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LinuxConとCloudOpenが20日より開幕、OpenDaylightなどSDNやクラウド寄りのテーマも
(2014/5/21 06:00)
Linuxの開発者が集まる世界的な技術カンファレンス「LinuxCon Japan 2014」が5月20日に開幕した。主催はThe Linux Foundation(LF)。今年は、同じくLFによるクラウド技術に関するカンファレンス「CloudOpen Japan 2014」と合同での開催となる。
東京の椿山荘で22日まで開催される。公式言語は英語。21日には、Linuxの生みの親であるLinus Torvalds氏も対談形式で登場する。
初日となる20日は、The Linux FoundationによるSDN(Software Defined Networking)のプロジェクトに関する「OpenDaylight Mini-Summit」や、Red Hatの分散ストレージ技術に関する「Gluster Community Day」もイベント内で開催され、個別のセッションにおいてもクラウドやSDN寄りのテーマの発表が多く見られた。
「ソフトウェアがテクノロジーを飲み込み、オープンソースがソフトウェアを飲み込む」
初日の20日には、CloudOpen枠で基調講演が開かれた。The Linux FoundationのエグゼクティブディレクターのJim Zemlin氏を先頭に、OpenDaylight ProjectのエグゼクティブディレクターのNeela Jacques氏、Apache Software FoundationのエグゼクティブバイスプレジデントのRich Bowen氏と、それぞれの組織を運営する3人が、自分たちの組織のやりかたなどについて語った。
最初に登壇したThe Linux Foundation(LF)のJim Zemlin氏は、LFに関する2014年のアップデートとして、Linuxカーネル以外にもいろいろなプロジェクトがLFで起こっていると語った。
Zemlin氏はまず、SDN技術の「OpenDaylight」を紹介し、ハードウェアをソフトウェアに抽象化するものの一つだと語った。続いて、Internet of Things(IoT)の「AllSeen Alliance」を紹介。「皿洗い機がガレージと話すようになる。それがうれしいかどうかは別だが」とジョークをまじえて説明した。なお、AllSeen Allianceには日本からパナソニックが参加している。
続いてMITとハーバード大学の創設したMOOC(オンライン講座)「edX」とのパートナーシップにより、世界中で受講できる「Linux Fundamentals」プログラムを開始することを紹介した(8月開始予定)。すでに15万人が登録したという。
さらに、車載用Linuxのための「Automotive Grade Linux」や、Heartbleedバグ問題への対応のような重大なプロジェクトを支援する「Core Infrastructure Initiative」についても紹介。「LFが大規模なコラボレーションのホームとなりつつある」と語った。
Zemlin氏はこうした動きから、今起きている3つの大きなトレンドとして、「ハードがコモディティ化して機能がソフトウェアに抽象化されている」「ソフトもコモディティ化して、オープンソースソフトの活用が隆盛となっている」「才能のあるソフトウェア開発者の獲得が競争となっており、シリコンバレーでは非常に高い給与が支払われている」ことを挙げた。
続いてZemlin氏は、「世界トップ10のテクノロジー企業は、(合計)634億ドル以上をR&D(研究開発)に費やしている」と数字を挙げ、LFに参加している企業を出しながら、「外部のR&Dを利用すれば、R&Dの資金をより自社のコアな部分に使え、開発元との協力によりより早い製品化ができるようになり、人材を引きつけることにもなる」と主張した。
最後にZemlin氏は、LFのようにさまざまな“Foundation”が生まれていることを紹介。そのような時代の技術系企業に必要な新しいスキルとして、ベストなオープンソースソフトを選ぶなどの「Strategic Analysis」、オープンソースライセンスを理解する「Intellectual Property」、コミュニティと共同開発する「Development Process」、コミュニティとビジネスをつなげる「Business Process」の4つを提唱した。
そして、Mark Andreesen氏の言葉をもじった「Software is eating the technology industry. Open Source is eating the software industry.(ソフトウェアがテクノロジー産業を飲み込んでいる。そしてオープンソースがソフトウェア産業を飲み込んでいる)」という言葉を掲げ、「You need to be ready(それに備えよう)」と呼びかけて講演を終えた。
「OpenDaylightはSDNの相互運用性のため」
続いて、Zemlin氏の「OpenDaylight Projectで私と同じような立場の人」との紹介により、OpenDaylight ProjectのNeela Jacques氏が登壇。スタートからちょうど1年たったOpenDaylight Projectの役割について、相互運用性の重要性を中心に説明した。
Jacques氏はSDNの現状について、「ユーザーの9割は、2年以内に採用することはない」と指摘。その理由として、オーバレイネットワークやホワイトボックススイッチ、プロトコル、コントローラへのノースバウンドAPIなど、さまざまな部分で議論が活発で、「競馬で勝馬を選ぶような状態。ユーザーはどれが勝つか待っている」とユーモアをまじえて述べた。
そして、「OpenDaylight Projectは、オープンソースでこの課題を解決しようとしている」と説明。「プロプライエタリのソリューションが不要というつもりはない。ベンダーによるプラットフォームを求める声にも応える。業界のプレイヤー各社がよりよく戦えるように、コラボレーションによって集まる機会を提供する」と語った。
現在、SDNコントローラを中心に、NFV(Network Function Virtualization)も扱っている。現在、約180人の開発者がおり、多くの企業がプラチナスポンサーとして参加しているという。
OpenDaylight Projectの重要性についてJacques氏は、ネットワークは相互につながる必要があることを指摘。「1社のコントロールは望ましくない、共通のプラットフォームに参加するという考えが広がっている」と語った。また、プロジェクトの意思決定について、「私が一人で決定するわけではない。大きな企業から、小さな企業、エンドユーザー、大学まで含むコミュニティに決定を求めている」と説明した。
また、2月にリリースされた最初のリリース「Hydrogen」のアーキテクチャを説明。その特徴として、ネットワーク機器による転送を制御するサウスバンドAPIとして、OpenFlowをはじめとしてさまざまな技術に対応するために、Service Abstraction Layer(SAL)を設けて抽象化していることが重要だと力説した。
Linuxコミュニティとも違う「The Apache Way」とは
Apache Software Foundation(ASF)のRich Bowen氏は、「The Apache Way」と題して、The Linux Foundationとも違うASFの組織運営について語った。
ASFのルーツは、1990年代のApache Webサーバーの開発に遡る。このとき、テクニカルリードの人を決めずに8人のメンバーが平等に分担していた考えが現在も続いており、「そこが、Linus Tovalds氏というテクニカルリードがいるLinuxと違うところ」だとBowen氏は語った。
やがてASFという組織を設立し、149のプロジェクトや約3500人の開発者などを抱える。CloudStackやCassandra、Hadoop、SpamAssassinなどもASFのプロジェクトだ。組織として特徴的なのが、メンバーはすべて個人会員で、法人会員は設けていないことだ(企業スポンサーは設けている)。また、プロジェクトの活動はプロジェクト自身がすべての責任を持ち、ASFはコードには権限をまったく持たないという。
また、現在34のインキュベーションプロジェクト(正式プロジェクトへのふ化に向けた活動中のプロジェクト)があり、「企業が手放したプロジェクトなども活動が続いていく」と紹介した。
タイトルでもある「The Apache Way」の指すものとして、Bowen氏は、メリットを中心に考える「ベストなアイデアに決める」、決定に3人の合意が必要な「合意ベースの意思決定」、世界から参加する「コラボレーションによる開発」、「個人の参加」を挙げた。
また、Bowen氏はコード中心に動いていることからその大切さをふまえた上で、「コミュニティのほうがコードよりもっと大事。コミュニティが破壊的になると開発者が去ってしまう」と主張した。
そのほか、法務や資金調達、イベント運営などASFにおける開発者以外の仕事も紹介し、それらがほぼボランティアベースで動いていることをBowen氏は説明。さらにドキュメント作成やメンターシップなどさまざまな参加方法があることを紹介した。
最近のクラウド関連トピックに関するパネルディスカッション
基調講演の最後に、クラウドと仮想化の分野のパネルディスカッション「Virtualization + Open Cloud Panel」が開かれた。Linuxの仮想化技術のFernando Luis Vazquez Cao氏(NTT)をモデレーターに、仮想マシン操作API「libvirt」のDaniel Veillard氏(Red Hat)、HP CloudのBruno Cornec氏(HP)、CloudStackのDavid Nalley氏(Citrix)、構成管理ツール「Puppet」のNigel Kersten氏(Puppet Labs)と、さまざまなバックグラウンドのパネリストが、クラウドと仮想化の話題について和やかに話しあった。
最初のテーマとして出たのは、最近話題になったという「ハイパーバイザーは死んだ、これからはコンテナーだ」という議論だ。これについては全員が、コンテナーとハイパーバイザーはそれぞれ役割が違う、とってかわるものではない、という意見だった。
この議論の背景として、コンテナー管理ツールの「Docker」が注目を浴びていることがある。Dockerは何がよいのか、というテーマについては、「ロゴがよかった」といった冗談をまじえながら、ファイルシステムを重ねる技術をうまく使っていることによる利便性、シンプルな使い勝手、仮想化の側からアプリケーションの側に視点をひっくり返した点などが指摘された。
さらに、Dockerにより構成管理ツールは死んだか、というCao氏の意地悪な質問に対して、PuppetのKersten氏は「オーケストレーションなど、考え方は変わるかもしれないが、構成管理ツールはこれからも必要となる」と答えた。そこから話は、PaaSの標準化がされていおらず、応急処置として構成管理ツールが使われているのではという意見から、さらに標準化の是非に議論が進んだ。
そのほか、誰もがセキュリティが大事だというが、パフォーマンスを犠牲にするとなるとセキュリティの要件が負ける、という話題では、「みんな動くことが大事で、セキュリティについては問題が起きてから対応することになりがち」「SELinuxは嫌っている人が多く、よく批判される」といった話も出された。
会場からの質問を契機に、DockerのAPIが変更されることが、Red HatなどがDockerを長期間サポートするときにどうなるかという議論もなされた。これについては、LinuxコミュニティとDockerコミュニティの距離や、互換性と新しい機能のトレードオフに対する開発コミュニティの考えなどについて意見が出された。