セールスフォースに中小企業向け戦略を聞く~ITのプロではない経営者でも使えるサービスを


 株式会社セールスフォース・ドットコムでは、中小企業ユーザーを対象としたクラウドやソーシャルメディアの活用事例やソリューションを紹介する「Salesforce Solutions Roadshow 2012」を東京、大阪、名古屋で開催した。ユーザー向けイベントを多数開催する同社にとっても、中小企業ユーザーを対象とした大規模イベントは初めてのものとなる。「中小企業ユーザー」にフォーカスしたイベントを行う狙いはどこにあるのか? 同社の常務執行役員 コマーシャル営業本部長である福田康隆氏に聞いた。

 

Cloudforce 2011 Japanでも人気だった中小企業向けセッション

――「中小企業市場の開拓」というキーワードは、これまでも多くのITベンダーが掲げていますが?

常務執行役員 コマーシャル営業本部長の福田康隆氏

福田本部長
 日本に存在する企業数で見れば、中小企業と呼ばれるカテゴリーのお客さまが圧倒的に多いのはご存じの通りだと思います。当社でも中小企業のお客さま向けのビジネスが伸びています。具体的な数字は申し上げられませんが、対前年比で1.5倍と伸長しています。しかも、ポテンシャルが大きい。まだまだ伸びる余地があると思います。

――中小企業ユーザーを対象としたイベントを開催してきたそうですが、その狙いは?

 4月に、「Salesforce solutions Roadshow2012」というイベントを東京、大阪、名古屋の3カ所で開催しました。

 実はこれまで中小企業の皆さまを対象としたイベントは、小規模な懇親会を開催したことがありましたが、このイベントのような1000人、数百人規模のものは開催したことがなかったんです。

 しかし、昨年11月に開催したCloudforce 2011 Japanで、30分と短時間ではありましたが、中小企業向けセッションを開催したところ、大変好評でした。そこで実験的に今回のイベントを企画しました。集客も大変好調となりました。

――中小企業のユーザーさんをターゲットとしたイベントは、通常のイベントの内容と何か違いがあるのでしょうか?

 これは中小企業向けに特化したことではないのですが、極力、ITの専門用語は使わずに説明をする。例えば、「クラウド」ということばは何となく理解していただけても、「プライベートクラウドとは…」といったIT用語が前面に出た話となると、それだけで聞くことを拒否されてしまう方も多いと思います。そうした状況をかんがみて、例えば「Cloudforce」でも、ITの専門家よりは、ビジネスの方に登場いただいて、ビジネス寄りの話をするようにしています。

 中小企業のお客さま向けイベントでも同じ考え方をしています。4月に開催したイベントでは、実際にSalesforce製品を利用されているユーザー企業の方に登壇してもらい、ビジネス上での実体験をもとにしたお話をしていただきました。

 東京会場でお話しいただいた一人、株式会社ツルガの敦賀伸吾社長などは、講演経験も豊富でかなりお話もお上手です。内容もお父さまからネジ商社の仕事を受け継ぎ、苦労されていた中でSalesforceに出会い、自分自身の手でどう活用されて、ビジネスが上向きに転換することに役立てたのかを話していただいたので、当社の社員が製品の有用性をお話しするより説得力があると思います。

 

中小企業向けサービス「desk.com」買収でソリューションも拡充

 当社が中小企業のお客さま向けのビジネスを強化する要因はもうひとつあります。今年米国で中小企業のお客さまに特化したサービス「desnk.com」、EvernoteやDropboxのようにデバイスを飛び越えてデータを共有するサービス「do.com」を開始しました。

 いずれも米国でサービスがスタートしたばかりで、日本ではいつごろ、どんな形でサービスを提供するのかといったお話はできませんが、いずれかの段階で日本でも提供する予定です。

――これまでの製品ラインとは別に、中小企業に特化した製品を投入するということですか?

 desk.comは、IT管理者が全く存在しない企業でも、短期間で設定が可能な仕様となっています。FacebookやTwitterといった外部のSNSとも連携していますし、顧客管理、営業管理といった業務が自社に適した形で管理できるようになります。

 使いやすさという点では、タブレットやiPhoneといったハードウェアは、従来のパソコンよりも「使いやすさ」という点では大きな進化を遂げたと思います。ソフトウェアやサービスについても、同様の進化を遂げる必要があるでしょう。新製品はそれに合致したものとなります。

――製品面でも中小企業ユーザーに訴求できる製品が出てきたということですね?

 そうです。これまで以上に中小企業のお客さまに訴求できる製品が、さらに拡充されていくことになります。現状ではこれらの新しいサービスを、日本でどういった展開を行っていくのかといったことはお話しできませんが、中小企業のお客さまにとっては大きなプラスになるものだと思います。

――セールスフォース・ドットコムの製品ラインには、クラウドによる営業管理製品群、「Chatter」のように企業向けSNS製品群があります。最初に中小企業ユーザーに浸透していくのはどちらの製品ラインになるのでしょうか?

 当社としては「まず、こっちの製品群を注力する」といった区分けは全く考えていません。お客さまが必要だと思うものを導入していただければいいと思っています。

 とはいえ、私自身も以前は、「社員数10人、15人という企業のお客さまにChatterを導入する必要はないのではないか?」と考えていました。

 しかし、ある経営者の方にこんなことを言われました。「社員数が15人の会社だって、その日、社員がどんな仕事をしているのか、経営者としては把握したいが把握できない。少人数の企業であっても、社内情報の共有は必要です」と。

――経営者の方の指摘だけに重みがありますね。

 そうなんです。先ほどお話しした、ツルガの敦賀社長自身も、会社にいる時間が少なく、なかなか社員とのコミュニケーションがうまくとれないそうです。その問題を、Chatterを使うことでうまくカバーされています。

 社員とのコミュニケーションは、「メールでも十分にとれるのではないか?」という声もあります。しかし、実際にソーシャル上でやり取りすると、メールでは必要になる最初のあいさつといったものが必要ありません。思いついたことを端的に、ポンポン書けるので、必要な情報を短時間にやり取りできます。

 SBIモーゲージでは、社長が社内ブログで社員向けのメッセージを月に一回くらいの頻度で書かれていたそうです。「社内向けとはいえ、ブログを書くとなるとそれなりにしっかりしたことを書かなければいけない…」と構えていたそうですが、それをChatterに切り替えたところ、かなり気軽につぶやくことができる。その結果、社長からのメッセージはタイムリーに社内に伝わるようになったと聞いています。

――そうなると、メールやブログ、ホームページよりもChatterを使う方が社内のコミュニケーションは円滑にとれるということになりますか?

 いや、それぞれ使いやすい場面、使いにくい場面がありますから、併存していくものではあると思います。

 ただし、Chatterを導入した企業ではメールの量が7割程度減っているという調査もあります。メールは送る相手が限定されますから、送った相手しか内容を見ることができません。その方が都合がよい場合もありますが、「この問題はどうなっているのだろう?」という質問の場合は、答えを持っている人にメールが届くまで時間がかかる場合もあります。予想もしなかった相手から欲しい答えが返ってくることはメールではあり得ません。そういう新しいコミュニケーションが業務上でプラスになることが多いのだと思います。

 

ユーザー会で情報共有を推進

――Salesforceのサービスを使いこなすための「コツ」は、中小企業ユーザーの場合、どう学んでいけばよいのでしょうか?

 従来のソフトウェアは使いこなすために技術スキルが必要でした。しかし、Salesforceのサービスは、ITのプロではない経営者の方が社内に合うように設定することができます。

 ツルガの敦賀社長は、こちらが営業をかけたのではなく、ご自身で社内情報共有のためのCRMを検索して当社の製品に出会い、2週間で稼働されたそうです。新しいことを積極的に取り入れられるユーザーさんは勘がいいようで、ご自身で上手に導入されるケースが多いようです。

 しかも、敦賀社長は導入するだけにとどまらず、個人で経営の勉強のために学校に通われて、そこで学んだことを常に当てはめて、Salesforceにどう取り込むのか?といった試行錯誤の作業をされていました。自分の会社でどうサービスを活用するのか、その判断ができるのは社長など経営層の方ですから、そういう方がご自身で設定するのが適していると思います。

――ノウハウがない中小企業の経営者が、いきなり自分で設定を行うのは難しくないですか?

 基本的な設定に関しては当社側からサポートしていくことができると思います。経営に生かすためのノウハウについては、当社の社内に、「カスタマー・サクセス・マネージメント」という部門があります。当社の製品を活用したことで、お客さまがどう成功したのかノウハウを伺って、汎用的に生かすことができる部分については、了解を得た上で公開させていただく部署です。

 また、事例についてはYouTubeでビデオを公開し、それを見て学習していただくという取り組みもしています。

 ただ、経営に生かすという点についてはお客さま自身がやられた方がうまくいくというのが、これまでの経験でわかってきました。そこで鍵となるのがユーザーコミュニティです。

 ユーザーコミュニティは、営業という面でも大きな役割を果たすものです。中小企業のお客さまにすべてにわれわれが直接営業するわけにはいきません。そこでユーザーコミュニティから情報が発信されることで、新しいユーザー獲得につながりますし、ノウハウの学習の場としても重要です。

 ユーザーコミュニティの参加者同士のChatterによるコミュニケーションも行われています。

――ユーザーコミュニティの参加者数は?

 現在は600社、1200人が参加しています。大企業のお客さまだけでなく、中小企業のお客さまも数多く参加していただいています。

 ユーザーコミュニティがスタートしたのは東京からで、名古屋、大阪と拡大してきました。次は福岡に拡大していきます。地方での展開によって、地域の中小企業の方にも参加していただきやすい環境が整います。

 当社の営業拠点としても、地方拠点を拡大させています。地方のお客さまをフォローする体制を強化しています。各地方の成功している会社を紹介していくことで、中小企業のお客さまも拡大していくことになるでしょう。実直にお客さまの成功体験を増やしていきたいと思います。

関連情報
(三浦 優子)
2012/5/30 06:00