「Office 365はPCを持ち歩くスタイルを引きずっている」、“100%ウェブ”を強調するGoogle
Google Enterprise Day 2011 Tokyoレポート
グーグル株式会社は20日、企業ユーザーを対象としたイベント「Google Enterprise Day 2011 Tokyo」を開催した。「Nothing but the web(100%ウェブの世界へ)」というテーマを掲げ、Google AppsなどWebブラウザで使えるもの中心とした企業向けのソリューションを紹介した。パートナー企業各社によるセッションも2トラック行われたほか、地理空間ソリューションに関するサブイベント「Google GEO Summit」も開催された。
Google Enterprise Day 2011 Tokyoのテーマ「Nothing but the web(100%ウェブの世界へ)」 |
■「Google Appsはコラボレーションを中心に置いている」
Google Enterprise グローバルセールス&ビジネスデベロプメント担当副社長 アミット・シング氏 |
基調講演には、Google Enterprise グローバルセールス&ビジネスデベロプメント担当副社長のアミット・シング氏が登壇。MicrosoftのOffice 365との比較などもまじえながら、今回のテーマである「100%ウェブ」のソリューションについて語った。
米国から来日したシング氏は、冒頭、サッカーの女子ワールドカップで日本が米国を破って優勝したことに祝辞を述べたあと、「前回の来日から日本で50%のユーザーの伸びがある」と日本市場での活況を示し、「日本企業での採用が増えている」として、Googleショッピングを採用したZOZOTOWNなどを紹介した。
続いて、現在のビジネスに必要とされているものについて、めまぐるしい変化の「スピード」、どこからでも情報にアクセスできる「モビリティ」、そして「イノベーション」の3点を挙げ、「イノベーションとコラボレーションに強い相関関係がある」という調査結果を引用した。
そして氏は、「多くの企業が失敗するのは、古いテクノロジーに投資してしまうから」と論じ、ビデオレンタル大手のBlockbusterが米連邦破産法11条の申請に至った一方で、ネットに移行したNetflixが成功した例を紹介。そして、従来の企業ITについて、硬直、複雑、高価の3つが欠点だと主張した。
それに対して、シング氏は「企業ITの新しいモデル」として「100%ウェブ」を掲げる。ブラウザがあればどんな機器からも利用でき、スケーラブルで膨大なシステムやデータを専門家が管理し、使ったぶんだけ課金される、というのがその要素だ。さらに、「昔は会社ごとに発電機を備えていたが、発電所に集約することでスケールメリットでコストが下がった」という例えを使って、管理コストがクラウドで下がると説いた。
氏が100%ウェブとして指すのは、もちろんGoogle AppsなどGoogleのことだ。氏は「われわれはWebネイティブ」と語って、YouTubeの1秒間に45分ぶんの動画アップロードにも耐えるスケールとキャパシティ、可用性、セキュリティ技術などを紹介し、「自分でやるより、われわれのところにあるほうが安全」と語った。
シング氏は、ヨーロッパの自動車メーカーがGoogle Docsのスプレッドシートで在庫などの情報を取引先と共有することで、1900万ユーロを削減した事例を紹介。また「われわれの親しい友人であるMicrosoft」(シング氏)のOffice 365について、「PCを持ち歩くスタイルを引きずっている。われわれは100%ウェブであり、コラボレーションを中心に置いている」と主張した。
日本の企業での採用事例 | スピード、モビリティ、イノベーションがビジネスに必要だという説明 |
従来の企業ITついて、硬直、複雑、高価の3つが欠点だという説明 | 「100%ウェブ」の要素 |
クラウドにおいてGoogleが優位にあるという説明 | Google Appsの優位性の説明 |
壇上では実際に、Google Docsのスプレッドシートを使い、複数人が同時にデータを入力するところ、タブレットやスマートフォンでも入力するところ、Googleファイナンスの為替レート情報をセルの関数から参照するところなどをデモ。「100%ウェブなら、こうしたことができるようになる」と語った。
Google Docsのスプレッドシートに複数人が同時にデータを入力するデモ | Google Docsをタブレットやスマートフォンから使うデモ |
スプレッドシートの関数からGoogleファイナンスを参照するデモ | ビデオチャットのデモ |
さらに、東日本大震災でのGoogle Docs活用例として、保育施設の運営などを手がける株式会社ポピンズコーポレーションの事例も紹介された。場所によっては安否の連絡も難しくなっている一方、全国で100拠点以上ある保育施設の状況を把握するため、スプレッドシートの行に施設名を、列に被害状況や営業状況などの項目を設定し、シートのURLを各施設長にメールして、状況を入力してもらったという。項目はみるみる間に埋まり、1日1シートで数日間運用して情報を共有できたほか、飲料水が問題になった時期には水の備蓄状況を項目に追加するなど、柔軟に対応できたということで、「一人でもアイデアしだいですぐにこういうことができる」と説明された。
全国100箇所の保育施設の状況を、Google Docsを使って各施設に記入してもらって把握した株式会社ポピンズコーポレーションの事例 |
シング氏は、Google Apps以外のアプリケーションとして、Google MapやGoogle Earthの企業での利用についても紹介。そのうえで、パーソンファインダーを含む、災害へのクライシスレスポンスの事例についても紹介した。そのほか、Google App EngineやChromebookなどについても触れた。
最後にシング氏は、「100%ウェブは革命。やるかやらないかではなく、いつやるかだ」と参加を呼びかけて、講演を終えた。
Google MapsとGoogle Earthの企業向けソリューション |
津波の前(左)と後(右)の画像 |
■ソフトバンクグループ通信3社のGoogle Apps移行の内側
ソフトバンクテレコム株式会社 代表取締役副社長 兼 COO 宮内謙氏 |
同日にグループ3社全社でGoogle Appsを導入することを発表したソフトバンクテレコムソフトバンクテレコム株式会社 代表取締役副社長 兼 COOの宮内謙氏が、Google Appsへの取り組みについて紹介した。
同グループのソフトバンクテレコム株式会社、ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社では、従来Exchangeで運用していた2万6000ユーザーのアカウントを、7月15日にGoogle Appsに移行完了した。
宮内氏は「Google Appsでスピーディ、スマート、クリエイティブ」という言葉を掲げて、プレゼンテーションのビデオを上映した。ビデオでは、メールでの利点として、メールを消さなくていいこと、検索機能、外出先でもフルにメールを使えることを紹介。また、Google Docsでの情報の共同編集による効率化なども紹介した。
そのほかの活用としては、社内イベントのアンケートを紙からGoogle Docsに移すことにより会場でリアルタイムに集計してその場で発表する例や、ゴルフ大会のスコア集計サイトをプログラミング知識のない幹事が数時間で作ったりする例などをビデオで見せた。
移行については、かつてExchangeに移行したときに約6カ月かかったのが、Google Appsでは約5週間に短縮されたと説明。ホワイトクラウドでGoogle Appsを提供していることから、「こうしたノウハウをお客さまにも伝えていきたい」と語った。
ソフトバンクテレコム、ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBBの2万6000ユーザーをGoogle Appsへ移行 | 社内アンケートでGmailの満足度90%という説明 |
過去にExchangeへ移行したときは約6カ月かかったのが、Google Appsへは約5週間で移行したという |
■Google Apps利用企業が採用動機を語る
Google Appsを採用している戸田建設、頓智ドット、ノーリツの3社によるパネルディスカッション |
Google Appsを採用している企業として、戸田建設株式会社、頓智ドット株式会社、株式会社ノーリツの3社によるパネルディスカッションも開かれた。モデレータである明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授で株式会社リクルート ワークス研究所 特任研究顧問の野田稔氏は、冒頭、自身の仕事や執筆活動などを例に、まだまだ企業でクラウドを十分使えていないのではないかと疑問を投げかけた。
戸田建設 建築企画部 企画3課/総合企画室 情報管理課の佐藤康樹氏は、Google Apps導入の動機として「BCP」を挙げた。同社では、事務所が火事で全焼したことや、東日本大震災で石巻港の事務所が流されたこと、福島原発に近い事務所から書類を持ち出せなくなかったことから、「データをオフィスに置いておくのは駄目だ」と決断。さらに、契約していたメールサーバーの事業者が静岡県に移転することから、原発リスクや東海地震の可能性を考えて「サーバーは日本になくていい、むしろ世界に分散していたほうが安全」と考えて、Google Appsを選んだという。現在、移行作業中で、利用対象はメールとカレンダー。年配の社員なども考え、従来のメールクライアントからのメール利用なども選べるようにするという。
佐藤氏はほかに、Google Maps APIを利用して自身で内製した社内システムとして、全国の現場や協力会社の位置と現状を地図から見られるアプリケーションと、地震の緊急速報から震度5以上の地域を割り出し過去の施工実績データから該当する物件を自動でリストアップするアプリケーションを紹介した。
「セカイカメラ」で世界的に有名になったベンチャーである頓智ドット CTOの近藤純司氏は、ベンチャーにとって自社でインフラを持ってメンテナンスしていくのは割りがあわないこと、また、短い間に数人から数十人に社員が増えたことから、人が増えるごとに契約を増やせるGoogle Appsの有利なところを語った。
同社ではメールとカレンダーのほか、社内で共有するドキュメントをどんどんGoogle Appsに上げているという。今後については、Google Videoを使って社内勉強会のビデオを共有したいという考えも語られた。
創業60年になるノーリツ IT推進統括部 IT推進部 情報管理グループの長尾謙一郎氏は、Google Apps採用のきっかけとして、グループウェアのシステムの保守期限が2012年に切れることから、移行を考えていたことを挙げた。旧システムは、1人あたりのメール容量が20MBなうえ、いっぱいになるとメール送信もできないという仕様で、社内に不満が出ていたという。また、海外とのメールも増えてきたが、旧システムでは中国語に対応していなかったのも問題だったという。こうした背景で、システムの延命とグループウェアの入れかえ、クラウド利用の3つの方向を検討した中から、将来性などを考えてGoogle Appsを選んだと語った。
歴史のある同社だが「意外と会社の抵抗はなかった」という。もちろん資料をそろえて説得したことによるのだが、Gmailを使っている役員が「あれならいいんじゃないか」と言ってくれたというエピソードも紹介された。
最後にモデレータの野田氏は、「規模の大きな会社から成長期のベンチャーまで、同じシステムを享受しているのは、いままでになかった。すごいことだ」と述べて、パネルディスカッションを締めくくった。
モデレータである明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授でリクルート ワークス研究所 特任研究顧問の野田稔氏 | 戸田建設 建築企画部 企画3課/総合企画室 情報管理課 佐藤康樹氏 |
頓智ドット CTO 近藤純司氏 | ノーリツ IT推進統括部 IT推進部 情報管理グループ 長尾謙一郎氏 |
火災で全焼した戸田建設の事務所 | 大きな地震が起こると該当地域から過去に施工した物件を自動的にリストアップする戸田建設の社内アプリケーション |