プラットフォームカンパニーとしての発信を強化

~米salesforce.comのケンダル・コリンズCMOに聞く


 「salesforce.comは、プラットフォームカンパニーへと移行した。もはや、アプリケーションカンパニーという言葉は似合わない」――。米salesforce.comのチームマーケティングオフィサー(CMO)のケンダル・コリンズ氏はそう切り出す。

 米salesforce.comが、カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニセンターで開催している「Dreamforce 2010」で発表した新製品は、salesforce.comのポジションそのものを変えるものになったと強調する。これらの発表によって、salesforce.comのマーケティング戦略はどう変化するのか。コリンズ氏に話を聞いた。なお、インタビューは共同で行われた。

 

salesforce.comと他社との「プラットフォームカンパニー」の違い

――salesforce.comが掲げる「プラットフォームカンパニー」と、他社がいうプラットフォームカンパニーとは、どこが異なるのですか。

米salesforce.comのCMO、ケンダル・コリンズ氏

コリンズ氏:私たちがいうプラットフォームカンパニーとは、新たなアプリケーションを構築すること、そして、そのための機能を提供できることを指します。パートナーや顧客は、Force.comを使ってもらえれば、新たなアプリケーションを、速くて、オープンで、しかも完全なものが構築できる。今回の一連の発表は、salesforce.comにとっては、大きなターニングポイントになります。

 これまでにも顧客は、何百、何千ものカスタマーアプリケーションを開発してきた。しかし、今回の発表では、Webサイトの構築や、Rubyを使ったアプリケーションの構築を支援することができるようになる。しかも、それが顧客、パートナーに信頼してもらえるものとして提供できる。

 その点でも、salesforce.comには、もはや、アプリケーションカンパニーという言い方はあわない。当社の位置づけは、明確にプラットフォームカンパニーへと移行しています。

――プラットフォームカンパニーとして、今後、どんなマーケティングメッセージを発信することになりますか。

 Google、Amazon、Oracleいった企業も、自分たちをプラットフォームカンパニーだという言い方をしますが、どの会社もオープンな形ではない。また、クラウドのためのプラットフォームを提供しているわけではいこと、顧客に信頼されているプラットフォームを提供しているわけではないともいえる。もちろん、GoogleやAmazonはクラウドに最適なプラットフォームだという人もいるでしょう。しかし、エンタープライズの観点から信頼できるものではありません。MicrosoftやOracleは、エンタープライズの領域からは信頼できるとしても、クラウド・コンピューティングと言い切れるものではない。10年古いプラットフォームで展開しているものです。

 

クラウド・コンピューティングには、はっきりとしたルールがある

――競合他社は、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドというようにいくつものクラウドの形を提案していますね。

 それは、むしろクラウドの意味を紛らわしくしようとしているようにしか見えません。実際のところ、MicrosoftやOracleは、ハードウェアやソフトウェアから多大な利益を得ている。Oracleは、Exadataをクラウドだといいますが、ハードウェアに何百万ドルも投資するというのは、とてもクラウドとはいえません。

 私たちが信じているのは、クラウド・コンピューティングにははっきりしたひとつのルールがあるということです。鍵となるのは、マルチテナンシーであること、拡張性や互換性を持つこと、そしてリアルタイムであるということです。また、二酸化炭素の排出量を削減できるという効果ももたらす。こうしたことを実現できるのが、真のクラウド・コンピューティングであるといえます。

――Dreamforce 2010の基調講演でもそうでしたが、米国では、MicrosoftやOracleなどを意識した発言が相次いでいます。日本の市場では競合他社と比較するようなメッセージは受け入れにくい土壌がありますが、そのあたりはどう考えていますか。

 競合とされる製品と直接比較する必要はないと考えています。顧客にとって、意味のあるものはなにかという本質的な部分でメッセージを伝えたい。顧客が望んでいる価値は、スピードであり、拡張性であり、効率性、そして環境にやさしいという点。このメッセージが伝わるのであれば、MicrosoftやOracleと比較する必要はありません。

 実際に、それが認められているからこそ、日本郵政や損保ジャパン、AIGエジソン生命保険といった日本の企業がセールスフォースを採用している。もちろん、導入の際には、検討材料として、他社製品と比較をするでしょう。しかし、それをわれわれから言わなくても、当社の優位性を理解していただけているといえます。

――Dreamforce 2010で発表した製品では、「オープン」というメッセージが強く打ち出されています。この狙いはどこにありますか。

 ひとことでいえば、ユーザー、CIO、開発者に対して幅広い選択権を提供するということです。Force.comでは、HerokuによってRubyを選択できるようになった。また、SalesForceにeメールリンクを張るときにOutlookやGmail、Lotus Notesとの統合といったことも可能になり、ここでも使いたいメールを選択できるようにした。Microsoftのクラウド・コンピューティングでは、選択できるのはMicrosoft製品だけですし、強制的にSilverlightをダウンロードさせられてしまい、それを使うしかない。これはわれわれが考えるオープンとは異なります。

 

クラウドサービスの拡張に対しては、十分な説明を提供していく

――Dreamforce 2010が始まる前には、5つのクラウドといっていたものが、わずか2日間で8つのクラウドへと拡張しました。これは、顧客やパートナーの混乱を招くことになりませんか。また、シンプルなメッセージが発信しにくくなり、クラウドはやはり難しいものであるという誤解を与えることになりませんか。

基調講演で利用されたスライド。枠一杯にサービスが表示されている

 確かにクラウドの数は、実に60%増となりましたね(笑)。会場で映し出したプレゼンテーション資料でも、枠一杯になってしまいました(笑)。

 今後、営業チームが顧客やパートナーに対して、しっかりとした説明を行っていく必要がありますし、的確なメッセージをお伝えできるように、当社の営業チームの教育も必要です。そして、お客さまに早い段階でプロダクト、サービスを実際に見ていただき、実感していただくことが大切だといえます。

 当社の場合には、アプリケーションとプラットフォームの営業が一体化していますから、その点では他社のような混乱は少ないといえます。salesforce.comが追求する、シンプルに伝える、簡単にアプローチできるように、という姿勢は変わっていません。

 また、Force.com 2では、VMforceではJavaによって開発できる環境を提供し、HerokuではRubyの開発環境を提供した。そして、ISVforceでは当社が11年間にわたって最大の差別化として取り組んできたマルチテナンシーを実現するアプリケーションを、ISVが開発できる環境を提供する。

 今回の発表は、われわれが進化しているということ、パートナーが新たなビジネスに踏み込んでいけるということで重要な意味がありますし、8つのクラウドが実現するひとつひとつの市場は、何十億ドルという大きなものになると予想しています。また、これらに対する当社の投資も増えていくことになります。

 今後は、8つのクラウドの枠が広がるというよりも、ひとつひとつのクラウドに対して、投資を加速していくということになるでしょう。

――しかし、今回発表されたなかでも、特にHerokuの位置づけがわかりにくいという印象を受けます。Force.com 2の構成要素としてもHerokuが位置づけられていますし、また、8つのクラウドのひとつとしてもHerokuが位置づけられています。一方で、VMforceは8つのクラウドと同列のトップレイヤーに置いた方が、適切であるという感じもします。

 ご指摘のように、Force.com 2は、Appforce、Siteforce、VMforce、ISVforce、Herokuの5つのサービスで構成されます。これらは、それぞれが異なるベースにおいて、アプリケーションを開発するためのメソッドでもあります。このいずれかのメソッドを使うことで、ノーコードと言っていいほど、簡単に、そして迅速にアプリケーションを開発できる。

 一方で、トップレイヤーにある8つのクラウドは、アプリケーションであり、プラットフォームでもあります。JigsawやChatterは、その両方の役割を担いますね。Herokuに関していえば、プラットフォームであり、そしてメソッドでもあるという両方の役割を担うことになります。

 ご指摘のVMforceですが、確かにマーケティングの観点からも、トップレイヤーに置くことを考慮する必要があるかもしれませんね。

――一方で、昨年の「Dreamforce」で発表したChatterですが、今年はChatter FreeおよびChatter.comを発表しました。これによって、どんなことが起こると考えていますか。

 Chatter Freeは、8万7000社のSalesforceユーザーのためのものです。CRMを一部の部門で利用しているが、Chatterは会社全員で使いたいという場合にこれを利用していただける。Chatter.comは、Chatterをもとにした新たなサービスと位置づけることができます。どんな人でもサインアップすることができるのが特徴です。

 昨日、ロックアーティストのウィル・アイアム氏が、Chatter.comを利用したいとして、サインアップしましたよ(笑)。エージェント、バンド、マーケティングチームなどとツアーを組むときに使いたいといっていました。

 よく比較されるTwitterは、140文字の短いメッセージに限定されますし、広く公開されたサービスであるのに対して、Chatterであればファイルの閲覧も、ドキュメントの閲覧も可能ですし、レポートも書くことができる。そして、対象を限定して利用できる点が大きく異なります。Chatter.comについては、2011年2月には、もっと詳しい説明ができると考えています。

――Chatter FreeおよびChatter.comは、Chatterの収益性をあげるものですか、それとも下げるものですか。

 Chatterはユビキタスを実現することが大きな目標です。ですから、もっと多くの人にこれを使ってもらうチャンスを作りたい。使ってもらって、「これはいい」と感じていただけたら、追加の有料サービスを使ってもらうということも考えてくれるでしょう。

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