「情報家電やロボット、ゲーム機などあらゆるものにRubyを搭載したい」~まつもとゆきひろ氏【訂正】

RubyWorld Conference 2011基調講演レポート


 9月5日から6日まで、島根県松江市の島根県立産業交流会館(くにびきメッセ)にて、プログラミング言語「Ruby」に関するイベント「RubyWorld Conference 2011」が開催されている。テーマは「Ruby市場、ビジネスの拡大」。エンタープライズにおけるRubyの利用に関するセッションが中心となっている。

 初日には、Ruby開発の中心人物であるまつもとゆきひろ氏による基調講演「エンタープライズRuby~新たな段階へ」が行われた。現在Rubyは、Webサイトでの利用が中心となっているが、ここから領域を広げるためには、HPC(high performance computing)と組み込み機器への対応が必要だとした。


「RubyWorld Conference 2011」の会場まつもと氏の基調講演は約500ある席がほぼ埋まるほどの盛況ぶりだった
Ruby開発の中心人物であるまつもとゆきひろ氏

 まつもと氏はまず、プログラミング言語の歴史に触れた。世界初のプログラミング言語は1948年にドイツで発表された「Plankalkul」(英語ではPlan Calculus)で、そののち、高級言語、Ruby、Java、Pythonなどのオブジェクト指向言語が登場。2000年に入ってからは、大きな変革が起きた。インターネットの登場により、たくさんのソフトを開発する必要が出てきたことだ。

 同時に、コンピュータの性能が上がってきたため、ソフトウェアを開発する際に、使用するメモリーやCPUを以前ほど気にしなくてよくなった。「高速になったコンピュータに仕事を押しつける」ことで開発効率を上げていったとしている。

 そこで活躍したものの1つにRubyが挙げられる。特にRubyを用いたWebアプリケーションのフレームワーク「Ruby on Rails」の存在は大きい。「シリコンバレーの企業のうち半分は、スタートアップ時にRuby on Railsを採用している」というほど人気が高い。

 具体的には、楽天、グルーポン、BestBuy、Twitter、ディズニー、ワーナーブラザーズなどの名前が挙がった。「Rubyを知らなくても、ワーナーブラザーズやディズニーを知らない人はいない」として、RubyがさまざまなWebサイトで採用されていることをアピールした。

 このようなことから「2000年代はRubyが強かった。Rubyはある一定の位置を獲得し、明日、なくなるようなことはない」としている。しかし、「2010年代をどう生きるか考える必要がある」との課題を示した。

 そこで、これまでWebが中心だったRubyをHPCと組み込みに広げようというわけだ。

 Rubyはインタプリタ言語だが、HPC向けにコンパイルを行うと「実行速度はC言語と比べても10%くらいしか劣らない」状態だとしている。まだ実際の計算には用いられていないが、FORTRANと組み合わせた実例がいくつかあるとしている。

 現状のRubyはPCでの利用を想定しているため、組み込みの用途で利用するとメモリやCPUが足りない。そこで「Rubyの1つの方言」といった形で組み込み用のRubyの開発も進められている。「情報家電やロボット、ゲーム機などあらゆるものにRubyを搭載する」ことが目的だ。

「転石苔を生やさず」。Rubyは常に転がり続ける石であり、進化を続けたいとしている

 今後のRubyの方向性として示したのが、「転石苔を生やさず」ということわざだ。このことわざは、石は止まっているとコケが生えるが、動くとコケが生えないという意味だ。まつもと氏は「コケは国や文化によって、よいものであったり、悪いものであったりする」としたうえで、「わたしとしては後者を選ぶ」と示して、常に前進することを示した。

 最後に「Rubyは、現状に甘んずることなくHPCや組み込みにも取り組む」として締めくくった。


【お詫びと訂正】
初出時、「世界初のプログラミング言語は1948年にドイツで開発された『FORTRAN』」としておりましたが、「Plankalkul」の誤りです。お詫びして訂正いたします。(編集部)

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