【Dreamforce 2010】「一貫したクラウド提案をさらに強化できる」
~セールスフォース日本法人・宇陀栄次社長に聞く


 米salesforce.comが開催しているDreamforce 2010では、「Database.com」、「Heroku」、そして「RemedyForce」の3つの新たなクラウド製品が発表された。これを日本法人社長の宇陀栄次社長はどうとらえたのか。そして、日本市場への影響はどうなるのか。

 日本からも約130人のユーザー、パートナーが来場するなど、高い注目を集めている今後のsalesforce.comの取り組みに関して、Dreamforce 2010の会場で、宇陀社長に直撃した。

 

「真のクラウド・コンピューティングはひとつ」を明確に示せた

――8回目となったDreamforce 2010を、日本法人社長としてどう受け止めましたか。

株式会社セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長

宇陀社長:これまでクラウド・コンピューティングといっても、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、パートナークラウドというように、さまざまなものがあり、さらにそれぞれの定義があいまいで、かえってユーザーの混乱を招いていたところがあったのではないでしょうか。クラウド・コンピューティングの概念がわかりにくいという声も出ていた。

 しかし、今回、salesforce.comがDreamforce 2010で発表した内容を見ていただいてもわかると思いますが、真のクラウド・コンピューティングはひとつであるということを明確に示すことができたといえます。

 そして、もうひとつ、触れておきたいのは、日本で開発されたRubyという開発言語を利用した会社が、salesforce.comに2億ドルで買収され、今後のCloud 2のなかで重要な役割を担うことになるとい
う点です。

 これは正直なところ、日本人として、うれしい気持ちでいっぱいですよ(笑)。ここ数年のIT産業では、世界で誕生した新たな技術を、日本の企業が新たなビジネスへと発展させていくという流れが数多く見られていましたが、今回の発表はまさしく逆の動きになっている。

 salesforce.comは、オリジナル技術は日本であったかどうかは関係なく、すばらしいものをどんどん吸収していく姿勢がある。大きな観点から見れば、日本の技術が、世界で活用されるという土壌が作られているともいえる。日本の企業には、それをもっと活用してもらいたいし、そうしたチャンスが日本の企業にはある。もっとグローバルを意識していかなくてはならない。クラウドの世界はそういうものなんですよ。

 salesforce.comは、エコシステムを重視している会社です。それをどう活用するかという観点で、もっと発想を柔軟にしていかないといけない。大企業だけでなく、中小企業の開発者、パートナー、さらには、それを利用しているユーザー企業にも、グローバルに向けてのビジネスチャンスが広がるわけです。

 

Database.comの発表でプラットフォーム企業であることを明確に

――新たなDatabase.comの発表、そして、オープン化という姿勢を明確にしましたが。

 salesforce.comは、もはやCRMやSFAの会社ではありません。Database.comの発表や、Force.comの進化によって、プラットフォームの会社であるということをより強く印象づけることができたのではないでしょうか。

 つまり、これまではBtoBのビジネスだったものが、BtoBtoCといった領域にも、より強く踏み込んでいけるようになる。すでに、日本におけるエコポイント制度のシステム活用ではBtoBtoCというところにまで入ってきていますが、こうした提案がますます加速することになる。

 そして、BtoBtoCの提案は、ユーザーやパートナーと「チーム」としての提案が重要になってきます。当社と協業して、新たなマーケットを取るという提案ができるようになる。こうした動きが、本格化すると考えています。従来は、クラウドをコストリダクションのために活用するという発想が中心でしたが、そうではなく、自らのビジネスを拡大するためにセールスフォースを活用するという動きが出てくることになるでしょう。

 われわれは、日本の成長をこれからどうするのかということをもっと真剣に考えなくてはならない。いまや開発はオフショアによって、国外に持っていくという傾向が強いが、Database.comやForce.comというツールを使って、日本の生産性を高めれば、空洞化を防ぐこともできる。中小企業がグローバルに出ていくことを支援するツールとしても、活用してもらえると考えています。

 

パブリッククラウドから“ブレない”姿勢で提案を続ける

――Dreamforce 2010で行われた米salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOの基調講演では、Microsoftを強く意識した発言が相次ぎましたね。日本でも今後、同じようなマーケティング手法をとりますか。マイクロソフト日本法人は、セールスフォースを意識した発言が増えていますが。

多くのクラウドサービスを提供しているが、すべてパブリッククラウドのサービスなのだという

 日本でも同じようなメッセージを打ち出す、という考えはありません。やはり国によって、状況が違いますからね。しかし、マイクロソフトが投入したDynamics CRM Onlineは、当社から見れば10年前に投入したものがいよいよ登場してきたという感覚でしかありませんよ。

 しかも、ユーザー企業は、CRM単体が欲しいわけではなく、今回、当社が発表したDatabase.comやForce.com、そして、急速に顧客が増加しているChatterといったものとの連動に注目が集まっている。そのあたりがsalesforce.comの強みなんです。

 それと、Microsoftが提案するクラウド・コンピューティングは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、そしてパートナークラウドと多岐にわたっており、外から見ていると、どれを売りたいのかがわからない。ユーザーは困ってしまうわけです。

 Microsoftに「どれがいいのか、なにがベストか」と聞いても、明確な回答は得られないと思いますよ。「お客さまの要望にあわせて」というのは答えではありませんからね。それに、オンプレミスというところにもまだ力を入れている。クラウドをやるならばそれに徹底したほうがいいし、運用までを含めてしっかりと提案していくという姿勢がないと、メッセージが伝わらない。

 これに対して、salesforce.comは、今回のように新たなものを提案したとしても、パブリッククラウドという観点からはまったくブレがない。徹底的にこのスタンスを守っているんです。

 それと、繰り返しになりますが、いまはエコシステム(生態系)の時代です。あそこが生き残る、あそこは駄目になるというのではなく、ダイナミックなコラボレーションが重視される時代です。ですから、Microsoftと比較することに力を注ぐのではなく、われわれはパートナーとどんなことができるのかといったことに力を注いでいきたい。

 

90メートル地点からスタートできる、先行者の強みを生かす

――今回の発表を受けて、日本に戻ってから、なにをやりますか。

米salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOと、日本法人の宇陀栄次社長(Dreamforce 2010の会場にて)

 今回発表した内容を顧客に対して、どう提案するべきか、なにがベストなのかといったことを提案できるセンスを徹底しなくてはならない。新たなものが一気に発表されたわけですから、お客さまが混乱しないような対応をしていかなくてはならない。

 クラウド・コンピューティングでは一貫した提案を行い、競合に比べると複雑さはないのですが、これだけ製品の幅が広がると、もっとわかりやすい提案をする必要がある。その点では、システムアーキテクトのような役割を強化しなくてはならないでしょうね。

 組織は常にいじっていますが、新たな製品の発表にあわせて、柔軟に組織を変更していくつもりです。日本市場において、当社はまだ幼稚園生のような位置にいます。これを引き上げていく必要がありますが、その一方で、クラウド・コンピューティングで先行している強みを生かして、オリンピックに出るような短距離ランナーにも勝つことができる。
 100メートル走でも、われわれのスタートは90メートル地点ですから(笑)、いくら幼稚園生でも3秒もあればゴールができる。他社は90メートル後ろから走りだしているわけですから、どんな短距離ランナーだって追いつけませんよ。今回の新たな製品で、先行している強みがさらに発揮できるようになったといえます。

関連情報