「ユーザーとインテルが“両思い”で成功できる関係をつくりたい」~インテル・吉田和正社長


 「2012年は、UltraBookをいかに広げることができるかが鍵になる。これをきっかけに、クラウド・コンピューティングを活用したサービスなどとの連携によって、インテルとパートナー、ユーザーが『両思い』で、成功できる関係をつくりたい」――。インテルの吉田和正社長は、2012年の取り組みをこう表現する。

 「片思い」がメーカーからの一方的な提案、あるいはユーザーの過大な期待であるのに対して、「両思い」は双方が納得した上で、新たな技術や製品、サービスを活用するという環境を指す。そして、両思いの関係こそが、新たな技術の広がりなどにつながるとする。

 インテルの吉田社長に、2012年のインテル・ジャパンの取り組みなどを聞いた。

 

Core i5およびCore i7の出荷構成比は日本が最も高い

――先ごろ発表された米インテルの2011年の業績は、売上高が前年比24%増の540億ドル、営業利益は12%増の175億ドルと、過去最高となりましたね。

インテルの吉田和正社長

吉田社長:インテルにとって、大変すばらしい1年となりました。中でも、第2世代のインテル コアプロセッサファミリーが好調で、売り上げの約70%がSandy Bridge(開発コード名)となっていることからも明らかなように、すばらしい立ち上がりをみせています。

 特に日本における、Core i5およびCore i7の出荷構成比は、世界のなかでも圧倒的に高くなっています。立ち上がりという意味でも、日本が最もいい結果を出している。インテル社内では「リッチミックス」という表現をしていますが、Core i5/i7の比率が最も高いということは、それをベースにしたイノベーションを、いち早く提案できるということにもつながります。これはインテル・ジャパンにとって、重要なポイントです。

 この1年でメディアがリッチになり、ネット接続が容易になり、帯域も広がり、コンテンツを楽しむ環境が浸透してきました。そして、クラウドサービスが当たり前のように使われるようになった。

 日本のPC市場は、年間1600万台前後の出荷規模となり、成功した1年だったといえます。量販店店頭においては、低価格製品を中心とした売り方から、よりリッチミックスの高い商品構成へとシフトし、ユーザー満足度の高い製品を売る傾向が強まってきました。デスクトップでは、オールインワンの販売比率が増加していますし、ノートPCも高性能モデルに注目が集まりました。性能が高く、ユーザビリティの高い製品の販売比率が増加したことで、量販店での販売単価の上昇にもつながっています。

 特筆できるのは、2011年は女性をターゲットにした製品提案が加速した1年だった点です。これは日本独自の取り組みでもあり、女性のライフスタイルにあわせた数々の提案を、メーカー、量販店とともに行いました。

 

インテルだけが成長すると健全な関係ではなくなる

――世界的にみますと、PC市場は停滞の様相があります。日本のPCメーカーも収益確保には苦戦しているようですが。

吉田社長:インテルだけがいい業績をあげるのではなく、PCメーカーや販売店といったパートナー企業も、われわれと一緒に成長することが、重要なことだといえます。

 日本のPCメーカーは、国内を中心に事業を展開する企業と、海外にフォーカスする企業とがあります。国内では、ハイエンドを軸にした提案型のビジネスや、特定領域に特化した製品戦略を支援し、一方、海外向けに展開している企業に対しては、欧米市場だけでなく、中国、インド、ブラジルといった市場を意識した戦略を支援するということになります。

 それぞれのPCメーカーの強みを生かした提案ができるような支援体制を整え、日本のPCメーカーに成長してもらうことが、インテル・ジャパンにとって重要なことです。

 また、量販店に対しても、メーカーと一緒になって提案モデルを作り上げていきます。Core i5/i7の特徴、機能、そしてパフォーマンスを生かしたユーザー体験の仕組みを一緒に構築しています。

 インテルだけが成長しているということでは健全な関係ではなくなる。メーカーの成長、量販店やシステムインテグレーターの成長があってこそ、インテルの成長がある。2012年もこの姿勢は変わりません。

 PCに限らず、テレビ、携帯電話などの新たな製品が厳しい状況にあるということは感じています。日本の多くの企業は、痛みを伴う構造改革に取り組んでいますが、その成果は間違いなく出ています。PCメーカー各社は、単に、ボリュームゾーンで戦うのではなく、利益重視の優先度を高めることを重視しており、この仕組みの構築に対して支援をしていきたい。国内市場の活性化のために、アプリケーションやサービスを提案しながら、付加価値を高めていくことが必要です。

 

初めて100億ドルを突破したデータセンター事業本部

――インテルの2011年の業績をみますと、データセンター事業本部も大きく成長していますね。

吉田社長:データセンター事業本部は、2011年に初めて100億ドルの事業へと到達しました。前年からの成長率は17%増。急激に成長しています。データセンター事業本部は、サーバーだけでなく、ストレージ、ネットワーク、セキュリティをはじめ、クラウドサービスにおけるプラットフォーム全体への提案によって、成長している点が特徴です。タブレットが122台、スマートフォンが660台売れると、サーバーが1台必要になるというように、新たな端末の広がりもデータセンター事業本部の売り上げ拡大につながっています。

 2015年までの5年間で、データセンターで使用されるプロセッサ数は2倍に成長すると予測しています。また、プロセッサが利用される領域は、クラウドサービスや、ストレージ、ネットワーク、インフラストラクチャ、ミッションクリティカル、スモール&ミディアムビジネス、ワークステーション、ハイパフォーマンスコンピューティングというように範囲が広がり、それぞれにおいて用途が細分化されている。

 中でも、クラウドサービスでは、大規模データセンターをはじめとして、データセンタープラットフォームに対する需要が高まっており、この傾向はこれからますます強まると予想されます。東日本大震災以降、クラウドサービスに対する関心が高まっているのに加えて、国内のデータセンターの新設だけでなく、日本のユーザーのために、日本の企業が中国で新たなデータセンターを構築するといった動きが出ています。さらに、新規のデータセンターの構築だけにとどまらず、既存のデータセンターの強化といった動きも加速しています。

――日本におけるデータセンター事業への取り組みはどうなっていますか。

吉田社長:日本法人におけるデータセンター事業本部は、日本国内向けビジネスを統括する部門のなかに置いています。インテルでは、インテルアーキテクチャを連続性のなかで、ユーザー体験を提供したいという考えがあります。これを社内では「コンピュート・コンティニアム」という言葉で表現しており、インテルのCEOであるポール・オッテリーニも、2012年における重要な取り組みのひとつに位置づけています。

 データセンター事業は、こうしたコンピューティングパワーが連携し、連続性のある形でコンピュータエクスペリエンスを実現するという観点で、重要な役割を果たします。そして、コンピュート・コンティニアムを実現するベースが、データセンター事業ということになります。

 

PCの成長だけを追い求めている会社ではない

――コンピュート・コンティニアムが実現する世界を具体的に示すとどうなりますか。

吉田社長:例えば、テレビ、車載システム、PC、スマートフォンのユーザビリティが統一されたらどんな世界が実現されるでしょうか。起床した時に、深夜に録画したサッカーの試合をテレビで視聴していたが、会社に出勤する時間時間になったので、その続きをタブレット端末で、通勤電車のなかで見る、あるいは駅から10分歩く移動中にもスマートフォンでその続きをみることができる。オフィスに少し早く着いたならば、コーヒーを一杯飲みながら、PCで続きを見ると試合が終わり、時間通りに仕事が開始できる――。

 こんな風に、ライフスタイルのなかで連続性を持つユーザー体験を、さまざまなデバイスを活用して実現する環境を指します。

 また、街角の自動販売機や、銀行やコンビニエンスストアのATM、POSなどのほか、駅やバス停、そこに設置された各種サイネージとも連動して、さまざまな情報提供サービスが受けることもできる。

 これは、WiMAXやWi-Fi、3Gといったワイヤレスブロードバンド環境が整っている日本こそが、世界に先駆けて構築できるものだといえます。日本は、コンピュート・コンティニアムにおいてリーダーになれる環境が整っている。特に連続性のあるものを実現するには、シングルタイムゾーン、ワンランゲージで、あうんの呼吸の人たちがいることがプラスに働くともいえますね(笑)。

 ただ、これは、インテル1社では実現できません。連続性のあるユーザー体験の実現には、ハードウェアベンダー、ソフトウェアベンダー、キャリアとのエコシステムが不可欠です。多くの優れた企業が集積している日本は、ここでも優位性があるといえるでしょう。

 こうしてみると、インテルは、日本において、PCの成長だけを追い求めている会社ではないことを理解していただけるのではないでしょうか。PCという端末は、ビジネスのひとつの側面であって、それらのビジネスをバラバラにとらえることはいまや適切ではないといえます。つまり、連続性を持った体験を実現するために、PCの性能を高めよう、サーバーを提案しよう、市場規模を拡大しよう、ユーザー体験をリッチにしようということに取り組んでいるわけです。それらをつなぐ構成要素がインテルアーキテクチャというわけです。

――こうしたトータル提案は、インテルのあらゆる組織に広がった取り組みになりますね。

吉田社長:以前の組織づくりは、営業だけですみましたが、いまや、インテル・ジャパンのあらゆる組織は、マーケティングや技術といったスキルを持った人材を含めた複合的な構成となっています。

 そのなかで、データセンター事業本部は、全体のグランドデザインを描くという役割も担っています。2011年10月に組織を再編した際に、100人近い体制とし、2015~2016年ごろの社会を想定した方向へと踏み出せるようにしました。今後、状況にあわせてさらに増員を図っていきます。

 データセンター事業本部の提案は、データセンターにおいて、「Nehalem(開発コード名)は古くなりましたから、リプレースしましょう」という提案ではなく、全体のシナリオのなかで、世の中の変化にあわせて、徐々にその構成要素となるインテルアーキテクチャを入れ替えていくというものになります。その時に、「端末もクルマも、自動販売機もすべてWebサービスにつなげると、新たなサービスが可能になりますよ」という提案へとつなげていきます。

 サーバー側で個別のクライアントを認識し、ユーザーが用途に応じて望むQoS(Quality of Service)にあわせて、ダイナミックに帯域を切り替えたり、コミュニケーション技術や、セキュリティ機能も切り替えるといったことも可能になる。これを実現する上で、インテルアーキテクチャのフレームワークが重要になるのです。

 さらに、データやプライバシーもきちっと守るセキュアな仕組みを構築することも重要です。インテルでは、マカフィーとのコラボレーションがありますし、これをNTTドコモのネットワークのなかで活用するといった提案も行っている。今後は、これがクルマなどにも対象が広がっていくことになるでしょう。

――2012年のデータセンター事業本部の役割はどうなりますか。

吉田社長:2012年春には、Xeon E5ファミリが登場します。これを活用して、Nehalemベースのデータセンターを対象にした、リニューアルの支援や、プラットフォームの進化を提案していきたい。

 Xeon E5では、性能の向上だけでなく、消費電力の改善、セキュリティの強化、PCI Express 3.0 I/Oの統合、コストパフォーマンスの向上などの大幅な強化が図られています。情報漏えいについても、技術的に解決できるものが求められていますし、ビッグデータ時代における高性能化への取り組みはデータセンターの死活問題ともいわれています。

 一方で、日本においては、これ以上、エネルギー消費を増やすわけにはいかないという問題がある。取り巻く環境を考えれば、いまこそ、より優れたCPUへとアップグレードしていくタイミングにあるといえます。

 インテル・ジャパンは、これを可視化した形で、具体的な提案へとつなげていきたい。そして、MIC(Many Integrated Core)により、いままでのマルチコア、マルチプロセッサ、マルチスレッドにとどまらず、多くのコアによって、大幅な性能向上を図れるという提案も加速したい。最初のMICファミリー製品である「Knights Ferry」が2012年に登場することで、ハイパフォーマンスコンピューティングのアーキテクチャが、いよいよエンタープライズのセグメントに降りてくることになり、より優れた性能と電力効率を提供できるというわけです。これが、2012年のフォーカスになります。

 

クラウドサービスは「両思い」の環境でなければ成功しない

――クラウドの広がりは、インテル・ジャパンのビジネスにどんな影響を及ぼしていますか。

吉田社長:クラウド時代の到来にあわせて、いまインテルが重視していることは、数々のWebサービスを通じて、Webベースのライフスタイルの構築、そしてWebをベースにした業務改革が推進される環境を作り上げることです。そこに対して、どんなことができるのかというメッセージを出し、テクノロジーカンパニーとしての提案を行い、パートナーとの協業により具体的なソリューションを提案するということです。

 その提案をみていただき、納得していただいた上で、それに対して必要なコンポーネントとして、サーバー、ネットワーク、ストレージ、クライアント、ポリシー、セキュリティといったものを導入していただく。

 新たな技術や製品を使っていただきたいと思っていますが、本当の価値を提供できる環境を用意し、その価値の意味を理解していただけないと、いくらいいものでも最大限の効果を発揮できない。日本の企業において、革新的なITソリューションを導入したはずなのに、業務改革がまったく行われなかったという例はたくさんあります。導入することがゴールになってしまい、そのあとの業務改革が続かなかったという苦い経験を、多くの企業が持っているのではないでしょうか。

 これは、提案した方にも反省すべきことがありますが、それを受け入れた方にも反省点がある。つまり、「片思い」のような提案では、お互いにいい結果を及ぼさない。インテルは新たな技術や製品を投入するが、その時に新しいものを使ってくださいというだけではなくて、使うことによって、具体的なベネフィットと、将来的に会社が目指す業務改革や差別化、グローバル化、スケーラビリティなど、企業の経営者が求める課題解決を実現できるということを説明できなくてはなりません。

 また逆に、受け入れる方も、技術や製品を見極めて、自社の業務改革につなげられるという確信を持つ必要がある。そうした「両思い」の形になれば、みんながWin-Winになる。クラウドサービスは、まさに「両思い」の環境でなければ成功しません。私は、こうした関係がこれからのIT産業には必要だと思っています。それにあわせて、インテルに求められる要素にも変化が出てきています。

 

インテルが対象とする範囲が広がっている

――インテルに求められる要素の変化とはなんですか。

吉田社長:例えば、通信の世界においては、インテルは、IEEEの標準規格のなかでビジネスをしてきたわけですが、ここ数年で、これまでは遠かったITUの通信規格の世界においてビジネスが発生しています。データを扱う端末が多様化したことで、キャリアがデータオフロードや性能、コストなどを考えて、無線LANを開始するなど、コミュニケーション技術が融合してきています。コンピューティングとネットワーキングがますます切り離せないものへと進化するなかで、キャリアからみても、インテルの存在が大きくなってきた。

 情報インフラは、まさに社会インフラですから、インテルも社会インフラの領域でビジネスをすることになってきた。情報インフラを担う端末やバックエンドシステムにもインテルアーキテクチャが活用されることで、われわれの責任が重大になってくる。単に商品を出せばいいというものではなくて、安全、安心というものをひっくるめて、提案していかなくてはならない。

――確かに、トヨタ自動車と次世代カーナビゲーションシステムの開発で提携するなど、インテルが対象とする範囲が広がっていることも変化のひとつですね。

吉田社長:トヨタ自動車との提携は、単にスタンドアロンではなく、システムレベルでの安全性、効率性を提案する、いわば次世代システムの構築につながるものになります。人の命を預かるアプリケーションになりますので、これまで以上に、クリティカルを意識したものになります。

 インテル・ジャパンでは、車載システム向けの専門組織を2011年10月に設置しています。これは、インテルのソリューションを、車載システム、次世代ナビゲーションシステム、次世代システムとして展開するための組織で、日本の市場だけにフォーカスしたものではなく、日本の技術を世界に展開することも視野に入れています。これから大きな成長が見込める領域だといえます。

――そうなると、社員に求めるスキルセットも変わってきますね。

吉田社長:そうですね。例えば、組織も、営業と製品マーケティングと、それを支える技術部隊で構成し、日本の国内市場を対象にしたグループ、日本のお客さまをアジアあるいは世界に展開するために支援するグループとし、さらに、車載システムのグループ、標準化やポリシー、政策、レギュレーションなどをやるグループ、ヘルスケアのグループ、コミュニケーションのグループというように多岐に展開しているのです。

――社員数は増えているのですか。

吉田社長:ほかの(大手)外資系企業に比べて圧倒的に人数が少ないですし、それでいて社員数は増やしてはいません。インテル・ジャパンの社員は、営業・マーケティングだけで約350人です。技術者を入れて約580人。その人数で全世界の10%の売上高を計上しています。

 振り返れば、2000年代前半には、450人の営業・マーケティングの社員数で売上高は1500億円程度。これが、いまは350人に減り、売上高は約4000億円(注・2011年度の日本での売上高は50億2400万ドル)。人を増やさずに、収益を高めているわけです。

 これはインテル全体において、インテル・ジャパンの存在感を高めるという意味でも重要なことです。2009年の売上高は3300億円でしたが、2015年には、この2倍規模の売上高を目標にしています。ここでも社員数は、できる限りいまのままで、パートナーと一緒にやることでビジネスを拡大していきたいと考えています。

 

ボリュームゾーンでThin&Rightを実現するのがUltraBook

――ところで、2012年はいよいよUltraBookの動きが本格化します。インテル・ジャパンでは、UltraBookの戦略をどう推進しますか。

1月の経営方針説明会で展示されていた各社のUltraBook

吉田社長:グローバルでは、これまでの15機種に加えて、新たに60機種が発表され、UltraBookに対する業界の期待が顕在化しはじめています。ただ、新たな商品を市場に投入するにはそれなりの時間が必要であり、また、ローンチしたあとにも、それなりの時間をかけて、市場を創造していかないと、その価値を広げることができません。ネットブックの時もそうでしたし、今回のUltraBookでも同様のことがいえます。

 振り返ってみますと、ネットブックでは、小さい、軽い、そして低価格であるという特徴が受けて、ノートPC全体の2割程度の構成比まで拡大しましたが、スタンダードノートPCの低価格化などもあり、ネットブックの存在感が薄れてきました。そうした流れのなかで、次のモバイルコンピューティングの形とはなにかということを模索してきました。

 そこでUltraBookが目指したのが高性能を実現し、購入しやすい価格を維持しながらも、Thin&Right(薄さと軽さ)を実現した製品でした。Thin&Rightのカテゴリの製品は、確かに以前からありましたが、価格帯が高く、あくまでもノートPCのひとつのオプションとしてとらえられていました。

 しかし、UltraBookが目指しているのは、ボリュームゾーンにおいても、Thin&Rightを実現するということです。日本の市場ではノートPCの8割強がA4のスタンダードノートであり、コモディティ化が起こっている。しかし、ここで使用されている部品を使ってUltraBookを生産することはできない。そこで、新たに仕様を作り、それに必要される部品を開発し、提供できる環境を作り上げた。この作業は、パートナーとのエコシステムのなかで、2011年春から行ってきた取り組みですが、ここにきて、それが実現できる環境がいよいよ整ってきたというわけです。

 モビリティの使用環境は広がっています。携帯電話が進化し、スマートフォンになり、数多くのタブレット端末も登場してきた。タッチによる使いやすさと、軽くて持ち運びやすいという利用環境が生まれているのです。

 当然、PCも、こうした流れ受けた形で進化していく必要がある。振り返れば、PCには、タブレットPCという領域があり、技術は存在していたわけですが、エンドユーザーが爆発的に活用することにはつながっていなかった。しかし、iPadがブレイクスルーし、ユーザーの心をつかみ、市場が動き始めた。PCの技術をこの分野で活用することができるようになってきたともいえるのです。

 繰り返しになりますが、UltraBookは、プレミアムの価値を提供しながら、ボリュームゾーンの価格帯の製品であること、スタイリッシュで、軽く、薄く、持ち運びにも適していることが特徴で、既存のノートPCを切り替えることができるものだととらえています。特に、13型、10型のスクリーンを搭載したノートPCの多くは、UltraBookに置き換わっていくと考えています。UltraBookという新たなフォームファクターによって、PCの新たなユーザー体験が可能になるのです。

 重要なことは、UltraBookは、Thin&Rightという領域で、業界全体をあげたマーケティング活動に踏み出すことができるものであり、プレミアムオプションではなくメインストリームの製品であること、そして、この分野にエコシステムが初めて生またという点が特徴です。一部のユーザーの選択肢ではなく、すべての一般コンシューマユーザーの選択肢になるということです。「One of Them」ではなくて、「This is it」なのです。

 

日本市場ではノートPCの半分以上をUltraBookにしたい

――UltraBookは、どんな進化を踏むことになりますか。

吉田社長:いまはSandy Bridgeを搭載した第一世代のUltraBookが投入されていますが、今後、これがIvy Bridge(開発コード名)となり、次の段階へと入る。そして、来年にはHaswell(開発コード名)が登場します。グローバルベースのコンシューマPCという観点でみれば、2012年には、ノートPC全体の40%がUltraBookになると予想しています。

 しかし、日本の市場においては、これをはるかに上回る比率へと高めたい。少なくとも半分以上にはしたいですね。日本が先行して、UltraBookによる新たなPCエクスペリエンスを確立する。これがインテル・ジャパンのミッションだと思っています。私の社長としての評価も、いかにUltraBookを伸ばすことができるかという点になりますから(笑)、ほかの国に比べて、ダントツでいきたいですね。

 これまでのリッチミックスの実績からもわかるように、日本には優れた情報インフラがあり、洗練されたユーザーが多い。こうした環境において、UltraBookによる体験を強力に訴求していきたいですね。

 もちろん、企業ユーザーについては、拡張性の問題や、一定の評価期間が必要だという点がありますから、コンシューマPCほどの比率で、UltraBookの比率が上昇するとは考えていません。しかし、企業ユーザーにおけるUltraBookのベネフィットにも言及していく考えです。

――2012年のインテルにとってのキーワードはなんですか。

吉田社長:やはりひとつは、UltraBook元年だということになります。UltraBookを日本において飛躍させ、優れたユーザー体験が可能になることを多くのユーザーが受けて入れていただくための活動を強化したい。そこからまた、新たなイノベーションが生まれることになるでしょう。

 そして、インテルとパートナー、ユーザーが「両思い」になれる世界を作りたい。そこには、優れたデータセンターソリューションと、それを支えるインテルのテクノロジーが必要です。インテル・ジャパンにとっては、トランスフォーメーションが、重要なキーワードです。

 インテルの役割が変わり、そこに踏み込んでいく1年になる。ヘルスケア分野における遠隔医療や、学校における一人一台の端末、起業家育成の端末でも、個々の端末の提案ではなく、社会インフラを活用した大きな視点からの提案を行っていくことになります。そうした変化を具体的に感じてもらえる1年にしたいですね。

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