【Citrix Synergy基調講演レポート】Ciscoとの関係強化は何をもたらすか?

CitrixとCiscoが緊密な連携を発表、CiscoはNetScalerを推奨ADCに位置付け


 米Citrix Systems(以下、Citrix)は10月17~19日の3日間、スペインのバルセロナでCitrix Synergy 2012 Barcelonaを開催中だ。もともとは毎年1回米国で開催していたイベントのEU圏版で、EU圏での開催は今回が3回目、バルセロナでの開催は前回に続いて2回目となる。今回の最大のニュースは、米Cisco Systems(以下、Cisco)とのパートナーシップの強化に関するもので、クラウドネットワーキングの分野での両社の存在感が一気に高まった感がある。

 

CitrixとCiscoのパートナーシップ

基調講演を行うCitrix Systemsのマーク・テンプルトンCEO

 両社の戦略的提携関係は、ちょうど1年前、まずデスクトップ仮想化の分野で成立した。この際には、Citrix HDXによる高品位の仮想デスクトップ配信を支えるネットワークインフラとしてCiscoのネットワーク製品などを活用する、という内容の発表が行われたが、データセンターソリューションやクラウド技術に関しても言及されていた。

 今回の発表は主にCitrixのNetScalerを対象としたもので、今後CiscoはNetScalerを推奨ADC(Application Delivery Controller、いわゆるロードバランサー)と位置づけていく。従来Ciscoでは自社製品として「Cisco ACE(Application Control Engine)」を擁し、ADCとして提供してきたが、ACEの今後の開発は行われない。従来のACEユーザーに対するサポートは継続されるが、今後はCitrix NetScalerを推奨していくという形だ。

 さらに将来的には、NetScalerのソフトウェア実装版をCiscoのスイッチ製品のモジュールとして統合していくことも想定されているようだ。

 今回の発表は、単にADC製品に関するニュースと言うだけではなく、仮想化インフラ/クラウドプラットフォームという観点からも大きな注目を集めている。この分野でCitrixと競合していると見られているVMwareは、EMCとともに“VCE連合”を結成し、この3社の製品の組み合わせによる仮想化プラットフォームを推進してきたためだ。

 ちなみに、VCEは「Virtual Computing Environment:仮想コンピューティング環境」の頭文字とされているが、「VMware,Cisco,EMC」の頭文字でもあるだろう。

 一方で、VMwareがネットワーク仮想化/SDNで注目されたNiciraを買収して独自のネットワーク仮想化ソリューションを獲得したことで、Ciscoのネットワーク仮想化戦略との整合性、さらには両社のパートナーシップのあり方に変化があるのではないか、と見られてきた。このことと関連づけるなら、今回の発表はCiscoが従来のスタンスを変化させ、VMwareとCitrixの両方とバランスよく付き合っていく方針に転じた、と見ることもできるだろう。


両社の提携発表を受けて登壇した、Cisco SystemsのChief Technology&Strategy Officer、パドマズリー・ウォリア氏

 ただし、Citrix Synergy 2012 Barcelonaの初日の基調講演に登壇し、Ciscoの立場を説明した同社のChief Technology&Strategy Officerのパドマズリー・ウォリア氏は、VMwareとの関係悪化ではなく、ネットワーキングの視点から顧客が必要とするプラットフォームすべてをサポートしていく取り組みの一環だと説明している。

 同様にCitrixのマーク・テンプルトンCEOは、VMwareについて「デスクトップ仮想化の分野ではVMwareと競合しているが、クラウドネットワークの分野はCitrixが大きくリードしており、競合すらしていない状況だ」と語り、強い自信を見せている。

 VMwareも8月に開催されたVMworld 2012では“Software-Defined Datacenter”というコンセプトを前面に打ち出すとともに、自社プラットフォームのみに限定されず幅広い仮想化プラットフォームをサポートしていく“Multi-Cloud World”というメッセージを打ち出してきているのだが、現状、まだこの分野ではCitrixのほうが優位だという認識だろう。


ウォリアー氏のプレゼンテーションの中の1枚。今後さらに関係強化が予定されるが、まず最初のフェーズとしてCiscoはNetScalerをユーザーに推奨(Reference-sell)していく。自社製品であったACEの今後の開発は停止されたが、既存ユーザーに対するサポートは継続される

 

CitrixとVMware、両方のサポートを迫られているCisco

 今回のCitrixとCiscoの関係強化を、VMwareのNicira買収に始まる一連の状況の変化の流れの中に位置づけるのが適切かどうかはまだわからないが、エンタープライズ分野に強いVMwareと、サービスプロバイダやクラウド事業者に支持されているCitrixの両方をサポートする必要がある、というCiscoの説明はそれ自体では素直に理解できるものだ。

 さらに、Ciscoのネットワーク仮想化への取り組みでは、OpenFlowが目指した「コントロールプレーンとデータプレーンの分離」だけでは別の種類の複雑性が増すことになるため、全レイヤに対してプログラマブルなインターフェイス(API)を提供することで自動化を実現していく必要があると強調している。

 そしてその中では、ロードバランサやファイアウォールといった機能をすべてソフトウェアとして取り込み、動的な構成変更を可能にしていくことが目指されている。

 マルチテナント対応ソフトウェア・アプライアンスとして提供されるNetScaler SDXの存在は、こうした用途からするとまさに最適な選択だといえるため、VMware抜きでもCitrixとCiscoの提携は実現したはずだと見ることもできそうだ。

 なお、Citrix関係者によれば、同社のテンプルトンCEOはこれまで基調講演の中でゲストを招くことはあっても、ゲストに完全にステージを任せてしまうことはなかったという。

 今回、Ciscoのウォリアー氏は10分程度とはいえ完全にステージを譲られた形になっており、こうした形をとったこと自体が、Citrixがこの提携をいかに重要なものと位置づけているかの表れだという。

 今後のクラウド環境の成熟の過程で、両社の関係がデスクトップ仮想化やNetScalerといった製品単位にとどまることはなく、より広範で緊密な連携につながっていくことは間違いなさそうだ。

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(渡邉 利和)
2012/10/18 15:16