第1回:AD環境で手軽に使えるWSS2008搭載NAS
ローカルからクラウドへ。グループウェアや顧客管理など、既存のシステムをクラウド環境へと切り替えるケースが増えている。しかし、クラウドの導入で忘れてはならないのは、残されたローカル環境の見直しだ。中小の環境で課題になりがちな古くなったファイルサーバーのリプレイスについて考えてみよう。
■クラウドの導入を機にハードウェアの見直しを
資産の所有と管理から解放され、負荷に応じた柔軟なパフォーマンスを適切なコストで利用できるクラウド。さまざまなサービスが、国内のベンダーからも提供されるようになり、導入事例も増えてきたことで、本格的な導入を進めている企業も少なくないことだろう。
このようなクラウドの導入は、数人から数十人規模の中小規模の環境でも、徐々に進みつつある。中小規模の環境では、これまで社内に設置したサーバー上で、Active Directoryによる管理、ファイルサーバー、メール、グループウェア、業務アプリケーション、データベースなどを動作させるケースが多かったが、このうち、一部のシステムをローカルからクラウドへと移行する例が増えてきている。
実際、メールやグループウェアなどはインターネット上のサービスの方がリーズナブルなうえ、外出先などからでも利用できるため利便性が高い。ローカルからデータを移行するためのツールなども豊富に用意されており、中小の担当者でも移行が可能になってきた。会計ソフトなどは、セキュリティ上の心配やカスタマイズなどの問題から、本格的な移行はまだ先になりそうだが、ベンダーによってはクラウド環境での提供を開始しており、ローカルからの移行も徐々に開始されていくことだろう。
クラウドへの移行に伴ってローカルサーバーの統廃合やリプレイスが大きな課題になりつつある |
このように、これまで社内に設置されていたサーバーが担ってきた業務が、次第にクラウドへと移行していくことで、社内のサーバーを統廃合したり、より効率的なハードウェアへのリプレイスが盛んに行われるようになってきた。このようなハードウェアのリプレイスの中でも、最近、特に注目されているのがNASの活用だ。
これまでファイルサーバーが担っていた役割を、より安価で大容量なNASへと移行することで、古くなったハードウェアを交換したり、複数の役割を担っていたサーバーからファイルサーバーの役割を切り離して負荷を軽減することができる。
クラウドの導入後、既存のサーバーの再整理で活用されるNAS。サーバーからファイル共有の役割を移行するのに最適 |
これまで、中小の環境では、1台のサーバーにいくつもの役割を担わせることが多かったが、これではハードウェアの劣化や故障がシステム全体の停止につながるうえ、事業規模の拡大に比例してシステム負荷が増大し、単一のハードウェアでは対応していくことが困難になりつつある。
このため、情報系のアプリケーションなど、サーバーの役割をクラウドへと移行すると同時に、ファイルサーバーとしての役割も見直すことで、より効率的な社内システムを構築しようという試みが進められているわけだ。
クラウドの導入というと、ネットワーク上のサービスばかりに注目してしまいがちだが、実は、その導入に伴う社内環境の見直しが欠かせないことになる。
■Windows Storage Server 2008搭載NAS登場
では、これまでWindows Server 2003などで稼働させてきたファイルサーバーを、具体的にどのようにリプレイスすればいいのだろうか?
現状、ファイルサーバーをリプレイスする場合、Windows Server 2008R2を新たに導入する、LinuxベースのNASを利用する、Windows Storage Server 2003ベースのNASを利用する方法があるが、最近、これらに加えてWindows Storage Server 2008ベースのNASという新たな選択肢が登場してきた。
Windows Storage Server 2008は、サーバー向けOSであるWindows Server 2008をベースに、iSCSIなどストレージ機器に必要な機能を搭載したり、CAL(クライアントアクセスライセンス)不要で利用できる独特のライセンス体系を実現した製品だ。
これまで、ラックマウントタイプのサーバーなどで採用されることが多かったが、アイ・オー・データ機器から新たに発売された「HDL-Zシリーズ」のように、中小規模の企業に適した製品がようやく手に入るようになってきた。
「HDL-Zシリーズ」は家庭向けのNAS製品のようにコンパクトな筐体を採用した、NAS形態のWindows Storage Server機だ。Windows Storage Server 2008がインストール済みのため、導入が容易な点とコンパクトな筐体、慣れたWindowsインターフェイスで設定ができる点が特徴と言えるだろう。
正面 | 側面 | 背面 |
NASと言うと、Linuxベースの製品が一般的だが、HDL-Zシリーズは慣れたWindowsのユーザーインターフェイスでの管理ができるうえ、既存のActive Directoryのユーザーを利用したアクセス制限、さらにSMB2.0のサポートにより旧バージョンのWindows Storage Server 2003搭載NASに比べて高いパフォーマンスを実現できるのが特徴となっている。
種類 | 特徴 |
Windows Server 2008R2 | 高性能だが高価なサーバーとCALが必要 |
LinuxベースNAS | 安価だが別途管理が必要になる |
Windows Storage Server 2003搭載NAS | Windowsネットワークとの親和性高いが機能が限られる |
Windows Storage Server 2008搭載NAS | Windowsネットワークとの親和性が高く、しかも高機能 |
【表1:ファイルサーバーのリプレース候補】 |
このような性能を備えていながら、NASらしく9~25万円程度の低価格での導入が可能となっており、ハードウェアもATOM D510ベースで省電力を実現している(通常時消費電力35W前後)。つまり、前述したようにすでにWindows Sever環境が構築されている場合であれば、手間なく、より高性能で高機能なファイルサーバー環境へと、低コストで移行できるというわけだ。
もちろん、設置するだけですぐに使える手軽さや設定の簡単さなども特徴となっており、既存のファイルサーバーの容量不足を解消したり、業務の拡大に伴って新たな部署や支店にファイルサーバーを設置したいというニーズにも適している。単純に既存のサーバー環境を拡張するといった場合にも有力な選択肢と言えるだろう。
■手軽な設置と使い慣れた管理方法
具体的にどれくらい手軽に導入できるのか、実際にセットアップの手順を見ながら検証していこう。
まずは、設置だが、これは一般的なNASとほぼ同じだ。背面のLANポートを利用して社内のネットワークへと接続し、電源ケーブルをつないで、電源を入れるだけでかまわない。OSは標準でインストールされているので、ファイルサーバーのようなインストール作業は一切不要だ。
なお、LANポートは2つ搭載されており、ネットワークのトラブルにも対処できるようになっている。こういった信頼性への配慮がなされているあたりは、一般的な個人向けのNASとの大きな違いだ。
背面にLANケーブルと電源ケーブルを接続 | フロントの「POWER」ボタンを押して電源オン | 起動完了。フロンパネルでホスト名やIPアドレス、HDD容量を確認できる |
もちろん、データの安全性にも配慮がなされており、標準でRAIDが構成済みとなっている。HDL-Zシリーズには、2ベイモデルのHDL-Z2と4ベイモデルのHDL-Z4がラインナップしており、HDL-Z2はRAID1によるミラーリング、HDL-Z4はRAID5によってHDDのデータが保護されている。標準でRAIDの構成がなされているので、使い始める前に、わざわざRAIDを構成をしなくて済むのもメリットの1つだろう。
HDL-Z4シリーズではフロントに4つのHDDベイを搭載。データをRAID5で保護している |
ちなみに、HDL-Z4には、これ以外にHDL-Z2ではサポートされないiSCSIやNFS、DFSレプリケーションにも対応するなど豊富な機能を備えている。HDL-Z2シリーズはどちらかというとSOHO環境での利用やバックアップに適してた製品、HDL-Z4は既存のファイルサーバーからのリプレイスや仮想環境のストレージなどに適した製品と言えるだろう。
機能 | HDL-Z2WS | HDL-Z4WS |
CPU | Intel Atom D510(1.66GHz Dual-Core) | |
RAM | 2GB | |
USB | 5ポート | |
eSATA | 2ポート | |
LAN | 1000BASE-T×2 | |
VGA | 1ポート | |
搭載ドライブ | 2ドライブ | 4ドライブ |
RAID | RAID0/1 | RAID0/5 |
iSCSI | × | ○ |
DFS-N(名前空間) | ○ | ○ |
DFS-R(レプリケーション) | × | ○ |
【表2:HDL-Z2とHDL-Z4の違い】 |
電源投入後、しばらくすると起動が完了する。一般的なLinuxベースのNASの場合、この状態でクライアントからブラウザを利用して設定を開始するが、HDL-Zシリーズの設定はここからが異なる。
前述した通り、HDL-ZシリーズにはWindows Storage Server 2008が搭載されている。このため、サーバーの設定や管理には、Windows Serverとほぼ同じユーザーインターフェイスが利用できる。
背面のVGAポートとUSBポートを利用してディスプレイやキーボード、マウスを接続してもかまわないが、ネットワーク上のクライアントからリモートデスクトップを実行し、ホスト名(標準ではHDL-ZWS)かIPアドレスを指定すると、サーバーのデスクトップが表示できる。
使い慣れたWindowsのデスクトップを使い、従来のファイルサーバーとほぼ同じ要領でユーザーを登録したり、共有フォルダーを作成することができるので、設定や管理に戸惑うこともないだろう。
背面にVGAポートを搭載。ディスプレイに接続して管理することもできる |
クライアントからリモートデスクトップを利用。使い慣れたUIで管理することができる | RAIDの構成などは独自のユーティリティも用意される |
■Active Directoryへの参加が可能
このように手軽に設置できるHDL-Zシリーズだが、すでにWindows Serverを運用していた環境では、Active Directoryによる管理も可能となっている。
HDL-Zにリモートデスクトップでログオン後、システムのプロパティからドメインへの参加を実行すれば、既存のWindows ServerのActive Directoryで管理していたユーザーやグループが、そのままHDL-Zからも利用できるようになる。
このため、ユーザーを追加して、パスワードを変更したり、グループを設定し直すといった手間が一切かからない。サーバーマネージャーから共有フォルダーを作成して、そこにActive Directoryから参照したユーザーやグループに直接アクセス権を設定することができる。既存のファイルサーバーからの移行の場合、ファイルのコピーを除けば、初期設定には30分もかからないだろう。
Windows Serverで構築されたドメインに参加可能 | ドメインに参加すればActive Directoryに登録済みのユーザーやグループを利用できる |
LinuxベースのNASでもドメインへの参加機能が搭載されている場合があるが、ここまでシームレスにActive Directoryと連動できるのは、Windows Storage Server 2008ならではの特徴と言える。一般的に、NASは複数台の管理に手間がかかる場合があるが、これなら将来的にNASの数を増やしたとしても、管理に手間はかからないだろう。
しかも、管理者にとってうれしいのは、Windows Server 2008譲りの高度なファイル管理機能も利用できる点だ。Windows Server 2003R2でもFSRM(ファイルサーバーリソースマネージャー)を利用すれば可能だったが、クォータによる容量制限やファイルスクリーンによる特定のファイルのブロック(容量の大きなビデオなど)、ファイルサーバーの使用状況を調査できる記憶域レポートの生成なども可能となっている。
このあたりのファイル管理機能は、中小規模の企業にも求められつつある情報セキュリティ対策、コンプライアンス対策に有効な機能となるので、次回、詳しく掘り下げることにしよう。
ファイルスクリーンなどのファイル管理機能も利用可能。ファイルを保管するだけでなく、きちんと管理できる |
■Windows 7との相性も抜群
HDL-ZシリーズのようなWindows Storage Server 2008搭載NASを導入するメリットは、実際にファイルサーバーを利用するユーザーの利便性も向上させることができる点にもある。
まず、注目したいのはパフォーマンスだ。Windows Storage Server 2008では、ファイル共有のための新しいプロトコルであるSMB2.0が採用されている。SMB2.0では、ファイルの読み書きのコマンドをまとめて発行できるため、多数の書き込みリクエストが発生するようなケースでも、待ち時間が減って高速なアクセスが可能となる。
このようなSMB2.0は、Windows Vista以降のクライアントOSでもサポートされているため、HDL-ZシリーズとWindows 7/Vistaの組み合わせで高いパフォーマンスを発揮させることが可能となっている。
また、共有フォルダーがあるドライブのインデックスを作成するように設定しておけば、HDL-Zシリーズ上の共有フォルダーをWindows 7のライブラリとしてシームレスに利用することも可能となる。ローカル、サーバー上のファイルを意識せずに利用できるうえ、ファイルの検索などでもローカルとサーバー上のファイルを区別なく検索することができる。必要なファイルをユーザーが素早く見つけられれば、それだけ業務の効率化にもつながるだろう。
同様に、シャドウコピーを有効にしておくことで、共有フォルダー上のファイルを削除してしまっても以前のバージョンを復元したり、任意の時点に更新されたファイルまで戻すこともできる。こういった細かな利便性の高さはWindows Storage Server 2008ベースのNASならでの特徴だ。
クライアントPCのOSがWindows XPからWindows 7へと置き換わりつつあることを考えると、クライアントとの親和性が高いWindows Storage Server 2008搭載のHDL-Zシリーズを利用するメリットも見えてくるだろう。
共有フォルダーがあるドライブのインデックスを有効にすることでWindows 7のライブラリに共有フォルダーを統合できる(Windows Updateによる更新が必要な場合もある) | シャドウコピーを有効にすると、共有フォルダー上のデータを削除してしまったとしても以前のバージョンから復元可能 |
■業務の効率化を含めたコスト改善に寄与
このように、企業のシステムがクラウドへと移行しつつある現在においては、単に社内のシステムを外部に出していくだけでなく、残った社内のシステムをいかに効率化するかが重要な課題と言える。
そういった意味では、普段よく使うファイルサーバーの効率化から始めるというのは、手軽に始められるうえ、その効果も見えやすいはずだ。
もちろん、HDL-Zシリーズの導入によって業務を効率化できるポイントはまだまだある。ファイルサーバーリソースマネージャによる実践的な管理、iSCSIの活用、ファンクションボタンによる管理者オリジナルのバッチ処理など、HDL-Zシリーズならではの特徴について次回さらに掘り下げていこう。