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富士通の2016年度連結業績は減収増益、LenovoとのPC事業提携協議は長期化

 富士通株式会社は28日、2016年度(2016年4月~2017年3月)の連結業績を発表した。

 その席上、富士通の田中達也社長は、これまでの構造改革の取り組みなどについて説明。「2016年度は、ビジネスモデル変革の2年目として、いくつかの成果をあげることができた。本日発表した富士通テンにおけるデンソーとの資本構成の変更、ノジマに対するニフティのコンシューマビジネスの譲渡といった成果のほか、PC事業のレノボとの最終合意に向けた話し合いを行っている。さらに、SE子会社の統合によるSEリソースの集中とデジタル革新の推進、セキュリティに関する統合本社の設置など、質を変える取り組みを進めてきた」などとした。

富士通の田中達也社長

 また、「2015年度、2016年度の2年間で変革をやりきるという点については、半年ほどの遅れが出ていると考えている。変革の対象となる事業について、将来の成長を第一に考え、安易に妥協することになく、最善の選択をすることが大切であり、その結果として、当初見込みよりも期間をかけている。しかし、ビジネスモデル変革を必ずやりきるという覚悟については変わっていない。これによってビジネスを拡大できる」とも述べている。

 富士通では、2017年6月6日に、田中社長による経営方針進ちょくレビューを行う予定を示した。

通常ビジネスベースでは113億円の増益

 富士通が発表した2016年度の連結業績は、売上高が前年比4.8%減の4兆5096億円、営業利益は同6.8%増の1288億円、税引前利益は同5.4%増の953億円、当期純利益は同2.0%増の884億円となった。

2016年度連結業績の概要

 田中社長は、「好調な国内サービス事業に加えて、2015年度から実施している変革の効果も着実に出ている。2016年度の業績は、売り上げ、利益ともに公表数値を上回った」とした。

 富士通 取締役執行役員専務兼CFOの塚野英博氏は、「円高による減収影響は約2000億円。為替を除くと若干の減収になる。海外サービスおよびデバイスソリューションの減収が大きい。また、ビジネスモデル変革として447億円を計上している。これを除いた通常ビジネスベースでは、113億円の増益になる」とした。

 また、「2016年度は、ビジネスモデル変革費用として447億円を計上したが、このうち、海外ビジネスのデジタル化のシフトと効率化の費用で約340億円。国内のデータセンター再編費用として約40億円。データセンターの高集積化を加速するために、老朽化したり、低採算化したりしたデータセンターの閉鎖を決定し、固定資産の減損と、閉鎖に必要な費用を計上した。また、生産拠点再編費用で70億円を計上し、電子部品などの国内外の拠点の再編を進めた。一方で、次世代クラウドへの先行投資拡充を進めている」とした。

富士通の塚野英博取締役執行役員専務兼CFO

セグメント別業績

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上高が前年比4.8%減の3兆1266億円、営業利益は2.4%増の1907億円。そのうちサービス事業の売上高が5.1%減の2兆6242億円、営業利益が8.5%減の1500億円。また、サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は前年比1.3%増の1兆241億円、インフラサービスの売上高は8.8%減の1兆6000億円となった。

 システムプラットフォームは、売上高が前年比3.1%減の5023億円、営業利益は同82.5%増の407億円。そのうち、システムプロダクトの売上高は同2.5%減の2555億円、ネットワークプロダクトの売上高は同3.6%減の2468億円となった。

 「サービスでは、金融機関の大規模プロジェクトや公共分野におけるマイナンバー商談の開発ピークアウトなどの減収要因があったが、製造業やサービス業、通信キャリア向けでカバー。前年度に初めて1兆円を超えたソリューション/SIはさらに増収となった。また、国内はアウトソーシングが堅調であるが、海外インフラサービスは為替の影響があったのに加えて、実ビジネスベースでも減収になった。システムプラットフォームでは、国内はIAサーバーや携帯電話基地局が伸長したものの、欧州での物量減少と為替がマイナス影響となった。北米では新機種投入の切り替え時期に当たった光伝送装置が減収要因。だが、サーバーを中心に、円高ドル建てによる購入部材の調達コストダウン効果があった」という。

2016年度 セグメント別業績
テクノロジーソリューション
テクノロジーソリューション(サービス)
テクノロジーソリューション(システムプラットフォーム)

 ユビキタスソリューションは、売上高が前年比1.5%減の1兆257億円、営業利益は前年から364億円改善し287億円の黒字に転換。そのうち、PCおよび携帯電話の売上高が前年比6.1%減の6116億円、モバイルウェアの売上高が同6.3%増の4141億円となった。「PCは前年から若干の減収となったが、国内は法人向けを中心に増収となった。PCは、価格施策の効果が想定を上回った。携帯電話は、スマホ市場の成長鈍化に伴い、ハイエンド機種の投入タイミングを年2回から冬モデルのみの1回に絞り込んだことで、減収となっているが、コストダウンによる効率化を進めた」という。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比9.9%減の5443億円、営業利益は同86.0%減の42億円。そのうち、LSIの売上高は同14.4%減の2694億円、電子部品は同5.1%減の2760億円となった。「スマホ向けの所要減と円高の影響を受けた」という。

ユビキタスソリューション
デバイスソリューション

2017年度見通しは減収増益

 一方、2017年度(2016年4月~2017年3月)通期業績見通しは、売上高は前年比0.8%減の4兆1000億円、営業利益は57.5%増の1850億円、当期純利益は63.9%増の1450億円とした。なお、公表数値は、4月28日に株式売却を決定した富士通テンの売上高や営業利益は含めておらず、対前年比も2016年度を組み替えて算出している。富士通テンの影響額として、比較する2016年度実績において、売上高では3767億円、営業利益では114億円を減額している。また、ニフティの売却益である500億円を除くと、営業利益は若干の増収となる。2017年度の最終利益の1450億円は過去最高となる。

2017年度の業績見通し

 「昨年秋に、2017年度の営業利益率を5%ゾーンにするとしていたが、今回発表した通期目標は営業利益率は4.5%。これはミニマムラインとして考えている。ビジネスモデル変革の効果を享受することで、さらなる利益向上を目指したい。グローバルを含めたデジタルサービスビジネスの加速やK5の展開、グローバルデリバリーセンターの活用による効率化およびコストダウンを進めていく。2017年度は成長に向けてかじを切り、経営方針で掲げている営業利益率10%につながる年にしたい。特に、今後の成長に向けてキーテクノロジーとなるAIやセキュリティ、働き方改革につながるICTの活用などに関して、徹底した社内実践を進め、自ら価値を確かめることで、自信を持って顧客に提案したい。この取り組みは、富士通自らの改革にもつながる」などと述べた。

 ただ、「2017年度は、大型プロジェクトの端境期に入り、富士通にとってはアゲンストでもあるが、デジタルサービスの提案や他社顧客の獲得など、新たな顧客に対するビジネスが発生している。これをリカバリーしたい。2018年度以降は、従来の顧客ベースにおいて、新たなプロジェクトの開始が見込まれ、成長につなげることができる」としている。

 また、富士通の塚野CFOは、「過去2年間、ビジネスモデル変革費用が先行してきたが、今年度からはプラス案件も出てくるため、全体では相殺できると考えている。本業では336億円の増益を考えており、テクノロジーソリューションは国内サービスの着実な成長と、海外サービスの回復による増益を計画。デバイスソリューションの市況回復を見込んだ増益を予定している」と語った。

 セグメント別業績見通しでは、テクノロジーソリューションの売上高が前年比1.8%減の3兆700億円、営業利益は同31.1%増の2500億円。そのうちサービス事業の売上高が同2.1%減の2兆5700億円、営業利益が同34.6%増の2020億円。また、サービス事業のうち、ソリューションSIの売上高は前年比0.4%減の1兆200億円、インフラサービスの売上高は3.1%減の1兆5500億円の見通し。

 システムプラットフォームは、売上高が前年比0.5%減の5000億円、営業利益は同17.9%増の480億円。そのうち、システムプロダクトの売上高は同2.2%減の2500億円、ネットワークプロダクトの売上高は同1.3%増の2500億円としている。

 「サービスは、ニフティの売却影響を除くとほぼ前年並の売り上げ計画になる。国内サービスも採算性改善を着実に進める。一方で、システムプラットフォームは、メインフレームを中心としたエンタープライズの減収が大きいが、北米でのサービスビジネス拡張により増収を見込んでいる」とした。

テクノロジーソリューション(サービス)の見通し
テクノロジーソリューション(システムプラットフォーム)の見通し

 ユビキタスソリューションは、富士通テンの事業売却があり、継続事業ベースでは、売上高が前年比0.9%減の6400億円、営業利益は同19.4%減の140億円。なお、これまで公表していたPCおよび携帯電話、モバイルウェアの売上高見通しを公表しなかった。

 「PCは、法人向けが伸長するが、個人向けは減少し、全体では横ばいになる。携帯電話は買い換えサイクルが長期化する影響で減収の計画としており、部材の調達コストの上昇も見込まれる」とした。

 デバイスソリューションは、売上高が前年比2.9%増の5600億円、営業利益は同229.1%増の140億円。そのうち、LSIの売上高は同2.0%増の2750億円、電子部品は同3.3%増の2850億円とした。

 「LSI、電子部品ともに、市場の低迷が2016年で底を打ち、回復と成長に向かっていくと予測している」と述べた。

ユビキタスソリューションの見通し
デバイスソリューションの見通し

 なお、レノボとのPC事業の統合については、「継続して協議を進めており、細部を詰めている段階にある。できるだけ早い最終合意を目指しているところだ」(富士通の田中社長)と発言。「将来にわたって、うまくいかないといけないと考えており、その点で詳細な詰めを行っている。(話し合いの経緯において)大きな問題があったというわけではない」などとした。

 また、同社では、業績連動型株式報酬制度の導入を検討していることを明らかにし、「役員報酬と中長期的な業績、株主価値を連動させ、経営において、株主の視点を一層重視する」(同)としたほか、「富士電機との株式持ち合い比率の見直しの過程で取得した自己株式を活用。AIやサイバーセキュリティの優秀なエンジニア人材を確保するための新たなインセンティブ制度の導入を検討している」と語った。