クラウド構築のベースとなるVMware vSphere 5【周辺ソフトウェア編】

vCenter ServerファミリーとvCloud Directorを紹介する


 昨年の年末から紹介してきたVMware vSphere 5だが、今回はvSphere 5を取り巻くソフトウェア群、vCenter ServerファミリーとvCloud Directorを説明しよう。

 

仮想環境を管理するためのvCenter Server

 vSphere 5は、ハイパーバイザーのESXiなどを使ってサーバーを仮想化し、クラウドを構築するためのなどのベースとなるインフラといえる。

 仮想マシンを別のサーバーに移動するvMotion、サーバーの障害を自動検知して別のサーバーに仮想マシンを移動するHA(High Availability)機能、仮想マシンを二重化してサーバー障害時には瞬時に別のサーバーへ処理を移すFT(Fault Tolerance)機能、サーバーの負荷に応じて仮想マシンを移動してクラウド全体で負荷を分散するDRS(Distributed Resource Scheduler)機能などを利用するには、管理機能を提供するvCenter Serverが必須になる。

 つまり、vCenter Serverは、サーバーの管理だけでなく、vSphereのさまざまな機能を利用する上で、絶対に必要となるソフトウェアだ。


VMwareが提供しているソフトウェア群。vSphere 5をインフラとして、管理・運用関連のvCenterファミリー、アプリケーションフレームワークのvFabricなどが用意されている(VMwareのWebサイトより)VMwareでは、自社のソフトウェア群を3つのレイヤで整理している。vSphere 5が基盤となり、アプリケーションプラットフォームのvFabric、その上にZimbra、Viewなどが構築されている(vForum2011のプレゼンテーションより)

 

多彩な機能を提供するvCenterファミリー

 vCenter Serverは、いくつかのオプションソフト群(vCenterファミリー)が用意されている。続いてはこれらを紹介しよう。

vCenter Server Heartbeat
 vCenter Server Heartbeatは、複数のvCenter Serverの稼働状態を監視して、自動フェイルオーバーとフェイルバック機能により、高い可用性とディザスタリカバリを提供する。

 つまり、vCenter Server HeartbeatをインストールしたvCenter Server同士で、Heartbeat信号を送受信して、vCenter Serverに障害が起こっていないか確認するというものだ。もしHeartbeat信号に反応しない場合は、そのvCenter Serverに障害が起こったとして、vCenter Server自体をフェイルオーバーする。

 また同一のLANだけでなく、WAN経由でもHeartbeat信号をやりとりするため、遠隔地のサーバー間でディザスタリカバリ機能が利用できる。


vCenter Server Heartbeatは、vCenter Serverの可用性を高めるために用意されている(VMwareのWebサイトより)



vCenter Site Recovery Manager 5
 vCenter Site Recovery Manager 5は、vSphere 5の仮想化インフラを利用して、低コストでディザスタリカバリ機能を提供している。

 今までの物理サーバーベースのディザスタリカバリは、同じハードウェア構成のサーバーを遠隔地に設置しておく必要があった。また、いつ天災が起こるかどうかわからないため、バックアップサーバーは常にスタンバイしておく必要があった。普段は、高価なサーバーシステムを遊ばせておくことになる。

 しかし仮想化インフラを利用したディザスタリカバリでは、仮想マシンをvMotionで移動するため、バックアップサーバーを常に遊ばせておく必要はない。プライベートクラウドとして利用しておき、何か災害が起った時に、優先順に従って仮想マシンを移動する。

 もし、遠隔地サーバーである程度の仮想マシンが動作していて、ディザスタリカバリを行うには負荷が高くなってしまっている場合は、遠隔地サーバー側で実行される仮想マシンに優先度を付けておき、移動してくる仮想マシンが動作できるだけのリソースを確保することもできる。

 また、15分から24時間までの柔軟な復旧ポイントを設定可能だ。


vCenter Site Recovery Managerは、本番システムの障害時に自動的に仮想マシンのフェイルオーバーを行う。フェイルオーバーに付随するさまざまな設定なども自動化してくれる(VMwareのWebサイトより)vCenter Site Recovery Manager5には、StandardとEnterpriseがある。機能よりもサポートする仮想マシン数によってエディションが異なる(VMwareのWebサイトより)



vSphere Update Manager
 vSphere Update Managerは、ESXi/ESXなどのハイパーバイザー、サーバーやストレージベンダーのドライバー、VMware Tools、VMwareが提供している仮想アプライアンスなどのパッチやアップデートを管理している。最新のパッチやアップデートをチェックして、各サーバーや仮想アプライアンスを更新することができる。さらに、DRS機能と連携することで、仮想マシンを停止せずに、ハイパーバイザーのアップデートを行うことができる。
 vSphere Update Managerは、vCenter Serverのプラグインとして動作する。


vSphere Update Managerは、ハイパーバイザーやVMware Tools、仮想アプライアンスのアップデート、サードパーティ製ドライバのアップデートなどを行う



vCenter Operations Manager
 vCenter Operations Managerでは、分析機能と運用管理機能を提供する。リソース使用率の最適化とコンプライアンス構成に必要となる情報や可視化が実現する。


vCenter Operations Managerは、仮想マシンのアプリケーションを検知して、仮想マシン同士の依存関係も可視化してくれる(vForum2011のプレゼンテーションより)仮想マシン上の異常なふるまいを検知して、アラームを出す機能もある(同左)

vCenter Configuration Manager
 vCenter Configuration Managerは、仮想/物理サーバー、仮想/物理デスクトップ全体の構成管理を自動化するソフトウェア。手作業でシステムを運用すると非常にミスを起こしやすくなるため、管理作業を自動化することで、運用負荷の軽減とオペレーションミスの削減を図るものだ。

 また企業にとっては、変更を検出して構成ポリシーおよびセキュリティポリシーとの比較を行えるため、また企業にとってはコンプライアンスを維持できる点もメリットだろう。

 なお現状では、英語環境のみをサポートする。


vCenter Configuration Managerでは、クラウドの管理ライフサイクルを構築できる(VMwareのWebサイトより)



vCenter Infrastructure Navigator
 vCenter Infrastructure Navigatorでは、アプリケーションとインフラストラクチャの依存関係を自動的に検出し、視覚化する。仮想マシンで実行されているアプリケーションとほかの仮想マシンとの相互関係を視覚化することで、運用管理が行いやすくなる。


vCenter Infrastructure Navigatorでは、仮想マシンとアプリケーションの関係を可視化してくれる(VMwareのWebサイトより)



vCenter Chargeback Manager
 vCenter Chargeback Managerは、クラウド全体で、仮想マシンの動作コストを算出したり、仮想マシンの分析およびレポート作成を行ったりするためのソフトウェア。この機能により、プライベートクラウドを構築した場合でも、使用している仮想マシンのコストを部門ごとに計算して、各部門に経費として請求することができる。


vCenter Chargeback Managerは、クラウドのコストを仮想マシン単位に落とし込む。稼働時間、ストレージの使用容量などを計算してコストをはじき出す(VMwareのWebサイトより)

 ちなみにスイート製品としては、vCenter Operations Manager、vCenter Configuration Manager、vCenter Infrastructure Navigator、vCenter Chargeback Managerといった4つのソフトウェアを同梱した、vCenter Operations Management Suiteが提供されている。


vCenter Operations Management Suiteは、クラウドの管理・運用を便利に行うアプリケーション群をパッケージ化している(VMwareのWebサイトより)vCenter Operations Management Suiteのエディションと機能(同左)

 

パブリッククラウドとプライベートクラウドをつなぐvCloud Director

 vCloud Directorは、vCenter Serverが管理しているリソースを一括して管理できる機能を提供している。

 vCloud Directorでは、セルフサービスポータル機能を提供している。この機能は、単に仮想マシンをテンプレートから作成するだけでなく、仮想マシンのリソースをカスタマイズしたり、ネットワーク、仮想アプライアンス、セキュリティの設定などを、カタログ化して登録したりすることができる。

 エンドユーザーは、このカタログから、自由に仮想マシンを設定することができる。もちろん、企業内で認められた部分でのカスタマイズができるだけで、IT管理者が設定した枠を外れた仮想マシンを作成することはできない。

 一度の作業で複数の仮想マシンを作成可能だ。カタログに登録されていれば、Webサーバー、アプリケーションサーバー、データベースサーバーなどの3階層システムを一度に作成でき、作成した複数の仮想マシンは、グループとして扱うことができる。この仮想マシングループをvAPPと呼ぶ。

 また、vCloud Directorでは、コンピュータ、ストレージ、ネットワークなどのリソースをグループ分けすることもできる。Organization vDCを使えば、vAPPを作成する場合、どのようにリソースを割り当てるかを設定できる。vAPPが作成させる都度にリソースを割り当てるPay as you go、最初に割り当てたリソースから、必要に応じてリソースを拡張できるAllocation Pool、最初に割り当てたリソースだけで、拡張できないReservation Poolなどの種類が用意されている。

 Provider Virtual Data Center(Provider vDC)では、ストレージをランク分けして、エンドユーザーに提供することができる。例えば、高速で、高い可用性を持つファイバーチャネル接続のSASストレージはGold vDCに設定し、iSCSI接続のSATAストレージはSilver vDCと設定することができる。これにより、ストレージをクラス分けして提供できる。

 またvCloud Directorでは、vCloud APIやOVF(Open Virtualization Format)を使用して、vAPPとして管理されている仮想マシングループを、パッケージ化することができる。これにより、プライベートクラウドだけでなく、外部のパブリッククラウドにvAPPごと移行することができる。

 この機能を利用することで、毎年期末に経理作業などが集中して、プライベートクラウドの負荷が高くなる場合、その期間だけ外部のパブリッククラウドを使用できる。これなら、1年間のあいだ1カ月だけリソースが不足することのために、コストをかけてサーバーを購入しなくてもいい。1カ月分のパブリッククラウドの使用料金を支払う方が、コスト面ではずっと有利だ。

 ちなみに、カタログサービスでは、プライベートクラウドだけでなく、外部のパブリッククラウドを最初から使用する選択肢を用意することも可能だ。この場合、利用するパブリッククラウドは、どの企業のパブリッククラウドでもいいというわけでない。VMwareのインフラを使ったパブリッククラウドが対象となる。

 Networkについては、vAPP間だけを接続するInternal、vAPP同士と外部への接続をNATやファイアウォール経由で行うExternal Routed、vAPP同士の接続と外部への直接接続を行うExternal Direct Connectなどが用意されている。

 またvCloud Directorには、vShield Edgeの機能の一部が無償で入っている。この機能を使って、External RoutedのNATやファイアウォール機能が提供されている。また、DCHPやポートフォワーディング、IPマスカレードなどの機能も用意されている。


vCloud Directorは、仮想データセンター同士を接続するためのアプリケーション。プライベートクラウドとVMwareベースのパブリッククラウドを接続することができる(VMwareのWebサイトより)vCloud Directorのアーキテクチャ図。サーバーを管理しているvCenter Serverと通信して、仮想マシンが動作しているさまざまな設定を取得し、別の仮想データセンターに移動する(同左)VMwareのインフラを使ったパブリッククラウドを提供している企業は、全世界にある。特に、ソフトバンクテレコム、Verizon、SingTel、Dell、CSC、Colt、BlueLockなどは、vCloud Datacenterを提供している(vForum2011のプレゼンテーションより)

 

vFabric

 VMwareでは、vSphere 5、vCenterファミリーといったインフラの上に、統合アプリケーションプラットフォームである、vFabricプラットフォームも用意している。

 Javaで構築されたSpringのフレームワーク(Tc Server)、ApacheベースのWebサーバー、高度なデータ管理を可能にするGemFire、システム間のメッセージングをサポートするRabbitMQ、データベースエンジンのSQLFire、これらのモジュールの状態を可視化して管理できるHypericなどが提供されている。

vFabricは、メッセージング、データマネジメント、Javaフレームワーク、Webサーバー、管理ツールなどにより構成されている(VMwareのWebサイトより)
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