅速に立ち上げることができる」と述べた。

キーテクノロジーの1つ、クラウド

 「AIでは知見の実装および自動化、新ビジネスの創出、想定外の事態を想定することの3点にお客さまの期待がある。富士通は、30年以上培ってきた独自のAI基盤技術と業種ナレッジを総合的にインテグレーションすることが強みになる。新たなビジネス創出への期待は急速に高まっており、商談の事例が増えている。今年4月には理化学研究所と共同でセンターを設立し、先端技術の研究に取り組んでいる」。

キーテクノロジーの1つ、AI

 またセキュリティでは、「サイバーセキュリティリスクの排除、被害の極小化、サイバーセキュリティへの耐性力強化がお客さまの期待。富士通グループ16万人の社員を24時間守り続けるという経験から得たナレッジやネットワークにAIを応用した、自動対処技術がある。さらに、富士通にない技術や専門性を持ったグローバルパートナーとの連携により、ワンストップでこれを提供することで、事業継続を支えてリスク管理の負担を大幅に軽減する」と述べた。

キーテクノロジーの1つ、セキュリティ

グローバルフロントでは各リージョンの事業、サポート力を強化

 2つ目のグローバルフロントでは、各リージョン事業、サポート力を強化し、事業部門との連携により、デジタル時代をリードするサービスを展開。今後は、均一なサービスと品質の提供、デジタル時代に向けたビジネスモデル創出力、グローバルビジネス人材の育成を強化する。

 グローバル成長においては、インテグレーション、グローバルデリバリー、キーテクノロジーの3つの事業軸による成長施策と並行して、アジア、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)、米国、オセアニアの地域軸によるマトリックス構造でとらえ、地域ごとに、それぞれのテーマに取り組む姿勢を示した。

 アジアでは、「アジアでナンバーワンになることを目指す」とし、一昨年に発足したOne-Asiaにおいて、日本での成果を展開することでその取り組みを一層加速するほか、日本市場での圧倒的な強さと地位を確立する姿勢を示した。

 EMEIAでは、「グローバルビジネスにおいてキーとなるリージョン。継続した成長に向けて手を打っていく」と位置づけ、プロダクトビジネスのさらなる効率化、サービスビジネスに向けたアライアンスに取り組む。米国では、「EMEIAとのマネジメント統合により体制を強化し、実績が上向いてきた」とし、次世代ネットワーク製品の投入や、デジタルビジネスの高度化に向けたシリコンバレーの活力を取り込んでいく方針を示した。

 オセアニアではデータセンターサービスの競争力向上、ANZ地域でのリーディングポジションの確立に取り組むとした。

グローバル事業の成長

ユビキタス事業やデバイス事業を独立事業へ

 3つ目の独立事業では、ユビキタス事業やデバイス事業は独立事業として分社し、あらゆる選択肢を視野に事業競争力を強化。今後は、独立事業体としての市場競争力の向上、コア事業とのシナジー、有力企業との協業推進を強化すると説明した。

 独立事業化の対象としているPC事業において、Lenovoとの事業統合の話し合いが遅れているが、田中社長は、「両社のシナジーをどう出すかを最終的に詰めている段階であり、悪い状況ではない。早晩まとまると考えている」と発言。「これが破談になる、というような大きな問題があるわけではない。この方針には変わりがない」と、近いうちに話し合いがまとまるとの見解を示した。

 なお田中社長は、2016年度に、電力会社との取引において独占禁止法違反の認定を受けたことに言及。「ステークホルダーに多大なる心配をおかけしたことを深く反省している。徹底した社内調査を実施し、トップダウンで再発防止のメッセージを繰り返し発信し、従業員教育に努めている。コンプライアンスは経営の重要事項のひとつであり、今後も取締役会直属のリスク・コンプライアンス委員会の主導のもと、Fujitsu Wayの行動規範の浸透と実践のさらなる徹底を進める」と述べた。

コンプライアンスの徹底

 一方、2017年5月に東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催した富士通フォーラムには、2万6619人が来場。前年よりも4643人増加したことに触れながら、「アンケートでも高い評価が出ており、富士通に対する期待を実感した。ICT部門よりも事業部門の来場が多かった点が特徴である。事業部門がICTを活用して、製品・サービスを高めていく気運が高まっている。富士通はお客さまの事業に入っていくことで、デジタル時代の事業パートナーとなり、成長できるように取り組んでいきたい」と語った。

 また、東芝の半導体事業の買収において、日本連合として展開する動きについて、「富士通としては、これまでの半導体事業の取り組みをベースに考えており、それをもとに株主に説明できるリーズナブルな対応を考えている。その観点からは、日本連合の取り組みはそれに合致しているとは思えない。いまは見守っている」とした。