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Azure活用で大学の学び方・教え方改革に挑む――、静岡大学と日本マイクロソフトの取り組み

 国立大学法人静岡大学と日本マイクロソフトは8日、大学教育でのデジタルトランスフォーメーション推進で協力する覚書を締結した。

 静岡大学では教室外でも基礎的な学びを繰り返し行うことができる「反転授業」の研究を2012年から開始。教室外でも学ぶことができるよう授業を動画で配信するためのツール「反転授業支援システム(大学教育テレビジョン)」を開発した。今回、このシステムを日本マイクロソフトのMicrosoft Azure上で展開する「クラウド反転授業システム」として、4月から静岡大学全体で運用していく。

静岡大学の伊東幸宏学長(右)と日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏(左)が覚書にサイン
静岡大学と日本マイクロソフトの協力内容

いち大学内にとどまらないデジタルトランスフォーメーション実現につなげたい

 今回のシステムは、PowerPointのアドイン機能であるOffice Mixをベースとして構築したもの。PowerPointを操作できれば、新たにソフトの利用法を学ぶ必要がなく、映像編集ソフトを追加購入する必要もなく、カメラもパソコンのカメラを利用。放送用編集システムを導入して映像撮影をした場合、一回あたり5万円程度の料金がかかることから、2000科目×10動画を作成した場合、年間10億円かかることになるが、今回のシステムでは、すでにハードウェアやソフトウェアがそろっていれば、Azureの年間利用料金10万円程度に抑えられるという。

 手軽で、低価格で導入できることから、静岡大学の伊東幸宏学長は、「教室外でも学べる環境を整えるために、2012年から誰でも、低コストで動画発信するシステムの研究に取り組んできたが、いよいよ今年4月から本格運用をスタートする。この取り組みを社内で活用することで静岡大学のデジタルトランスフォーメーションを推進すると共に、他大学への提供も実施していく」と、静岡大学内にとどまらないデジタルトランスフォーメーション実現につなげたいと話す。

静岡大学の伊東幸宏学長

 日本マイクロソフトの代表取締役社長である平野拓也氏も、「反転授業をクラウドで展開する試みは日本初のものとなる。これを当社の文教担当営業20人と、当社のパートナーを介して全国の学校にアピールしたい」と、このシステムを全国に広げていく計画だ。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏

2018年問題に備えるために

 静岡大学が反転授業にこだわる背景には、「2018年問題」といわれる、大学入学者数の大幅減少がある。新入学生の数が減少する分をカバーするためには、留学生と社会人受入が不可欠となるが、留学生は日本語授業を全て理解できない、社会人は全授業に参加することが困難という課題を抱えている。その対策として、ICTを使って自宅など学校外で授業の予習、復習ができる反転学習を取り入れる。

 通常の学生に対しても、教室内ではディスカッションやディベート、実験など遠隔地では習得できない内容を学ぶ場としていくことで、教育の質向上につながると大学側では見ている。

反転学習とは

 ただし、反転授業を取り入れるためには、低コストで動画を作成できること、配信コストを抑えること、大容量となる動画データを低コストで保存することといった課題があった。

 今回、静岡大学と日本マイクロソフトが協力し、低コストで授業動画作成ができる仕組みが整い、長期的に協力していくことが決定したことから、発表を行うこととなった。

 反転授業支援システムを担当した静岡大学 教授 情報基盤センター センター長の井上春樹氏は、「2012年から約4年かけ1700本の動画を公開している。教員への負荷は増えるものの、パソコンのカメラだけでキレイな動画を作成し、SNS的に大学内で公開し利用してきた歴史がある」と2012年時点から動画作成、利用する機運を大学内で育ててきたと説明する。

 日本マイクロソフトでも、「教員のみなさんの教え方、学生さんの学び方改革を実現するために、マイクロソフトとしては、PowerPointを使ってもっと安く動画コンテンツの作成、編集が行える環境を提供。また、OneNoteを使って学び方改革推進を支援する。さらにOffice 365によって翻訳エンジンを使って音声や文字の翻訳を行い、多言語の学びの場を作るための支援も行っていくことができる」(日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏)と、テクノロジーを使ってデジタルトランスフォーメーションを支援していく。

静岡大学 教授 情報基盤センター センター長の井上春樹氏
日本マイクロソフト 執行役員常務 パブリックセクター担当の織田浩義氏

 学生向けにはOffice 365 Educationの活用を強化。OneNoteクラス ノートブックの運用をこの4月から始める。OneNoteについては、「教育現場では教員主導でOneNoteの導入が進んでおり、全世界221か国、150万人がOneNoteを利用している。学校向けのOneNoteクラス ノートブックを活用することで、学習のフレームワークを構築することが可能となり、デジタル化された授業を行っていくことができる」(日本マイクロソフト パブリックセクター 部長 田住一茂氏)と、教育現場での利用に適していることをアピールして、日本でも普及を進めているとした。

日本マイクロソフト パブリックセクター 部長 田住一茂氏

Office Mixを活用、授業風景をパソコンのカメラで撮影

 実際の仕組みとしては、PowerPointのアドインOffice Mixを活用して授業風景をパソコンカメラで撮影。「動画を提供する自信がない場合には、資料に音声だけを入れて投稿することも可能」(井上教授)となる。その動画をAzure上の「大学教育テレビジョン(SETV CMS)」に登録し、授業を受講している受講者だけが限定で視聴することができる。

Office Mixを使って会場で動画作成を実施
PowerPointを使ってアップロード

 2016年2月から2017年3月までの試験導入期間には、教員、学生合計して1650人が利用登録を行い、239科目、725の動画が公開されている。

 「目標値としては、2016年までには50%の授業が動画として公開されることを目標としている」(井上教授)。

 ただし、授業によっては動画公開に向き不向きがあり、「テキストが電子化されていないもの、例えば文学部の授業のようなものは動画化には適さないのではないか」と、井上教授は説明する。

 会見会場では今回の会見のプレゼン資料を教材代わりに利用し、動画を撮影し収録する様子も公開された。パソコンのカメラで動画撮影が行えるため、技術者でなくても動画の撮影を行い、編集作業を簡単に行えることが紹介された。

 動画コンテンツを授業で利用している留学生からは、「授業内容を繰り返し見ることができるのは便利だが、わからないことばがあるので、字幕機能が欲しい」と率直なリクエストがあがった。

 静岡大学側ではこうした声もふまえ、今後の展開として、(1)自動翻訳、ロボット、AI、BOTなどの新技術を積極的に採用するシステム進化、(2)費用がAzureの利用料金だけに抑えることが可能となることから、全国の他大学への展開、(3)Azureの活用を大学の基幹サーバー、事務用サーバーなどに拡大し、AI応用システムへの活用などを検討している。