「Windows HPC ServerはLinuxと比べ明確な優位性が示せる」~米Microsoft
担当ジェネラルマネージャーのキリル・ファエノフ氏に聞く
Microsoftは、テクニカルコンピューティング向けオペレーティングシステムの最新版「Microsoft Windows HPC Server 2008 R2」を国内市場向けに出荷。それに対応したサーバー、ハードウェア製品、サービスが、パートナー各社から順次出荷されている。
第3世代となるWindows HPC Server 2008 R2は、数ノードクラスの中小規模環境から、数1000CPUコアを超える数100ノード以上の大規模環境まで対応可能なHPCプラットフォームと位置づけられるもので、米Microsoftのテクニカルコンピューティング担当ジェネラルマネージャーのキリル・ファエノフ氏は、「Windows HPC Server 2008 R2は、新たな機能として、Windows 7デスクトップグリッドや、Excel高速化といった特徴を持つ。教育・研究機関にとどまらず、産業界においてもさらに貢献するOSになる」と語る。
ファエノフ氏に同社のHPC事業戦略について聞いた。
■包括的なテクニカルコンピューティング環境を提供していく
米Microsoft テクニカルコンピューティング担当ジェネラルマネージャーのキリル・ファエノフ氏 |
――いよいよWindows HPC Server 2008 R2を搭載したサーバーやサービスが、パートナー各社から出荷されはじめました。今回の進化のポイントはどこにありますか。
ファエノフ氏:Microsoftは過去6年間にわたり、テクニカルコンピューティングへの取り組みを行ってきました。
かつては、HPCソリューションをデリバリするという点にフォーカスしてきましたが、ひとことでいえば、今回の製品では、包括的なテクニカルコンピューティング環境を提供していくことになります。
テクニカルコンピューティングを取り巻く環境を俯瞰(ふかん)すると、各種センサーによって生成される膨大なデータ、デジタルカメラやビデオカメラによる画像データの広がりなど、われわれの予測を超える勢いでデータが増大している。2010年には100万ペタバイト以上のデータが世の中に存在しているといわれています。
これらの膨大なデータが、高い性能を持ったコンピューティング能力によって分析され、しかも詳細で、正確な予測が可能になるという環境を生んでいる。天候の予測、新薬の開発、金融サービスでの活用など、活用範囲も多岐に広がっている。今回のWindows HPC Server 2008 R2は、こうした世界に対応したものだといえます。
東京工業大学が推進している次世代スーパーコンピュータシステム「TSUBAME2.0」にも、Microsoftが技術協力し、ここにもWindows HPC Server 2008 R2が採用されている。しかし、包括的なテクニカルコンピューティング環境の提供というのは、それだけにとどまりません。
Windows HPC Server 2008 R2は、第3世代のHPC向けOSだ |
――それはどんな点ですか。
Windows HPC Server 2008 R2では、Windows 7とHPCとを連携したグリッド・コンピューティングの活用により、企業において、休日・夜間に遊休リソースとなるWindows 7マシン群のCPUを、クラスタの一部として利用し、高度な演算能力を要する大規模タスクを集中的に実行できます。
これまでコストの観点からHPCの利用が難しかった企業でも、高度な演算ができるようになるほか、今後のアップデートではWindows Azureにも対応し、ここでもHPCとの連携によって、学術分野や研究機関のみならず、企業においてもHPCの利用を促進できる。科学技術のほか、自動車/航空宇宙、金融、製薬/バイオなどの領域にも活用範囲が広がることになります。
また、2008年に投入したWindows HPC Server 2008 R1から搭載しているExcelとの連携をさらに強化しており、既存資産とのシームレスなリンクによって、HPCの大衆化、あるいは民主化が実現します。Excelとの連携は、HPC Server 2008採用の大きな決め手となっている機能のひとつで、今回のExcel高速化によって、さらに日常業務に近いレベルにおいて、HPCが効力を発揮できる第一歩となります。
Linuxと比べても、Windows HPC Server 2008 R2の優位性を明確に示せるようになったといえるでしょう。
Windows HPC Server 2008 R2の強化点の目玉 | Windows 7搭載PCを計算ノードに活用できる |
■Linuxに比べて明確な優位性を示す
――具体的にはどんな点で優位性がありますか。
ひとつは、各種アプリケーションのベンチマークで、Linuxに勝る結果が出ているという点です。また、効率性やコスト削減といった点でもLinuxをしのぐものとなっている。Linuxに比べて、3~4割のコスト削減ができるという結果が出ています。
そして、Windows HPC Server 2008 R2において、見逃せないもうひとつの特徴が、Windows環境下におけるシームレスな展開です。スーパーコンピュータに関する特別なスキルセットを持っていなくても、既存のIT管理者の能力で管理し、HPCの能力をエンタープライズ全体に統合化できる。
開発環境はパラレル化が進み、より複雑化しています。そのなかで、Visual Studio 2010、.NETやC++といったツールがそのままWindows HPC Server 2008においても利用でき、しかもクラウドにもデリバリできる環境にある。パラレルな開発環境において利用するツールを十分に提供している点がMicrosoftの特徴といえます。ここで開発したものを、何百ものノードで構成される大規模なコンピューティング環境に提供していくことができる。
さらに、NVIDIAやインテルといった強力なパートナーとの連携も開発環境の整備に大きな威力を発揮しています。つまり、デスクトップからデータセンターに至るまで、Windows環境で構築できるというわけです。
Excelへの対応が大きな強化点の1つ |
さらに、先にも触れましたが、過去6年にわたる顧客からのフィードバックのなかで、やはりExcelへの対応は重要な要素となっています。HPCに関するプロジェクトにかかわっている人や、そこで、なにかしらの形で利用したり、恩恵を受けたりしている人は3億人にも達するといわれていますが、そのうち、8割がExcelを利用している。これは早い段階からこだわってきたものです。
Excel 2010のデスクトップの能力を、クラスタ環境の負荷を高めることなく展開でき、スプレッドシートも複数のコピーを同時に行い、これをクラウド環境にも広げることができる。
β版の利用者からは、「実に簡単に作業ができ、効率性が高い」という評価をもらっていますし、これらの機能によって、保険業界ではいままで10時間かかっていた作業が2分間に大幅に短縮できるという結果も出ています。
ただ、その一方で、Linuxと同じ土壌で比較していいいのかという見方もできます。LinuxはあくまでもOSのみの提供でしかないが、Windows HPC Serverの場合には、OSの機能だけではなく、スケジュール管理機能、クラウド連携機能、開発ツールの品ぞろえ、Excelとの連携といった特徴がある。このように包括的なHPCのビジョンを提供している企業は、Microsoft以外にはないといえます。
――ファエノフ氏がいう「大衆化」、「民主化」とはどんな点を指しますか。
もともとHPCは大変高額であり、この経済環境下では設備投資がしにくい状況にある。しかし、クラスタ機能により、Windows 7のデスクトップリソースをオンデマンド型で活用し、柔軟に能力を高めたり、縮小させたりすることができる。これをスケジュール機能によって、マウスを利用するだけで、どんな時間帯で使用するのかといったことも指定でき、またすぐに戻すことができる。
さらに、Windows Azureなどのクラウドリソースを活用することで、大規模で、高性能なIT環境を統合化でき、それをひとつのコンソールから簡単に管理できるようになる。こうしたことが、「大衆化」、「民主化」につながるといえます。
■科学技術計算の分野だけでなく、幅広い企業が利用できる環境を整える
――ひとことでいえば、Windows HPC Server 2008 R2は、なにかを目指して開発したものなのでしょうか。
もともとWindows HPC Server 2008 R1では、伝統的なHPCが利用される分野とは異なる金融業界に特化したユニークなHPCを提案し、その領域で高い評価を得た。この領域は、.NETやExcelが広く利用されている分野でもあり、Windowsの強みを生かせる分野であったともいえます。
また、アカデミック分野における小規模ノードなHPCとして採用してもらうといった動きもありました。さらに、自動車などの製造業での採用も相次いだ。つまり、これまでMicrosoftが取り組んできたのは、HPCをより多くの人に使っていただくために、敷居を引き下げるという役割だったということもできます。
科学技術計算の分野だけでなく、幅広い企業が利用できる環境を整えてきた。それを今回のWindows HPC Server 2008 R2でさらに加速することができ、HPCの民主化を進めることができたというわけです。IDCの調査によると、5割のスペシャリスト(科学者、エンジニア、デザイナー)は現状のワークステーションでは、計算に時間がかかりすぎるなど、性能面に問題があると指摘しています。
また、10%の人たちが、HPCのクラスタはリソース観点から使いにくいと言っている。本来は高性能のHPCを導入したいが、それができないという人たちがかなり多いのが実態です。そうした人たちに対して、Microsoftは、優れたHPC環境を、低コストで提供することができたと考えています。
もちろん、Windows HPC Server 2008 R1では、まだまだやり残したこともあった。この点をWindows HPC Server 2008 R2で強化しています。
■性能や効率性など3つの点を強化
――どんな点が強化されたことになりますか。
Windows HPC Server 2008 R2では、大きく3つの進化を遂げたといえます。
ひとつは、継続的に高性能を追求した点。これまでのOSでも拡張性は実現してきたが、性能という点では、Linuxをリードするところにまでは至っていなかった。それに対して、Windows HPC Server 2008 R2は、ワールドクラスの性能を実現できたと自負している。
2つ目には、大規模な環境において、効率性を高めていくという点。最初の製品では、64ノードが限界だったものが、それが機能強化により256ノードになり、今回のWindows HPC Server 2008 R2では1000ノードにまで拡張し、より能力を高めることができるようになった。
そして3つ目には、簡単にパラレルでの開発環境を構築できるという点です。Excelへの対応を強化したことで、より多くのユーザーがHPCに携わることができる環境ができあがったといえます。ただし、この進化はこれからも止まりません。
――どんな進化を遂げますか。
Windows HPC Server 2008 R2によって実現した高性能、スケーラブル、低コスト、クラウド活用といった特長を生かしながら、次のステップでは、データの集約性をより高めていくことになる。.NETを使って分析ができるなど、Windowsが持つインフラを活用するメリットを生かしていきたいですね。
――日本のユーザーにとって注目すべき機能はありますか。
日本のユーザーは、リソースの効率活用に対して注目していることを強く感じます。その点で、既存のデスクトップ資産や、クラウドを柔軟に活用できるWindows環境を生かせるWindows HPC Server 2008 R2の機能は、日本のユーザーにとって、大きなベネフィットを提供できると考えています。
例えば、TSUBAME2.0で実現するワットあたりのパフォーマンスの高さ、環境性能の高さについては、Windows HPC Server 2008 R2も大きく貢献しています。
また、性能の高さ、信頼性の高さという観点においても、日本のユーザーが求めるものになったのではないでしょうか。もともと、Windows HPC Serverは、英語以外では、日本語だけローカライズしていた。Windows HPC Server 2008 R2では中国語にも展開していますが、日本市場を強く意識し、いち早く提供するという姿勢はまったく変わっていません。
日本の数多くの優良企業に、Windows HPC Server 2008 R2を導入してもらえることを期待しています。