仮想化道場
2016年のプロセッサとOSの動向
(2016/2/25 06:00)
2016年も2カ月半ほどが経過し、今年のプロセッサやソフトウェアのトレンドが見えてきた。そこで、今回は、ハードウェアとOSについて解説をしていく。
Intelのプロセッサ
サーバー向けのプロセッサとしては、2月~3月にBroadwellベースのXeon E5 v4シリーズのリリースが予定されている。先日発表されたHP Enterprise(HPE)のSynergy 620/680は、プロセッサとしてはXeonとしか明記されていないが、Xeon E5 v4が発表され次第リリースすることになっている。
現在のXeon E5 v3シリーズは、Haswell世代のプロセッサということで、22nmプロセスで製造されている。最大コア数としては18コア/36スレッド(2.1GHz)、最大動作クロックとして3.7GHz(4コア/8スレッド)などの製品がリリースされているほか、特定ユーザー向けに4GHzを超えるプロセッサも提供されている。
Broadwellは14nmプロセスで製造されているため、大幅にコア数が増えるのかと思っていたが、現状の予想では最大22コア/44スレッドにとどまるだろうとされている。ただし、L3共有キャッシュメモリに関しては55MBになるだろう。動作クロックに関しては、スタンダード製品が2GHz台、ハイパフォーマンス製品が3GHz~4GHzとなる。Haswell世代と同じように、クロック数が上がればコア数が少なくなる、というトレードオフの関係は変わらない。
Intelでは、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Facebook、Googleなどに対して、特別なプロセッサを提供することが多くなっている。一般的なユーザーに対しては、幅広い環境で利用できるようにコア数、消費電力などのバランスを取っているのだが、各社のデータセンターで利用する場合は、個々のデータセンターの環境にあわせるために、このバランスを崩しても、コア数を増やしたり、高い動作クロックを目指したりと、ある意味ピーキーなプロセッサを提供しているわけだ。
この流れの中で、昨年買収したAlteraのFPGAをXeonに統合し、特別な顧客に提供するプロセッサとして、Broadwell世代Xeonの1バリエーションとしてリリースすることも計画している。
4~5年後にFPGAのライブラリがそろってきて、企業でもFPGAが活用できる環境が整うなら、FPGA搭載のXeonが汎用プロセッサ化する可能性はある。ただ、本当にエンタープライズの業務で役立つFPGAライブラリがそろってくるのかは不透明だ。個人的には、FPGA搭載Xeonが汎用プロセッサになるとは思えない。
なお、現在、デスクトップやノートPCに提供されている14nmプロセスのSkylake世代(第6世代のCore iプロセッサ)をサーバー向けにしたXeon E5は、2017年になるだろう。今後は、最新のデスクトップ/ノートPC向けのプロセッサより1~2年遅れでサーバー向けプロセッサがリリースされる、というスケジュールになっていくだろう。
Intelでは、Skylakeの次にKaby Lakeというプロセッサを計画している。Kaby Lakeに関しては、Skylakeの改良版という位置づけで、GPUなどの一部が改良されるだけのようだ。製造プロセスも14nmプロセスが採用されている。Kaby Lakeのリリースに関しては、2016年の第4四半期になると言われている(2017年にずれ込む可能性もある)。
また2017年には、10nmプロセスのCannonlakeがリリースされるといわれている。しかし、微細化プロセスの量産化に関するハードルが高くなっている現状では、2017年にリリースするのは難しいかもしれない。
14nmプロセスでは、Broadwell、Skylake、Kaby Lakeと3世代のプロセッサがリリースされる。やはり、10nmプロセスでも、Cannonlakeなど3世代のプロセッサがリリースされることになりそうだが、このあたりは、プロセスの微細化が難しくなっていること、量産にかかる半導体工場への投資コストが巨額になっていることが理由だろう。
ある意味、単にプロセスの微細化でプロセッサを開発していくのに、限界が見えてきているのかもしれない。もしかすると、ここ数年で異なるアーキテクチャやデザインのプロセッサが出てくる可能性はある。
サーバー向けのXeonに関してだが、Windows ServerなどがTPM(Trusted Platform Module)を利用するようになっている。セキュアな仮想マシンをサポートするために、TPMやUEFIなどが必要になったようだ。こういったことを考えれば、サーバーでもTPMやUEFIなどが必須の時代になってきているのかもしれない。
サーバーのパフォーマンスを大幅に引き上げるデバイスとしては、ストレージのフラッシュメモリ化がある。CPUやメモリの高速化だけでは、サーバーシステム全体のパフォーマンスを上げることができなくなっているからだ。
SATA/SASインターフェイスのSSDでは、インターフェイスの速度(SASは12Gbps、SATAは6Gbps)がボトルネックになる。そこで、PCI Express(PCIe)に直結したNVMe接続のフラッシュストレージに注目が集まっている。
Xeon E5 v3がリリースされた後から、徐々にNVMeインターフェイスのフラッシュストレージが供給されてきている。パフォーマンスに関しては、PCIe Gen3×4を使用した場合、4GB/秒と非常に高速だ。
NVMeは、2.5インチドライブ形状、PCIExpressスロットの挿すタイプなどが出ている。PCIExpressスロットに挿すタイプは、ある程度の大きさがあるため、大容量のフラッシュストレージを構築することができる。
AMDとARMプロセッサ
AMD
AMDでは、次世代の新しいx64アーキテクチャとなるZenを計画している。ここ最近、サーバー向けのプロセッサはまったくといっていいほど、サーバーベンダーに採用されていなかったが、2016年にリリースするZenで逆転を狙っている。
ZenのアーキテクチャはBulldozer系から一新されている。パフォーマンスに関しては、Excavatorコアよりも40%高速としている。
Zenアーキテクチャでは、Xeonのハイパースレッディング(HT)と同じように、1つのコアを仮想的に2つのコアとして動作させるSimultaneous Multithreading(SMT)をサポートした。
また、以前のOpteronでも採用していたMCMにより、プロセッサダイ2つを1つのパッケージに入れる。Zen世代のOpteronでは、16コアのプロセッサダイを2つ入れて、32コア(64スレッド)のプロセッサになるようだ。
ただ、サーバー市場においては、AMDの影響力はほとんどなくなっている。このため、ZenアーキテクチャベースのOpteronも、非常に厳しい状況となるだろう。よほどZenアーキテクチャが優れていて、コア数と消費電力などのパフォーマンス面で大幅にIntelのXeonを引き離し、さらにコストが安いといった状況にならないと、多くのサーバーベンダーは積極的にAMDのプロセッサを採用しないだろう。
CPUとGPUを一緒にしたプロセッサに関しては、一部VDI用途などで利用されている。しかし、マーケット的に成功しているとは言い難い。こういった状況を見ていると、AMDがサーバーのx64プロセッサ分野でIntelのライバルになるというのは難しいだろう。
ARMプロセッサ
ARMが64ビットアーキテクチャのARMv8を2011年に発表した後、サーバー向けのARMプロセッサもいくつかのメーカーで開発された。現実には、一般のサーバー向けとは言い難く、64ビットARM用OSの開発プラットフォームという状況から脱していない。
AMDでも、サーバー向けのARMプロセッサOpteron A1100を2015年に発表したが、結局正式にリリースされたのは2016年1月になってからだ(2015年はサンプル出荷だったようだ)。
Opteron A1100では、当初はAMDが買収したSeaMicroのインターコネクトを採用する予定だが、最終的にはSilver Lining Systems(SLS)のファブリック技術が採用され、MicroServerで注目を浴びたSeaMicroに関しては、2015年4月に事業自体を停止した。
当初、MicroServerなどの用途に64ビットARMプロセッサは利用できるのでは? と言われていた。しかしIntelが、Atom、Xeon Dプロセッサ、低消費電力のXeonプロセッサを提供するようになり、64ビットARMプロセッサのマーケットが小さくなってしまったようだ。また企業のIT部門が、社内にサーバーを置くのではなく、クラウドを利用するケースも多く見られるようになり、自社でMicroServerを購入して運用する意味がなくなったということもある。
クラウドのデータセンターなどで64ビットARMサーバーが利用される可能性もあるが、ソフトウェアの互換性などを考えれば、一般的なサーバーではなく、Webフロントなどの特定用途のサーバーとして使用されるかもしれない。それでも、大量のx64サーバーを導入しているクラウドプロバイダーにとっては、異なるアーキテクチャのサーバーを導入することは控えるだろう。こういったことを考えれば、ARMサーバーの未来は不透明だ。
OSのトピックはWindows Server 2016の登場
Windows
OSに関しては、2016年最大トピックはWindows Server 2016のリリースになるだろう。コンテナの採用など、新しいトレンドを積極的に採用したサーバーOSになっている。リリースに関しては、2016年第3四半期以降が予定されているようだ。
64ビットARM版のWindows Serverが計画されているうわさもある。これは、6月ごろのリリースが予想されているWindows 10の次期アップデート(開発コード名:RedStone)で64ビットARMがサポートされる、といううわさから派生している。
実際にリリースされるかどうかは今後の推移を見守る必要があるが、Windows 10 MobileなどでARMプロセッサベースのOSが存在するため、ARMベースのWindows Server 2016の開発は可能だろう。一部では、x86/x64エミュレータを開発しているといううわさもあるが、個人的にはまゆつばだと思うし、実際提供されても実用になるパフォーマンスで動作するとは思えない。
クライアントOSの方では、Windows 10のアップデートがあるだろう。Microsoftでは、年間に2~3回のアップグレードを提供する予定としており、2016年には、6月に提供されるRedStone1(RS1)、年末に提供されるRedStone2(RS2)に分かれるようだ。
機能としては、昨年の11月に配布されたNovember Updateで入れる予定だった機能が、最終的に間に合わずに、2016年にずれ込んでいる。積み残した機能は、個々のタイミングでアップグレードするのではなく、半年に一度のアップグレードに集めて機能アップするようになるようだ。したがって、WebブラウザのMicrosoft Edgeが搭載する予定だった拡張機能(プラグイン)、データのセキュリティを高めるEnterprise Data Protectionなどは、November Updateには間に合わなかったので、RedStoneで搭載されてくるだろう。
また、モバイル向けのWindows 10 Mobileに関しては、現在、クアルコムのプロセッサと無線チップの組み合わせで構成されている。しかし2016年後半には、IntelのAtomベースのWindows 10 Mobileがリリースされる可能性が高い。
もしAtomベースのWindows 10 Mobileが実現すれば、スマートフォンからデスクトップ/ノートパソコンまで一貫してx86/x64アーキテクチャで固めることができる。これなら、モバイルでも、既存のWindowsアプリケーションを動かすこともできるため、ソフトウェアの互換性を担保しやすい。
Windows 10 Mobileでは、外部ディスプレイを接続しデスクトップ画面を利用できるContinuumが搭載されている。もしAtomベースのWindows 10 Mobileがリリースされれば、デスクトップで利用しているアプリケーションをそのままスマートフォンで動かすこともできるかもしれない(メモリ容量やパフォーマンスに制限はあるだろう)。
Linux
Linux OSに関しては、積極的に64ビットARMプロセッサのサポートが進んでいくだろう。Linuxカーネルでは64ビットARMのサポートはすでに行われているが、それ以外の64ビットARM化が進んでいないため、2016年はミドルウェアの64ビットARM対応が行われていくだろう。
もう1つ注目されているのが、仮想マシン上で動かすライトウエートなLinux OSだ。
VMwareは、仮想環境で動かすライトウエートなLinux OSとしてPhoton OSを提供している。Photon OSのディスクフットプリントは25MB。非常にコンパクトで、仮想環境やクラウド環境での動作を前提にしている。
Photon OS以外にも、ライトウエートなLinux OSは幾つか開発されている。このあたりは、どのOSが仮想環境でのスタンダードOSになるかは今後の推移を見る必要がある。
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最近の傾向から、オンプレミスで守るアプリケーション、クラウドを利用するアプリケーションにはっきりと分かれていくことが予想される。すべてがクラウドになるわけでもないし、オンプレミスがベストというわけでもない。重要なのは、クラウドとオンプレミスのハイブリッド環境をシームレスに利用できるOSや環境が必要になってくることだ。
ハードウェア、OSともに、そういったITの傾向を踏まえて、これからも進化していくことになるだろう。