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日本マイクロソフト FEST2015 2日目の基調講演は自社テクノロジーによる企業変革を紹介
(2015/9/4 09:17)
9月3日、日本マイクロソフトはプライベートイベント「FEST2015」を開催した。初日はパートナー企業を対象に基調講演、セッションが行われたが、2日目は企業のエンドユーザーを対象。基調講演は、「企業に求められるビジネス変革とは。ITで何を変え、何を始めなければならないか?」をテーマに行われた。
3つの注力ポイント
講演の冒頭、日本マイクロソフト 代表執行役社長である平野拓也氏はサティア・ナデラ氏が米MicrosoftのCEOに就任以来、マイクロソフトが大きく変化していることを強調し、「会社として守りに入り、Windowsプラットフォームに閉じていた部分があった。これが大きく変わっている。戦略、オペレーション、組織とどんどん変わっている。一部のお客さまからは、『使いしかないから使っている』という指摘を受けていたが、喜んで使ってもらえるソフトウェア、デバイス、サービスを提供する企業となることを目指している」とマイクロソフト製品のファンを増やしていきたいという意向をアピールした。
その上でマイクロソフトの注力ポイントである、1)プロダクティビティとビジネスプロセス=ワークスタイル変革のリーディングカンパニー、2)Windows 10+デバイス=革新的なパーソナルコンピューティング体験、3)インテリジェントクラウド=コネクテッドワールドのデファクトプラットフォームという3点について、事例を交えて紹介した。
プロダクティビティとビジネスプロセスについては、「大きな助っ人となるプロダクトの日本での販売が決定した」とSurface Hubを紹介した。そして初期導入ユーザーとして、日本航空の事例を紹介した。
日本航空では、羽田空港の航空機整備業務の整備士配置、進ちょく管理をホワイトボードで実施してきた。
「整備管理システム自身はIT化されているものの、複数台の航空機整備を同時進行する必要がある羽田空港の場合、工程管理はホワイトボードを使い、ベテラン社員のノウハウによって工程組、整備士の配備を行ってきた。これはスケジュール通りに作業を進める必要があるうえ、作業員の教育といった側面も加味しなければならず、ベテラン社員のノウハウが必要になることが要因となっている」(日本航空株式会社 整備副本部長兼株式会社JALエンジニアリング 常務執行役員 北田裕一氏)。
ホワイトボードは細かな応用が利くといったメリットはあるものの、記載した内容がデータとして蓄積されない、ほかの場所で確認ができないといったデメリットがあった。
「アナログの良さ、デジタルの良さの両立ができるものはないか、課題解決を模索していたところ、Surface Hubを利用することで両立が可能になるのではないかと考えた」(北田氏)。
日本航空のアプリケーションとSurface Hubの実機は、FEST2015のEXPO会場に展示され、紹介されている。
Windows 10+デバイスとしては、Windows 10の導入状況を紹介。先日発表されたWindows 10が1カ月で7500万台導入という実績について、「当初見込みよりも速いテンポで導入が進んでいる」(平野氏)と評価した。
法人の導入についても、株式会社セブン&アイ・ホールディングスがWindows 10とSurface 3を200台、先行導入した。導入意向表明している企業としても、大和ハウス工業株式会社、株式会社ベネッセホールディングスが名乗りをあげている。
インテリジェントクラウドへの取組としては、Machine Learningの事例を紹介。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構、日本マイクロソフト自身が開発した人工知能 女子高生「りんな」が紹介された。LINE上に公開された「りんな」には130万人が登録。「1日1万人ペースで参加者が増加する大人気となっている」と実績としても好調な推移となっていると説明した。
ITが競合との差別化を後押しする
続けて、代表執行役会長である樋口泰行氏が登壇。「経営環境は大きく変化し、競合との差別化を実現するためにはITが重要な要素となっている」と経営におけるITの重要性をアピールした。そしてそれを実践する企業事例として、コニカミノルタ株式会社の取締役 代表執行役社長 山名昌衛氏、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 代表取締役社長兼CEO 増田宗昭氏の2人からのビデオメッセージを紹介した。コニカミノルタは「トランスフォーム」を掲げた中期経営計画の実現、CCCは「企画会社として世の中を面白くする」と目指す中身は異なるものの、経営目標実現に向けITが重要なキーとなっている点では共通。IT部門だけでなく、経営トップ自身がITの重要性を強くアピールする時代となっていることを実感させるビデオメッセージとなった。
樋口氏はこれを受け、「会社によってはITが経営そのものを担うものとなっている。これに対応するためには、IT人材を社内にもって競争力をつけることがひとつの方向になっている。その一方で、コモディティ化したITについては外だしをする。ITが競合との差別化を後押しする」と経営に欠かせないことを強調した。
これに続き、樋口氏は日本郵便株式会社の事例を紹介した。日本郵便では法人営業の営業支援システムを刷新した。
「従来の営業支援システムは、使いにくかった。もっと発展的な使い方ができるものはないかを検討していたところ、日本マイクロソフトから提案をもらった」(日本郵便株式会社 常務執行役員 白土惠一氏)。
新システムは社内情報を共有し、さまざまな角度からデータを分析し、営業支援システムを使ってより深く顧客を理解するという3段階のシステムとなっている。その声を反映した新サービスを開発した結果として、2012年度、13年度、14年度の3年間の戦略商品における新規案件成約額と成約率を公開。成約額は毎年13%を超える成長となっている。
「従来はITが先行し、それを使う人は隠れていた。しかし、新しいシステムではITを使っていかに最大結果を引き出すことができるかを挑戦するものとなっている。ビジネス部門が戦略的にITを使っていくためには、数字だけではなくお客さまの声を取り入れ、そこに人間のマネジメント力をつけていくことではないか」(白土氏)と結果を説明した。
Office 365は日本の企業ユーザーにも浸透
Officeについては、米Microsoft Corporate Vice President Apps and Services GTM MarketingのJohn Case氏(ジョン・ケース氏)が登壇し、最新動向について説明した。
Office 365は日本の企業ユーザーにも浸透し、その代表的ユーザーとしてヤフー株式会社の代表取締役社長 宮坂学氏、株式会社資生堂の代表取締役執行役員社長CEOの魚谷雅彦氏、株式会社日立製作所の代表執行役 執行役副社長の岩田眞次郎氏の3人がビデオメッセージを寄せた。
ヤフーではクラウドの進展が社外で仕事可能としたことで、空間から開放された働き方が可能になった。資生堂では組織のフラット化を進め、コミュニケーションを活性化し、経営意思決定が変化を生かしていく状況を作ろうとしていると説明した。日立では海外売り上げが50%を超え、日本人以外の社員が増加する環境変化にクラウドが最適であると説明した。3社とも状況は異なるが、クラウドであるOffice 365が経営にプラスとなる効果を生み出している。
マイクロソフト側でもコミュニケーション、コラボレーションを大きく変え、データを活用しやすい状況を作るなどのOffice、さらにクラウド側の連携でデータ活用、コミュニケーションに変化を起こそうとしている。そのひとつの例がDelveだ。Office 365を使ってチームでやりとりを行っている経緯をクラウド側でトラッキングし、そのユーザーがどんなつながりを持ち、どんな働き方をしているのかを分析する。その上で、その人にとって必要な情報を示し、活用を促す。
こうしたクラウドとの連携によって、活用に付加価値をもたらすのは現在、開発が進んでいる「Excel 2016」にも付加される。クライアント側のデータ、クラウドの将来予測をプラスすることで、予測分析を自動的に行う。
「こうしたクラウドとクライアント側の連携によって、そのユーザーに最適なデータ加工を行うといった機能はこれから続々と展開していく計画だ。単にデータから学ぶだけでなく、パーソナライズ化することで利用者に最適なものとしていく」(ケース氏)。
また、ケース氏は講演終了後に行われた報道陣向けセッションで、Office 365とともにパッケージソフト版のOfficeも、「ユーザーから要望がある限り、販売は続ける」と説明した。
Office 365のように機能が常にアップグレードされることで、企業では操作教育が統一されないといった課題を生むことになるが、「IT部門の担当者が先行して新機能を利用し、確認して教育を行う体制ができてから新機能を付加するよう情報公開は以前以上に徹底する。さらに、IT部門の検証期間を設け、その後に全社展開するという方式を提案している。この方法を多くの企業が採用していくのではないか」とコンシューマユーザー版とは異なる導入方法が企業には適しているとの認識を示した。
Window 10は効率的に多くのことを実現できる
Windows 10については、米Microsoft General Manager Windows Brand&Product MarketingのJeremy Korst氏(ジェレミー・コースト氏)が登壇。
「Windows 10が高いモメンタムを持つ理由のひとつは、効率的に多くのことを実現できるから、思い通りの操作が可能。タッチの操作、ペン、マウスと選択が可能で、新しいブラウザEdgeはブラウザ上にメモを取ることができる」。
セキュリティについても、Windows Hello、Microsoft Passportといったパスワード以外のログイン方法の提案。さらに機密データの保護、信頼できるソフトウェアのみを実行など、企業にとって不可欠なセキュリティ強化が行われたことが紹介された。
操作についても、「戻してほしいという声が多かったスタートボタンが復活した。また、操作やアプリを探す場合には、タスクバーに設けられた検索機能を使ってほしいものを探せる」と操作は単にスタートボタンが復活しただけにとどまらない進化を遂げたと説明した。
また、Microsoft Hololensを建築シミュレーションに活用している米国の事業者の例を紹介。新しい技術が業務に大きな影響を及ぼすことを紹介した。
最後にインテリジェントクラウドの事例を日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 業務執行役員 本部長の佐藤久氏が紹介した。
富士通では牛専用の歩数計を開発し、その動きから発情期を予測。人工授精のタイミングを最適化したことで、子牛の誕生率を向上させている。
竹中工務店では次世代建物管理システムを構築し、社内の経験、ノウハウをクラウドを使ってさらに新しいビジネスを生むために活用している。
また、株式会社イントロンワークスは自然文を使って、判例、法律を検索できるクラウドサービスを構築した。登壇したイントロンワークス 専務取締役 新規事業開発担当役員 常間地悟氏に佐藤氏は次のような質問を投げかけた。「クラウドサービスは当社以外のものもあるが、当社を選択した理由はどこにあるのか?」
これに対する常間地氏の答えは、「当社の提供するサービスを利用するのは、法律業界という大変堅い業界。大企業に信頼が厚いマイクロソフトを選択した。サポートが充実していることも選択ポイントとなった。自分たちと同じようにベンチャー企業でクラウドサービスを検討しているのであれば、データ解析、分析といった用途であれば、外部データに日々アクセスし、活用できることがクラウドの大きなメリット。オンプレミスか、クラウドかの比較ではなく、オープンデータを活用するといった点で考えるべきではないか」というものとなった。