Citrixの強みは“オープンさ”にある~Citrixのクラウドプラットフォーム製品担当者に聞く同社の戦略
10月17~19日の3日間に渡って開催されたCitrixのプライベートイベントのEU版「Citrix Synergy 2012 Barcelona」の会場で、同社のクラウドプラットフォーム製品を担当するシニアディレクターのトーマス・マカファティ氏に同社のクラウドプラットフォーム戦略について聞く機会があったので紹介したい。同氏は、競合するVMwareとの違いなどについて、Citrixの視点からのコメントを率直に語ってくれた。
■Ciscoとのパートナーシップ
マカファティ氏
今回のCitrix Synergy 2012 Barcelonaでの最大のニュースは、Ciscoとのパートナーシップ拡大だ。クラウドプラットフォームでは、Cisco UCSチームとの共同作業が行われている。Cisco UCS製品とCitrixのクラウド製品の直接的な統合を実現するためで、特に大規模なクラウド/データセンターを対象としたものだ。
米Citrix Systems クラウドプラットフォームグループ プロダクト・マーケティング担当シニア・ディレクターのトーマス・マカファティ氏 |
大規模なデータセンターではクラウド環境の構築が大きな課題となっており、そこではCiscoとCitrixのパートナーシップが大きな価値をもたらす。今回のCiscoとCitrixのパートナーシップ拡大は、単に両社間のこれまでの協力関係の延長ということにとどまらず、顧客の意向によって推進されたものだ。既にわれわれは、CitrixのクラウドインフラとCisco UCSを組み合わせて利用している大規模ユーザーを10社以上サポートしている。
基調講演では主にNetScalerに関するパートナーシップについて紹介されたが、XenServerに関してもCiscoとの共同作業が進行中だ。XenServerはCiscoのクラウド環境向けのリファレンス・アーキテクチャの構成要素となっている。展示会場では、Cisco Nexus 1000VとXenServerのインテグレーションのデモが公開されているとおり、両社間でクラウド・ネットワーク構築のためのビルディングブロックを、共同で開発している。
現在、Cisco UCSとCitrixのクラウドプラットフォームを組み合わせて利用しているユーザーの多くは、Citrixの運用管理コンソールのみを利用してUCSの管理を行っている。両社は共同でCisco UCSマネージャのAPIとCitrixのツールとインテグレーションを行い、サーバーのベアメタル・プロビジョニングといった作業もCitrix側から指示し、実行できるようになっている。
基本的な考え方は、UCSマネージャのAPIをCloudStackのAPIと連携させていくことで、システム環境全体の運用管理をシンプルに日常的な運用管理作業を簡単に実行できるようにしている。
クラウドという視点から考えれば、このアプローチが順当だろう。個々のハードウェアレベルの運用管理ではなく、クラウド・オーケストレーションのレベルで単一の運用管理インターフェイスが提供されることが重要だ。
■VMwareとの競合
マカファティ氏
VMwareが“Multi-Cloud World”というメッセージを打ち出したことに関して、現時点で即座に何らかのインパクトが生じているとは考えていない。
VMwareは“Multi-Cloud World”をM&Aという手段によって実現していくと思われるが、そうして獲得された技術はVMwareのvCloud Suite環境全体のごくわずかな部分を占めるに過ぎず、大きなスイートとして全体が統合される段階には至っていないようだ。
将来的には、VMwareの戦略変更によってvCloud SuiteがCloudStack/Citrix CloudPlatformと競合するクラウド・プラットフォームとして大きな存在感を発揮することになると思うが、現時点ではまだ顧客もVMwareの戦略変更をどう評価すべきか判断しかねているようだし、今はCloudStackを中心としたCitrix製品の方が優れていると考えてくれているように思う。
顧客もわれわれに対してVMwareに関する質問をぶつけてくることが増えてきているが、Citrixのクラウド環境がどれほど高度なインテグレーションを実現しているかを実証してみせることで納得してくれている。
VMwareとの違いということでいえば、Citrixには「すべてを自社で開発していく」という発想はまったくない。CitrixはCloudStack/CloudPlatformを市場に送り出すに当たって150社以上のビジネスパートナーと協力している。その中には、上位レベルの運用管理を実現するRightScaleもあれば、ストレージ分野のBashoといった企業もある。
また、ファイアウォールの管理に関してはJuniper Networksとのパートナーシップもあり、もちろんCiscoとの密接なパートナーシップもある。こうしたパートナー各社の多数の技術や製品が集まることでクラウド環境が実現されているのであり、どんな企業であっても単独でクラウド環境を作り上げることはできないとわれわれは考えている。
クラウドはまだ新しい概念であり、それを実現するテクノロジーは急速な進化を続けている。Citrixは技術開発を継続していくし、企業買収によって技術を獲得することもあるだろう。それでもCitrixはエコシステムやベンダー・パートナーシップに関して極めてオープンな姿勢を維持し続けており、Citrix製品のみで構成されるスイートを売っていこうなどとは考えていない。この点がVMwareとCitrixの最大の違いだ。
どんなネットワーク・インフラであっても、どのようなストレージ・コンポーネントが使われていても、サーバー・ベンダーがどこであっても、Citrixのクラウドプラットフォームであれば、“Citrixのクラウド”ではなく、ユーザーが必要とするクラウド環境を構築できる。“オープンさ(Openness)”というのはCitrixの企業文化であり、単にCloudStackのグループに限った話ではない。これは企業哲学なのだ。
■エンタープライズ市場への取り組み
マカファティ氏
Citrixのエンタープライズ市場への取り組みは既に大きな成果を上げ始めている段階にあり、VMware vCloud Directorと直接的な競合関係にある。ただし、そのアプローチはVMwareとは大きな差があると考えている。
まず注目すべきは、クラウドがどのようなワークロードを支えていくのか、という問題だ。現在、クラウド環境には大きく2種類のワークロードが載っていると考えられる。エンタープライズ・ユーザーがクラウド環境を構築する理由にもなっているのが、“エンタープライズ・レガシー・アプリケーション”とも言うべき種類のワークロードで、例えばSAPのERPやMicrosoftのSharePointといったアプリケーションだ。
もう1種類が次世代のクラウド世代のアプリケーションで、“Amazonスタイル・アプリケーション”と表現できる種類のワークロードとなる。エンタープライズ・ユーザーは、この両方のアプリケーション・ワークロードを実行する必要があり、それぞれどのようなクラウド環境で実行すべきかを考えている。
エンタープライズ・ユーザーは、「Amazonのようなクラウド環境を構築し、Amazonが実現したようなコスト削減を実施したい」と考えているが、実際にAmazon型のクラウドを構築できている企業はほとんどない。
VMware vCloud Directorに対するCitrixの優位点は、Citrixの製品なら、インフラに対する要求が異なる「エンタープライズ・レガシー・アプリケーション」と「Amazonスタイル・アプリケーション」の両方のタイプのワークロードに対応可能なクラウド・インフラストラクチャを構築でき、両者を分断することなく単一の運用管理コンソールから管理できる点だ。
VMwareは、これまで主にエンタープライズ・アプリケーションを対象としたインフラ技術を開発し、あるいは買収してきた。クラウドの用途としてソフトウェアの開発/テスト環境やモバイルアプリケーションの実行があるが、VMwareではこうした用途のクラウド・インフラストラクチャの管理を適切に行うことができない。また、VMwareのインフラを構築するにはコストが掛かり、“Amazonのような経済性”を望むユーザーのニーズに応えることはできていない。
また、あらためてCitrixの企業文化である「オープンなエコシステム」「オープンな製品デザイン」というコンセプトに立ち返ると、Citrixはハイパーバイザなどの下層のテクノロジーに制約を課すことはないし、アプリケーションがインフラに求める要件を制限したりもせず、ユーザーが必要とするクラウド環境を構築し、管理できるように取り組んでいる。この点もVMwareとCitrixの顕著な差であり、Citrixのこうした姿勢に対してはエンタープライズ・ユーザーも好意的に評価してくれていると感じている。
VMwareがレガシー・エンタープライズ・アプリケーションにしか対応できない一方、Citrixが「Amazonスタイル・アプリケーション」にも対応できる理由は、例えばハイパーバイザーの違いなどにも起因している。VMwareのハイパーバイザーやマネジメントレイヤの基本的な考え方は、オープンなコンポーネントをサポートすることよりもあらかじめ想定された環境をサポートすることを重視しているとみられるが、こうした発想ではクラウド環境で必要とされるアプリケーションの自由な可搬性を確保することが難しい。
ネットワークでいえば、ファイアウォールやルータ、ロードバランサーなどを考えてみると、ユーザーはそれぞれなりの要件に従ってさまざまな製品を選択し、クラウド環境内に投入したいと考えるはずだが、こうした“外部の多様なコンポーネント”をサポートするのはプロプライエタリな環境であらかじめ準備されたパッケージの中での選択肢しか提供しないアプローチよりも、オープンソースベースでオープンなエコシステムに支えられたXenServerのようなハイパーバイザーの方が有利だ。